スーツの破壊力
甘海から飯に誘われて、数分後。
「甘海さんとデート…」
「デートじゃなかっ!飯たい」
「どっちでもよかろうもん」
約束まで時間があり、四人はソワソワする。
蓮司はヘアアイロンとワックスを出してる。
叶芽は普段使わないハンドクリームを塗ってる。
海都は歯磨きをしてる。
迅は携帯で、女の子との話し方を調べている。
「皆どしたと?らしくなか…」
「叶芽ってハンドクリーム持ってたんや…」
「れ、蓮司だって髪整えてるじゃん!」
「てか夏牙…俺に内緒で甘海さんと連絡先交換しとったとは…」
「おい蓮司…追い香水はやめ…臭っ!」
傍から見たら、カオス状態だろう。
何千万回も結婚してるため、甘海のことはよくよく知っている。
あと、蓮司がいつもより香水臭い。
「甘海ちゃん……ワンピース姿なんだろうなぁ」
「だと嬉しいよねぇ…甘海さん可愛いもん」
「あぁ。甘海は清楚が似合うけん」
そう思っていたのだが、現実は厳しかった。
この日の甘海の服装は、男子高校生にとって危険だった。
****
約束の時間になり、俺達は身なりを整え、彼女を待っていた。
「甘海さん…遅いね…」
「まさか……」
時間になっても甘海は来ず、まさかと思った時─。
甘海は来た。
「はぁ…はぁ……ごめんなさい…迷ってしまったわ」
「甘海…焦らんでよか!」
「急遽なのに…ありがとう。ふふっ」
「「「「「っ」」」」」
この日の甘海は、スーツ姿だった。
しかも、パンツスタイルのスーツ。
パンツスタイルでも凄く似合っていた。
「時間も近付いてるし、そろそろ行きましょう」
この時、俺達は甘海の姿に理性が揺らぐことを知らなかった。
店に入り、席に座ろうとする。
だが、ここで問題発生。
「俺が甘海さんの隣が良か!」
「いや俺たい!」
「僕!」
「俺たい!」
「俺や!」
「………夏牙君、隣いいかしら?」
「「「「っ」」」」
五人で、甘海の隣を独占する争いが始まった。
でも甘海は俺を隣に座るよう促し、次第に四人も座った。
「よろしければ、ジャケットお預かりいたします」
「ありがとうございます」
ここは、博多駅付近のフレンチレストラン。
サービスの方が甘海のジャケットを預かろうとするも、これがいけなかった。
甘海がジャケットを脱ぐと、豊満な二つの膨らみが強調されてしまった。
その小柄な身には釣り合わないぐらい大きく、俺達の目線はそこに向かっていた。
「(え……デカい…)」
「(柔らかそう…)」
「(釣り合わんデカい乳房たい……ごくっ)」
「皆さん……?」
そして何より、甘海が無自覚なことで余計に目のやり場に困った。
「こちら、前菜でございます」
「…あ、ここ僕の父さんの知り合いのお店だ…」
「そういえば、俺の父ちゃんもここに肉卸しとる」
「俺も貝や海老、魚もここに卸しとるたい」
前菜は相変わらず美味い。
「美味しいわね…皆と食べるからかしら」
「「「「「(その発言…ずるいっ!)」」」」」
甘海が、無自覚な発言もする。
俺達の心は、甘海を見る度に高鳴ってしまう。
「お手洗行くわね」
「お、俺も……」
「僕も…」
甘海が席を立つ。
だが、甘海が背を向けるとあるところに目線が行く。
「………良か尻…」
蓮司が思わず言葉を零す。
気まずくなったのか、叶芽も俺も手洗いに向かう。
****
「はぁ……甘海、無防備たい…」
「甘海さんって……スタイルも抜群なんだね」
「叶芽、お前そういう趣味あったと?」
「そりゃ思春期だし…。夏牙だってじっと見てたじゃん」
手洗いで、叶芽と二人で話す。
普段僕っ子で大人しい叶芽に、思春期な一面もあったとは思いもしなかった。
「まぁ…そりゃあ、俺…甘海と何千万回と人生共にしとったけん」
「何千万回……じゃあ…甘海さんと夏牙は転生したってこと?」
「そうなるたい……。名前も姿も違ったけど色んな甘海がおった…」
そう。
