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ファンタジー短編集(中編集)  作者: はくびょう
やる気なし少女は天下人に飼われる
12/43

2





「……おい…」





うん?なに?もう少し寝かせてよ。





「……おい!」






だから、もう少しくらいいいでしょ。

ん?なんか、寒いなぁ。





「おい!」



「……寒い。」



彼女はまだ寝ていたかったが、男の声と寒さに耐えかねて目を覚ました。



「うん?……ここどこ?」



寝惚けた頭を働かせようとするが、全く回らない。



「おまえ、何者だ?どこから入った?」



「……誰?」



男は少し眉をひそめた。



「だから、俺がおまえにそう聞いている。小娘が紛れ込めるほどこの城の警備は容易くないはずだ。」



「んー?……ん?えーと……私は確か川に落ちて……ん?城?」



彼女は周りを見渡してようやく自分がいるところがおかしいことに気がついたようだ。


畳みの部屋は日本人である彼女にとって違和感がなかったが、よく見ると天井や部屋の作りが木造であった。


そして、部屋にはかぶとや刀といったものが置いてある。それらは普通博物館などでしか見かけないものというのが彼女の認識である。



「本当だぁ。お城っぽーい。」



「ぽいではなく、城だ!……はぁ、調子が狂うやつだなぁ。」



本来なら城に侵入した不審者は直ちに捉えるべきであったが、その少女があまりに間抜けに寝ていたので、男は気まぐれを起こしたのだ。

もちろん少しでも不審な動きをしたらすぐに叩き斬るつもりで。



「そもそもなんでそんなに濡れているんだ。」



彼女はビショビショの状態で寝ていた。

そのため、畳みに水が染み込んでいる。



「川に落ちたからかな?」



「川?そういえば変な着物を着ているな。」



「着物?違う違うこれ制服だよ。」



「セイフク?」



「…………ねぇ、今って何年?」



彼女は先ほどから感じていた違和感の正体に薄々気が付いていた。



「はぁ?そんなの元亀げんき元年に決まって……」



その男は少女が年号を聞いてきた訳について思考を巡らせ始めた。



「うわぁー、そもそも西暦でさえないよ。げんきっていつくらいなのかなぁ。」



「……お前、まさか他の時代から来たなんて寝惚けたこと言い出すんじゃないだろうな。」



妙な格好をしている娘だと男は思っていた。そして、その着物の生地はかなり上等なものであることにも気がついていた。

上等な生地、妙な格好、非常識なまでの呑気さ……当初男はその少女のことをバテレン(外国)の出身かと考えていたが、彼女の言葉には違和感を感じない。

ただ時々意味のわからない単語を発すること以外に関しては。



「うん。たぶんそう。」



「……証拠はあるのか?」



「うーん、今が何年かわかれば言えるかもー。……あ!ケータイ見る?」



「けぇたい?」



彼女はスマートフォンをその男に見せて、いろいろ解説を加えながら様々な機能を教えた。


その男は博識であったため、国外にこの国よりよほど発展した技術があることは知っていた。

しかし、男はその「けぇたい」というものがこの時代の技術では作るのは不可能であると判断した。



「……確かにこのようなものを作れる技術はどの国にもないだろう。」



「私の時代じゃ、一人一台は持ってるけどねー。」



「このようなものをか?おまえの家が裕福なのであろう?」



少女は男が自分の服装を見ていることに気がついた。



「あ、これね、セーラー服って言って学生……えーと、寺子屋?に通う女の子はみんなこの格好なんだよー。だから、うちの家は別に裕福ってわけじゃないよ。」



少女はこの時代がいつの時代かはまだ知らないため、寺子屋という言葉がもうできているかも知らなかったが、歴史の授業を思い返して答えてみた。


厳密に言うと、セーラー服以外にもブレザーや私服の学校もあるがややこしくなるので、とりあえずそういう説明でいいだろうと少女は考えた。

つまり面倒だったのである。



