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樹冠祈願  作者: レニペン
第3章〜それぞれの物語〜
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52.『大爆発!』

南極編、前半(?)終了!

 志月ハヤセは緋ノ宮ラクのことがめっぽう嫌いだった。自分にはない才能を彼は持っている。彼はまだ若く、伸びしろがある。彼と自分を比べるとどうしても劣等感が湧いてくる。それに、あの男は___


 ___ハヤセが愛していた妹、志月ソウを殺した張本人だからだ。___


______________________________


 志月ソウはハヤセにとってとてもかわいい妹だった。が、その妹は独特な価値観か、社会に馴染めずにいた。


 人は何も考えずに誰かに従うほうが楽。つまり、人間の幸せは誰かに従うこと。つまり、操り人形として偉い人に従うのが人間の本来あるべき姿であり、誰かに従うのがみんなが目指すべき姿だと。


 それを思うのは自由であり、あながち間違えてない部分もある。だが、ソウの問題はそれを周囲の人達に強要しようとしたことだ。故に、彼女は社会に馴染めなかった。


 どんどん人が離れていき、孤独になっていく妹をハヤセは守ろうと思っていた。




 閾の日ほど、人生で絶望した日は無いし、今後も訪れないだろう。


 妹が、人を殺した。それも、”妹に無理やり従わされた”人達による数の暴力で。さらに妹にその罪の意識はなかった。


 幸い、ハヤセを操ろうと妹は思わなかったらしい。ハヤセが操られることはなかった。


 両親は、ハヤセが殺した。妹を警察につき出そうとしたからだ。両親の気持ちも分かるが、妹を守るためにハヤセがとった行動は両親を殺して逃げる、というものだった。


 逃げ惑う二人を拾ってくれたのがあの男、『ナイトメア』だった。あの男は自分たちのことを気に入ったらしく、自分の組織に入らないかと勧誘してきた。身寄りのない自分たちにとってそれほど嬉しい提案はなく、すぐに受け入れた。


 結果として妹は闇ノ九柱第3位、『マリオネット』に。自分は第5位『ハヤセ』になった。自分にコードネームはつけてもらわなかった。気に入るものはなかったし、その名前をつけた両親を殺したという事実を忘れないためにも、その自分の名前を捨ててはいけない気がしたからだ。妹が上司になるというのは不思議な気分だが、悪くないと思っていた。


 そんな妹を先日、殺した男こそ緋ノ宮ラクだ。


 あのトーナメント試合の時、殺しておけばよかった。そしたら、妹は死なずにすんだだろう。とてもじゃないが、今、自分が緋ノ宮ラクに勝つのは簡単ではない。が、勝機が無いわけではない。この石を使えば。


______________________________


 ラクが接近してくる。まずは、相手にとって予想外な動きをして相手の不意を誘う。


 「...今だ!」


 ラクとの距離、約30m。ハヤセは地面に向かって石を1つ投げつけた。途端、大きな爆発音とともにハヤセの体が宙に吹っ飛ぶ。ラクは一瞬驚いたように目を見開くが、すぐに方向転換してきた。


 そうだ。それでいい。ラクはこの状況で、これを避けられないだろう。


 ハヤセは大量の石をポケットから出し、ラクに投げつける。無数の石が散らばり、溶けて、混ざって。


「緋ノ宮ラク!吹っ飛んじまえ!」


 ハヤセは笑いながらそう叫び、落ちていく。ラクはその石が混ざった部分を見つめる。そこにはラクの必殺技、三原色とおなじ幻象...無数のエネルギーが混ざって膨張する幻象がおきていた。それも、ラクのそれよりも強力なエネルギーで。





______________________________



 ラクの能力は万能な能力だ。強みは手数の多さで、どんな属性でも使える。が、欠点もある。それぞれの技はその技を専門の能力にするものと比べれば劣るというものだ。例えば炎系の技なら、ラクが繰り出すそれよりも、炎専門の能力であるミクのほうが明らかに火力が高い。ラクとミクが炎系の能力のみで戦えと言われたらミクが圧勝するだろう。


 だが、ラクには水系の能力や氷系の能力も使える。それらを使ったらミクに勝てる。ラクのもう一つの強みは相手によって自身の属性を有利なタイプに変えることが可能ということだ。


 そんなラクが考えた、そんなラクならではの技。全属性使えるラクの必殺技、それが『三原色』だ。自然界の別々のエネルギーを組み合わせてビームにして放つ。火力は闇ノ九柱第3位を一撃で倒せる(実戦済み)ほどのチート技。一つ一つの能力のエネルギーは大した事ないが、それぞれが合わさることで最強になる。そんな技だ。


 もし、その『三原色』を作り出すエネルギーの威力がそれぞれのタイプの能力者の一生分の能力だったら。当然、三原色の威力もラクのそれの何倍も、何十倍も底上げされる。


 それが、ハヤセのラクに勝つための手段。あの石が合わさったらおきる幻象だ。


「っ...嘘だろ!」


 ラクの能力を使えば、逃げることは可能だろう。しかし、アカネやマナを見殺しにできない。アカネとマナを助けるだけなら可能だろうが、他の乱戦参加者は全員は助けられないだろう。ラクは逃げられない状況に追い込まれている。対して、ハヤセはすでに逃げていた。


「三原色!三原色!クソッ、炎!水!電気!大地!生物!風!氷!全部ダメか!」


 エネルギーの球にどんな攻撃をしても、エネルギーは爆発しない。この膨張し始めた、小さな間にぶっ壊しておけばなんとかなるかもしれない。だが、壊れない。


 もう時間はない。ラクが今、出来る最適な行動はアカネとマナのもとに駆けつけ、一緒に遠くへ逃げることだ。だが、それは他の参戦した一般人を見殺しにすることを意味する。ラクには出来なかった。


