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ファンタジー短編集(中編集)  作者: はくびょう
やる気なし少女は天下人に飼われる
20/43

10



「……おい…………」



声が聞こえる。



「……………おい………」



まだ眠い。



「…………おい!かなで!」




男の声だと少女は気がついてバッと起き上がった。

ドンッという音を共に頭に激痛が走った。



「いったー!」



男は顔を少し歪めて顎を押さえていた。



「いきなり起き上がるな!」



少女はその時初めて男の顔を見た。

ただただ驚いて目を見開いた顔で男を見る。



「………ここ天国?それにしては随分暗い……」



男は呆れた顔をした。



「第一声がそれか。だが、俺にはどう見てもここが天国には見えんが。」



そう言われて少女は辺りを見回す。

いつもより暗いが、見慣れた風景が少女の視界に写った。



「え?ここってー………あ!そんなことより!体痛くない!?生きてる!?」



男は呆れながらも笑って、少女の頭に手を乗せる。



「生きているからこうしておまえと話しているのだろう。」



少女ははぁーと息を吐いて、全身の力を抜いた。



「よかった………でも、なんで2人とも生きてるの?」



「さぁな。……まぁ、死ぬ直前にここに飛ばされたと考えるのが妥当だろうな。」



男は周りを見渡す。


男の視界には、マンションやビルが写った。

どれも男が初めて見る建築物であり、少女にとっては当たり前のアスファルトの地面でさえ男には奇妙なものに思える。


暗いのはおそらく夜だからだろう。



「ここはおまえがいた時代か?」



「……たぶん。」



2人は少女が落ちたあの橋の上に座っていた。





どうして自分たちは今ここにいるんだろうと少女は思ったが、すぐに考えるのを止めた。




「ま、いっか、2人とも生きてるし。」




少女は男に笑いかける。



「相変わらず能天気なやつだな。だが、そうだな。」



男は少女の能天気ぶりに呆れていたが、それでも口元には笑みが浮かんでいた。


しかし、ゆっくりと真剣な表情へと移っていった。





「奏、俺は一度死んだ。『織田信長』として生き、死んだ。」





俺は少女言い聞かせるように力強く言葉を紡ぐ。





「俺はその人生に後悔なんてない。……ただ、おまえだけが俺の心残りだった。」




少女は黙って聞いている。




「おまえとどうこうなるつもりなんて毛頭なかったんだがな……。だが、いつの間にかおまえが側にいるのが当たり前になっていた。」




未来から来た少女と天下人となった男。

本来なら出会うはずもなかった2人。









「愛している、奏。」










恋愛感情なんて生まれるはずもなかった。


それに、男は少女が男の最期を知っていることに薄々気づいていた。




「……別にそんな意識はなかったんだけどなぁ。」



少女はいつも通りの無表情で呟く。


少女は本当にそういう意味で男を意識したことなんてなかった。






「でも、まぁ………私も好きだよ。」






少女は無邪気な笑顔で言った。




「だって、最後の最後で歴史変えようとしちゃったしね。」



事なかれ主義の無気力少女がそこまでするということは、本人に自覚がなくても、つまりはそういうことである。



「まさかおまえがあそこまでするとは思わなかった。」



「ん?もしかして……」



「俺はおまえほど鈍くない。知っていたに決まっているだろう。」



「えー」と少女は微妙な表情で不満を表す。


自分でも気づかなかった感情が男に知られているんだという疑問もあるが、それ以上に過去の自分に対して微妙な気分だった。


「クククッ」と男は心底楽しそうに笑った。





「あの時代では、俺はおまえを選べなかった。俺にとってもおまえにとっても面倒なことになるからな。」




家柄や立場の違いもあるが、少女は「織田信長」の人生を知っているため、少女に想いを告げれば少女は色々と悩んでしまうのは目に見えていた。

実際少女は本能寺まで来た。


お互いのために男は少女との関係を変えるつもりなんてなかった。






「だが、おまえの知っている『織田信長』は死んだ。……奏、俺の第二の人生はおまえと共にありたい。今ならはっきりとそう言える。」





男は少女を抱きしめて言った。




「うん。また一緒にいよう。」




「ふふふっ」と少女は男の腕の中で笑った。



「怒らないのか?俺はおまえより己の野心の方が大事だと言ったのだぞ?」



「えー、そういうのって比べるものじゃないでしょ?てか、天下と飼い猫を比べていいのー?」



前半は当然のように、後半は悪戯っぽく言った。


男は笑って少女の耳元で囁く。



「どうやら俺は飼い猫に心を奪われたようだからな。」



普通の女なら一発で落ちそうな色っぽく低い声で囁く。


少女はただくすぐったそうにしているだけだった。



「それに別に野心の方が大事だったってだけでもないんでしょ?私を困らせたくなかったって言ったじゃん。」



「……相変わらず大雑把なやつだな。まぁ、いい。」



少女に図星を突かれた男は照れ隠しに素っ気ない態度をとる。








「奏、共に生きよう。」





「うん。ずっと一緒だね。」








2人はそう言って幸せそうにお互いの体温を感じていた。

2人は今この瞬間を"生きている"。



過去にタイムスリップして歴史を変える感じの小説が多いので、逆に変えないのを書きたくて書きました。



でも、本当に変えないと確実にバットエンドなので、そこはファンタジーの力を借りてハッピーエンドにしました!


ファンタジーは奇跡に始まり、奇跡に終わるんです。

それを信条に書いています。



あと、どうでもいい裏設定なんですけど、実はタイムスリップじゃないんです。


だって、調べたら織田信長結構な歳ですし、戦争一つに何年もかかるし、時代設定が難しいし………


じゃあ、一体なんだって?ご想像にお任せします。



ちなみに、続編はありませんが、番外編なら書くかもしれません。

後日談とか。

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