50.『南極乱戦』
記念すべき第50話!
「じゃ、リリア、行ってくるよ。」
南極に来てから1週間がたった。ラクとアカネは防寒着を着て真っ白な世界に一歩踏み出す。基地に残るリリアに手を降って、少し行ったところで待っているマナと合流して南極に来た理由の本命、『魔法使いの骨』の回収に向かう。
「あぁ、良い結果報告を期待しているよ!」
そう、リリアは大きく手を振りながら言った。
______________________________
「クソ!何なんだよ!先客がいたのかよ!」
ラクたちの基地から約50kmほど離れた場所でイリーナ・コズロワはそう叫んだ。
イリーナはロシアから来た能力者だ。目的は勿論、真剣組と早乙女リリアが探している宝だ。それを手に入れたら売りさばいて、自身が経営する飲食店を大きくするのが最終目標。そんな彼女は今、岩陰に隠れている。敵がいるためだ。それも、かなり強い。
「悪いことは言わん。とっとと引き返して帰ってくれ、ロシア人。」
ロシア語でそう言った黄色人種の青年。日本人だろう。髪は銀髪で、片手に日本刀を握っている。
「律刃。」
そう青年が叫んだ途端、イリーナが隠れていた岩が両断され、粉々になる。咄嗟にイリーナは氷の壁を作り、攻撃をかわした。
「しぶといな。避けられたら仕事が長び....」
「mlipuko wa dunia!」
銀髪の日本人がイリーナに攻撃しようとした瞬間、野太い声が響き渡った。そして、銀髪の日本人の足元から噴気孔のようなものができ、いきなり蒸気と炎を吹き出した。
「っ!」
銀髪の日本人はとっさに避ける。
「オット、仕留め損なったか。」
蒸気の中から筋肉ムキムキの外国人、おそらくアフリカ人の男が姿を表す。
彼の名前はリアム・ムタロ。ケニア人で、故郷の村の資金を集めるために自力で情報を聞きつけて自力でやって来た男だ。故郷の村は貧乏で、ここで財宝を手に入れて子どもたちに美味しいものを食べさせてやるのが今回の彼の目的だ。
「オマエが帰れ、日本人!!」
リアムは手をブンッと一振り。するとまた、銀髪の日本人の足元から噴気孔が出てきて蒸気を噴射する。噴射された蒸気は南極の寒さにより、一瞬で凍る。先程はパラパラと落ちるだけだったが、今回は違った。
凍った蒸気が集まっていって、無数の針になる。そしてそのままリアムの方向目掛けて飛んでいった。
「ナっ!ダレダ?!」
間一髪でリアムがそれを避ける。
「あーあ、ホント、反射神経がすごいわね。」
戦場に次に参戦したのは白人、フランス人の女性だった。
彼女の名前はマリー・ルシアン。彼女の参加理由はシンプル。お金が欲しい、それだけだ。能力は空気中の水蒸気などを凍らせて針を作り、それで滅多刺しにするという能力だ。無論、今の参加者の中では弱い部類の能力者だ。しかし、ここは南極。自身の能力のためにあるようなフィールドだ。と、来るまでは思っていた。しかし、実際に来てみれば乾燥もいいところ。不利だ。だから他の能力者の力を使わせてもらった。
「雑魚はお家に帰ってな!」
そしてもう一人。ガタイの良いブラジル人、カイオ・ドス・サントスも姿を表す。背中にはタンクを背負っており、中にはたっぷり水が入っている。彼の能力は水を操る能力。しかし、生成は出来ない。海の上なら最強だが、氷の世界では少し微妙。だから水を背負っている。
「おらよっと!」
カイオが水を撒き散らす。その水が刃物のような形に変形し、近くにいた他の能力者の方目掛けて飛んでいく。みな、ギリギリで避けるが、今度はその水の刃物がブーメランのように還ってきて、カイオの手元に戻る。その瞬間、水は凍りだし、氷の刃物に変化する。こんどはカイオはその刃物を持って近くにいたリアムと戦闘を開始した。
「コッチも負けてられないわ!」
マリーも能力を使用、が、彼女の相手をしたイリーナのほうが一枚上手だった。イリーナの能力は氷を操る能力。だけでなく、熱も操ることが出来る。かなり強力な能力だ。
ここに来た能力者たちは、皆、全く持って弱くない。だが、そんな能力者たちの少し上を行く存在、銀髪の日本人。名を、志月ハヤセ。闇ノ九柱第5位。神環のトーナメント戦に乱入し、後の真剣組の前に立ちはだかった最初の敵。あの時はカグヤに敗北したが、今はカグヤのようなバケモノはいない。このフィールドは彼の思い通りに出来る...
