表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天憧ヤオヨロズ-神宿りの刃と鳥の歌-  作者: あらまき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/67

反則(後編)


「まず、伊織ちゃんに小鳥ちゃん。二人は小説って書くかしら?」

 俺達は揃って首を横に振った。

「まあ、そうよね。じゃあ、絵でも……いえ。歌の方が良いわね。小鳥ちゃん歌うの好きそうだし」

「なんでわかるの?」

「綺麗な声だもの」

「あら嬉しい。いーくん、ちゃんと見習って。これが乙女心のわかってる人だよ」

 ニヤニヤした顔で、ぴよこは俺を肘でつついてきた。


「ああ。そうだなぴよ助。お前の声はガラスをひっかくみたいな素晴らしい声だよ」

「デスメタルにハマってやろうかしら」

「好きならそうしろ。故意にはするな。……すまん脱線した。続けてくれ」


 微笑を浮かべた後、南雲は頷いた。


「自分が歌っているのを、想像して頂戴。歌詞を完全に記憶して、まったく同じ環境で同じ歌。それで、昨日と今日で同じ歌い方が出来る?」


 俺とぴよこは、互いの顔を見た。

「……いや、そりゃ無理だろ。コンディションに差がある。少なくとも素人には無理にしか思えない」

「プロだって無理だよ」

 ぴよこの言葉に南雲は頷く。


「ええ。たとえコンディションが同じでも、前日の歌い方を完璧に記憶しても、絶対に無理。同じ歌は、二度と歌えない。歌だけじゃなくあらゆる芸がそう。私はね……芸ってのは、生き物だと思ってるの」


 南雲は舞台の上をじっと見つめた。

 次の生徒のために裏方が準備をしている、空きの舞台。

 そこだけが、自分の還るべき場所であるというように。


「芸は神に見せるためだけに舞台の上で生み出され、そして舞台の上で燃え尽きる。儚き情熱の陽炎(カゲロウ)。同じ芸は、()()()生まれない。そしてだからこそ、芸に手を抜くことは許されないのよ」


