ギャルというかアバンギャルドというか
『これ以上目立たず、実力を上げろ。こっちも出来る手は打つ』
九条はそう、俺に伝えた。
口調は強く、常に見下すような話し方。
けれど、間違ったことは言わない。
それが九条であるからだ。
学園としては、さっさと切り捨ててしまった方が良い。
いや、おそらくその予定だった。
アラハバキとはそういう学風である。
それでも俺が残っているのは、きっと九条であるからだ。
九条という名前を背負った男が俺の担任となった。
それこそが、きっと俺にとっての蜘蛛の糸であった。
「いや、九条だけじゃないか」
俺は前を向き、靴箱前で俺を待っていたらしいぴよこに目を向けた。
「おや奇遇ですな、いーくん。一緒に帰りましょ」
「そんなあからさまな偶然感出さんで良い。……んで、そっちは……」
そう言って俺はぴよこの隣にいる彼女をちらっと見た。
「へい伊織っち。そいや話すのは初めてだっけ? よろしく!」
そう言って何とも特徴的なピースとウィンクをしてみせた。
うちのクラスはウィンクが流行っているのだろうか。
「あ、ああ。よろしく」
「何か固くない? クラスメイトなんだし、もっとフランクにいこーぜ? んでさ伊織っち。一個気になることあるんだけど聞いて良い?」
「あ、ああ。何だ?」
「伊織っちって何人目?」
「は、はい?」
「ソイソースはおやつに入るタイプの人種?」
「えっと、あの……」
「電気羊はアンドロイドの夢を見るかって小説タイトル恰好良いけど中身知らんのよね、あーし」
「……何の話?」
俺の方を彼女はじっと見た後、わざとらしい溜息を見せて来た。
「やれやれ。伊織っちは真面目さんだねぇ。んじゃぴよちゃん、伊織っち。あーし馬に蹴られる趣味ないからクールに去るね」
そう言って彼女は、ムーンウォークでスライドするような動きのまま、薄暗い闇の校舎の中に溶けていく。
帰るんじゃないのかよというつっこみさえ、入れる隙がなかった。
闇夜にクラスメイトが消え、俺達の間に普段あまり見られないタイプの、気まずい沈黙が流れた。
「こう……最初さ。俺、感心したんだ。あんな露骨なギャルとも仲良くなれるなんて、ぴよこのコミュ力すげーなって」
激しいジェルネイルの爪に、毎回変わる髪型。
男からすれば声をかけにくいタイプの『ギャル』だと思っていたのだが……あれは違う。
あれをギャルにカウントするなら、銃も刀のうちとかいう無茶な理論さえ成立するだろう。
「い、いつもはもうちょっとだけ、その、大人しいから……」
「ちょっとなのかよ。すげーじゃ足りん、そのコミュ能力、マジで尊敬するわ。俺、どうやっても友達になれる気がしない」
「大丈夫。たぶんもう彼女の中ではいーくん友達だから」
「どんな距離感してんだ。心の縮地かよ」
「悪い子じゃないから」
「わかってるよ。ここに居るんだから、良い子でないわけがない」
「どういうこと?」
「あの子も参加してくれてたんだろ? 俺の退学対策会議に」
俺の言葉に、ぴよこが目を丸くした。
「な、なんでわかるの!? いーくんさっきまで先生とお話してたよね? 知らないはずだよね!?」
素直なぴよこの言葉に、つい、俺は笑ってしまった。
「ああ。やっぱりそうなのか」
「あ! カマかけだったんだ! 狡い! いーくん狡いよ! ズル男だよ!」
「なんだよズル男って」
俺は苦笑しながら、ぴよこの頭をぽんと叩いた。
「すまん。本当、迷惑ばっかかけてるな」
ぴよこは少し驚いた後、頭にある俺の手を握り、抱きしめるように握った。
「迷惑だと思ったことは、一度もないよ」
それはきっと、彼女の本心なのだろう。
だからこそ、余計に申し訳がなかった。
先の『退学対策会議』は、別にあてずっぽうや単なるカマかけというわけではない。
ただ、確信があったというわけでもない。
だから俺は帰る前に一旦校舎に戻って、『あること』を確認した。
そして、それは俺の予想通りの結果であった。
いつの間にか、四組クラス委員が俺になっていた。
「どうして、いーくんはわかったの? みんなで相談してたって」
帰路の中でぴよこが尋ねる。
「まあ、最初は違和感だな。というか、たぶんヒントを出してたんだろう。南雲が」
「なっちゃんが? どんな?」
俺はぴよこに、朝、メイドが俺に手伝いを頼んだ時のやりとりを説明した。
「んで、その時あいつ『良い女は嘘を付く』ってのと『あんたはメイドを信用して良い』ってことを言ってたんだ。あの時は何のことかさっぱりだったけどな」
けれど、今になれば理解出来る。
わざわざ俺にクラス委員という名を与える理由。
俺に箔を付けないとならない理由。
そんなの、たった一つしかない。
「メイドは、知ってたんだな。俺が退学になるって」
「そう、かもしれない。話し合いの時も色々とアイディア用意してたし」
「その話し合いって何人くらいいたんだ?」
「十人」
「そんなに集まったのかよ。俺なんかのために」
「メイドさんが集めてました」
「すげーなメイドさん」
「凄いねメイドさん」
「んで、どんな話になったんだ?」
「えっと、私達がサポートして、学業方面や風紀などで成績上げるみたいな感じだったよ。戦闘面では目立たないようにしながら」
「なるほどねぇ。やっぱり戦闘は避けろって方針なのか」
「うん……。概ね」
「まあ、そうだよな。……概ねってのはどういうことだ?」
「大っぴらには言ってないけど、なっちゃんは何か反対な感じだったから」
「そか。まあ、あいつの持つ拘りとか美学に反したんだろう」
「かもねー。まあ、私達も頑張るからいーくんも頑張ろう」
「おう」
そう言って、俺は本心を殺し微笑む。
情けない。
ただただ情けない。
クラスメイトに迷惑をかけ続け、担任教師に庇わせて。
挙句にぴよこにこうして心配までさせた。
一体俺は何をしているんだろうか。
それでも……いや、だからこそ、俺は逃げるなんて選択肢は取れない。
どれだけ苦しくても、どれだけ重たくても、俺はアラハバキに居続けなければならない。
そう、望んでもらったのだから、それ以外に返す方法なんて……。
ありがとうございました。




