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樹冠祈願  作者: レニペン
第3章〜それぞれの物語〜
47/48

47.『エリオット・グライナー』

エリオット、名前回です。







 エリオット・グライナーは幼少期、19まで日本で育った。親は早乙女夫妻が所属している研究所で働いており、早乙女邸の近くに家があった。早乙女邸には負けるが、かなりの豪邸だ。


 早乙女セルジュ、早乙女リリアとは歳はそれぞれ4と8と離れているが、かなり仲が良く、一緒に遊ぶこともしばしばだった。


 19の時、エリオットはノルトハーヴェンに引っ越した。いきなり出来た島、ノルトハーヴェン。速いうちにエリオットはそこにビジネスの可能性を見出し、成人してからすぐに向かった。ノルトハーヴェンにある貿易会社、そこにエリオットは入社した。家も買い、同僚の女性と恋仲にもなった。その後、結婚もした。結婚の次の年には子供も出来た。けっこう幸せな生活だった。


 ノルトハーヴェンに引っ越してから5年後、それまで緊張状態だったのだが、ついに戦争が始まった。戦争はかなり悲惨で、会社も燃えた。幸い、エリオットとその家族はその戦争では無事だった。


 開戦から4年たち、戦争は一度、収まった時期があった。エリオットはその時、ノルトハーヴェンの街の復興を手伝った。経済もかなりの打撃だ。エリオットは日本の両親に頼み、資金面の援助もしてもらいながら自分の貿易会社を作った。かなり経営は苦しかったが、少しずつ、少しずつ経済も回復していた。


 それから5年後、また戦争が激しくなった。








 今から2年6ヶ月前、あの日、エリオットは会社にいた。様々な資料をまとめ、社員の安否も確認。一人、会社に残り、明日から皆、来なくて良いと伝え、いったん会社を閉めることにした。危なかった。自分が会社から出た瞬間に会社が爆撃された。爆撃はかなりひどく、住宅街にも爆弾が飛んできていた。


 エリオットは住宅街のほうにも爆撃されているのを知って唖然とした住宅街には家族がいる。


 エリオットは走って帰ろうとした。走って、走って。家族の無事が心配だった二人は家でじっとしているはずだ。住宅街は『安全な』はずだから。





 20分後、エリオットの目に映ったのは燃えたり、崩れたりした家が並ぶ住宅街だった。


 なんだ、この有り様は。妻は、娘は?ちゃんと避難できたのか?それだけが、それだけが心配だ。後のことはどうだって良い。二人は、二人は?!


 人々が逃げている中、エリオットは自分の家があった場所まで走った。走って、瓦礫を引っ張って、のけた。探した。いなかったらいなかったでいい。避難できていたならそれでいい。ただ、嫌な予感がした。


 嫌な予感は、的中した。


 二人は瓦礫の下敷きになっていた。妻はすでに死んでおり、娘も血まみれで、虫の息だ。


「今、助ける!」


 エリオットは泣きながら娘を引っ張り出そうとした。娘は意外と、スルリと瓦礫から救い出すことが出来た。


 両足が、もげていたから。


「パパ、パパ、痛い、痛いよ...」


 助け出された娘はそう言った。そして、息がだんだん弱くなって。


「パパ、あのね......」


 それが、娘の最期の言葉だった。


 エリオットは叫んだ。ただただ、叫んだ。悔しい、悲しい、苦しい、腹立たしい、後ろめたい。


 ただただ、叫んだ。










 娘の遺体と妻の遺体を抱え、エリオットは二人を埋めた。ただ、無表情で。自分は全てを失った。なにもかも。もう、自分に生きる意味など無いのかも知れない。






 エリオットは、帰る家も、会社も無く、ただただ歩いた。瓦礫の街を。誰もいない、燃えた街を。


 そんな無気力なエリオットに何処からか、鼻歌が聞こえてきた。「ふーん、ふん」という鼻歌。娘がよく聞いていた曲。エリオットは、自然とその鼻歌がする方向へ歩いていった。


 そこには少女が歩いていた。瓦礫の中、一人で。ボロボロの服を着て、何処か切ない鼻歌を歌いながら。


 少女は、泣いていた。ぽろぽろと、涙を流しながら歩いていた。そうか、この少女は、無理をしているんだ。自分と同じようにすべてを失い、それを紛らわせるために鼻歌を歌っているんだ。


