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翼の案内の下で4人は迷うことなくその建物がある場所に到着した。
「さて、作戦なんて言わなくてもわかると思うが一応確認だ。」
建物から少し離れたところで身を隠しながら建物を見て作戦会議と言えないほど簡単な会議をした。
誠実の言う通り皆自分の役割くらいわかっている。
「まず、俺のサーチで道案内と敵の接近を知らせるね。それから……」
翼は桃の方を振り返った。
「もし敵が現れたら、私のシングで眠らせますぅ。」
誠実はうなづく。
「そういうことだ。とりあえず王子を救出するまで派手な行動は慎め。王子に何かあったら困るからな。」
鈴香は誠実からの視線の意味に気がついていた。
「わかってる。でも、救出した後はいいんでしょ?どうせ王子が脱出したってバレるのも時間の問題だし。」
「……王子の安全が第一だ。派手だろうがなんだろうが、逃げ切れ。」
誠実は少し不本意そうであった。
「安心してくださいー。研究員や幹部連中は私が眠らせますぅ。ネズミ一匹逃がしませんよぅ。」
そう、確かに誠実は組織の連中が逃げたり証拠隠滅されたりするのを懸念していた。
「あはは、自信満々だね。でも、委員長と鈴香ちゃんは王子の護衛に回る。俺と桃ちゃんだけじゃさすがに混乱の中で敵全員眠らせて脱出するのは無理だよ。」
翼の分析は冷静であらゆる可能性を考えている。
救出後、桃が残党を眠らせるためには戦闘員が最低でも1人は付かなくてはリスクが大きすぎる。
しかし、王子の救出が最優先である以上、鈴香も誠実も王子の側にいなくてはならない。
「確かにああいう組織は1人でも逃がせば、また復活する。潰しておきたいのは山々だが……」
王子を誘拐するなんて大事を仕出かすほどの組織だ。
ここで潰せないのはもったいない。
「あ!そういえば、この前新しいパーツ仕入れたんだった!持って来てたかな?」
鈴香が思い出したように呑気な声でリュックを漁り出した。
「おい、今はそれどころじゃ……」
「あったあった。本当は使うの楽しみにしてたんだけどなぁ。今回は桃ちゃんへのプレゼントってことにするか。」
鈴香が笑顔で作業を始めた。
最初は鈴香の突発的な行動に驚いた3人だったが、それを見て納得した。
桃はキラキラした目で鈴香の作業を見始めた。
そんな2人を翼はにこにこと微笑ましそうに見守って、誠実は大人しく待っていた。
「よし、できた!」
「わぁ!本当にかわいいですぅ。」
「えへへ、ありがとう。」
今までで一番うれしそうな笑顔だなと誠実は思った。
「じゃあ、後で渡すね。」
「楽しみですぅ。」
「……行くか。」
4人は翼の案内の下建物内に侵入した。
サーチで極力人がいない道を通り、やむなく遭遇した敵には騒がれる前にシングを使って眠らせる。
敵のアジトとは思えないほど順調に目的地に近づいていった。
「うん。この扉の向こうに王子が閉じ込められてる牢があるよ。」
「でも~、鍵がかかってますよぅ。どうします~?あ、鈴香ちゃんなら鍵も作れるんじゃ……」
「鍵のパーツはあるけど、実現させてもこの鍵穴には入らないよ。」
「ああ!確かに~!じゃあ、委員長は~?」
「やれるが、銃はまずいだろうな。あとはナイフくらいしか持って来ていない。」
銃では時間がかかりすぎる。
その間に発砲音を聞きつけた敵が集まってきてしまう。
「うーん、なら……」
鈴香の案はめちゃくちゃであるが、問題はないので採用された。
一方、その頃牢の中の王子は……。
「あーあ、いつまでこんなとこにいるなきゃいけないんだろう。」
とりあえず王子である以上危害を加えられる可能性はない。
身の危険はないが、牢屋は随分退屈なようだ。
日頃から城を抜け出して遊んでいた呑気な第二王子であったため、おそらくまだ誰も王子が誘拐されたことに気がついていない。
今回の誘拐も王子が城を抜け出した途端に捕まったのである。
「……それに俺のことを気に留める人間なんて……」
王子は少し自嘲気味に笑った。
優秀すぎる第一王子。
いつもへらへらしている第二王子。
どっちに人が集まるなんて言うまでもない。
「……暇だなぁ。ついてないなぁ。こんなことなら……」
バァーーーーン!!!!
王子の独り言を遮って怒号が響き渡った。
驚いて王子は音の発生源に目を向けると、1人の少女が巨大な狼に乗って現れた。
そして、なんと狼はその大きな口で牢の檻をこじ開けたのである。
「助けに来たよ!」
少女は笑顔で王子に手を差し出して言った。
王子は自分に差し出された小さな手に無意識に手を伸ばした。
巨大で恐ろしい狼に乗っている初対面の相手なのに、なぜか王子はこの少女を疑おうとは思わなかった。
「ご無事でなによりです。」
王子は少女に何か言おうと口を開いたが、何を言えばいいのかわからずにいた。
そうしているうちに少女の背後から怒鳴り声が聞こえた。
「おいっ!!さっさと脱出するぞ!もう敵が集まって来てる!」
誠実は銃を撃ちながら言った。
「わかってる!桃ちゃん!プレゼント受け取って!あとオオカミくんも!」
鈴香は桃に何かを投げた後、狼から降りた。
「はぁ!?狼を置いて行ったらどうやって脱出するんだ!」
誠実は銃を撃つのを止めないで鈴香と王子に近づいた。
狼は翼の服を噛んで自分の背中に投げた。
いきなりのことに驚きながらも翼はなんとか背中に掴まった。
そして、狼は同じように桃のことも投げた。
翼は慌てて桃を受け止めた。
「だって、いくらシングの能力があるからって2人だけ残して行くのは心配でしょ?」
「それはそうだが……」
「大丈夫!この子がいるから!」
鈴香は青いペンダントを出した。
そのペンダントはまるで本物の宇宙のような背景にペガサスのシルエットが浮かんでいた。
鈴香がえいっと投げればペンダントはたちまち本物のペガサスとなった。
王子は目を丸くして目の前の光景を見ていた。
一体何がどうなっているのかと思考を巡らせる。
反面、誠実は鈴香のめちゃくちゃな行動にも慣れてきたようで、ため息をつきながらペガサスに乗った。
「こういうことは事前に言え!」
誠実は鈴香に手を伸ばした。
その後王子もペガサスに乗った。
「んじゃ、お願いね、ペガサスちゃん!」
鈴香がそう言うとペガサスは空を飛んだ。
「え、ちょ、ぶつかる……!」
王子は慌てて天井を見上げる。
そうここは地下である。
「大丈夫大丈夫!」
鈴香は楽しそうに笑っている。
誠実もただ呆れた顔を浮かべるだけであった。
焦っているのは王子だけである。
鈴香は天井に向かってまた何か投げた。
すると、天井に扉ができて、ペガサスはその扉を押し破った。
「えっ!?」
王子は先ほどから少女が起こす常識外れの行動が能力によるものであることには薄々検討が付いているが、一体何の能力なのかはさっぱりわからない。
3人を乗せたペガサスは1階の比較的大きな部屋に出た。
もちろん部屋の中は大騒ぎになった。
誠実は右手でいつも通り麻酔弾を敵に撃ち込みつつ、左手で窓に実弾を撃ち込んだ。
鈴香は言われなくとも誠実の意図を汲み、誠実が割った窓から脱出した。




