51.『別格の少年』
南極編3話目!
緋ノ宮ラク。半年前まで、大して強くなかった人間だ。だが、あの方はすでにあの時、この少年に期待していた。とんでもないほど強くなると見込んでいた。
そのとおりだ。この少年は、自身の上司、闇ノ九柱第3位をほぼ単独で殺している。あの、神環のトーナメント戦の時は無力だった少年が。とてもじゃないが、今の自分では勝てない。志月ハヤセはそう、実感していた。
だが、この南極にラクが来ることは分かりきっていた話。無論、対策はしている。それでも、自身より強くなったその少年に冷や汗が止まらない。1つ目の障害、藤原チクは排除できた。だが、2つ目の障害、緋ノ宮ラクがこれほどまでに早く来るとは。
そもそも、本来ならラクという脅威相手にナイトメアやコラプス、ましてやあの方が出向いていたらよかった話。わざわざ自分じゃなくてもよかった。というか、マオリネットより弱い自分が行っても意味がない。だが、ナイトメアもコラプス南極に行きたがらなかったし、こちらの事情にあの方を巻き込むわけには行かない。
そう、志月ハヤセは緋ノ宮ラクが目的で南極に来たわけではない。財宝を狙って集まってきた世界中の能力者たち、ソッチのほうが目当てだ。
とにかく、この緋ノ宮ラクを倒さなければならないことに変わりはないが。
「......緋ノ宮ラク。この前は俺の上司、マオリネットがすまなかった。彼女に勝ったキミの実力、素晴らしいものだと思う。こちらも仲間を失って、悲しみとともに真剣組という脅威を思い知った。」
「同僚が死んで悲しい、なんてふざけた真似はやめてくれない?」
ラクの返答にハヤセは歯を噛みしめる。
「まさか。ふざけた真似なんかじゃ無い...人を所属している組織で決めつけるのは褒めづらいな、緋ノ宮ラク。」
ハヤセは淡々とラクに話しかけながら、ポケットに手を突っ込む。ラクはそれを見逃さない。
「三原色!」
ラクは問答無用で自身の必殺技を繰り出した。
「こっちも出し惜しみは出来ないな」
ハヤセはポケットの中から何個かの石をラクの溜めているエネルギー砲に投げつけた。
ラクの『三原色』の中に無数の石が散る。そして、『三原色』は石が当たった瞬間に爆発した。
「なっ....?!」
ラクにとっては予想外だったらしい。コチラを一撃で仕留められると思われるとは。コチラも舐められたものだ。だが、挑発する暇もない。今、ラクに距離を詰めても返り討ちにされるだけだろう。また、あの三原色を何発も撃たれたら流石に対処できない。だから、人質を取る。ラクが一人で来ていないことなど知っている。真田アカネ。彼女も近くにいるはずだ。見つけ出して、人質にする。
「ハヤブサ!」
ラクは鷹のような見た目になり、一瞬でハヤセと距離を詰めようとする。近距離戦に持ち込まれたらコトラ側の勝率は低くなる。が、ラクはハヤセが思っているより速く移動していた。あんな速い動物が実在するのか?そうなら驚きをハヤセは隠せない。ハヤセはポケットにある石を再び取り出そうとする。が、その必要は無かった。
「......え?」
ラクが戸惑う。無理もない。いきなり出てきた氷に包まれ、顔以外の部分を氷漬けにされたからだ。ゆっくりと顔の部分も凍っていこうとする。
「あ、アンタも宝を狙ってきたんだろ!わ、渡さないわ!私が手に入れるの!私の宝なんだから!」
ラクを凍らせた張本人、イリーナ・コズロワはラクに向かってそう叫んだ。
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「おい、やばくねぇか?なんか向かってきてねぇか?!」
アカネは双眼鏡を除きながらマナにそう言う。
「makaʻu!!逃げる準備、しといたほうが良いんじゃない?!」
マナはアワアワとするが、そうしている間にもハヤセは確実にコチラ側に近づいている。
「そうだな。ごめんけど、オレは先に逃げさせてもらうぜ!無理するなよ!」
アカネはそう言って、電気をまとった足で地面を蹴り飛ばした。途端に稲妻のような速さでアカネはどこかへ走っていった。
「ちょっと!嘘でしょ?!私だけ?!」
マナは咄嗟に逃げたアカネに呆気にとられた。そして、次の瞬間にマナはさらに絶望した。
