53.『知らない少女』
南極編5話目!
遺跡の中は神秘的で、ここが南極であることを忘れさせるほどのものだった。
ラク、アカネ、マナの3人は遺跡の中に足を踏み入れる。
「ラク兄、ここって...」
「あぁ、僕らが探しているものの在り処だとおもう。」
壁には壁画が描かれていた。一人の女性の周りに複数の動物が集まっている。その動物たちは皆、その女性に頭を下げていた。
ラクはなぜかその壁画に嫌悪感を感じた。
しばらく、みんなでバラけて遺跡を探索していた。
「ラク兄!なんかあるぞ!」
少し離れた部屋でアカネが叫ぶ。ラクはアカネの声がした方向へ走った。
アカネが立っている先には壺が2つあった。両方、同じような壺だ。
「...壺?」
ラクが右側の壺に顔を近づける。上から壺を覗いてみる。
音が聞こえた。
『オマエは僕だ!』『あなたは!英雄なんです!』『何も守れなかった人間に俺は期待をしない。』『恋人を2度も殺されてたまるかよ!』『あなたの事を許せませんし、許しません。』『緋ノ宮ラク!俺はお前のことがっ....!』『人間の分際で私に口を開こうとするなっ!』『オレのこと、忘れちまったのか?』
「っ!」
ラクは慌てて壺から顔を離した。
「ラク兄っ!どうしたんだ?顔色悪いぞ!」
「いや、声が聞こえて...アカネ、アカネはこの壺に顔を近づけないで。左側も試してみる。」
ラクはアカネの頭を3回ほど撫でると、左側の壺に同様に顔を近づけた。
『人だよ』『ラクくん、愛してます。昔も、今も、これからも。』『最高の先輩!』『緋ノ宮ラク、私と契約を結んでください。』
ラクは顔を離した。
「驚いたかぁい?」
突然、後ろから声がした。
「その壺は片方はキミの人生でキミが言われる悲しい言葉、もう片方はキミが喜ぶ言葉が聞こえるものだよぉ。悲しみの方は私が作って、喜びの方はアステリオスが作ったものだぁ。どうだい?すごいだろぅ?」
女性だった。背は高く、ラクよりも高い。190くらいか。褐色肌で、瞳は緑。服装は華やかで花の模様の刺繍もある。そして、一番の特徴は半透明、つまり彼女の体の後ろが少し透けて見えることだ。
「おっと。自己紹介をしてなかったねぇ。私はファルナ・アル・ハディール。皆は私のことをファルナと呼んでいる。生物の魔法使い、ファルナだ。キミの名前はぁ?」
「オレは...」
「黙れ。キミには聞いていない。私はそこにいる黄色い髪の少年に話しかけている。キミには興味がない。」
アカネが口を開いた途端、ファルナはアカネを睨みつけ、黙らせた。アカネはビクッと震え、黙る。アカネが口を閉じたのを確認してからファルナはラクの方を再び向き、笑顔で話しかけた。
「キミの名前は?神木の従者。」
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ラクのことを『神木の従者』とファルナは呼んだ。その言葉にはどこか怒りのようなものが含まれている、とラクは感じた。
「僕の名前は緋ノ宮ラク。真剣組所属の『生物』の能力者だ。」
「へぇ。私と似た力を持ってるんだぁ。気が合うかもねぇ。」
ファルナはラクの方を見て、ニコっと笑った。
「キミ、相当な強者だろぅ?」
「....えぇ、おそらく。」
「いいねぇ。気に入った。ところでぇ、キミの御主人様は神木柊なのかなぁ?」
ファルナは細めた目の奥から、ラクを冷たく睨みつけてそういった。やはりこの魔法使いは神木柊に良い印象を抱いていない。
「いえ、僕は彼の従者でも何でもありません。ただ、彼との約束?のようなもので、光冥シンという男の情報とこれからの協力関係の代わりに、神木が人間になるためのお手伝いをしている、といった関係です。そのお手伝いで魔法使いの骨を集めているのですが...」
「へぇ、それでここに来た、と。」
「はい。」
ラクは嘘をつかずに、本当のことを言った。これで彼女がどう出るか。それが大事だ。
「そうかい、分かった。持っていきなよ、私の骨。」
正直、断られると思っていた。こんなに軽くOKを出してくれるとは。
「いいんですか...?」
「いいよいいよ。どうせ使わないからねぇ。ところで話を変えるようで悪いんだけどぉ...」
ファルナはニヤリと笑みを漏らしながらラクに言った。
「私と契約を結んでくれるかぁい?」
