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食堂店員兼勇者  作者: 平民
三章 平民と貴族の腐敗

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40/66

40.車で移動

「場所は国境付近……数百キロか」


 ヤマトが地図を見ながら呟く。

 それなりに遠いし、数日はかかる。

 親父やバイト戦士に店をお願いしてきたが、敵の度合いによってもっと時間がかかるかもしれない。


「馬車じゃ何日かかるんだっけ。えーと……ひいふうみい。俺、暗算できねー」

「あーんあたしも計算できなーい。指が足りないよー!」

「足りないのは頭だろ」

「こんのクソ兄貴!!」

「まあまあ」


 ハヤミがヤマトに飛び掛からん勢いなのを、俺が羽交い絞めで止める。

 もう、こういう時に兄妹喧嘩はやめてくれい。


「もっと早く行ける方法、あるな」


 ヤマトの目が細まる。

 30分後、王都の出入り口を出た瞬間、空間が歪むように揺れて、()()が現れた。

 黒塗りの大型車両。重厚なボディで異質な存在感。この世界には明らかに存在しない代物。


「SUVだ」


 ヤマトが淡々と言う。


「は!?なんでそんなもん出てくんの!?」

「ブラックマーケットで買った」

「ブラマケなんでもありかよ!!」

「乗れ」


 すぐにドアを開ける。この世界では見たことのない構造なのに、わかってしまうのは元日本人だからだ。

 全員、迷いなく乗り込む。

 

 ここでなぜか俺の隣を巡っての座席争いが勃発したが、割愛。

 だって不毛な争いだし、いつもの事だし。あえて言うなら、ハヤミとサクラコさんとダイゴローが俺の隣がいいと言い争っていた。でも最終的に三人が争っている間に、ヤマトがしれっと俺を助手席に座らせて争いは終幕した。

