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天憧ヤオヨロズ-神宿りの刃と鳥の歌-  作者: あらまき


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22/67


 自分が立ち回れると判断した敵との距離。

 それを、さらに一歩前に縮める。

 こうして南雲と同じ目線に立つと、その異常さを改めて再認識出来た。


 あまりにも、死が近すぎる。


 南雲の動きは不条理そのもの。

 強いとかそういう意味ではなく、合理性も道理もないだけ。

 破天荒と言いかえても良い。


 剣術における基礎動作とは、刀を振ることではなく足さばきの方にある。

 刀を振るという動作は全身をくまなく使う。

 姿勢が崩れるとそれだけ刀を振るチャンスが減る。

 だから刀を振れる状態をなるべく維持するための技法、即ち『歩法』こそが基礎であり奥義となる。


 一方南雲は、そんな足さばきなど知らんとばかりにすり足もステップも取らず、なんか足でリズムを刻んでいた。


 それは、戦いのためなんかじゃない。

 ただ、自分がそうしたいから。


 剣術の基礎さえ使っていない。

 知らないわけではなく、ただ使ってないだけ。


 どうしてかなんてわかるものか。


 あまりにもかぶいている。

 というか歌舞伎過ぎている。


 それなのに、南雲はべらぼうに強かった。


「伊織ちゃん。生きるうえで一番大切なものって何だと思う?」

「何だよ唐突に。遺言でも残せって?」

「生き様を見せりゃ十分遺言になるじゃない。そんなもの要る?」

「あんたにゃ要らんだろうな。んで、何の話だ?」

「言葉通りと思って良いわ。貴方の一番大切なものが知りたいの」

「ぴよこって言ったら笑うか?」

「愛に生きることはとても素敵なことよ。でも、私の隣に立った貴方がそう言うなら、鼻で笑っちゃう」

「まあ、そうだわな」


 呟き、俺は苦笑する。


 ぴよこのことは確かに俺より大切だ。

 だが、一番じゃない。

 本当に一番だったらこんな場所に連れてこないし、それ以前に俺達はアラハバキ入学さえしていない。


 だったら、俺の一番は――。


「誰かの役に立つことだ」

「そうね。メイドちゃんの努力も、小鳥ちゃんの献身も、クラスメイトたちの頑張りもすべて台無しにして、裏目にしかならないとわかっているのに無駄な戦いをしていること。それが貴方の芯よ」

「そうだな。俺は間違っている。わかっているけど変えられないんだよ」

「あら? 変える必要なんてないじゃない」

「いや、迷惑をかけているんだから変えないと駄目だろ」


 南雲は苦笑し、さらに前に進んだ。


 戦っている俺だからこそわかる。

 ここが本当のギリギリ。

 これより前に出れば命は危ない。


 そんなこと南雲だってわかっているはずなのに……。


「で、駄目なことをしたらいけない理由ってなに?」


 そう言って笑い、刀を振り回した。

 影ではなく、俺の方を見ながら。


「なんでそんな危険なことを――」

「したかったから」

「――は?」

「その顔がね、見たかったの」


 南雲は、大きな声で笑い出した。


「あははははは! 伊織ちゃんは本当に真面目ね。やりたいことがあるからやる。それだけで良いのよ、世の中なんて」


 南雲は急に、正しい構えを取り、斬撃を放った。


「やっとうを振り回したくなったから振り回す! 殴りたくなったから殴る! 私たちは明日のために生きているわけじゃない。今という刹那をさいっこーに楽しむために生きてるの!」