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ファルナという人間は『欲』が溜まっていた。この世界はどうなっただろう。どのような社会になり、どのような人物が生まれたのだろう。この氷に閉ざされた場所に逃げてから、寿命が尽きて、何百年も経って。遺跡から出ることが出来ないというのは退屈なものだ。とうにに肉体は朽ちて、魂だけの存在になって。日に日に外の世界への興味は増していく。今はどんな世界が広がっているのか、何百年も閉じこもっていた彼女は気にせずにいられなかった。
そんな彼女の目の前に現れたこの少年。彼はひと目見ただけで分かる。強者だ。さらに神木柊に近しい人間。欲しい。そんな人間の体が欲しい。外の世界も見れる、神木柊に復讐も出来る。一石二鳥じゃないか。
まずは、相手にとってメリットを提唱しなければ。
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「改めてぇ、私と契約を結んでくれないかぁい?」
「メリットは?」
予想内の質問。
「強くなれるよぉ。」
「どれくらい?」
流石にこれだけで飲むわけないか。
「世界を好きにできるほどに。」
ラクはファルナの言い分に少し興味を示したように視線を上げる。
「私の生物魔法とキミの能力が合わさればきっと世界最強になれるよぉ。」
「強くなって、世界最強になってなにかメリットは有るのかい?僕がそそられるような。」
「仲間を助けられる。」
ラクはつばを飲み込む。
「キミが私と契約を結ぶことでキミは強くなれる。そしてキミはその力で仲間を助けられる。自分の力が及ばず、仲間を危険な目にあわせたり、なんなら死なせてしまったりしたことはあるかい?それを避けられる。もっと言えば、キミは壺を覗いたろ?悲しみの方から聞こえた未来を避けられるかも知れない。違うかい?」
どうだ。ラクに断る理由はあるのか。念の為、もうちょっと付け足しとくか。
「そうだねぇ、私の遺骨を上げる代わりに解約を結ぶ、という条件も付け足そうかぁ。」
これでラクは確実に断らないだろう。
「...じゃぁ、キミにとってのメリットは?まさか凄くお人好しで僕を強くしようとしているわけではないだろう?」
面倒くさいな、このガキ。
「私は外の世界を見られる。私の知識欲を満たせれる!」
ファルナに嘘は無かった。
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生物の魔法使いと契約を結ぶ。ファルナ自体に良い印象はないものの、それも悪くないかもな、とラクは思った。少なくとも、自分が強くなれば前みたいに、カグヤとトモヤの時みたいに、自分の力のなさで仲間を亡くし、苦しむことはない。
今、隣で心配そうに自分を見つめているアカネのことも守れるだろう。
「そうだな........ファルナ、僕とけいy.....」
『待った!』
突然、ラクの頭の中に女性の声が響き渡った。
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ラクの知らない少女がいた。黒に限りなく近いが、赤と言われたら赤、みたいな色のとんがり帽子に灰色の髪。羽織っているのはボロボロのショートマント。
「ラク、今日はよく星が見えますね。」
少女がラクに話しかけてきた。
「そうだね、セラ。よしっ!今日は地球から見える星の話をしようか。」
ラクの声だ。だが、これはラクが意図して口にした言葉ではない。勝手に声が出てきていた。
「ありがとうございます、ラク。」
「僕が話したいから話すだけさ。」
ラクは少女の隣に横になった。
「おっ、今日は木星が見えるな。木星には衛星がいっぱいあってな、その中でガリレオっていうおっさんが見つけた衛星4つをガリレオ衛星って言ってな。名前はそれぞれエウロパ、ガニメデ、カリスト、それからイオ....なに笑ってるんだよ。」
「すみません、ラクが私に真剣に教えてくれるのが嬉しくて。」
少女は本当に嬉しそうに笑っていた。そのまま目を少しこすってまた口を開く。
「ラク、イオってあの星野イオの名前の由来なんですか?」
「あー、多分そう。自信はない。今度会ったら聞いてみるよ。」
ラクも嬉しそうに笑っていた。
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場面が変わった。
「ラク、一緒に買い物に出かけましょ?ラクに似合いそうな服を探したいのです!」
また、あの少女がラクに話しかけてきた。
「いやー、僕のは大丈夫だよ。それより、セラの新しい服はいいのか?」
「何言ってるんですか?この服はラクが褒めてくれた服ですよ?誰がなんと言おうと絶対の絶対でこの服が良いです!」
