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天憧ヤオヨロズ-神宿りの刃と鳥の歌-  作者: あらまき


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婆娑羅者


 影に立ち向かうことを決めたというのに恐怖に打ち震え、そうして、俺は再確認する。


 俺は、自分が嫌いだ。


 一人でも多くを助けるため、力なき民の剣となる。

 それが俺の望み。

 俺は、誰かの為に戦う。


 そのために、アラハバキという学校を選んだ。


 だが、そんな俺と見張りをしていた警備員の人たちとでは、決定的に違うものがある。


 彼等は、気高き覚悟と正しき勇気をもってあの場に立っていた。


 俺は違う。

 俺は、立ち上がったわけでもなければ戦うことを自ら選んだわけでもない。

 最初から選択肢なんてなく、ただそれ以外に生きる術を知らないだけ。


 俺にとって人助けは呼吸と同じでしかない。

 つまり……やらないと、死んでしまう。


 どうしてそう思うのか、我がことながら理解出来ない。

 ただ『やらないといけない』という強迫観念によって、己に善行を強き続け生きている。


 当然、そこには誇りもなければ正義もない。


 自分だってわかっている。

 俺が、間違っていることなんて。


 それでも、俺はそう生きることが出来ない。

 ぴよこが負傷し、巻き込まれ、こうして死を目前とし、死にたくないなんて情けないことを考えて。


 それでも……俺は反省も後悔も出来ない。

 生きている限り、きっと俺は同じことを繰り返す。


 訳も理由もわからず、見知らぬ誰かを助けるために、俺は死ぬまで戦い続けるだろう。


「難儀なもんだよな、本当に!」

 殴りつけるように、刀を影に叩きつける。

 けれど、影の右手によりあっさり俺の渾身の一撃は弾かれる。


 その衝撃で、腕に捻ったかのような痛みと衝撃が走った。


「っ――! ああもう!」

 痛みを誤魔化しながら、再び構える。


 どうでも良いことだが、もう一つ気づいたことがある。

 それはどうして俺が刀で()()なんて色物に近い非効率敵な手段を多用していたのかについて。


 要するに、俺は俺が思っている以上に『斬る』という動作が苦手で、それを誤魔化し補っているのが打撲術だった。


「ま、今気づいたところでどうしようもないんだけどなぁ……」

 俺のすぐ目の前で、影が右手を振りかぶっていた。


 避けるのはもう間に合わない。

 防ぐ力もない。


 この状況にならないよう立ち回ったつもりだが、どうやら駄目だったらしい。

 攻めて一太刀浴びせんとするか、それとも万が一にかけ防御を固めるか。

 一瞬の判断に迷いが生じているその瞬間――俺の足元に何か細い棒が突き刺さった。


「それを使って!」

 誰かの叫び声が聞こえる。


 悩む暇さえない俺は言われた通り、コンクリからその細い棒を右手で引き抜き、アマツと交差させ影の右手を防いだ。


 不思議なことに、 驚く程衝撃がなかった。

 軽く撫でるだけでぴよこが飛ぶような右手の全力の振りかぶりを受けたのに、その衝撃はちょっと小突かれた程度。

 俺は、その場に平然と立てていた。


 気づけば、俺の前に何か障壁のようなものが出来ている。

 それがバリバリと音を立て、影の攻撃を防いでいた。


「これは一体……」


 棒のようなものと思ったが、違った。

 これは棒そのものだ。


 白樺らしき材質の八角形の細い棒。

 神社の祓串(はらえぐし)に似ているが、紙垂(しで)が付いていない。

 だからやっぱり、ただの棒だった。




「何やってるのよ伊織ちゃん。まったく……」


 言葉は、高いところから聞こえた。

 声の主は俺が見上げる前に、ひょいっと身軽な動作で、俺の横に転がっていた瓦礫の上に立った。


 三メートル以上も上から降りて、しかも今にも崩れそうな瓦礫の上なのに、足音の一つさえもなかった。


「南雲。お前どうして……」

 俺は、声の主の名を呼んだ。

「どうしても何も、伊織ちゃんを助けに来たに決まってるじゃないっと」


