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食堂店員兼勇者  作者: 平民
五章 現実世界

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63.三人デート(後編)

「てかさ」


 ハヤミが不満げにヤマトを睨みつける。


「兄貴がちょっと離れればいいでしょ。ユラが困ってるじゃん」

「断る。離れる理由がない」

「はあ?」


 二人の間で空気がピリッと張り詰める。


「ユラの隣はあたしのポジションって決まってんの。そこどいてよ」

「そんなものは決まっていない。お前の場所でもない」

「決まってるの。あたしの白馬の王子様なんだからさ」


 睨み合いはほんの数秒だったが、見えない火花がパチパチと飛び散る。


「……あのさ」


 挟まれて身動きの取れない俺は、思わず苦笑交じりに口を挟んだ。


「そういう不毛なキャットファイトは他所でやってくんない?」

「「ユラは黙ってろ!!」」


 完全にハモった怒声が同時に飛んできた。そのまま俺を飛び越えて睨み合いが継続される。なんなのこれ。もう勘弁してほしいんですが。


「ふふふ、あははは!」


 ハヤミが耐えきれずにふっと吹き出した。


「なによそれ、キモいほど息ぴったりじゃん」

「一応、血の繋がった兄妹だからな」


 ヤマトが呆れたように息を吐く。本気の喧嘩には発展しない。お互いにどこか余裕があるのは、これがただのじゃれ合いだと分かっているからだ。


「ま、いっか」


 ハヤミが肩をすくめる。


「今日は特別ってことで休戦。せっかくのデェトだし、楽しまなくちゃ損だしね」

「え、デート?」

「そう。あたしとユラのデート。兄貴はついでにいるだけの邪魔な付き人」

「お前がついでだろ。男同士の友情を邪魔するな」

「どこが友情なのさ。本当はもっと怪しい関係になりたいくせに」


 あーもう。この助平兄妹はーっ。

 もはや何を言っても無駄だ。俺を挟んでバカな言い争いするしさ、ホントこまっちんぐまちこ先生状態だわ。勘弁してけろおお。


「あ、まだファミレスの時間までちょっとあるね。近くに良い休憩所あるからさ、ちょっと休んで行こうよ。兄貴はどっかピンサロかソープでも行ってていいよ」

「行くわけないだろ。お前をユラと二人にする方が危険だ」

「休憩所?」


 俺がハヤミの指差した先を見た瞬間、思考が完全に停止した。

 派手なピンクのネオンと露骨なハートのシルエット。どう見ても一般人が入る時間帯ではまだない。


「ラブホテル、休憩、4800円」

「読むな!!」


 ヤマトが声音一つ変えずに看板を淡々と読み上げやがった。


「ば、ばば馬鹿か!こんな所行くわけねーだろうが!なんで高校の制服でここに入るんだよ!?変な撮影だと思われちまう!」

「えー、だってさ」


 ハヤミが何でもないことのように言う。


「ベッドはあるし、静かだし、二時間を潰すのにはいい場所じゃん」

「どこがだ!!そういう場所じゃないから、そこは!」

「えー、そういうってどういうの?教えてよ、白馬の王子様」

「知ってるくせに聞くな!!」


 顔が一気に爆発しそうなほど熱くなる。


「ハヤミがユラを襲う未来しか見えない。ユラ、今のうちに逃げた方がいい」

「休むだけって言ってんじゃん!」

「信用できない。顔が既に発情している」

「兄貴の方が危ないでしょ!あわよくばユラとあんな事しようと思ってるくせに!」

「否定はしない。機会があればいつでも」

「する気なのかよ!!」


 こいつらやっぱりシュミ悪すぎる。なんだってチー牛の俺とそういう事したいと思うワケ?普段モテモテなくせに俺を選ぶあたり、どっか頭のネジがいかれてんだろ。


「じゃあさ」


 ハヤミがニヤリと肉食獣のような笑みを浮かべる。


「ユラはどっちとラブホに行く?」

「行かねぇよ!!」


 なんで二者択一で、しかも行き先がラブホ限定なんだ。


「安心しろ、ユラ」


 ヤマトが俺の手を優しく握り直す。


「オレもこんな格安の場所は選ばない。もっと高級なスイートルームを予約する」

「だから行かねぇよ!!」


 全力否定の後、数秒の静寂が訪れた。ハヤミが、我慢できずにぷっと笑う。


「ま、冗談だって。ユラ、からかいがいがありすぎ」

「冗談に聞こえないんだよ!」

「顔真っ赤じゃん。オマセさんめ」

「うるせえ!!」


 完全に二人に遊ばれている。時々突拍子もないアホなことを言い出す二人だけど、このくだらないやり取りが俺は好きだ。

 命のやり取りも、殺伐とした空気も一切ない日常。時々シャレにならんスケベな事を言うのは勘弁してほしいが。


「……こっちだ」


 ヤマトが少しだけ俺の手を引いた。


「え?」

「普通の休憩所がある」


 ヤマトが指差した先には、小さな児童公園があった。ベンチと自動販売機もある。


「最初からそこを提案しろっつうの!」

「それな」


 ハヤミがケラケラと笑う。


「じゃあ、そっちのベンチでいいや」


 三人で公園に向かい、並んでベンチに座る。自然とまた距離が近くなり、左にハヤミ、右にヤマトという形になった。

 大通りの喧騒から少し離れたせいか、さっきよりも少しだけ静かだ。


「平和だな」

「平和すぎて変な感じだ」

「わかる」


 ハヤミも小さく頷く。


「……数時間前まで、十万の魔物を相手に死にかけてたなんて、信じられないよ」


 さっきまで必死に生きるために戦っていたのに、今はただ、穏やかな夕暮れの中で並んで座っている。


「でもさ」


 ハヤミが俺の肩に頭を預けて笑う。


「こういう時間も、悪くないじゃん」

「……うん」


 たまにこういう時間を味わいたい。こっちの世界だけじゃなくて、向こうの世界でも。

 だからこそ、魔王を倒さないといけないんだろうな。


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