46.『夢の中で』
ノルトハーヴェン編、第3話!
「あなたも、いつかわかるわ。」
私は、あんたよりすごい。
「私も、前までそうだった。」
なんなの、自慢話?それなら私のほうがすごいから、私に効果は無いわよ。
「...また、会いましょ?」
なんで、少し悲しそうな顔をしているの?バカにしているの?本当にムカつく!
セレーネのあの顔が、何故か忘れられない。私のほうがすごいはず、そう言い聞かせているのに、何故か負けた気がしてしまう。なんで?分からない。何百年経っても、千年経っても分からない。『愛』、が分からない。
それ以来、カナリアはセレーネを見ていない。ただ、セレーネが作った遺跡に、自分のと交換したその遺跡に身を隠していた。
世界樹が出来た時は、さすがの自分も驚いた。そして、それをつくったアステリオスを褒めるなんかよりも、『私のほうがすごいはず!』という焦りが最初に出てきた。アステリオスを褒めるなんて、考えたこともなかった。それはアステリオスに自分は負けたと認めるのと同じだからだ。あの時も、一人を除いて、セレーネを除いて誰も褒めなかった。セレーネだけは、すごいと言った。アステリオスは、『お前の水魔法なんかよりも何百倍もすごいだろ!』とセレーネに上から目線で接していた。
その時、声がした。「何をしているの?」という、少年の声。透き通るような、きれいな声。虹色に輝く髪。怒りも、喜びも、優越感も、劣等感も何も感じない表情。今思うと、憎い顔。腹立たしい顔。そして、怖い顔だ。思い出しただけでもイライラする。
その少年の従者が、今、目の前にいる。腹立たしい。殺してやりたい。けれど、今の自分じゃ何も出来ない。
「貴様、神木柊の手先か!」
カナリアの叫び声にハルキは驚き、たじろぐ。エリオットも目を見開いている。
「神木の手先ではない!協力関係ではあるけど!」
「貴様、遺骨を神木柊に渡すつもりだな?そんなこと、タダで出来ると思うなよ!」
カナリアは怒り任せに風魔法を発動する。風の球を作り、ハルキに投げつける。ハルキも反応できないほどの速さで。しかし、結果はわかりきっていた。当たらない。
知っていた。自分とハルキのいる次元が違うのだ。いくらコチラがハルキに攻撃しようとしても、当たらない。また、相手も自分に攻撃できない。ただ、対話しか出来ない。
「落ち着け!俺はお前に代価を支払うから!支払うから、遺骨をくれないか?」
「本当に、支払うのか?」
カナリアはハルキを睨みつける。当たらないと分かっているが、様々な魔法を発動させようとしてくる。そんなカナリアを、ハルキは見つめ返していた。
「あぁ、俺払う。カナリア、キミは何を欲するんだ?」
ハルキは真剣だ。それに、そこまで緊張もしていない。自分にできることなら自分がやるし、金目のものならエリオットに頼めばいいし、何かの技術ならリリアに押し付ければ良い。
しかし、カナリアの要望はハルキの想定外だった。
「なら、私に『愛』を教えてみなさい。」
セレーネは元々、カナリアと魔法を競い合う魔法使いだった。カナリアは空気系の魔法を、セレーネは水魔法を発明しては、お互い自慢し合っていた。
お互い、自慢しあった。相手を褒めることなんて無い。お互いが、お互いをバカにした。見下した。
ずっと、そうだと思っていた。
「すごい!」
ある日、セレーネは変わった。カナリアを褒めた。あり得ない。今の今まで、そんなこと無かった。カナリアの常識では相手を褒める=自分は相手より下、だった。つまり、セレーネは自分は下だと認めたということだ。何故だかわからない。本来だったら嬉しいはずなのに、本来だったらセレーネをさんざん馬鹿にする場面のはずなのに、何故か。何故か。
「あんた、なんなの、その態度!前からおかしいわ!」
カナリアがそれを指摘したのは、数カ月後だった。セレーネの態度がムカついた。他の魔法使いたちは絶対に見せない反応。セレーネはまるで、自分たちのはるか下の『魔法を使えない人間』、『魔法を見ることしか出来ない人間』と同じようなものだった。本来なら、「私のほうが上!」や、「そんなの、私だって出来る!」が魔法使いたちの当たり前の反応。それが、この女は「すごい!」だの、「面白い!」だの、「綺麗!」だの。おかしい。絶対におかしい。
「そんなにおかしい?」
「えぇ!おかしいわ!まるで人が変わったかのように!私をバカにしているの?!一体、何があなたをそんなんにしたのよ!」
カナリアは金切り声でセレーネに訊いた。
セレーネはただ、怒りもせず、笑いながら。
