第116話ビャクヤに声を掛けますか?
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コツ、コツ、コツ……。
闇夜の中、夏虫達の囁きに交じる足音が一つ。
イチジョウ・ビャクヤは歩みのスピードを緩めつつ、軽く伸びをした。
「さて、どうしよっかなぁ。肝心のカバネ君の行き先、クロノ様に聞き忘れちゃったし、一旦シャーのところに戻って居場所を教えてもらうか。あるいは、【トゥラヌアの短剣】と並行して自力で探すか……。どっちにしても、まずはニイナと合流しないことには始まらない、と。これは言い訳を考えなきゃか。……はぁ、全く。流石に夕飯にメロンパンはないと思うよ、クロノ様」
右手に持つビニール袋は恐ろしく軽い。
何でも良いから夕食になりそうなものを分けてくれないかと頼んだら、手渡されたのがこれだった。甘いし栄養も偏り過ぎているし、何よりも満たせるのは小腹ぐらいという見事なアンマッチ具合だ。
新奈にこれが今日の晩ご飯だと説明したとして、凡そ返って来る反応に予想がつく。
クロノのズレたチョイスに呆れながらビャクヤは夜道を歩く。
だが、突如、その歩みが止まった。
「なら……それは、ここに置いていくといい」
背後から首にそっと当てられた刃物の気配と少女の声。
ビャクヤは振り向かなかった。
ただ静かに、己に刃を向けた少女の次のアクションを待つ。
その様子に少女は――湖窓響は、囁くような声で彼に命じた。
「こちらを」
響の短い指示に神の【守護者】はようやく振り返り、そして彼女を見つめた。
「やぁ、誰かと思えばさっきの……」
「そうか、そうだったね。確かに今のお前にとっては、私なんて「さくらい」までのあの浅く短い時間を共にした程度の人間か。まだ名前もよく知らない、そんな程度の。……変な感覚だよ、私はお前のことをこんなにも知っていて、それで会いに来ているのに」
「こっちも変な感覚だ。君は何か俺を知っていそうなのに、俺は君をほとんど知らないなんて」
「湖窓響。袈刃音の過去を知る協力者とでも言おうか。私についてお前が知るべき情報は、それくらいで構わないよ」
両者の間に流れる異様な静けさ。けれど、響の耳にはそれすらも煩く感じる。
「それで、そろそろソレ、下ろしてくれるかな?薙刀、だったかな。これじゃあ怖くてまともに話もできない」
響はビャクヤの言葉に従い、薙刀を彼の首元から遠ざけて自らの肩に担いだ。
「話が分かる娘で助かるよ」
「いいさ、どうせこんな刃物なんかじゃ脅しにもなってないんだし。それと、自己紹介も済んだんだから、そろそろ人間ぶるのはやめていいよイチジョウ・ビャクヤ。――いや、この場合は遊戯神の第一【守護者】と呼ぶべきか」
「!……そうか、なるほど。フっ。ねぇ、勘違いなら構わないんだけどさ。君と俺、もしかして未来で会ってる?」
「……」
やはり、鋭いなと響は思った。
ビャクヤの言う通り、響はクロノの見せた未来の記憶の中で確かに彼と出会っている。
記憶にあるビャクヤと今のビャクヤ、気持ちが悪いくらいにその顔は同じだ。
自信に満ち、飄々としていて、その表情を崩したところを終ぞ見ることは叶わなかった。
腹が立つ。
その傲慢な態度も、一見穏やかな眼差しの裏で、こちらを自分の利になるかどうか値踏みしていることも。
けれど、確かなことが一つある。
この男とは戦ってはいけない。
彼は恐らく全【守護者】の中で最も強く、敵に回せば最大の障害になり得ると。
力、だけではない。それだけには収まらない規格外。
響はその身を以て知っている。
何せこの男こそ、未来でトゥラヌアに敗れ命を落とすはずだった響を助けた張本人なのだから。
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