表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食堂店員兼勇者  作者: 平民
三章 平民と貴族の腐敗

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/65

45.微妙な感情

「ヤマト様」


 柔らかな女性の声がした。

 一同が振り向くと、たおやかな女性が立っている。そして、カーテシーとやらをする。

 すっげぇキラキラしたドレスと完璧な立ち姿は、出来すぎた令嬢という感じで、全く隙がない。いくらしたんだあのドレスと、変な所で気になった。


「お待ちしておりました」


 優美に微笑む。作り笑いって感じだ。


「……遅くなりました」


 ヤマトが短く返す。だれだお前。

 王太子としての顔は、あまり聞いたことのない彼の敬語口調だった。普段を見ているからこそ、違和感が半端なかった。


「そちらの方が、勇者様なのですね」


 視線がこちらにも向く。

 優しい声ではあるが、妙に冷めた感じに聞こえた。


「あ、はい。ワタシです」


 ぎこちなく頭を下げる。


「お会いできて光栄ですわ」


 丁寧で綺麗なのに、形式ばって見える。


「どうも」


 ぺこりと頭を下げる。たしか、ヤマトの婚約者なんだっけ。事前情報をハヤミから聞いた。

 こんな綺麗な人なのに、なんだか冷めた雰囲気を感じてしまう俺は捻くれているのかもしれない。なんか眼がすんげー冷えてるように見えるし。

 

「ねーねー!白馬の王子ユラ様ぁ♡ハヤミとダンスおどりましょぉ」


 なんで今そんな呼び方なのキミ。


「俺、まじ踊れないんで無理」

「まあ、物は試しでしょ。経験しとこう。こんな経験一生できないでしょ」

「や、別に経験したくねえ。どうか別な人とご一緒に……」


 そう否定しているのに、ほら行きましょぉ~と、強引にダンスホールに連行される。


「そ、そげなぁあ!」


 ハヤミの腕力が強すぎて引きずられる俺は軟弱であった。



「え、えっと……」


 足がもつれる。


「ちょ、ちょっとユラ!踏んでる踏んでる!いたた」

「ご、ごめんちゃい!!」


 ぐちゃぐちゃ。リズムもくそもない。

 ハヤミは公爵令嬢だからさすがに巧いが、俺の出来のせいで台無しだろう。

 周囲の視線は見世物小屋の動物を見ている様で、くすくすと笑い声が響く。

 もはや自分がお笑い芸人だと思って割り切るしかない。


「いたっ!さすがにユラってばドヘタすぎ!ここまで下手だなんて思わなかった」

「だから言っただろ。無理だって。俺、オタ芸か盆踊りくらいしか踊れないよ」

「オタ芸って、ユラってキモヲタだったの?」

「わ、悪いか。美少女アニメ見まくってたチー牛ですよーだ!」


 開き直る俺は何言ってんだか。もう恥も外聞もない。開き直りだ。


「悪くないよ。どーんなユラでも、ハヤミの白馬の王子様には変わりないんだからっ」

「ハヤミ……やっぱり……」


 こんなチー牛に白馬の王子というキミは、


「ブサイク専門の人なんだってよーくわかった。趣味悪いよなキミ」

「はーーー!?ざっけんなユラの馬鹿野郎!!」

「いってえええっ!?」


 逆にハヤミに足を思いっくそ踏まれて、ぴょんぴょん飛びまわる俺であった。

 


 一方で、向こう側の中心のホールでは、周囲からため息が漏れていた。

 無駄がない綺麗な動きと自然な距離。美男美女の優美なダンスだった。

 ヤマトとスミカさんのワンマンショーのような空間が出来上がっている。

 会場がざわつく。


「お似合いだわ」

「さすがヤマト様とスミカ様だわ。両者完璧すぎる」


 賞賛の嵐で当然の光景。王太子と伯爵令嬢。美男美女の婚約者同士。 

 けっ、少女漫画のキラキラみたいな光景見せやがってヤマトの奴。俺のド下手なダンスとの差がひどいじゃないか。リア充爆発しろ。イケメンは滅べ。


 ヤマトの野郎をイラつくように見ていたら、胸の奥がちくりと痛んだ。

 神経痛か。イケメンにイラつきすぎたかな。


 しばらくして、サクラコさんとも一緒に踊った。

 もちろん俺のドヘタさが目立ち、すんげぇ笑われたのは言うまでもない。恥かかせてごめんサクラコさん。サクラコさんの巨乳に目がいってしまい、集中できなかったのも理由の一つだなんて言えねえ。

