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樹冠祈願  作者: レニペン
第3章〜それぞれの物語〜
48/48

48.『ノルトハーヴェン』

ノルトハーヴェン編ラスト!






 何がなんだか分からないが、なぜかいきなりカイがもがき苦しみ始めた。おそらく現実世界の方で誰かがカイを攻撃している。


 どうせ、カナリアだろう。


 とにかく、今はチャンスだ。


「喰らいやがれ!」


 ハルキは風の刃を無数に召喚し、カイを斬り刻む。さらに、近接し、無防備なカイに体術でも戦う。


「っ!やめろ!やめろやめろやめろ!俺をいじめるな!現実世界でも夢の中でも俺を殴るなんて!いじめだ!こんなこと到底許されることではない!」


 なんかほざいている。マジかコイツ、被害者面してやがる。


「俺を、俺をいじめるな!」


 カイは風の刃をくらい続け、うずくまる。


「俺をいじめるやつは、みんな死んじまえ!」


 カイが叫ぶと、カイから黒い翼が生え、風の刃をすべて跳ね除けた。


「死ね!俺が可哀想だろ!」


 そして、ハルキの目の前にすでに死んだ先輩、緋ノ宮カグヤが現れた。


「ぶっ殺せ!」


 次の瞬間にはハルキの目の前に鎌を振りかざしたカグヤがいた。









「ゴボッ!グワッ!ガバッ!や、やめ...グバッ!」


「なによ、その程度?弱いじゃない。」


 現実世界ではハルキ...の体を使用しているカナリアがカイをこれでもかというほど痛めつけていた。


「偉大な空気の魔法使いと勝負ができる、なんて夢のようなこと出来ているあなたはすごいと思うけど、その程度じゃお門違いね。このハルキの方が何倍も強いわ。」


 血を吐くカイに容赦なく空気魔法で攻撃をするカナリアはつまらないものを見るような目でカイを見つめていた。


「なんで、なんで眠らないんだよ!眠れ、眠れよ!」


「ふん、すでに眠っているわよ、この体の持ち主は。私はこの体を借りているだけにすぎないから、アンタの能力なんて全て無効よ。」


「なんだよ、チートすぎるじゃないか!やめろ、俺をいじめるな!」


「なんて弱っちいの。さすがの私も呆れるわ。ここまで実力がないなんて。」


 カナリアは目を瞑ってため息を吐く。


「黙れ!グッ!これでも、喰らっておけ!」


 カイが右手を振る。すると、カナリアの前に幻影が現れた。タダの幻影。そんなことはカナリアにも分かっていた。だが、それは。その幻影はカナリアが最も恐れているものの姿に変化する。


 虹色に輝く髪と瞳、神木柊がそこに立っていた。


「っ!」


 カナリアは本能的に空気魔法を最大出力にし、神木柊の幻影を吹き飛ばす。神木柊は一瞬で消えるが、その空気魔法の威力の高さ故、壁中にヒビがはえ...遺跡の崩壊が始まった。










「っ!」


 ハルキは咄嗟に後ろに下がるが、顔に鎌がかすり、傷が出来る。


 カグヤが、カグヤが敵になった。まずい。自分は到底カグヤに勝てない。


「俺を、俺をいじめるからこうなるんだ!形勢逆転だ!」


 カイは手をブンブン振りながらハルキに言う。ハルキは上空に飛び、カグヤの攻撃が届かない位置に移動する。


「厄介すぎる!」


 正直、カイはどうでもいい。カグヤだ。カグヤが強すぎる。アレを自分が倒せられる自身がない。


 ただ、こちら側の勝利条件はカグヤを倒すことではない。カイを倒すこと。つまり、カグヤを完全無視してカイを潰すというのが正解だ。


「竜巻!」


 ハルキが大声で叫ぶ。すると、竜巻が発生し、カイに向かって突っ込んでいく。


「っ!」


 カイも、カグヤも竜巻に吹き飛ばされる。カイが宙に浮いた瞬間、ハルキはジェットのように風を使って急接近。カイの顔面を殴り、さらにそのままカイの顔を抑えて地面にまで共に落下し、埋め込ませた。


「ゴバッ!」


 カイが泡を吐く。当然、カグヤもハルキのその瞬間の隙を見逃さない。


「...やっぱり偽物じゃねぇか。」


 腹に鎌が貫通する。ハルキは血を吐く。


「本人のほうが、何倍も強い。」


 ハルキは自身に貫通した鎌を掴み、自身の背後にいるカグヤを睨む。


「吹っ飛べ。」


 ハルキがそう言ってカグヤに手をかざす。それと一緒に、カグヤは空の彼方へ飛んでいった。そして、消えた。


『ただいま、って言っておくわ。ふん、幻影ごとき、私の力がアレば一瞬ね!』


「助かったよ、カナリア。」


『えぇ、大変だったんだから!もっと感謝しなさい!感謝!』


「カナリア、現実の方はどうなった?」


『私のお陰で無事解決よ!コッチの方は...ふん、やるじゃない。』


 ハルキは自分の足元を見下ろす。そこには地面に顔が埋め込まれたカイがいた。


 すでにカイは死んでいた。


『そろそろね。』


 カナリアのセリフとともに空に亀裂が走った。


 夢の世界が崩れていく。割れていく。










「如月。」


 エリオットは如月を抱きしめていた。如月は目からポタポタと、大粒の涙を流していた。


「私、私、エリオットさんに幸せになってほしくて...それで...ごめんなさい、ごめんなさい...」


 如月は泣きじゃくりながらエリオットにしがみついく。


「...パパ...」


 後ろから、声が聞こえた。エリオットは如月を抱きしめたまま後ろを向く。


 一人の少女と大人の女性が、エリオットを見つめていた。


 エリオットは少し悲しそうな顔をした後に、笑った。これは幻影だ。本物ではない。それに、今は如月がいる。ハルキが教えてくれたように、過去ではなく、今を見なければならない。過去の誘惑に負けてはいけない。