 恨みがましそうな三人に、なんか勝ち誇ったヤマトの顔が印象的だった。


 なんでそんな嬉しそうにしてんの。あと後部座席にいる三人の視線が痛いんだが。


「く、車があるなんて驚きました!」 


 ハチベエさんが震えた声を出している。

 俺も驚いたよ。この世界でそれを見れるなんてさ。


「え、ハチベエさん知ってるの!?」

「その反応ですと……」


 ハチベエさんの目が見開かれる。


「もしや皆様……元の世界は……!」

「あとで説明する。シートベルトを締めろ。舌を噛むぞ」


 ヤマトがエンジンをかける。


 ブォォオオン。


 爆音は魔力とは違う振動だ。妙に聞きなれた音は懐かしさすら感じる。


「うわあああっ!?」


 ダイゴローがはしゃぐ。


「すごい!はやい!車だーー!」


 SUVは一気に加速した。

 誰もいない広い荒野を爆走し、150以上は出ている。

 風景がどんどん流れる。馬車では味わえないありえない速度で爽快だ。


「……やっぱ車は早いわぁ。馬車みたいにクソ遅い乗り物とは違うね」


 ハヤミがは大はしゃぎで笑う。


「あたしもバイクほしいなー。今度ハーレー買って兄貴」

「うるせぇ。黙って掴まってろ」


 ヤマトがハンドルを切る。

 荒れた地形とデコボコした舗装のされていない道を進む。

 結構揺れるので酔うかもしれない。一応、酔い止め飲んでくりゃあよかった。


「ヤマトは車の運転できるんだ」


 免許?そんなものこの世界には不要だ。


「購入と同時に、脳内にUIが展開しているから自然とできるようになる」

「どひゃー。すごすぎだぁ」


 やっぱりブラックマーケットってチートだ。

 便利なもの購入できて、運転できるようになるなんてどうなってんの。


「あの、購入資金って……」

「オレの小遣い」

「えっ」

「一応、王族だから馬鹿みたいに金はある。今のレベルじゃ装甲車は無理だし、購入回数の制限もある」


 ハンドルを握りながらヤマトが言う。

 妙にハンドルさばきがサマになっていて、絵になっている所がさすがイケメンである。


「ぐうぐう」

「すやすや」

「むにゃ」

「ぐおおおお!ぐがー!」


 しばらくして、後部座席から寝息やイビキが聞こえてきた。

 でかいイビキはハヤミだろう。静かに眠っているのはサクラコさんとダイゴロー。ハチベエさんも疲れていたのか小さなイビキで顔が傾いていた。


「ぐがーぐがー!あにきぃ、おこづかいちょーらいぃいひひひひ」

「あん、だめ、ユラさん♡こんなところで、だめですってぇ。いやぁん」


 ハヤミの寝言がハヤミらしい。 

 つーかサクラコさんなんの夢見てんの!?え、エッチな声がするんだが。


「ユラぁ……けっこんしてぇ」

「…………やらん」


 ダイゴローの変なつぶやきに、ぼそりとヤマトが何かを呟いた。


「ん、なんか言った?」

「なんでもない。それより到着まで少しある。体を休めとけよ」

「あー、うん。でも、ヤマトが運転しているのに寝られないよ。ヤマトが眠くなるかもしれないからさ、俺が話し相手になる」

「……お前」


 ヤマトが一瞬だけ言葉を切る。

 ハンドルを握ったまま、横目でこちらを見る。


「そういうとこだぞ」

「え?」

「無駄に気を回す奴だ」


 どこか柔らかい言い方だ。


「別に無理してるわけじゃないよ」


 俺は笑顔で返す。


「ヤマトがいると安心するからさ。兄みたいで頼りになるし」

「……兄……ふぅん」


 あれ、なんか俺変な事言ったかなと焦るが、ヤマトは何も言わない。ただ、少しアクセルを踏み込んだ。


「……微妙だな」

「え……」

「いや、なんでもない」


 それから数時間ほど経った頃、視線の先には荒野と影が見えた。崩れた砦も建っている。


「あそこだ。着くぞ」


 砦の石造りの壁は半壊し、周囲には人の気配がない。まとわりつくような、濁った空気が漂っている。


「ハチベエさんの言った通り、魔物の気配がする」

「ああ。複数は確実にいる」


 ヤマトがブレーキを踏むと砂煙が舞う。車が止まる。


「起きろお前ら」

「んあ……もう着いたの……?」

「ふぁ……ユラさん……?」

「……はっ!?わ、わたくし寝て……!」

「ぐおお……はっ!?敵ぃ!?」


 後部座席のみんなが一斉に目を覚ます。


「あの砦だ」


 ヤマトが外に出ると、俺やみんなも慌てたように続く。

 風が吹く荒れた大地に、砦の奥からうごめく影が見えた。


「……来る」


 ドンッ。


 砦の入り口が内側から吹き飛ぶ。


「ギィィィィッ!!」


 異形だ。歪んだ身体が姿を見せた。

 人の形をしているが、もはや人ではない。


「……魔物が入口を通せんぼしてるってわけね」


 ハヤミが好戦的に笑う。


「いいね、ぶっ飛ばしがいあるじゃん」

「数は多いですね」


 サクラコさんが静かに観察する。


「でも、問題ありません」

「ぼく、やるよ!」


 ダイゴローが子供ながら一歩前に出る。


「弱くする!!」


 ダイゴローが手を振り上げると、妖精三匹がパッと現れて騒ぐ。


『だりぃけどやるかー』

『デバフ入れろーうらー』

『めんどくせーくそが』


 やる気のない妖精とはいえ、仕事はしっかりしてくれる。魔物の動きがどんどん鈍ってくる。ダイゴローのデバフはとても頼りになって頼もしい。


「そこだ」


 ヤマトが動いた。


 パァン。


 銃声が届くと、一体が即座に崩れる。


「よし、あたしもいくぜ!!」


 ハヤミがハンマーを携えて地面を蹴る。


「どりゃあああ!!」


 ドガァァン。


 正面から叩きつけ、数体が吹っ飛ぶ。

 さすが前衛だ。ハヤミの火力で魔物共が戸惑っている。


「拘束しますわ!」


 サクラコさんのリリアンと糸が走る。

 敵をまとめて絡め取り、動きを止める。


「ユラ!」


 ヤマトが銃を撃ちながら合図のように呼ぶ。


「ここは頼んだ!」


 俺はハチベエさんと砦の中へ進軍した。


 


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