 でも、いいもーん。どうせ俺はお笑い芸人としてここにいるだけだ。勇者なんて肩書きだけ。笑いたければ笑うがいいさ。


「ユラ」


 振り向くと、妙に距離の近いヤマトがいた。

 あの冷たそうな婚約者とのダンスが終わったんだろう。

 なんか……今は一緒にいたくねーな……。

 なんでこう思っちゃうのかわからないけど。


「大丈夫か」

「……ぉ、おう」


 いろんな意味で大丈夫じゃないかも。だってあんなド下手ダンスを二度も見せちゃったから、勇者の名誉が地に落ちたのだ。そりゃ落ち込むって。

 でもうまく笑わないと。ちゃんといつも通りでいなくちゃね。


「平気だよ。笑われるのは慣れてるしな」


 俺は嘘つきである。


「そうか」


 ヤマトはそれ以上何も言わない。

 でも、その距離がなんか嫌だった。その軍服で近寄られると、畑違いの人間に思えて近寄りがたい。それに……胸がむかむかした。

 

「ちょっと便所行ってくる」


 逃げるように背を向けた。

 女子トイレに入り、静かな空間と鏡の前で深く息を吐く。勇者モードじゃない俺は一応女だからな。


「……なにやってんだろ」


 なんで逃げたのか自分でもワケワカメ。


「……変だ」


 いつもなら気にしない。

 誰が誰と踊ろうと、誰が仲良くしてようと、どうでもいいはずなのに。


「……どうかしてる」


 なんで胸の奥がむかむかするんだろ。

 理由が分からん。羨ましいのか。悔しいのか。寂しいのか。

 どれも違う気がするのに、全部そうな気もした。


 ただ一つだけ、はっきりした。

 さっきの光景を、ヤマトとあの婚約者がいる光景を見たくなかった。


 *


 貴族共の挨拶を終えて、仲間の元に戻ろうとしていると、ざわめきがすっと収まる。

 高い位置にカノン王が立つ。


「今宵は、勇者殿の活躍を称え、云々」


 言葉が続く。

 形式通りの用意された文章で、まったく中身がなくてスカスカだ。


「カノン王国は安寧を保ち、云々」


 どこか遠くから聞こえるような声。

 誰もが頭を下げ、誰もが聞いているフリをしている。

 つまらん。と、ヤマトは無表情で無感情でそれを聞いていた。


 そんな時、自然と視線が動いていた。

 無意識に探している。あいつを、ユラを。


 さすがにユラはトイレから戻っている頃だろうから、自然と目で追ってしまう。ずっと視界の端に入れたくなる。

 いないと落ち着かないほど、大きくなっているその存在。その事実に、ほんのわずかに思考が止まる。


 ……なんだこれは。


 王の演説が終わると、拍手が鳴って音が戻る。自分の意識はそこにはない。足が自然と動いて人を避ける。

 

 ユラ、どこに……。


 探し続けた先、いつも見ているオニキスと目が合った。しかし、一瞬だけ固まり、逸らされた。

 そのまま逃げようとするユラを、


「待て」


 手が伸びて腕を掴んでいた。


「っ……」


 止まるが、振り向かない。

 視線すら合わせようともしない。


「……なぜ逃げる」

「…………」


 返事がない。


「答えろ」


 柄にもなく、少しだけ圧が乗る。


「……ごめん……」


 謝罪は理由じゃない。


「はっきり言え」


 一瞬の間ができて、沈黙する。

 困惑の先に出た言葉は、


「……今は、一緒にいたくない」


 ユラの一言に、思考が一瞬だけ真っ白になる。

 言葉の意味は理解している。

 拒絶された。その事実だけがやけに鮮明で、受け止めるまでにわずかな遅れが生じた。

 明確に、自分自身が傷ついていた。


 *


 こんな事、言いたかったわけじゃない。

 ヤマトとあの婚約者の人だ。

 完璧に並ぶ姿は、妙に胸の奥がざわついて、嫌な気分になってしまう。


「ヤマト様」


 その時、ヤマトの婚約者のスミカさんが近づいてくる。


「何をしているのですか?」


 状況を見て、こちらの距離と空気を察しようとしている。

 妙に近い距離間に変に罪悪感を感じてしまい、俺は慌てて腕を振り払った。


「な、なんでもないでーす!ちょっとウンコしたくなっただけですんで」


 一歩下がる。


「でわ、失礼します!」


 逃げるようにその場を離れた。

 言えることは、別にウンコをしたいわけではないという事だ。

 そして、自分自身がどこかおかしいという事だけ。


「……はぁ……」


 会場から出て、止まって壁に手をつく。


「……やっぱり、変だ」


 自分でも分かる。いつもならあんな態度を取らない。

 ヤマトとは普通に話せたはずなのに、なんで。そりゃ不愛想で無口で、何考えているかわからん部分にとっつきにくい所もあるが、嫌いじゃないのにな。

 笑って、くだらない事を言って、それでよかったのに。


「……なんなんだろうな」


 メンタル系の病気でも患ってんだろうか。うつ病かな。

 最近、修行でメンタルやられたしな……。

 それともイケメン滅びろと思いすぎた僻み根性か。



「きゃああああ!!」


 その時、けたたましい悲鳴が響いた。

 ホールの方である。そこらじゅうの空気が一変し、ざわめきが大きくなる。

 何かが壊れる音とガラスが砕ける音がして、顔をあげる。


 これはただ事じゃない。

 急いでホールへ戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