 斬って殴って蹴り飛ばし。


 文字通り好き放題。

 そして、南雲は言葉通りに生を謳歌していた。


 刹那主義……いや、それも少し違う。

 未来を考えていないわけではなく、ただこの一瞬を本気で生きているだけ。

 だから……。


「それが婆娑羅の生き様ってやつか」

「いいえ、私の死にざまよ」


 振り向き、南雲は笑った。


 俺はあそこまで、影に近寄れない。

 それは実力でなく、気持ちの問題。

 どうやら、『やりたいことのためなら死んでもいい』くらい壊れないと、南雲の横に立つことはできなさそうだ。




 当事者の自覚はある。

 人任せにしているつもりはない。

 それでも、俺はどうしても南雲の援護をするはめになっていた。


 実力と距離、共に負けている以上それが俺の限界でもあった。

 ただ、影からすれば弱者である俺の方が狙いやすいらしく、よく攻撃がこちらに飛んでくる。


「伊織ちゃん! 行ったわよ!」


 言葉の後に、影の姿が目に宿る。

 その俊敏な動きは、はまるで瞬間移動のようだった。


 俺は右手に持つ棒を前に出し構える。

 棒から障壁のようなものが生まれ、バチバチと音を立て、衝撃ごと攻撃を防いだ。


 その隙を縫い、俺は左手の刀で影を斬りつける。

 実体化していない部分に当たるも、片手だけの所為かアマツでありながらまったくダメージを与えられていなかった。


「南雲。大変ありがたいんだがな、結局この棒って一体何なんだ?」

「え? 知らない」


 あっけらかんと、当たり前のように南雲はそう言いやがった。


「いや、知らないってあんた……」

「私も預かっただけだもの。でも、ずっと使えるって思わない方が良いと思うわ」

「どうしてだ?」

「そんな便利な物があるならもっと普及してるわよ。私ら扶桑の民が百年以上も懲りずにやっとう振り回してるのは、そういうことでしょ」

「なるほど、道理だな」


 回数か時間に制限があるか、それとも代償がでかいか。


 なんにせよ、ありがたいことに変わりはなかった。


「ごめん待たせ――って、なっちゃんじゃんやほー」

「ふふ、こんばんは小鳥ちゃん」

「援軍たすかるよー」


 にこやかな挨拶の後、ぴよこは影に向き短い刀を構える。


 ぴよこのアマツは脇差として見ても短い。

 それはぴよこが非力であるというだけでなく、飛行による影響を減らすという意味もあった。


 入学段階という低い技量でも折れない耐久性能と極限の軽量化の両立。

 その二つによって、威力、霊力貯蔵量、リーチと刀として重要な要素がすべて取っ払われた。


 それでも――。


 羽を使った平行スライド移動から、ぴよこは影に刃を浴びせる。

 一瞬の接近から重力無視の急速旋回というヒットアンドアウェイ。


 筋力はなく、武器も特注故に低威力。


 それでも、ぴよこの一撃は俺より遥かに大きなダメージを与えていた。




 ぴよこと俺の実力は、おおよそ五分だったと言っても良い。

 多少俺が劣っているだろうが、それでも大きな差はなかった。


 だが、それは入学するまでのこと。

 あの頃と違い、アマツを手にした今では話は変わる。


 アラハバキの学生配布刀である【模造禮刀『天津』】は、名の通り【機煌禮刀『神威』】の模造刀である。

 劣化品であるのは正しいが、性質そのものは変わっていない。


 即ち、影を屠るための決戦兵器。

 その特性をもっと言えば、影に対し【霊力】を伝えやすいと言っても良い。


 これはあくまで目安程度の概算なのだが、霊力というものは武器と自身の乗算計算となる。


 霊力というものが何なのか、俺はまだ詳しくは知らない。

 知っているのは神から与えられる力ということくらいだ。


 その力は一般的に女性の方が多く保有していると言われている。

 更に、亜人は特性上自前の霊力を保有しているため、人の何倍も多く霊力を持っている。


 だから、アラハバキは亜人であり女性であるぴよこに多大な期待を向けていた。


 その期待こそが、目の前の差。

 威力を犠牲にしたぴよこの刀であっても、その威力は今の俺では出せないものとなっていた。


 そしてそれ以上に強いのが……。


 南雲は鼻歌混じりに影の攻撃を躱し、凌ぐ。

 決して余裕があるわけではない。

 ただ、楽しみたいから楽しんでいるだけ。


 むしろ、余裕がないことを楽しんでいるフシさえあった。


 隙を見つけては攻撃に転じ、拳を叩き込み、斬撃を放ちと好き放題。

 正しき剣を学んでいるはずなのに、そこに剣術のけの字もない。


 それでも、南雲の攻撃は安定してダメージを与えている。

 刀でなく拳や蹴りでさえも。


 なぜこんな非合理的なのに南雲は強いのか。

 それは決して折れぬ『婆娑羅』としての信念――もたぶん間違いとは言えないけれど、もっと決定的で、即物的な理由が存在する。


 ただ単純に、南雲の保有する霊力は飛びぬけていた。


ありがとうございました。

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