「このような上質な着物を寺子屋で?しかも、子供にか。おもしろいな。」



側から見ると凶悪そうな笑みを浮かべていたが、本当におもしろそうに笑っていた。




「おもしろいかなー?」



少女は男がなんで笑っているのか理解できず、首を傾けた。



「おまえ、名を何という?」



先ほどから会話をしている二人だが、まだどちらも名乗っていないのである。

少女は完全に忘れていただけだが、男には考えがあってのことだった。



「んー?西崎奏にしざきかなでだよ。」



「奏か。俺の名は"織田信長"だ。未来から来たのだから、天下人の名くらい知っているだろう。」



ニヤリと笑いながら織田信長と名乗った男は少女の反応を待っていた。

男はまだ天下人と言える存在ではなかったが、男の野心はそれを欲していた。


男は自分が天下を取ることを確信していたが、そう言われた少女がどのような反応をするのか見てみたくなったのだ。



「うっわー、思ってたより有名人だったぁ。」



その期待に反して少女の反応は微妙なものだった。

織田信長の名は知っているようだが、「天下人」という言葉に対する反応はなかった。


ただ単に少女が聞き流したのか、それとも……



「はっ、天下人を否定しないのだな。」



暗に自分は天下を取ったのだなと言っている。



「だって、この時代の城主さまならみんなそんなこと言ってるでしょ?それに織田信長って特に野心家なイメージがあるし。」



「いめーじ?」



「えーと、印象かな?」



嘘は言っていないと少女は心の中で言い訳をした。

実際歴史上の織田信長は天下人と言っても過言ではないが、天下統一を成し遂げたのは豊臣秀吉である。



「ほぉー、なら俺は天下を取るのか?」



少女は自分が知っている歴史を教えない方がいいと考えた。

歴史を改変すべきではないなんていう大層な理由ではなく、教えたら面倒なことになりそうだと思ったからだ。



「そんなことわかったら、これからの人生つまんないでしょ?それに取るつもりなんだから確認する必要なんてないんじゃない?」



少女はこれまでの呆けた表情ではなく、小悪魔のようにニィーッと笑った。



「ふはははっ!それもそうだ!俺の人生は俺が決める!お前がなんと言おうとな!」



男は心底おもしろそうに笑った。

言葉の通りたとえ少女がなんと言おうと男は自分の生き方を変えるつもりはなかった。

ただ単に少女の反応を見てみたかっただけであった。



「おまえは俺のことをどれくらい知っている?」



「えーとねー、最近授業でやったばっかだから、大きな事件は大体知ってると思うよー。」



たまたま授業てやっているところで、しかも珍しく寝ないで聞いていてよかったと少女は思った。



「そうか。数日前に将軍・足利義昭様を奉じたといえばわかるか。」



男はこの時代の年号がわからない少女のために最近の大きな出来事を述べた。



「あー、それならここは岐阜城かー。」



少女は大体の時期がわかったようである。



「おまえ、どうせ行くところもないんだろう?ここに住め。」



「え?いいの?」



「俺はうつけ者らしいからな。城に小娘の1人くらい飼ってもおかしくないだろう。」



尾張の大うつけというのが男に対する幼少期からの周りの評価であった。

しかし、今となっては男をそう呼ぶ度胸がある者などほとんどいない。


少女は少しムッとした。



「飼うって私はペットじゃないんだけど…」



「ぺっと?まぁ、犬猫と違っておまえの未来の話はおもしろいから飼う価値はある。」



ニヤリと笑いながらそんなこと言われてもうれしくないと少女は思った。

だが、大人しく飼われるしかこの時代で生きる方法なんてないこともわかっていた。

そして、この男は自分を決して悪いようにはしないだろうということも。



「まぁ、何はともあれ、お世話になります。」



少女は満面の笑みで微笑んだ。



そうして能天気な少女と後に天下人となる男の共同生活が始まったのである。

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