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天憧ヤオヨロズ-神宿りの刃と鳥の歌-  作者: あらまき


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書類が頭上に乱れ飛ぶ


 すぱーん!

 心地よい音を立て、俺の上に書類が降り注いだ。


 それを甘んじて受ける。

 というか、それだけのことをしでかした自覚があるから、受けざるを得ない。


 その書類で叩く実行者こと九条は、俺を冷たく見下していた。


 ここは九条の個室。

 呼び出しは、今日で三日連続となった。


 きっと、俺はこの学校の歴史に名を残した。


「それで」すぱーん!


「貴様は」すぱーん!


「大人しくしろと言ったのに」すぱーん!


「正門前で」すぱーん!


「朝霧に!」すぱーん!


「弟子入りしたそうだな!」すぱーん!


 最後は、ひときわ大きな音が鳴り響いた。


 ただ、音の割にまったく痛くない。

 その分心は痛かった。


 あまりにも、申し訳なさすぎて。


「胃の痛くなる生徒で大変申し訳ない」

「まったくだ。貴様があのクラスで一番……いや、二番……十番目くらいに厄介な生徒だ」

「むしろこれだけやって真ん中くらいって事実に驚きを隠しきれませんね」

「まあ、今年の四組は近年稀に見る問題児ばかりだからな。……それで」

 九条はドカッと椅子に座り、足を組む。


 態度は悪いのに、いつもより草臥れたサラリーマン感が強かった。


「水無川、貴様の考えを話せ。考えなしの行動なら俺が貴様に引導を渡してやる」

「まず、俺は壊れて……」

「前にも言ったが、事前プロフィールは共有知識として話せ。時間が無駄だ」

「あ、はい。ぶっちゃけますと……」

「ああ」

「縮こまるんじゃなくて、全力で強くなろうかと」

 俺の言葉に、九条は固まった。


 最初は呆然としたような表情の後、噛み切れない安肉を噛んでいるような、そんな味わい深い顔に変わった。


「……貴様は、わかって言っている……んだよな? 頼むから言葉くらいは通じていてほしいんだが……」

「はい。無茶で無謀なことはわかってますし、迷惑をかけていることも重々承知です」

「本当にわかってるのか? 貴様の行動は退学ルートにジェットエンジン積んで突っ込んだようなものだぞ。せっかく朝霧も貴様と接触しないよう意識していたというのに……」

「まあ、覚悟はしています。でも……」

「でも? 一体何を考えたら、そんなとんちきな行動に出られる?」


「……もったいないじゃないですか」

「もったいない……だと?」

「はい。せっかく人より強くなる方法があるのに、大人しくしてるのって」

 俺の言葉に、九条の目が鋭くなった。

 ただ、それは怒ってというより、真剣みを増したというような、そんな表情だった。


「……続けろ」

「朝霧先輩って、学生レベルでは最強と言ってもいい腕前ですよね?」

「そうだな。五本指に数えてもいい」

「その人に指南して貰う機会って、退学のリスクよりも価値ありません?」

 俺の言葉に一理あるのか、九条は苦虫を噛みしめるような表情の後、そっと息を吐いた。

「……貴様の思惑は理解した。業腹だが認めてやる。だが、それだけか?」

「俺の記憶喪失前の剣術は朝霧先輩と同じなので、ゼロからより習熟が早いだろうという思惑と、俺の個性も生かして習得速度を早めようとか、そういう考えもあります」

 九条は腕を組み、そのまま無言になった。


 そう、これが俺とぴよこが昨日考えた結論。


 退学リスクが高まるけれど、それより早く強くなればいいなんて、火中の栗どころかセルフ背水の陣である。


 発想の元は、もういっそ迷惑をかけるなら最大限かけてしまえ、なんて迷惑極まりないもの。

 ゆえに後の土下座行脚まで計画に織り込み済みだったりする。


 最大の被害者は、間違いなく朝霧先輩。

 俺のことを気にかけ、多少の迷惑なら受け入れようとしている優しい先輩に、いきなりの弟子入り志願。

 ド直球の迷惑行動だ。


 まあ、迷惑以前に状況が呑み込めず、正門前でずっと口が栗みたいな形で固定されたまま唖然としていたが。


 もちろん、頼るのは朝霧先輩だけではない。

 俺の特性である『再現性』を見破ったなっちゃんも利用する。

 俺の再現性は、実戦ではとてもではないが使い物にならない。

 その再現性を理解し教えてくれたなっちゃんに頼って、訓練用に調整する。

 それも計画の一つだ。


 そうして再現性を利用して、朝霧先輩に剣術を指南して貰いその技をコピー的に習熟する。


 さらには、朝霧先輩同様すでにカムイ使いであるメイドにも助力を頼む。

 メイドとしてだけでなく、一流の剣士として。


 俺の見立てではあるが、メイドは協力を拒むことはない。

 それどころか、喜んで最大限願いを叶えてくれるだろう。


 そうやって、迷惑をかけていると思われる相手に、さらに迷惑を乗せ短期間で強くなる。

 それが、俺たちの考えた作戦だった。


「とまあ、つまるところ嘘から出た真にしようって感じですね」

 そう、嘘から出た真。

 俺の評判が身分不相応に高いなら、それを正しくしてしまえば誰も困らない。


 そんな俺の妄言を聞いている間、九条はずっと眉間に皺を寄せていたが。


「……一応聞くが、退学になっても構わないんだな?」

「退学は嫌です。けど……」

 俺は、じっと九条を見つめた。


「実力を得る機会を見逃すのは、もっと嫌です。何のためにアラハバキに入ったのか、わからなくなるので」

「……ちっ! 覚悟があるなら好きにしろ」

「はい。本当に申し訳ありません。つきましてはーそのぅ……」

 俺はおずおずとした態度で、九条を見つめる。


 そう……この計画には、もう一人必要な人物がいた。

 扶桑で最も有名な苗字を持ち、知り合いの中でも最も強い存在。

 彼の協力なくば、俺の計画は――。


「わかっている! そんな()()()()より甘く軽い作戦に手を貸すのは癪だがな!」

「あら、あっさり。良いんですか?」

「教師として、戦士として、反対する理由はない。……いや、そうだな。むしろ積極的に協力してやろう」

 ニタァと、九条は笑った。

 まるで悪魔みたいな凶悪な面で。


「え? せ、先生?」

「いいことを教えてやる。水無川、受け持った生徒が退学になるとな、俺たちアラハバキの教師は給料が減らされる。別に金には困っているわけではないが……俺は『九条』だ。満点以外は敗北に等しい。あとはわかるな?」

 ごごごごごと、威圧感たっぷりで九条は俺を見つめる。


「は、早まったかなぁ」

「今なら、撤回も許してやるぞ?」

 俺は目を閉じ、少し考える。

 そして……。


「お、お願いしまーす!」

「良い度胸だ! まだ安静期間だが、避難警報を無視するような阿呆だ。問題ないだろう。道場の方に来い! 貴様の一限は補習だ!」

 なぜか知らないが、九条は妙にウキウキしているように見えた。


 別に口調は乱暴でがさつだが、悪い先生ではない。

 そうわかっているのだが……俺をいたぶることが心底楽しみであると、そう見えて仕方がなかった。




ありがとうございました。

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