俺はまだ四人に、何千万回もの人生を打ち明けていなかった。
それらの人生には、色んな甘海がいた。
砂漠の踊り子、氷河期のシングルマザー。
女騎士やシスター。
妖怪や戦火の看護師も。
とにかく、色んな甘海と人生を送ってきた。
「この話…僕以外にした?」
「まぁ…迅には内緒にしとるたい。叶芽以外話はしてなか」
叶芽に、この事を話す。
でも、いつか迅、蓮司、海都に話さないといけない。
「そっか…迅は知ってそうだけど…」
「まぁ…とにかく、話すと長くなるけん。今度五人で話すばい」
「どうして…?」
「俺が今世で生きるための…ケジメやけん」
俺が今世で生きるための、ケジメとして。
「そっか。あ、海都からLINE…魚料理来たって」
俺達は手洗いから戻った。
****
「美味しいわね…このお魚好きだわ…マスタードの効いたソース…新しいわね…」
「これは真鯛たい。身がふっくらして美味か…」
「甘海ちゃん、この髪…生まれつき?」
席に戻ると、蓮司と迅、海都が甘海と話していた。
しかも、楽しそうにしている。
「あらお二人さん。魚料理来たわよ」
「美味しい…僕これ好きだ」
「美味か……」
甘海が隣にいる。
隣とはいえ、近過ぎる。
前世で何度も彼女と結婚してたのに。
今世では難しいと分かる。
「夏牙君、口にソースついてるわ」
そう言われ、ソースを拭われる。
顔が近く、ドキッとする。
「夏牙…耳真っ赤やん」
「甘海さんにデレデレやん」
「うるさか…」
「うふふっ…可愛い」
極度な方向音痴な甘海だが、まさか恋愛でも方向音痴だったとは。
目のやり場に困り、目線を下げる。
だが、一つのことに気付いた。
「…………」
「夏牙君?」
甘海のシャツがパツパツなことに。
胸元がはち切れそうだった。
「なんか、胸がキツいわねぇ…太ったのかしら?」
「あ、甘海ちゃん…」
「甘海さん……」
そして、見ていけないものを見てしまった。
「きゃっ」
胸元のボタンが弾け飛び、胸元と下着を見てしまった。
「「「「「「…………」」」」」」
「……まさかの黒…」
「谷が……」
それは予想以上に豊満だった。
その光景には、思春期男子には危険だった。
次にメインの肉料理があるというのに。
「甘海、これ着とき」
「ありがとう…」
俺はパーカーを脱ぎ、甘海に着せる。
俺のサイズが大きいから、甘海が切ると、膝上まで隠れるようになった。
「夏牙君の服…大きいわね」
「百九十三センチあるけんね…」
「夏牙…やってること彼氏なんよ」
ダボダボで、萌え袖にもなっている。
「あまりにも似合っててる…可愛い」
「皆、そろそろメイン来るで。鴨と牛のローストやって」
甘海のその姿にドキドキしてる空気を区切るように、迅がメインのことを話す。
「まぁ!男の子だからお肉好きでしょ?」
「もちろんたい!鴨、めっちゃ美味かけん…」
「お前、普段は魚派やろ」
しばらくしてメインが来て、最後のデザートが来た。
「ミルフィーユ…綺麗ね」
「ミルフィーユは僕のお店でも人気だよ。今だと苺のミルフィーユが人気なの」
「叶芽君のお店…行ってみたいわ」
苺のミルフィーユが運ばれた。
カスタードクリームに苺、サクサクのパイ生地。
周りにはピスタチオと粉糖があしらわれ、アイスも盛られていた。
「美味しいわ…」
「このパティシ…カスタードクリームはコアントローが効いてる…」
「甘海ちゃん…苺、似合う…」
ミルフィーユももちろん美味しかった。
美味しいものを食べて、頬が緩む甘海。
何千万回もの人生では、現代みたいに十分に食べれなかった時代の方が多かった。
だから今世では、お腹いっぱい食べさせたいと思った。
……To be continued
第四話を読んでいただきありがとうございます。
今回は甘海の入学式後のご飯のシーンを書きました。
次回は、夏牙達の学校生活を描きます。
それではまた。




