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何万回目の初恋  作者: 檻 依舞 (おりーぶ)


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1/6

「初めまして」は何万回目?


高校一年生が終わり、春休み。


福岡の街は、少しだけ桜に染まっていた。

九州は特に暖かい。


俺─賦谷夏牙は、博多区の自宅で昼飯をかき込もうとしている。


「やっぱ白飯はうまか…!」


勉強は好きではないが、運動は好き。

そして何より─食うことが何より大好きだ。


「夏牙ーっ!」


インターホンの音はせず、玄関から声が聞こえる。


「なんね」


「やっぱ飯食ってたかー…今日お前ん家で遊ぶ予定やったと忘れとったん?」


「忘れてはなか!腹減っとっただけたい」


玄関を開けると、男子四人が立っていた。


「お前は変わらんねぇ…この幼馴染よりも飯飯…」


今俺と話してる男子は、肉倉迅。


幼稚園からの幼馴染で実家は肉屋。家も近い。


俺より小さいが、皆をまとめるしっかり者だ。


「昼時やけん」


「後で店の廃棄の肉持ってくるわ…昼も五号なん?」


「当たり前たい!」


「当たり前たい!じゃなか…その体格と顔でなんで彼女出来んと?」


皆を中に入れ、適当に過ごす。


「俺からしたら、米と肉と明太子が恋人たい」


「それ人じゃなかろうもん!」


そう。こう見えて俺は、何万回─いや、何千万回と人生を繰り返しては、ある女性と出会い、人生を共にしてきた。


「やっぱ迅の店の肉は美味か!」


「夏牙。今日ね…試作のタルト持ってきたの。後でみんなで食べよう」


俺の横で、細身の少年が笑う。


彼は、九呼叶芽。


中性的な顔立ちで、一番細身だが、身体能力は俺に次ぐ。


八女市のケーキ屋で、パティシエ志望。


さらにその横。


「夏牙、顔貸して」


「なん」


「お前、肉ばっかやなくて野菜も食え」


「なんでや」


「よく見たら肌荒れてるんよ!顔立ちは良かけん、もう少し気遣わんと…もったいなか」


香月蓮司が俺の顔を覗く。


こいつは美容好きで、香水臭い。


「あとちゃんと寝とる?昨日何時に寝た?」


「知らん」


「寝不足は肌に悪いとよ」


「お前は俺の母ちゃんか」


そして最後、唐隅海都が口を開いた。


「今日の昼飯なん?」


「米や」


「それ以外は…?」


「肉しかなか」


「魚は…?」


「知らん」


「やっぱお前とは食の好み合わんたい」


「お前が魚ばっか食うからやろ」


「魚は美味い」


「肉の方が美味い」


「魚」


「肉」


「魚」


「肉」


海都は魚派で、俺は肉派。


彼も俺の次に食うものの、食の好みが合わない。


「…また始まった」


迅は呆れる。


「いつも通り、平和だね…」


叶芽も蓮司も、スマホをいじりながらそう思う。


この五人は、タイプもバラバラだった。


高校入学当時に大喧嘩したこともあったが、

この一年間を一緒に過ごすうちに、いつの間にか親友になっていた。


そして、休みが合うと皆で集まって遊ぶ。


それだけだった。


この日までは。



****



夕方になると飽きて、外に出る。


「…お?」


迅が足を止め、皆でその方向を見る。


「どしたと?」


「引っ越しかな?重そうだなぁ…」


近くのマンション。


入口にたくさんのダンボールが積まれていた。


そして─俺は運命の出会いをしてしまった。


「…………」


そのダンボールを一人で運んでる少女がいた。


「…………」


五人の視線は止まる。


小柄な体。


細い腕で大きなダンボールを抱えてる。


ミルク色の髪が春風に揺れて靡く。


淡い色のワンピース。


「………あの子、可愛くね?」


海都が呟く。


「うん…。凄い美人」


叶芽も顔を赤く染める。


「何あの子…」


蓮司も開いた口が塞がらない。


「めっちゃ可愛か…」


迅も思わず言葉が出る。


皆、あの子に一目惚れをしてる。


「…………」


でも俺だけは、違った。


初対面─?この人生ではまだ一度も会ってない。


知らない。なのに─


胸の奥が、大きく脈を打つ。


この気持ち、知らない。知りたくない。


なのに─どうして。


「……甘海?」


口から名前がこぼれた。


「「「「えっ?」」」」


「あの子、知っとーと?」


「知らん」


「でも名前言ったよね?」


「…言っとらん」


四人がこっちを見るも、俺自身も驚いた。


でも俺の目はずっと、甘海を見ていた。


少女が大きいダンボールを持ち上げる。


その細い腕で、どうやって運ぶのだろう。


気付けば足は彼女のいるとこへ進んでいた。


「おい…!夏牙」


「………」


「夏牙!らしくないよ!」


「どうしたと!」


四人の声は聞こえる。


でも、それよりも、大事なものがあった気がした。


「うぅ…重いわ…」


少女は持ち上げるも、細い腕がプルプルしてる。


俺は腕を伸ばし、支える。


「大丈夫ね?」


少女が顔を上げる。


ぱっちりとした、大きな瞳。


柔らかい表情。


「まあ…」


彼女は微笑む。


「ありがとうございます」


その瞬間。


俺は、世界から音が消えたように感じた。


何万回もの人生で見てきた、その声、表情。


笑い方を。


何回も、何万回も、何千万回と見てきたのだから。


「夏牙、お前…!」


「あら…お友達?」


「そうたい」


四人が駆け付ける。


「まあ…」


その表情を見て分かる。


今世の彼女は、今の俺を─何千万回もの人生を知らない。


「あのさ…名前聞いても良か?」


それでも、恐る恐る名前を聞く。


「……杭幕甘海よ」


「……甘海、か」


「?」


杭幕甘海。


彼女こそが、俺が何千万回もの人生で人生を共にしていた女性だ。


妻として。


敵として。


幼馴染として。


家族として。


何千万回も、お互いは名前で呼んでいた。


「……お名前、聞いても?」


「お、おう…俺は………「肉倉迅!」


「僕は九呼叶芽」


「香月蓮司」


「唐隅海都!魚派!」


「何でお前らが先言うと!」


甘海が名前を聞く。

しかし、四人に先に答えられてしまった。


「まあまあ…」


「皆素敵なお名前ね……あなたは?」


「……賦谷夏牙たい」


「夏牙君ね?よろしくね」


今は。


初めましてでいい。


そう思った。


何千万回も人生を共にした彼女と。


この人生では、もう一度─最初から恋をする。




……To be continued

第一話を読んでいただきありがとうございます。


この度、新しい作品『何万回目の初恋』を連載いたします。


お楽しみに。次回もお楽しみに。それでは。

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