6
一方、試験官たちは未来の一級能力者たちをどう試そうかと心を躍らせていた。
試験はこれから本格的に始まるのである。
これから早朝会議の後一人一人担当のチームに奇襲を仕掛ける手はずである。
「バアァーーーーン!!!!」
そんな彼らの耳になぜか盛大な発砲音と爆発音が聞こえてきた。
「なんだなんだ!」
1人が叫んだ。
一級能力者試験の試験官を務める者たちなだけあって、大きな混乱は生まれず迅速な状況判断に取り掛かった。
「やっぱりそんなに混乱は生まれなかったねぇ。」
「まぁ、奇襲は成功した。後はあいつらがうまいことやっていたら問題ない。」
なんと誠実の提案した作戦とは試験官の本拠地に奇襲をかけることだった。
3人はそんな案が誠実の口から出たのに驚きつつもおもしろそうだと乗ったのだ。
1人の試験官がこの緊急事態を知らせようと叫ぶ。
「奇襲だぁーー!!!」
「くそっ!どうしてここがわかったんだ!」
「あれは桐生誠実と長瀬翼か!」
「長瀬翼……サーチか!はっ、厄介な能力だなぁ!」
火を消すのに一部の人員を投入しつつも、戦闘準備をしっかりしていた。
そして、敵の分析にも余念がないようである。
「うん。桃ちゃんと鈴香ちゃんの方は問題ないみたい。」
「それじゃあ行って来る。お前は隠れて戦況を把握しろ。」
誠実は試験官のキャンプ場に突っ込んだ。
誠実と試験官の戦いが本格的に始まった。
一方、翼の元に鈴香と桃が合流したようである。
「ばっちり眠らせましたよぉ~。後2時間はどんな爆音でも起きません~。」
2人は敵戦力を削ぐために何人かの試験官を眠らせに行っていたのである。
「それにしてもさすがにあの人数の試験官相手じゃ、委員長もやばいんじゃないですか~?」
「そうだねぇ。今のところはうまく立ち回ってるけど……時間の問題だねぇ。」
2人の会話に入らず、誠実の戦いを見つめていた鈴香がぽつりと呟いた。
「………うん。まぁ、いいかな。」
桃は不思議そうに鈴香を見た。
「鈴香ちゃん?」
「このメンバー結構おもしろいよね!人柄も能力も!」
鈴香が満面の笑みで叫んだ。
背後の爆発音に掻き消されずに翼と桃の耳に届くように、ものすごい発見したように、確信したように。
その頃、誠実は苦戦を強いられていた。
数での不利もあるが、いくら誠実が優れた能力や頭脳を持ち合わせていても経験の差は大きかった。
学生である誠実と彼らでは実戦経験が全然違う。
誠実の作戦はうまくいくはずだった。
厄介なくせ者共は桃のシングで眠らせた。翼のサーチがあるため、試験官のメンツや位置を把握するのは簡単だった。
ただ一つだけ誤算があった。
鈴香が何もしなかったことだ。
誠実はこういう状況を作り出せば鈴香はなんらかの形で援護すると思ったのだ。
やはり鈴香に期待するのは無駄なことだったのかと誠実が諦めかけたその時それは誠実の目の前をよぎった。
「うわぁ!なんだこいつは!!」
試験官の1人が反射的に驚きの声を上げた。
その黒く大きな生き物は聞いただけで震え上がりそうな咆哮を一つあげた。
「オ、オオカミー!?」
「そんな次元じゃねーよ!なんだこのふざけた大きさは!」
狼だった。
いや、試験官たちが言う通り狼と言うにはあまりに巨大な生き物だ。
おそらく3m以上はあると考えられる身長に、ひと1人を丸呑みできそうな大きな口……
その凛々しさに誰もが圧倒された。
「お待たせ!」
なんとその巨大な狼の背中に鈴香が乗っていたのである。
「…………はぁ!?お、お前なんでそんなのに乗ってるんだ!」
誠実はやっと思考を取り戻して、鈴香に叫ぶ。
鈴香は先ほどと違って少しムッとした顔をしていた。
「そんなのとは失礼な。私のオオカミくんに。」
「はぁ!?お前の!?…………メイクか!いつの間にそんな……」
「森に入ってすぐに作ったでしょ?」
誠実は昨日鈴香が作った丸々とした二頭身の手の平サイズの狼を思い出しながら鈴香が乗っている巨大な狼を見た。
「あれがどうしたらこうなるんだ!」
戦闘を再開しながら誠実は鈴香に叫んだ。
鈴香の狼も戦闘に加わって形勢は一気に逆転した。
試験官もこの狼と誠実相手ではさすがに分が悪いようである。
「だから、"実現"させるって言ったでしょ!作ったものが動いたり大きくなったりしただけじゃ実現とは言わない!」
鈴香は狼の上で楽しそうに笑っていた。
狼の動きは素早く的確で凛々しかった。
「やはりおまえも一級能力者候補になるだけの能力を持っていたか。」
誠実は呆れたように笑った。
「委員長!上!」
誠実は翼の声を聞いて反射的に上を向いた。
誠実の隙を狙った試験官が誠実の頭上高くにいた。
誠実は素早く麻酔銃を敵に向けた。
空中では逃げ場がない。
「あははっ!全部見えるんだね!」
鈴香は上機嫌であった。
「サーチはそういう能力だからねぇ。」
「でも、見ようとしなければ見れないでしょ!」
鈴香の言う通りだった。
翼の能力はどこだって見えるが一度に見える範囲は限られているようだ。
そして、翼はいつも的確に"見ている"のである。
誠実は薄々気がついていたが、鈴香も気がついているとは思わなかった。
誠実は再び敵陣に突っ込んだ。
その時歌声が聞こえ、身体が軽くなった気がした。
桃の声だった。
「桃ちゃんのこの歌は元気が出るね!」
これが桃の言っていた強化なのだと誠実も鈴香も瞬時に理解した。
「はっ、俺のとこは変人だらけだが、どいつもこいつもくせ者揃いってことか。」
誠実も表情にそれほどの変化はないが、とても楽しそうであった。
戦闘は完全に誠実たちが優勢だった。
後少しで試験官を全員倒せそうなところで、キーンと非常に不愉快な音が全員の耳に届いた。
「……うっせぇ。あー、マイクテス、マイクテス。おまえらそこまでだ。これにて試験は終了とする。」
誠実たちのクラスの担任だった。
「あっれー?先生はちゃんと眠らせたはずです~。なんでもう起きているのですかー?」
桃は不思議そうに言った。
彼らの担任はいつでもやる気なしのだらしない人間だが、その実力は確かなものであった。
よって、今回の試験の総責任者であった。
誠実たちは彼を最も危険人物だと判断して真っ先に眠らせたはずであった。
「あー、あれだよ。寝坊して初めから寝てたからおまえの歌も聞いてなかった。」
「ええぇー!そんなぁ!」
「そんなことより試験終了とはどういうことですか?」
誠実はせっかくやる気だったのに途中で止められたことに対する不満と一級能力者選定はどうなるのかという疑問をぶつけた。
「こんな状況だ。試験の続行は意味ないだろ。他の奴らには悪いが、おまえらが一枚も二枚も上手だったってことだ。」
「ってことはぁ…?」
翼も桃も先ほどまで戦場となっていた場所まで来た。
鈴香も狼から降りている。
「今回の一級能力者は桐生誠実、長瀬翼、八代鈴香、野坂桃の四名とし、これにて第◯回一級能力者試験は終了とする。」