「別にその服、可愛いとは思うんだけどさ、その魔女のコスプレみたいな服だと周りの目とか気にならない?」
「気になりません。」
「うん、ならよかった。」
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また、場面が変わった。
「ラク、ただいま。」
またあの少女だ。
「セラ、遅かったね...って、セラ?!なんでそんな泥まみれに?!」
「ラク、聞いて下さい。あの野郎、私に告白してきたんですよ!それで、私が『私にはラクがいるからダメです』って返事したら、あの野郎、『あの男ののどこが良いんだよ。あんな男よりもオレのほうが良いと思うぜ?』って言ってきたんです!たかが近所に住んでいるだけのガキが!ラクの悪口を言ったのですよ!許せるわけありません!」
「...セラ、喧嘩したのかい?」
「えぇ。勿論。この汚れは名誉の汚れです!」
少女は誇らしげに答えた。
「よーし、セラ、明日一緒に謝りに行くぞ。」
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「驚いた?ごめんなさい、驚かせるつもりはなかったのだけど。」
気がつくとラクの目の前に別の少女が立っていた。辺りは真っ暗で、アカネもファルナもいない。いるのはラクと、その少女だけ。髪色は様々な色がグラデーションしていて、一番最初に出てくる感想は『美しい』になるような少女。そして、ラクはその顔に見覚えがあった。
「...神木柊...?」
世界樹の番人。魔法使いの遺骨を集める者。シンの闇落ちの原因。真剣組の強力者。そういった肩書の持ち主、神木柊とその目の前の女性はよく似ていた。
「違うわ。私は神木柊ではない。私は神木柊の妹、神木紅。あなたの味方よ。」
少女、神木紅は自己紹介をした。
「味方って言われても、神木柊のことを僕は全く信用してないからなぁ...」
「...それならそれで構わないわ。とにかく、私はあなたの手伝いをしに来たの。あなた、ファルナと契約を結ぼうとしたでしょ?」
紅はラクを指さしてそういった。
「あぁ。強くなれるなら、もう誰も失わないですむなら...それで良いかなって。」
「ダメよ!あの女、ろくな女じゃないわ!あの女、魔法使いなのよ!魔法使いの言葉なんて信用しちゃダメ!セレーネさん以外はみーんな、ダメよ!」
神木紅は必死にラクにそう言った。
「そこまで言わなくても...」
「あなた、やっぱり知らない!魔法使い達は自慢したいがために様々な魔法を作ったの。すべて自分が優越感に浸るためよ!周りをばかにすることだけがあれらの生きがいなの!」
ラクはあまりの必死さに驚き、数歩下がる。
「まぁ、彼女らも人間だし...」
「何も分かってない!そうね、魔法使いたちがどれくらいクズなのか、分かりやすく教えてあげましょう!彼らは私のお兄ちゃんを作って教育した存在なのよ!私のお兄ちゃんがどんな存在かあなた、知ってるならそれだけで十分でしょ!」
確かに、あの神木柊の産みの親たち、と言うだけで魔法使いのクズさはだいたいわかる。それでわかってしまうのもどうかと思うが。
「...思ったんだけど、魔法使いがクズってのはわかったけれども、それと契約の話は別じゃないか?魔法使いの力が使えることはデカいし、僕にとってデメリットもあまりなくて相手にもデメリットがなくてWin-Winだと思うんだけど。」
ラクは神木紅に問いかけた。
「それで見せたのがあの記憶よ!あの記憶を見せるのってけっこう力がいるの。もうあの力は使えないわね。ラク、あなたはさっきまで何を見ていた?」
「えっと....女の子と一緒に日常を送っている様子?魔女っ娘みたいな。」
神木紅はそれを聞いて頷いた。
「魔法使い...どんな娘だった?」
「自分で見せておいてわからないのか?」
「私はあなたにあの映像を見せただけで、あの映像が何だったのかは知らないの!」
神木紅はちょっと頬を膨らませた。
「だって、もしあなたが見ていたのがエッチな内容だったり、誰にも知られたくない秘密だったらどうするのよ!私、気まずすぎていまごろこうして話せてないわ!」
「それもそうか...で、魔法使いがどんな娘だったか、ていう問に答えないとね。背は低くて、灰色の髪。ボロボロのマントを羽織ってた。マントに竜の絵が描いてあった気がする。」
「マントの竜、あぁ、竜の血を引く者ね。なら、その娘の名前はセラフィナ・クロウね。あの娘は今、差別に苦しみながら生きているわ。」