「おい、真田アカネはどこだ!」
マナの目の前まで来たハヤセはマナの胸ぐらを掴み、そう言った。
「あ、あっちに逃げたわ!逃げたから!私とは無関係だから!」
「そうか。ならオマエは用済みだ。」
そう言ってハヤセは自身の日本刀に手をかける。まずい。死ぬ。
「っ!Mai hoʻopā aku!」
マナはそう叫ぶと両手をかざすようにハヤセに向けた。途端、ハヤセの体が2mほど吹き飛ぶ。
「っ!無駄な抵抗を!」
ハヤセは吹っ飛んだ瞬間、体制をすぐに取り戻し、逃げようとしたマナにまた接近。そして刀を振りかざし、下ろそうとした。
「E ho'ōki!」
マナはさっきハヤセをふっとばした技を連発する。ハヤセも何発か避けるが、一発また当たってしまい、また2mほど吹き飛ぶ。ハヤセもこんな少女相手に手こずってはいられない。ラクが氷から脱出したら状況は変わってしまう。相手が能力を使って抵抗するならばこちらも能力を使ってひれ伏さるまでだ。
「チッ!律刃!」
ハヤセが斬撃をマナに飛ばす。マナはハヤセが技名を口にした途端、目を瞑る。あぁ、死んだ、って思った。が、死ななかった。足に少しの痛みはあるが。
「無理すんなって言ったろ!ったく!」
真田アカネ。彼女にマナは抱きかかえられ....いや、アカネはマナより背がだいぶ低いので抱きかかえるなんてことは出来ない。正確にはマナはアカネに抱きしめられていた。
「ってか、あなたが私を見捨てて逃げようとしたんでしょ?!」
「だってオマエ庇って共倒れとかしたくないもん!」
アカネはマナに言い返す。
「...真田アカネ。自ら戻ってくるとは、哀れだな。」
ハヤセがそう呟く。
「...マナ、逃げよう!」
アカネはそう言ってマナの手を握ったまま能力を発動した。ハヤセを振り切る。それが目的。アカネの能力にハヤセは追いつけない。ある程度の距離をはなせば良い。問題はどこまでアカネの能力がもつか。
アカネの能力は自身の体力を使用して発動する。アカネが体力を使い切れば、能力も使えなくなる。そうなるとアカネはただの非能力者となんだ変わらない、弱い存在だ。そんな状況になれば、ハヤセがアカネを捕まえることなんか簡単だろう。そうなる前にラクが目覚めてくれたら良いのだが...
「mlipuko wa dunia!」
その野太い声とともに、アカネの足元に噴気孔が生成され、蒸気を吹き出した。アカネがもう少し遅かったら大火傷だっただろう。
「mlipuko wa dunia!」
また、さっきの野太い声。またアカネの足元に噴気孔が。いや、今度はアカネの逃げ道をも潰すように辺り一帯に噴気孔が広がっていた。
「まずいっ!」
アカネがそう言った時、ふわりとアカネとマナの体が宙にういた。というよりかは、持ち上げられた。
「間一髪!僕優秀!イェイ!」
緋ノ宮ラクに抱えられたアカネとマナはフッと安堵の息をついた。ラクはアカネとマナを抱きかかえたまま、噴気孔を作った主、リアム・ムタロの方を見下ろす。
「じゃ、おやすみ。」
ラクがそう言うとリアムの周りの氷が巨大化し、壁のようにリアムを囲み、その囲まれた狭い空間に召喚された大量のアリが攻め入っていった。リアムの悲鳴が聞こえたが、しばらくすると悲鳴も上がらなくなった。
「し、死んだのか?」
「いや、気絶しただけさ。だいぶ痛かっただろうし。僕も人を殺したいわけじゃないから、毒の成分は調整した。他のみんなにもね。」
ラクはドヤ顔して自身の後ろを親指で刺す。いろんなところでいろんな人達が倒れている。おそらく同じ目にあったんだろう。
「お、オレ、ラク兄だけは怒らせないようにしとくぜ。」
アカネは若干ラクを引きつつ、そういった。
「さて、ラストに残ったアイツをブチのめすか。」
アカネとマナを下ろしたラクは伸脚をし、軽く体をほぐす。そして、羽を生やし、目にも止まらぬ速さで2kmほど離れた場所にいる青年、志月ハヤセに距離を詰めていった。
この乱戦に参加しているメンバーはラク、ハヤセ、チクの3人とそれ以外では越えられない壁があります。まぁ、自力で南極に来ている時点でかなりレベルの高い能力者ではあるんですけどね。




