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「はぁー!脱出成功!」
鈴香は一仕事終えたように言った。
王子はハッとした。
「え、ちょっと待って君たちは一級能力者かい?どうしてこんなに早く……いや、それよりも君たちの仲間はいいのかい!?」
鈴香は相変わらず笑顔だった。
「あははっ!大丈夫!むしろ、早く脱出しないとあの2人も困るから。」
「え、え……?」
「はぁー、申し訳ありません。詳しい説明は後でいたします。あの2人については万全の態勢を整えておりますため、ご安心ください。」
少女の後ろから銃をぶっ放していた男の声が聞こえた。
「それならいいんだけど。えーと、改めて、助けてくれてありがとう。」
彼は2人を振り返って飛びっきりの王子様スマイルでお礼を言った。
「……ねぇ、王子様、ここはペガサスの上だよ。そんでペガサスは空の上だ。」
鈴香はゆっくりと王子に教えるように言った。
「え?」
急に鈴香が言い出したことに王子は困惑した。
そんなこと言われなくともわかる当たり前のことだ。
「だから、ここではそんな王子様やらなくたっていいだよ。私と後ろの……委員長しかいない。私たちからは先頭の王子様の顔なんて見えない。」
鈴香はやはりゆっくりと王子に言った。
その一言一言がただ王子への思いやりだけを込めて発せられものだと王子にも誠実にも伝わった。
王子はただただ目を丸くして鈴香を見つめた後、前を向き俯いた。
「………あ、あは、あはは、そんなこと初めて言われたよ。」
絞り出すように言った。
笑い声はとても乾いた声で誰が聞いても無理に出しているとわかる。
王子らしく柔らかな台詞は明らかに震えた声で発せられた。
「で?これからどこ行けばいいの?」
鈴香は誠実の方を振り向いて言った。
「それも知らずに飛んでいたのか!いや、それ以前に空気を読め!」
おちゃらけたように鈴香は言う。
「えぇー?何のことー?あー、王子様寝ちゃったかもしれないから静かにしろって?」
鈴香は本当に見て見ぬ振りをするつもりのようである。
だから、あえて空気を読まない発言もする。
「大丈夫だよ。たぶん疲れてるから起きないって。で、どうする?」
誠実も馬鹿ではない。
ため息をつきながら携帯を出した。
「担任にメールをしたから、あっちは大丈夫だろう。王子を起こすわけにはいかないし、俺たちはしばらくの間空中遊泳をしてから学園に向かおう。」
翼が書いた地図と簡単な状況報告をした。
あの担任ならすぐに誰か派遣してくれるだろう。
桃のシングの能力が切れる前に。
「さすがリーダー。」
「リーダーって……」
「この隊のリーダーはやっぱりえーと……委員長でしょ?」
鈴香は誠実を呼ぶ前に何か考えているようだ。
「委員長の名前なんだっけ?」
「おまえなぁ……桐生誠実だ。」
「えーと、なんて呼べばいい?」
鈴香は今日初めて誠実のことを呼んだのだ。
「好きに呼べばいい。……だが、おまえには名前の方が覚えやすそうだな。誠実の誠実だ。」
「確かにそのまんまだね!じゃあ、私のことも鈴香でいいよ。」
にこにこと笑いながら言った。
誠実もまだ鈴香の名前をちゃんと呼んだことがない。
「……鈴香。」
普段はクラスメートのことを名字で呼ぶが、鈴香にはなぜか言われるがままに名前で呼んだ。
「……今日はよく話してよく笑うな。」
「ん?そう?私人見知りするタイプなんだ。それに王子様には悪いけど、楽しかったし。」
「そうだな。……そろそろ戻るか。」
3人を乗せたペガサスは学園に向かって大きな翼を広げ走り出した。