神木紅は少し下を向いて言った。しばらく沈黙が続く。
「で、あの記憶は何だったの?」
ラクが一息あけて聞く。
「あぁ、そうね、その説明をしなくっちゃ。あなたに見せたのは、あの女と契約を結ばなかったら、の未来よ。契約を結んでしまったらあの少女との日々が訪れることは無いわ。」
ラクはつばを飲む。
「...別に、あの女の子が僕がいなくても幸せになれるなら契約を結んでもいいと思うんだけど...」
「無いわ。絶対にない。あなたがあの女と契約を結ぶことでセラフィナ・クロウが救われることは絶対にない。あなたと出会わなければセラフィナ・クロウは必ず不幸になるわ。」
「...なるほど。じゃぁ、別の質問。僕がファルナと契約を結ばなかったら死ぬ、僕の仲間はいる?」
「...えぇ。おそらく。でも、人はいつか死ぬわ。それがちょっと早くなるだけよ。」
ラクはしばらく黙る。要するに、さっき見た記憶は自分の『契約を結ばなければ』の未来であり、あの記憶で出てきた少女、セラフィナは自分が契約を結んでしまった場合、不幸になる。あの娘を助けたいなら契約を結ばない。だけど、そうしたら仲間の誰かが死ぬ。アラタが、ハルキが、アカネが自分が契約を結ばなかったことで死ぬかも知れない。
どっちを取るかだ。
仲間か、知らない少女か。
ラクが答えを出すのに時間はかからなかった。
「僕は、契約を結ばない。」
神木紅はコクリと頷く。
「良かった。じゃぁ、頑張ってね。それから...出来たら、私を助k...」
「全く、兄妹揃って邪魔ばかり、だな。」
突然男の声がして、神木紅は消えた。
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ラクが気がつくと、あの遺跡の部屋に戻っていた。ファルナに契約を迫られている場面だ。
神木紅のことも気になるが、答えはさっき決めたとおりだ。
「ファルナ、僕はオマエとは契約を結ばない。」
ファルナは目を見開く。
「...何故?」
「僕は十分強いし、それにアカネのことを雑に扱うようなやつと契約なんか結びたくないしね。こんなに可愛いのに。」
「ちょ、ラク兄、照れるって...」
その様子を見ているファルナは唖然としている。
「それに....まだ、あったことのない女の子のために。」
「は?」
ファルナはラクを睨む。
「意味がわからない。何故?何故?何故?私の、私のどこが不満なのぉ?ねぇ、私は完璧なんだよぉ?何故、何故何故何故?私じゃ不満なんだ?私が不満?不満だと?この完璧な私がぁ?馬鹿にするな、私は偉大な世界一の魔法使いだ!オマエなんか秒殺できる!私を馬鹿にするな!馬鹿にするな馬鹿にするな!」
ファルナがいきなり叫びだした。
「ラク兄!」
アカネがラクの袖を掴む。
「...本性を表したな。こんなヤバイ奴、本当に契約を結ばなくて良かった、ってホッとする。アカネ、僕から離れないで。戦闘になるかも知れない。」
ラクはアカネを庇うように立つ。
「あーぁ、癇癪起こしちゃったか。面倒くさいね。」
突然、ファルナの後ろから声がした。黒いフードを被った男。怪しさいっぱいだ。
「...シェイド!私をからかいに来たのかぁ!」
ファルナは男に向かって叫んだ。
「まぁ、それもあるけどね。神木紅がそこのガキに助けを求めていたから顔を出したってだけさ。そのガキ、神木柊の協力者だから殺しておかないと。」
シェイドと呼ばれた男はそう言った途端に自信の背中から鎌のような触手を伸ばし、ラクに斬りかかる。ラクはアカネをギュッと抱き寄せてそれを避け、拳を何かの動物に変形させてその鎌を砕き割った。
「へぇ、やるじゃん。」
シェイドは笑う。
「ファルナ、オマエも戦いたいだろ?」
シェイドはそう言うとファルナの霊体に向かって何かを投げた。縛られている。おそらく、人。
「あぁ、肉体!肉体!」
ファルナは嬉しそうに叫び、すぅっととの人の中に入っていた。程なくして、そのファルナが入っていった肉体は動き出した。
「悪くない体だ!」
「ッ!」
生物の魔法使い、ファルナは、南極でラクたちが出会った少女、マナ・ケアロハの体でラクたちに立ちはだかった。
今回は今後の展開にとって重要な話でしたね。セラフィナ・クロウ、神木紅、シェイド。今後重要になるキャラが沢山!セラフィナは第2章のラストでチラッと出てますね。
さて、南極編も終りが見えてきて。第3章はあとNY編が残っているのですが、中盤の内容が固まって無くて。NY編前半とラストは決まってるんだけど。