 エリオットは、少女の前に立ち、しゃがんだ。そして、少女に言った。


「もう、大丈夫だよ。」


 その少女が、あまりにも可哀想だったから。あまりにも、自分と似た境遇だったから。目が、娘に似ていたから。


 少女は、エリオットにそう言われると崩れるようにひざまずき、声を上げて泣いた。泣いて、泣いて、泣いて。大粒の涙を流して。


 エリオットはそんな少女を、そっと抱きしめた。







 2週間後、『閾の日』が訪れた。世界中の人々が能力者になった。そして、それを期にノルトハーヴェンの戦争は終わった。エリオットは無力感を感じていた。あと終戦が一ヶ月速ければ、家族は死んでなかった。自分だけ生き残ってしまった。


 グライナー交易商会は元々社員だった者の一人が建築系の能力を手に入れたらしく、そいつがつくり直してくれた。その時、エリオットは昔、自分が住んでいた家と似たデザインにしてもらった。娘と、妻といつか一緒に住みたかった家だ。会社ができた時、エリオットは涙がこぼれた。


 社員はみな、優しかった。みんなエリオットのためにまた集まってくれた。戦死者以外は皆、帰ってきてくれた。エリオットは社員たちから愛されていたのだ。


 ある日、エリオットは一人、孤児院に向かった。戦争孤児が孤児院にはたくさんいた。エリオットは胸が痛くなったが、流石にみんなはもらえない。一人だけ、選ぶことにした。そして、選んだのは。


 勿論、あの時の少女だった。


 名前はイザベル・如月。日本人とヨーロッパ人のハーフで、日本語も英語も話せる。あの時と違って、泣いてはいなかった。笑うことも勿論無かった。


 家族を殺させてしまった自分への贖罪。この少女を幸せにする。何を差し出しても良い。自分の人生はそれに捧げる。そんな自分勝手な罪滅ぼしに巻き込まれた少女が少し可哀想ではあるが、そうでもしないと自分の生きている意味がわからなくなりそうだった。




「そうか、エリオット、養子をとったのか。」


 戦後、初めてリリアに会った時、リリアは笑いながらそういった。


「その如月ちゃんにエリオットは愛を持ってるの?」


 リリアの問いかけにエリオットは少し詰まったが、持っているはずだ。それは間違いない。はず。リリアはたまに心に刺さる言葉を投げかけてくる。


「今度、会わせてみたいな。いやー、私は誘ったんだよ?誘ったんだけど、お屋敷に残るってあの娘、言い張って。たまには外に出したかったんだけどねー。でもでもでも!私の発明もがっぽり売れたし?これでもっと発明が出来るからこの旅に意味はあった!!」


 リリアの屋敷で雇われているメイドの娘。歳も如月と近い。確かに、如月には友人が必要かもしれない。自分や、会社の職員でもない。


「じゃぁ、エリオット!また連絡取るから!」


 リリアとはそう言って別れた。






 自分は如月に何を求めているのだろうか。


 娘の代わりか?自分の寂しさの穴埋めか?行き先の無くなった愛情の矛先か?


 それは、如月への愛なのか?




 そんな迷いが、この2年間エリオットの中にずっと存在していた。










 エリオットは白い空間を走っていた。どちらに行けばいいのかは分からない。ただ、あのカイという男、真剣組と敵対していた男から如月を守らなければ。それだけを考えて走っていた。


 如月は、いた。カイの隣に立っており、200mほど離れた先に、じっとコチラを見つめている。


「如月!」


 エリオットは叫んだ。如月の耳にその声は聞こえたのだろう。如月は、笑った。普段笑わない少女が笑った。だけど、その笑顔は胸が痛むほど、悲しそうだった。


「エリオットさん、幸せに、なってね。」


 如月はそう言ってナイフを取り出した。それを自分の心臓に向ける。何をしようとしているんだ、止めなければ。


 エリオットが会話する時、一度止めていた足をもう一度動かそうとした時、エリオットの背後から懐かしい声が聞こえた。


「パパ、おかえり!」

「エリオット、おかえり。」


 あの日から、ずっと言われたかった言葉。あの日、言われたかった言葉。あの日、聞きたかった言葉。もう聞けないはずの言葉。


「っは?」


 エリオットは歩みを止めた。そんな声が、聞こえてしまったら。もう、耐えられない。振り向いてしまった。如月から、目を背けてしまった。


 どれほどそう呼ばれたかったか。もっと、そう呼ばれたかった。『おかえり』の一言だけで自分は何だって出来る。その言葉があれば、いくらでも頑張れる。いくらでも。


 もし、引っ越していたら二人は死なずにすんだのかなぁ、もし、自分がもっと早く助けられたら二人は死なずにすんだのかなぁ、もし、あの日自分が仕事に行ってなければ、自分は家族と一緒に死ねたのかなぁ。