「『愛』、かな?」
そう答えた。
「私は、あの女に負けたくない。あの女の下にいると認めたくない。本当はあの女のほうが、下にいるはずなのに。なぜか負けた気がしてならない。あの女が持っていて、私が持っていないもの。『愛』、を知りたい。『愛』の意味が知りたいんじゃない。そんなの知っている。『愛』を経験してみたい。」
カナリアの要望はそれだった。
「とは言われても、どう教えろっていうんだ?まさか、今日あったばっかりなのに『好きです』なんて嘘っぱちの愛を求めているわけじゃないだろ?」
「当然よ!そんなんじゃない、私が求めているのは。」
ハルキは困った。どうやってそれを返そう。しかし、その答えはカナリアが教えてくれた。
「私と契約を結んで。」
よく分からなかった。
「契約?」
ハルキよりも先にエリオットのほうがその単語に反応した。仕事柄、よく聞く言葉なのだろう。
「えぇ。私と契約を結ぶの。私は遺骨の所有権と私の空気魔法をあなたにあげる。代わりに、私があなたの魂の中に入って、あなたと感覚を共有させてほしい。」
「...つまり、受肉させろってこと?」
「いいえ、私が体を奪うことはできない。そうじゃなくて、私があなたの魂と同化するの。」
要は、ハルキの見ている世界や感覚をこのカナリアと共有するということらしい。その代わりに遺骨だけでなく、ちゃっかり魔法の使用も入っている。つまり、契約を結べばハルキ自身も強くなれる。
「...わかった。契約を結ぼう。」
「言ったわね?二言は無いわよ!」
カナリアはその言葉とともに、体が輝き始めた。そして、すーっとカナリアがハルキの心臓の辺りに吸い込まれていった。
「な、何が起きたんだ?」
エリオットが困惑する。ハルキもわけが分からない。その時だった。
『ふぅ、なんだか久々の感覚ね。』
ハルキの脳内に直接、カナリアの声が響いた。
「ちょっ!びっくりした!気持ち悪!」
『ふんっ!遺骨と魔法が使えるのよ?それに、私の美声が脳内でずーっと聞けるのよ?こんなあなたにメリットしかない契約もなかなか無いわ!』
「いや、お前の言う通りかもしれんけど!結構気持ち悪い!」
頭の中がゾワゾワする感じ。自分の頭の中に他人がいると思うとけっこうキツイ。
「ハルキ、いきなりどうしたんだ?」
エリオットには聞こえてないらしい。つまり、カナリアと対話できるのは自分だけ。これでカナリアと話しながら街歩きしたりしたら、不審者扱いか。なら、けっこうなスルースキルも試されるというわけだ。
「とりあえず、カナリア、みんなを起こしてくれない?」
とりあえず、カナリアに周りを起こすように頼んでみる。
『周りに倒れている男どものこと?そんなの知らないわよ!私がやったんじゃない!』
「は?なら誰がやったっていうんだよ!」
なんだコイツ、協力的なのか、そうじゃないのか分かんねぇ。
『さっきも見たでしょ!私の魔法はあなた達と違う次元だったからあなた達に当たらなかった!だから、そもそも私はみんなを寝かせるなんて出来なかったのよ!』
どういうことだ?カナリアが言うことが本当なら、それって、つまり
「他の誰かがいるということか?」
『それ以外何があるのよ!』
と、その時、突然、何処かで聞いた声が聞こえた。
「グライナー交易商会、エリオット社長。真剣組、佐倉ハルキ。君たち、なかなかに面倒くさいね。」
見ると、遺跡の入口に眼鏡の中肉中背の男が立っていた。
「誰だお前。俺の商売相手にお前のような顔は見たこと無いが。」
ハルキより先にエリオットがそう言った。
「おっと、失礼。蘇我カイ。闇ノ九柱、第7位、コードネーム『カレイドスコープ』。これで自己紹介は十分かい?」
ハルキの目が見開く。シンの部下か。第7位、相手の能力がわからないからなんとも言えないが、マオリネットが3位、ナイトメアが1位、ハヤセが5位。コラプスは何位か分からないが、おそらくマオリネットよりも強いから2位と仮定する。7位なら、これまで出会った闇の軍の中では最も弱いことになる。だからといって安心できない。ハヤセにすら自分は勝てていない。マオリネットを倒したのはラクだし、コラプスもアラタがいなければ自分は死んでいたかも知れない。今はカナリアがいるとは言え、自分はこの男に勝てるか怪しい。さらにエリオットを守らなければならない。周りで寝ている探窟家たちも人質だ。コチラ側がトコトン不利だ。
「にしても、君、俺との相性がとっても悪いなぁ。能力、一瞬解除してくれない?」
そのセリフを聞く限り、相手もなすすべがないのか。なら、先手を打てば!