 けれど、一つだけ伝えておかないといけないことがある。


 エリオットは如月を一度離し、少女の元まで行き、頭を撫でて。


「俺、二人と家族になれて、嬉しかった。俺を、俺をパパにしてくれて、ありがとう。俺を、幸せにしてくれて、ありがとう。」


 目を細めて、作り笑いをして。エリオットは娘と妻に、そう伝えた。


 『ごめん』じゃなくて、『ありがとう』、と。







 そらに亀裂が走る。空間が壊れ始める。この世界にいられるのもあと数十秒といったところだろう。エリオットは如月と手を繋ぐ。


 妻と娘の姿もこれで見納めだろう。


「如月ちゃん。」


 ふと、娘が口を開いた。如月は突然のことに驚き、ビクッとする。


「パパを、よろしくね?」


 娘は、そう言って笑って、どんどん透けていって、消えていった。










「....どういう状況?」


 目覚めたハルキは辺りをキョロキョロとする。遺跡で寝ていたはずが、外にいた。


『私の頑張りの現れかしら。崩れ行く遺跡から、本当は面倒だったけど全員連れ出して避難してきたのよ。そこの男も含めて。』


 カナリアの言う通り、血まみれのカイも倒れている人たちの中にいた。みんなが目覚める中、カイだけは起きない。


『本当は殺すつもりだったんだけどね。結構しぶとくて。』


 ハルキは、これは情報を吐かせて利用できると思い、好都合だと感じた。


 しかし、一向にカイは起きる気配がない。


「カイさんは...もう起きないと思うわ。」


 如月がハルキの隣に来て言う。


「夢の世界でカイさんが死んだのなら、魂は死んでいるということよ。肉体は生きていても、もう起きることはないわ。」


 如月はやけに詳しかった。









 如月はある日町中で出会ったカイに「大事な人に幸せになってもらうつもりはないか」と言われ、はいとこたえてしまっていた。エリオットを幸せにできる方法がある、と。エリオットを現実世界で幸せにすることは出来ない。しかし、如月が核となって夢を展開し、そこで幸せな夢を作り、如月がそこで死ぬことでエリオットは永遠と夢の中で幸せな時を過ごすことが出来るようになる。代わりに如月は昏睡状態になるが、少なくともエリオットは永遠と幸せになる。


 如月はエリオットに幸せになってもらいたい一心でその計画に賛同した。カイの目的は分からない。ハルキなのか、エリオットなのか、如月なのか、カナリアなのか、魔法使いの遺骨なのか。本人が昏睡状態な以上、聞き出す事はできない。


 というのが、この事件の後日談だ。


 カイは一度病院へ運ばれ、色々会って日本の病院に連れていかれた。よくわからないが、神環が関わっているのだろう。


 如月は先程の話をハルキとエリオットにし、頭を下げて謝った。もちろん誰も責めず...カナリアは頭の中で『ほんとっ!迷惑ったらありゃしないわ!事件解決に貢献した私に感謝しなさい!』とずっとうるさかったが如月には聞こえないから問題ないとして、エリオットもハルキも如月を許した。










 それから、ハルキはノルトハーヴェンで2週間ほど過ごした。魔法使いの遺骨も手に入れ、空気の魔法使とも契約をべ、今回の旅の報酬はデカい。


「もう日本に帰ってしまうのか。さみしくなるよ。」


 エリオットは空港でハルキにそういった。如月もエリオットの隣で頷く。


「...まぁ、色々あったけど、楽しかったぜ。」


 ハルキはエリオットにグッドサインを送った。


「また、何か困った時は俺に連絡してくれ。グライナー交易商会はいつでもハルキ、お前の味方だ。」


 エリオットは、また笑った。


「...元気で、ね。」


 如月も手を降った。


「日本に帰ったら何するんだ?」


 エリオットがハルキに訊く。


「あぁ、ニューヨークに行った奴一人と、南極に行った奴一人と合流して今後について話すかな。」


「...私の記憶だと、南極に行っているのは二人だったと思うのですが...」


 如月がハルキに言う。


「えっ?何言ってるんだ、一人だけだぞ?」


 ハルキは少し笑いながらそう返答した。


「とりあえず、帰ったらフグだな。」


 ハルキはエリオットと如月と握手した後、飛行機の中へ吸い込まれていった。













 2週間前


「ラク兄、ラク兄、見てくれ!見えてきたぞ!」


 アカネがラクを揺さぶる。ラクは慌てて廊下を走り、船の甲板に出る。船の一番先頭に立ち、手すりから身を乗り出す。他の隊員たちも似たような反応をしているが、ラクが飛び抜けて興奮していた。


 真っ白な大地が見える。


 ついに、ついに着くんだ、憧れの地、南極へ。


「ラク兄、泣いてんのか?」


「泣いてねぇよ、」


 ラクは目元を拭った。


「なぁ、ラク兄、ラク兄、ラク兄!」


「なんだよ、僕の弟はイツキだけだぞ。」


 ラクはそう言って、ポンポン、とアカネの頭を撫でた。






次回から南極編!ラクがメインの話です!

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