手料理は恋の味
「なんで一人で引っ越ししとると?」
迅が尋ねる。
すると甘海は困ったように笑った。
「実は…引っ越し業者が途中で事故に遭ったのよ…」
「えっ?」
「本当は業者さんにお願いしてたのだけれど…」
俺達は驚いた。
引っ越し業者が事故に遭ったこと。
引っ越しの繁忙期なのもあり、代わりの引っ越し業者が見つからなかったこと。
これだけの量を一人で運ぼうとしていたこと。
「そうなんや……え、これ全部?」
「えぇ。まだ三階にもあるの」
「…………」
事情は理解したものの、見てしまったからには見過ごすわけにはいかない。
「僕、手伝うよ」
叶芽が袖を捲る。
「俺も」
「俺も」
「俺も…夏牙も、やるよな?」
「当たり前たい!」
他のメンバーもやる気になる。
「えぇ…わ、悪いわぁ…」
「遠慮せんで良か。こんな美人さんにやらせるわけにはいかん」
迅が笑う。
「迅、駆け抜けはダメやろ」
「近くで見ると更に可愛かけん」
「……まあ、皆で運ぶばい」
甘海だと分かって数分。
胸の奥が痛くなる。
でも余計なことを考えない。
****
「食器棚組み立て終わり!」
「ここのテーブルも終わったよ…」
「あとは…」
「ここはどこね?」
「この箱どこー?」
「ええと…これは…この部屋よ」
ダンボールは部屋の中に運ばれ、家具を組み立てた。
荷物も少しずつバラす。
「ふぅ…かなり進んだばい」
「あの…私、買い出し行きたいのだけど…お留守番お願いしてもいいかしら?」
「「「「「良かっ!」」」」」
甘海は買い出しに出掛ける。
部屋は男子だけになる。
さぁ、この思春期男子だけを女子の部屋に集めるとどうなるのだろうか。
「なぁ…この箱見ろよ」
「止めとけよ…」
「そうだよ。服かもしれないよ?」
「関係なかっ!可愛い子の服見るくらい問題なか」
蓮司と海都がある箱を見つけ、興味津々で開ける。
叶芽と迅は止めたものの─
この日、俺達は見てはいけないものを見てしまった。
「おぉ………デカくね?」
「これ…小さく見せるブラだよな?」
「お前ら…知らんぞ?」
「俺達思春期男子ばい?」
まさかのブラジャー。
しかも─胸を小さく見せるブラらしい。
にしてはサイズも大きい気もするが─。
「顔も可愛いだけじゃないんや…」
「水着とか似合いそうたい…」
「しかも……カップ数は……「そ、掃除しよ!掃除」
今世の甘海は、小柄なのに胸は豊からしい。
確かにサラシも巻いてた時代もあったが─。
いや、四人にペースを置いてかれそうだ。
叶芽に関しては、鼻血も出てしまってる。
「叶芽…大丈夫ね?」
「うん……甘海さん、こんなの隠し持ってたなんて…」
「ま、掃除して待つたい」
ダンボールを片付け、部屋を掃除して二時間後。
****
「甘海…戻って来ないな」
「もう夜の六時なのにね…」
時計は夜の六時を過ぎていた。
足りないものが多かったのだろうか。
「ただいま…」
甘海が帰ってきた。息を切らしてた。
「おかえり…遅かったとね…?」
「えぇ。徒歩五分のスーパーに行こうとしたのだけれど…」
「うん…まさか……」
甘海が買い出しに二時間掛かった理由、それは─
「道に迷ったのよ…行きも帰りも大変だったのよ…」
極端な方向音痴だからだ。
砂漠の世界でも、氷の世界でも、とにかく沢山迷っていた。
特に、今世の甘海の方向音痴は酷かった。
徒歩五分のスーパーへ行くにも三十分は掛かったのだから。
「甘海ちゃん、方向音痴なんだ…」
「そうなのよ…あ、お礼したくて…ご飯の材料買ったの。掃除もしてくれたから…なんか作らせてちょうだい」
四人は、甘海の方向音痴さに驚いた。
がすぐに、表情は柔らかくなった。
何故なら─甘海がお礼に手料理を作るからだ。
「可愛いうえに料理まで…」
「しかも大き「甘海さん…エプロン姿可愛い」
「叶芽…まだ鼻血止まんないの?」
「甘海、何作るの?」
海都が甘海に何作るか聞いた。
「トマトと鯖のグラタン、ほうれん草胡麻和え、ガパオライスよ。海都君お魚好きだし、夏牙君と迅君はお肉好きだし…」
「最高…!鯖も大好き…甘海神…いや、女神!」
「…………結婚したい」
「「叶芽っ!」」
海都は大歓喜するものの、叶芽は一言で表す。
「叶芽って……初心なの?」
「うん…可愛くて好きなもの覚えてくれて…好きにならない理由ないじゃん…」
「甘海ちゃん手際いい…」
「料理は得意なのよ」
「方向音痴なのに…?」
「それは言わんお約束たい」
そして、二時間もしないでご飯が出来た。
「めっちゃ美味そうたい…」
「いや、もう既に美味いんだよ…」
「ついでにね…デザートも作ったの」
「甘海さん……僕と結婚しない?」
「叶芽っ!」
テーブルいっぱいに料理が並んだ。
「今日はありがとう。明日、冷蔵庫や洗濯機は代わりの業者さんが運んでくれるみたい」
「良かった…」
甘海曰く、明日には代わりの引っ越し業者が来るらしい。
海都が一番に箸を付けそうなのを迅が止める。
「今日はありがとう。お礼にご馳走作ったから食べましょう?」
「「「「「いただきまーすっ!」」」」」
一斉に俺たちは甘海の料理に箸を向ける。
一口を、口に入れる。
「美味……美味えよ甘海さん!美容にも最高やっ!」
「美人で料理上手…ぼ、僕家がケーキ屋さんでさ…今度来ない?」
「叶芽ずるっ!お、俺も実家肉屋でさ…肉屋の嫁も…悪くない。美味い…幾らでも食える」
「俺はどうだ!父ちゃんが漁師で俺も漁師に…今度北九州来てくれよ!」
四人が一斉に話す。
この瞬間、俺は理解した。
この四人も、今世の甘海に一目惚れしたことを。
「……………美味か…」
「良かったわ。おかわりいる?」
「「「「「いるっ!」」」」」
確かに甘海の作る飯は最高だった。
この出会いが、俺たちの青い春をより一層濃くする。
「ふふっ…沢山食べるのよ」
甘海のその笑顔が、その証だった。
……To be continued
第二話を読んでいただきありがとうございます。
九州男児 × 天然美少女 のラブストーリー、これからも宜しくお願いいたします。
それではまた。