「人質がいることを、忘れるなよ?」
カイの言葉にハルキは固まる。そうだ、この場では自分以外の全てが人質だ。下手に動くことは出来ない。
『何ためらってんのよ!やれ!やっちゃえ!ぶっ殺しちゃえ!』
脳内が本当にうるさい。何だコイツ、アドバイスをするわけでもなく、ただただ邪魔だ。
「解除しないと...」
「俺のことは気にしなくて良い。倒れている奴らのことも俺が責任を取る。だかr...」
エリオットはそこで言葉を失った。
「これでも?」
カイの隣に立っている少女、彼女も人質だ。そして、彼女だけは、彼女だけは被害に合わせたくない。それはハルキもエリオットもいっしょだ。
「...チッ!」
ハルキの能力解除と共に、ハルキとエリオットは眠りについた。ハルキは、一人の少女、如月のために能力を解除した。
「ごめん、エリオットさん。幸せになって。」
如月も、そう言い放った直後に眠りについた。
「....ここは....何処だ?」
脳が回らない。ただただ真っ白な空間。そこに、何人か人が立っている。
「おーい、ハルキ!早くお前も来いよ!」
ラクの声。
「ほら、お前も一緒に表彰されるんだよ。」
カグヤの声。
「まぁ、俺のほうが貢献したけどな!」
アラタの声。
そうか、自分は今から表彰されるんだ。闇の軍を壊滅させたから。みんなと一緒に...
『なにしてんの!バカ!アホ!無能!』
脳内に、声が響き渡る。
『あんなの幻覚よ!あんたは真剣組佐倉ハルキ、今は私の遺骨目当てにノルトハーヴェン!忘れたの?!あんな安っぽい幻覚に騙されているようじゃ、ダメね!』
はっ!本当だ、カグヤはすでに死んでいる。ラクは南極で、アラタはニューヨーク。自分はノルトハーヴェン。みんないるはずがない。危なかった。
「なるほど、これが敵の能力か。」
『ねぇ、感謝してよ!』
「これは感謝しざる終えないな。ありがとう。」
『ふん!当然よ!アンタに死んでもらっちゃコッチも困るんだから!』
「で、どうする?何かこの空間についてなにか分かるか?」
『わかんないわ、夢の中、ってこと以外は。』
「ここは夢の中なのか?」
ハルキはカナリアと対話する。しかし、相手が夢とわかったところでラク、アラタ、カグヤは消えなかった。
「おーい、ハルキ。早くしろ。」
「お前の賞状、破かれたくなければとっとと来い!」
ラクとアラタがうるさい。
「お前ら、そうハルキを急かすな。」
カグヤがそう言って近づいてくる。
やめろ、やめてくれ。コッチに来るな。
「ハルキ、足がつかれたか?俺が一緒に行ってやるよ。」
「こっち来るな!カグヤ先輩!」
ハルキは叫んだ。カグヤの顔が驚いた顔をする。幻覚だとわかっていても、胸が痛む。
「...カグヤ先輩、俺、一人で歩けるから。俺、一人で戦えるから。アンタがいなくても、俺、ちゃんと前を向けるから!」
カグヤがコッチを見つめてくる。
「...今は、俺は表彰されるような人間じゃない。アラタにも、ラクにも遅れをとっている。俺はまだ、スタートラインに立っていない。だけど、だけど。」
ハルキはカグヤをしっかりと見つめて。
「俺はアンタを超えてみせる。その時に、俺は表彰台に立つ。だから、見守っててくれ。」
カグヤはどんな反応をするだろう。
「...あぁ、楽しみにしている。」
カグヤは、笑った。ハルキはまた、幻覚のカグヤか、現実のカグヤかわからなくなりそうだった。
そうだ、カグヤならそう言う。
ハルキはカグヤたちと反対方向に、走り出した。
「エリオットさんは、コレで幸せになるんですよね?」
夢の中の空間で、如月はカイに質問した。
「あぁ、永遠に。」
カイはそう答える。
「君のことも忘れて。さて、君がこの夢の『核』、だ。君を潰せば、みんな幸せな夢をずっと見ていられる。君の大切な人たちは、永遠に幸せだ。」
カイのその言葉に如月は安堵する。ハルキには少し悪いと思うけど、しょうがないことだ。如月はそっと目を瞑った。
「覚悟は、出来ているから。」
カナリアについて。セレーネ以外の魔法使いたちは基本、自分は周りより勝っていると自慢したい承認要求の塊で、自分以外を見下しています。カナリアも例外じゃありませんが、そういった自慢をしなくなったセレーネに負けてしまっていると感じており、セレーネに勝つために『愛』を知ろうとしています。その時点で、他の魔法使いたちとは結構な差があります。