「一期一会の精神か」

「若干違うけど、まあそんな感じ。これは私のポリシーの話だけど、伝わってるかしら?」

「ああ。そこまで真剣になれないことに罪悪感を覚える程度には、南雲の言葉は正しいと思うぞ」


「ありがとう。その上で――伊織ちゃん。貴方は型の中にある共通項目を『全く同じ動作』で繰り返してたわ」

「……へ? どういうことだ?」


「すり足の移動、回避動作の距離、木刀の振る速度。そのどれもが、貴方は貴方が思うように繰り出している。極めて理想の動きを再現出来ているの」

「それって……筋繊維の一ミリまでコントロールしてるとか、そういう話?」


「いいえ、それ以上よ。伊織ちゃん。貴方、型から型に挟む時、移動しないでしょ?」

「そりゃしないけど、普通じゃない?」


「普通じゃないわよ。微調整を一切せずなんてのは。剣術の方が平凡でなければ、私は貴方を機械だと勘違いしてたわ」

「そう言われてもなぁ……」


「……誰しも望む才能が得られるとは限らないわね。本当。実戦科でマイナスな才能をピンポイントで持つなんて……」

「マイナスなのか? むしろ凄い才能な感じがするけどな。こう……見稽古で人の技コピーするとか、そういう感じで」


「出来たことある?」

「ないです……。むしろ物覚え悪い方でした……」

「でしょうね。あくまで再現出来ているというだけだもの。どうして実戦においてマイナスになる得るのかと言えば、理由は二つ」

「二つもあるのか……」


「一つは、その才能を駆使し、何度も鏡を使いながら研究すれば、いずれ必ず【理想の斬撃】に辿り着くこと」

「良いことじゃない?」

「まあ、多くの人が到達出来ない点であるのは事実よ。けれど、理想ってことはつまり『成長を止めた』ってことになるのよ? そんなの、ただの堕落よ」


 その言葉に、俺は何も返せなかった。


 心は否定したい。

 けれど、今の俺に否定するだけの知識も技術もないのは事実だった。


「二つ目だけど、理想の斬撃ってのはね、得てして弱いものなのよ」

「禅問答か?」


「いえ、単純な話。伊織ちゃん。何をしてくるかわかる相手とわからない相手。どっちが怖い?」

「そりゃ、わからない相手だろ。ああ――そういうことか。先程言ってた『命を奪う可能性』って、俺自身の命のことだったのか」


「そう。理想の動きってのは、相手にとっても予測しやすい動きになる。どれほど強くても、予測されたことしか出来ない剣士に価値はないわ」

「なるほどね。わかった。変な癖が出る前に止めておくよ」


「使えない才能ってわけじゃないわ。一部の動きを固定したり、覚えにくい技を覚えるために利用したりする程度なら。けれど、変な癖が付くほど深入りはしない方が無難よ。奉納科に来ないならね」

「奉納科なら生かせるのか……」

「伊織ちゃんが芸に命を捧げる覚悟があればね」

「はは。それはそれで魅力的だな。だけど悪いな。何度誘われてもそのつもりにはならないよ」


「でしょうね。私も普段なら誘わないわよ。私は才能なんかより、意思の方が重要だと思ってるもの。けれど、そんな私が惜しいと思うくらいに凄い才能なのも事実よ」

「まあ、そうだな。口数が相当多いもんな」


「あら恥ずかしい。ま、この程度にしておきましょう。あまり余計な茶々を入れて伊織ちゃんに嫌われたら悲しいし」

「いや、助かる。少なくとも、今日は見直した」


「あら嬉しい。だったら時折お節介を焼こうかしらね」

「はいはーい! なっちゃん先生! 私は!? 私にアドバイスは!?」

「ふむ……そうねぇ。パントマイムのコツなら教えられるかもしれないわ」

「どうやるの。おせーておせーて」

「ええ、任せなさい。それは……」


 二人がわいわいとしていると、二人の上にばさっと雑誌が降って来る。


 上を見上げ、俺は、二人が雑誌で叩かれたのだと理解した。

 そこには、無表情の九条が立っていた。


「せめて舞台を見ているフリをしろ。一応、見学も授業のうちだ」


 口にしてはいるが、本気でそう思っているとは思えない。

 もしもそうなら二人が舞台を視えない正面からは叩かないだろう。


「見てるわよ? 会話程度で私が芸を見逃すわけじゃない」

「見てろじゃない。見ているフリをしていろと言ってるんだ、南雲弦太郎清宗」

「あらやだ。本名は止めて、なっちゃんと呼んでよ」


「本名じゃなくて芸名だろうが。本名でも呼んでやろうか? 南雲――」

「わかった、私の負けよ。私の身体を好きにしなさい。でも、心までは……」


 すぱんと、もう一度南雲の上に書類が叩き落とされた。


「あ、そうそう。水無川。少し良いか?」


 九条先生に呼ばれ、俺は頷いた。


「はい。なんでしょうか?」

「放課後来てくれ。少し話がある」

「ここで言えない話ですか?」

「いや、そうでもない。簡単に言えば……」

「言えば?」

「このままだとお前、退学になるぞという程度の話だ」


 傍に居たクラスメイトが、ぎょっとした顔で俺の顔を見た。


「……それ、普通は言えない話の方に入りません?」

「別に事実を言われても困らないだろ。まあ、詳しくは放課後だ」


 そう言って、九条はその場を後にする。

 どうやら、それだけを言うためにここに来たらしい。


 ぽかーんとする南雲、腫れ物みたいな目を向けるクラスメイト。

 あとついでに、おろおろとテンパり右往左往しだしたぴよこ。


 俺は色々と複雑な気持ちを出来るだけまとめるために、大きく溜息を吐いた。


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