「そこまで!乱戦をやめなさい!」
戦場に一つの声が響き渡る。白い制服、神環の人間だ。40代ほどの男性。だが、体は鍛えられている。
「俺の名前は藤原チク!日本の神環所属だ!闇ノ九柱、志月ハヤセ、オマエを逮捕しに来た!」
「たった一人で俺を捕まえるために派遣されてきた...お前、強いな。」
ハヤセはチクを睨む。チクはゆっくりと人指し指をハヤセに向ける。そして、
「吹っ飛べ。」
と言い放った。その瞬間、チクの指先からエネルギーの球が出てくる。そのままハヤセ目掛けて飛んでいき、爆発を起こす。
「俺の能力は『貯蓄』。自身が受けてきた攻撃などのエネルギーを貯め、いざという時にまとめて放つ、そうゆう能力だ。」
チクは自身の能力を説明する。これは彼の正義感のようなもので、能力を敵に伝えなければ彼は納得しない。彼の南極に来た目的は勿論ハヤセの逮捕。そのままハヤセとチクの戦闘が開始した。
「たった一人で俺を捕まえられると思わないでいただきたい!」
「捕まえてみせる!正義の名のもとで!」
「っ、あの二人、レベルが違うっ!」
自身が生成した氷の壁に姿を隠しながらイリーナは上を見上げる。が、すぐにイリーナ自身も移動する。というのも、同じ場所にとどまり続けていたらリアムの能力の餌食になってしまうからだ。実に、この乱戦は能力者の数が多いのと、皆、なかなかの実力者であるばかり、厄介だ。しかも周りはみんな敵。油断したら死んでもおかしくない。
「どうした、神環、その程度か?」
ハヤセはチクを煽る。
「まさか!」
近づいてきたハヤセに対して、チクは体を大の字に広げる。その瞬間、エネルギー砲がハヤセ目掛けて飛んでくる。ハヤセはギリギリでそれを避ける。
単純な攻撃力で言えばハヤセよりもチクの方が上だ。だが、チクには能力の使用できる『底』がある。『底』まで能力を使い切らせたら、チクは何をすることも出来ずにただハヤセの餌食になる他無い。
さらに、ハヤセには切り札がある。
「残響幻象。」
ハヤセはそう言い放った。途端、戦場の動きが止まった。
イリーナの目の前には倒産した自分の店が現れていた。ただ、絶望して立ってそれを見ることしかイリーナは出来なかった。
リアムの目の前には強盗に襲われた自身の村で子どもたちが血まみれで倒れている風景が出てきた。
マリーの目の前にはホームレス生活をする自身が。
カイオの目の前には血まみれで倒れる自身の妻の姿が。
そして、藤原チクの目の前には炎にまみれた東京の姿があった。
藤原チクの能力、『残響幻象』。相手に相手が最も見たくない幻覚を見せる技。以前、カグヤにやった時はカグヤが逆上して、結果として自身の負けにつながったのだが、今回は逆上される前、ほんの一瞬でも隙を作るのが目的だ。ありがたいことに、皆、動きが止まっている。
「もらった。」
ハヤセがチクに向かって刀を突きつける。が、チクはそんなに単純ではなかった。
「コッチがな。」
チクは刀を鷲掴みし、軌道をずらして自身に当たらないようにした。そして、そのまま近距離でエネルギーを放つ。
チクはハヤセのこの攻撃も想定に入れていた。突然、地獄のような風景が出てきたらそれは幻覚だということを頭の中にしっかり入れていた。それぐらいの対策はしている。そして、逆にハヤセはなにも避けることが出来ず、チクの攻撃を喰らった。
そのままチクは拳を振ってハヤセを殴り続ける。
「志月ハヤセ!お前の負けだ!」
ハヤセはチクの攻撃でボロボロ。さらにチクの殴り技でどんどんズタボロになっていく。
「......残響幻唱...」
ハヤセはボソッとそう呟いた。その途端、チクの目の前には雪景色...南極とは違う日本の雪景色が現れた。村がある。その村で山のように人々の亡骸が積み重なっている。
「いのり...いのり...」
そう呟いている青年だけが生きており、ただ立っていた。
チクは少しこの記憶を見入ってしまった。人の能力だ。とても不幸な記憶だ。だが、見なければならないと思った。なぜだか、そう思ってしまった。だが、ハヤセはその隙を見逃さなかった。
「っぐ!」
チクは口から血を吐く。腹に刀が貫通している。しまった。今はそんな記憶より、コッチのほうが大切だった。が、もう遅い。ハヤセの猛攻が始まる。チクも反撃しようとするが、その隙すらもハヤセは与えてくれない。刀を見事にさばき、チクを滅多刺しにしてくる。
「藤原チク、なかなかの強敵だった。」
ハヤセはそう言ってチクから刀を抜いた。チクは力尽き、その場で倒れる。
「次。」
ハヤセはようやく幻覚から帰ってきた他の能力者たちを見つめる。どれも、ハヤセを恐れている。
この戦場はハヤセの独壇場に戻った。数秒間だけ。
「僕が相手しようか。」
雪景色の中、青年の声が響く。
以前とは違う、たった一人で闇ノ九柱第3位すらも倒せた新星。
戦場のゲームバランスを一気にインフレさせる男。
『自然』の能力者、緋ノ宮ラクが翼を生やして、空から舞い降りてきた。
「久しいね、あの時は僕、負けちゃったけど。もう一回やってみたら結果は変わるかもね。」
志月ハヤセの額から冷や汗が流れ、落ちて、凍っていった。
南極編で乱戦をする。というのは連載を始めた頃から決めていました。まぁ、その乱戦に誰を参加させるかで、いろんなキャラを作ったわけですが、志月ハヤセをここで再登場させると思いついた自分を褒めたい。藤原チクは今後の物語でキーとなるキャラの一人ですので、よろしくお願いします(?)