「少年、障壁を作れ!できる限り、ありったけだ!」


 突然、ラクの後ろから声がした。


 白いマント。神環の制服だ。40代ほどの中年の男が、そこには立っていた。


「俺の能力は『吸収』だ。そのエネルギーを少しでも吸収して爆発の規模を弱くする!!」


 男の発言に、ラクはこくりと頷き、地面に降り立つ。そしてそのまま地面に手を付ける。すると、辺り一帯から氷の壁が生えてきて、エネルギーを包むようにドーム型になる。さらに、その周りにラクは壁と言っていいのかわからなくなるほどに分厚い障壁を作り上げた。


「いいぞ少年!あとは俺に!」


 男は手をエネルギーに被せる。少し、エネルギーが膨らむ速度が収まった気がした。だが、エネルギーは膨らみ続けている。危険なことに変わりはない。


「っ!後少し!」


 男が苦しそうにそういった。ラクは自身も空を飛び、エネルギー球に向かって無数の攻撃をする。


「神環の人!もう逃げましょう!」


 ラクは逃げることを提案する。もう、出来ることはやった。爆発は免れない。


「緋ノ宮少年!キミは逃げなさい!後は、俺に任せておけ!」


 男はラクを安心させるように笑って、そう言う。そんなのを見て『わかった、逃げます!』とか言って逃げれるほどラクは素直じゃない。


「...エリマキキツネザル....スゥ......アカネー!マナー!聞こえるかー?今から全力で逃げろー!僕は大丈夫だからー!」


 ラクは大声で叫び、アカネとマナに命令を出した。


「少年っ!」


「僕も残ります。」


「...フッ、イオが言っていたとおりだな。」


 ラクは水と氷を大量に出してエネルギー球にかける。温度を低くさせるつもりなのだろう。


 男も踏ん張りながらエネルギーを吸収していく。二人とも、無言で集中して作業を続けていた。


 何分たっただろうか。エネルギー球は更に膨張し、ラクが作った障壁も少し飲み込まれている。


「神環の人!もうダメです!爆発寸前でしょう!やれることはやりますた!」


「っ!俺は...!」


 男はまだ諦めきれない様子だ。


「悪く思わないでくださいね!」


 ラクは人を助けたいから、残った。敵であれ、世界中から来た能力者たちを助けたかった。その助けたい人たちの中にはこの目の前でまだ抗おうとしている男も入るのだ。


「拘束!」


 ラクは手からツタを出し、男を巻き取る。そしてそのまま、翼を生やして急降下した。それから数秒後、エネルギー球はついに爆発した。








______________________________


 あれから何が起きたのか、正直詳しくは覚えていない。


 たしか、自分は飛んで逃げて、だけど爆風に追いつかれて。


「そこに駆けつけたのがオレとこのハワイ姉ってわけ。」


「ちょ、さっきまでマナ呼びだったくせに、ハワイ姉って何?!」


「いいあだ名を思いついたんだ。」


 状況を思い出そうとするラクの前にアカネとマナが現れる。二人とも服に穴が空いたりしているが、大丈夫そうだ。


「いやー、オレたちがいなければラク兄、死んでたかもだぜ?オレが能力を使って駆けつけて、ハワイ姉が波の能力であの爆発を少し和らげて、さらにあの神環の男の人が『吸収!』とか言って爆発の被害を抑えた。いや、さすがの連携力だったな!ラク兄!褒めてもいいんだぜ?」


「ありがとうアカネ!いい子だぞ!」


 ラクはアカネが自慢気に話すのが可愛くて、アカネの髪を撫でた。


「で、ここは?」


「あー、床に穴があいて、神環の人以外落ちて、こんな空洞に落ちてきたってわけ。」


「じゃぁ、僕の能力で上に上がるか。」


 ラクがそう呟いた時、アカネがラクの裾を引っ張った。


「ラク兄、飛ばなくてもいいぜ。あっち、見てみろよ。」


 アカネはラクの後ろ側を指さした。そこには南極には似合わない...明らかな人工物の石造りの建物があった。






______________________________


「...緋ノ宮ラクを殺せなかったか。まぁいい。収穫はあった。後は、藤原チク、アイツだけが厄介だ。」


「それなら大丈夫だよ。後は、僕に任せな?」


 横たわる世界中の能力者たちを前に、ハヤセの隣に立つ男、ナイトメアは微笑む。


「イリーナ。氷を操る能力。」


 ナイトメアは数歩歩いて、次の人物の顔を見る。


「リアム・ムタロ。アフリカで有名な能力者だ。」


 次。


「マリー・ルシアン。工夫すればもっと強くなれただろう。」


 次。


「カイオ・ドス・サントス。センスは悪くなかったかな。」


 ナイトメアはハヤセの方を向き、また笑う。


「4人だけかな?まぁ、悪くない。みんなそれなりの強者だ。」


「感謝するなら、真剣組のラクに。アイツがみんな倒したようなものだ。」


「緋ノ宮ラク...か。僕は彼に期待してるんだ。まだまだ、彼は強くなれるよ。」


 ラクを称賛するナイトメアを無視して、ハヤセは歩いて去っていった。


「はぁ、ノリ悪いなぁ。まぁいいや。じゃ、ぱぱっと終わらせますかぁ。」


 ナイトメアは指パッチンをした。するとどこからとも無くロープが出てきて、4人の能力者の首に巻き付き、絞まる。


「任務完了っと。」


 ナイトメアは4人の死体をひこずりながらスマホでメールを誰かに送り、その場から立ち去った。



 ナイトメア、この世界で3,4番目くらいに強い人物です。彼の深堀は第6章かな?ナイトメアに善戦したトモヤって結構すごいんですよ!

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