 後悔が溢れ出してしまう。如月を助けなければならない。そんなこと分かっている。分かっているけど、分かっているけども。


「パパ、一緒にご飯食べよう?」


 あぁ、なんて甘い誘惑なんだ。二人は死んでいる。コレは幻覚だ。分かっている。だけど、涙が溢れてくる。


「ごめん、俺、俺っ!」


 エリオットは家族の方に一歩、足を踏み入れた。よたよたと、家族の方へ近づいていこうとする。あと少しで、2年間夢にまで思った家族との再開が、目の前にある。









 風に遮られた。


 家族の方へ近づこうとすると、強風が吹いて、自分の行く先を止めようとしてきた。


「やめろ!やめてくれ!俺は、俺はこのためだけに生きてきたんだ!俺から家族を奪わないでくれ!俺から、俺からもう何も奪わないでくれ!何ももう失いたくないんだ!俺を、俺を止めないでくれ!」


 エリオットの叫びは白い空間に響いた。


「バカか、アンタは!社長だろ!」


 風で家族とエリオットを引き離そうとする、風でエリオットを吹き飛ばそうとする相手がそういった。


「なんだ、お前は俺にどうさせたいんだ!俺を不幸にさせたいのか!佐倉ハルキ!」


 エリオットは涙声でハルキに言う。ハルキは風の威力をさらに上げる。


「だから、バカかお前は!お前、アレは幻覚だぞ!」


「だからなんだ!俺からもう家族を、失わせないでくれ!」


 エリオットのその言葉を聞いたハルキはついに竜巻のような風を起こし、エリオットを吹き飛ばした。そして、叫んだ。


「如月から家族を失わせるな!アンタの家族は娘と奥さんだけか?なら勝手にしろ!だけどな、違うだろ!如月がいるだろ!その家族を失わないになんで娘の如月が入れられてねぇんだ!エリオット・グライナー!」


 ハルキの叫び声を聞いて、エリオットは自分が飛ばされている先を見た。如月が、今にもナイフを自分の喉に刺そうとしている。


「如月を助けろ!」


 ハルキの叫び声が、背中を押す。


 バカか自分は。過去に惑わされて、現在も失おうとしていた。社長失格、親失格だ。自分の失った家族のために、今の家族も失うところだった。おそらく、ハルキが言葉だけでそう言ったのだと自分は動かなかっただろう。物理的に吹き飛ばしてくれたから。如月を助ける以外の道を壊してくれたから。


 自分は今、手を伸ばせられる。


「っ!エリオットさん!」

「させるか!」


 カイの反応より、ハルキの風のほうが、エリオットの手の方が速かった。


 エリオットは如月の手にあったナイフを払い除け、如月の手を引っ張り、カイから引き離して、抱きしめて。


「っ!こうなったら俺が直々にお前を...」

「お前の相手は俺だぁぁ!」


 ハルキが、カイに急接近し、殴り飛ばす。


「どうして...どうしてっ!」


 如月はエリオットに問う。


「家族だから。」


 エリオットはそう答えた。









「距離は離せられたか?」


『ふん、どう?威力上がっていたでしょ?私の魔法のおかげよ!ほら、感謝しなさい!感謝!』


 相変わらずカナリアはうるさい。


「とりあえず、カイ。お前は俺が倒す。」


「ふっ、バカだな、お前は。ここは夢の中だぞ?お前らが接しているのは俺の精神だ!お前らはみんな仲良くおねんね、俺だけが自由に動ける!佐倉ハルキ!お前のことを殺すことなど俺にとっては楽勝だ!お前の本体はおねんねだk....っ!なぜっ!」


 いきなり、カイが苦しみ始めた。何故だかわからない。


『少し離れるわ。私の魔法も少し使えなくなるから、元々の能力だけで頑張りなさい。』


 カナリアの声が脳内に響いた。









「っ!おかしい!お前は寝ているはずだろ!佐倉ハルキ!」


「それが残念、寝てないわ。まぁ、ハルキ自身は寝ているのだけど、私には関係ないからね。」


 遺跡で、エリオットたちが横になっている中、ハルキは立ち、カイを殴り飛ばして立っていた。


「お前はっ!」


「佐倉ハルキの体を使わせてもらっているわ。うーん、使いづらいわね、この体。そうね、あなた、感謝しなさい!」


「は?」


「今からあなたは、偉大な空気の魔法使いと戦闘できるのよ!普通の人間だったら死んでも無理よ。それが、タダで出来るのよ!感謝、感謝が足りないわ!」


 蘇我カイにとって、これまで史上、最も相性が悪い相手だ。精神世界でハルキを、現実世界でカナリアを相手しなければならないから。






コメントいただけると嬉しいです。


みなさん、リゼロ第4期、見ましょう。

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