 南雲は瓦礫の上からぴょんと飛び、そのまま――影を蹴り飛ばした。


「……………………は?」


 それは、ある意味今までで一番衝撃的な光景だった。


 影は理不尽で、暴力的なものだ。

 家を拳で破壊し、山を蹴り崩し、コンクリを指ですり潰せる。

 そんなゴリラとダンプカーを掛け合わせたような怪力無双。

 だから、多少おかしなことが起きても理解出来る。

 爪を伸ばそうと、ダイナマイトみたいな威力が出ようと、そういうものだと。


 だが、南雲はただの人だ。

 人を食ったような舐めた態度を取って、どこまで本気かさっぱりわからないけれど、それでも普通の人だ。


 亜人でもなければカムイ持ちでもない。

 なのに南雲は、影をあっさりと蹴り飛ばしていた。


「さってっと。数秒の時間は稼げたから、ちょっと聞かせて欲しいんだけどさ、伊織ちゃん」

「な、なんだよ?」

「貴方が戦うことは、クラスメイトの裏切りってわかってる?」

 氷のように、冷たい声だった。

 俺は南雲の顔を見れず、つい顔を反らした。

「――悪い。わかってるつもりだ」

「なのに戦うの?」

「ああ。戦う」

「小鳥ちゃんが負傷して、貴方だって死にそうになって。ついでに言えば、貴方に戦う理由もない。貴方からは情熱も、誇りも、何なら正しさだって感じないわ」

「耳が痛いな。確かに、駄目な理由しかない。それでも……俺は……」

「――そう。じゃ、良いわ。一緒に戦いましょう」

「……良いのか?」

 南雲は俺をじっと見つめ、にっこりと笑った。


「私ね、クラスの中で貴方が一番好きなの」

「――気持ち悪いことを言うな」

「本当よ。実力がなくて、歪で、やることなすことチグハグで可哀想な子」

「……馬鹿にしてる?」

「まさか――」


 ふっと微笑を浮かべた後、南雲はどこからともなくアマツを取り出した。


 俺のものと比べ刀身が長く、その代わり妙に細い。

 一寸法師の針を彷彿とさせる、これまた色物のアマツだった。


 ゆっくりと、まるで舞いの身体をくねらせるように不思議な構えを取る。

 それは、刀をを背中に背負うなんて、おおよそ剣術らしからぬ構え。

 なのに、不思議と堂に入っていた。


「貴方みたいな馬鹿に弱いのよ、『婆娑羅者』ってのはね。応援したくてたまらなくなっちゃう」


 南雲は一歩前に進む。

 だがそれは縮地の要領で、あり、一瞬で影のすぐ傍に。

 そして、まるで棍棒のようにアマツを振り下ろした。


 俺のような打撲術に近い動きなのに、まるで違う。

 それは正しく剣術であり、そして鋭い斬撃であった。


 振り下ろした斬撃は爪に触れ、ギィンと、鈍い剣戟の音が響いた。


「あら、頑丈」


 南雲は一歩も退くことなく、再び刃を放つ。

 直立したまま右から剣を放ち、今度は深く構え左から。

 南雲の剣は一手たりとも同じ行動はなく、剣術の方向性もまるで読めなかった。


 変幻自在――いや、そう称するのはきっと違う。

 たぶん、動作に意味そのものがない。


 舞踊のような足運びと、酔っ払いのような回避。

 それらは別に深い意味があるわけではなく、ただの気分でやっているだけ。


 無意味なことを行い、意味を持たせる。

 南雲の剣は……いや、芸者である南雲の生き様は、無意味を有意味にすることにあるようだった。


「強い……」


 思わず、言葉が零れた。


 無数の剣戟の音続く。

 南雲は、あの影と対等に打ち合っていた。

 逆に言えば、これだけ強いと感じた南雲でさえ、影を打ち倒すには至っていなかった。


 俺は、戦いの土俵にさえ上がっていなかった。


 ちらりと、南雲はこちらに目を向けてくる。

『どうするの?』

 そう、その目は言っていた。


 戦えとは言わない。

 ただ、尋ねるだけ。


 貴方の生き様は、そこで指をくわえて見ているだけなの?


 焚きつけられたというわけではない。

 けれど、自分で戦うと決めたことではある。


 俺は南雲の援護を――いや、南雲の隣に立つため、今までよりもさらに近い位置まで影に近づいた。


ありがとうございました。

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