40.車で移動
「場所は国境付近……数百キロか」
ヤマトが地図を見ながら呟く。
それなりに遠いし、数日はかかる。
親父やバイト戦士に店をお願いしてきたが、敵の度合いによってもっと時間がかかるかもしれない。
「馬車じゃ何日かかるんだっけ。えーと……ひいふうみい。俺、暗算できねー」
「あーんあたしも計算できなーい。指が足りないよー!」
「足りないのは頭だろ」
「こんのクソ兄貴!!」
「まあまあ」
ハヤミがヤマトに飛び掛からん勢いなのを、俺が羽交い絞めで止める。
もう、こういう時に兄妹喧嘩はやめてくれい。
「もっと早く行ける方法、あるな」
ヤマトの目が細まる。
30分後、王都の出入り口を出た瞬間、空間が歪むように揺れて、それが現れた。
黒塗りの大型車両。重厚なボディで異質な存在感。この世界には明らかに存在しない代物。
「SUVだ」
ヤマトが淡々と言う。
「は!?なんでそんなもん出てくんの!?」
「ブラックマーケットで買った」
「ブラマケなんでもありかよ!!」
「乗れ」
すぐにドアを開ける。この世界では見たことのない構造なのに、わかってしまうのは元日本人だからだ。
全員、迷いなく乗り込む。
ここでなぜか俺の隣を巡っての座席争いが勃発したが、割愛。
だって不毛な争いだし、いつもの事だし。あえて言うなら、ハヤミとサクラコさんとダイゴローが俺の隣がいいと言い争っていた。でも最終的に三人が争っている間に、ヤマトがしれっと俺を助手席に座らせて争いは終幕した。
恨みがましそうな三人に、なんか勝ち誇ったヤマトの顔が印象的だった。
なんでそんな嬉しそうにしてんの。あと後部座席にいる三人の視線が痛いんだが。
「く、車があるなんて驚きました!」
ハチベエさんが震えた声を出している。
俺も驚いたよ。この世界でそれを見れるなんてさ。
「え、ハチベエさん知ってるの!?」
「その反応ですと……」
ハチベエさんの目が見開かれる。
「もしや皆様……元の世界は……!」
「あとで説明する。シートベルトを締めろ。舌を噛むぞ」
ヤマトがエンジンをかける。
ブォォオオン。
爆音は魔力とは違う振動だ。妙に聞きなれた音は懐かしさすら感じる。
「うわあああっ!?」
ダイゴローがはしゃぐ。
「すごい!はやい!車だーー!」
SUVは一気に加速した。
誰もいない広い荒野を爆走し、150以上は出ている。
風景がどんどん流れる。馬車では味わえないありえない速度で爽快だ。
「……やっぱ車は早いわぁ。馬車みたいにクソ遅い乗り物とは違うね」
ハヤミがは大はしゃぎで笑う。
「あたしもバイクほしいなー。今度ハーレー買って兄貴」
「うるせぇ。黙って掴まってろ」
ヤマトがハンドルを切る。
荒れた地形とデコボコした舗装のされていない道を進む。
結構揺れるので酔うかもしれない。一応、酔い止め飲んでくりゃあよかった。
「ヤマトは車の運転できるんだ」
免許?そんなものこの世界には不要だ。
「購入と同時に、脳内にUIが展開しているから自然とできるようになる」
「どひゃー。すごすぎだぁ」
やっぱりブラックマーケットってチートだ。
便利なもの購入できて、運転できるようになるなんてどうなってんの。
「あの、購入資金って……」
「オレの小遣い」
「えっ」
「一応、王族だから馬鹿みたいに金はある。今のレベルじゃ装甲車は無理だし、購入回数の制限もある」
ハンドルを握りながらヤマトが言う。
妙にハンドルさばきがサマになっていて、絵になっている所がさすがイケメンである。
「ぐうぐう」
「すやすや」
「むにゃ」
「ぐおおおお!ぐがー!」
しばらくして、後部座席から寝息やイビキが聞こえてきた。
でかいイビキはハヤミだろう。静かに眠っているのはサクラコさんとダイゴロー。ハチベエさんも疲れていたのか小さなイビキで顔が傾いていた。
「ぐがーぐがー!あにきぃ、おこづかいちょーらいぃいひひひひ」
「あん、だめ、ユラさん♡こんなところで、だめですってぇ。いやぁん」
ハヤミの寝言がハヤミらしい。
つーかサクラコさんなんの夢見てんの!?え、エッチな声がするんだが。
「ユラぁ……けっこんしてぇ」
「…………やらん」
ダイゴローの変なつぶやきに、ぼそりとヤマトが何かを呟いた。
「ん、なんか言った?」
「なんでもない。それより到着まで少しある。体を休めとけよ」
「あー、うん。でも、ヤマトが運転しているのに寝られないよ。ヤマトが眠くなるかもしれないからさ、俺が話し相手になる」
「……お前」
ヤマトが一瞬だけ言葉を切る。
ハンドルを握ったまま、横目でこちらを見る。
「そういうとこだぞ」
「え?」
「無駄に気を回す奴だ」
どこか柔らかい言い方だ。
「別に無理してるわけじゃないよ」
俺は笑顔で返す。
「ヤマトがいると安心するからさ。兄みたいで頼りになるし」
「……兄……ふぅん」
あれ、なんか俺変な事言ったかなと焦るが、ヤマトは何も言わない。ただ、少しアクセルを踏み込んだ。
「……微妙だな」
「え……」
「いや、なんでもない」
それから数時間ほど経った頃、視線の先には荒野と影が見えた。崩れた砦も建っている。
「あそこだ。着くぞ」
砦の石造りの壁は半壊し、周囲には人の気配がない。まとわりつくような、濁った空気が漂っている。
「ハチベエさんの言った通り、魔物の気配がする」
「ああ。複数は確実にいる」
ヤマトがブレーキを踏むと砂煙が舞う。車が止まる。
「起きろお前ら」
「んあ……もう着いたの……?」
「ふぁ……ユラさん……?」
「……はっ!?わ、わたくし寝て……!」
「ぐおお……はっ!?敵ぃ!?」
後部座席のみんなが一斉に目を覚ます。
「あの砦だ」
ヤマトが外に出ると、俺やみんなも慌てたように続く。
風が吹く荒れた大地に、砦の奥からうごめく影が見えた。
「……来る」
ドンッ。
砦の入り口が内側から吹き飛ぶ。
「ギィィィィッ!!」
異形だ。歪んだ身体が姿を見せた。
人の形をしているが、もはや人ではない。
「……魔物が入口を通せんぼしてるってわけね」
ハヤミが好戦的に笑う。
「いいね、ぶっ飛ばしがいあるじゃん」
「数は多いですね」
サクラコさんが静かに観察する。
「でも、問題ありません」
「ぼく、やるよ!」
ダイゴローが子供ながら一歩前に出る。
「弱くする!!」
ダイゴローが手を振り上げると、妖精三匹がパッと現れて騒ぐ。
『だりぃけどやるかー』
『デバフ入れろーうらー』
『めんどくせーくそが』
やる気のない妖精とはいえ、仕事はしっかりしてくれる。魔物の動きがどんどん鈍ってくる。ダイゴローのデバフはとても頼りになって頼もしい。
「そこだ」
ヤマトが動いた。
パァン。
銃声が届くと、一体が即座に崩れる。
「よし、あたしもいくぜ!!」
ハヤミがハンマーを携えて地面を蹴る。
「どりゃあああ!!」
ドガァァン。
正面から叩きつけ、数体が吹っ飛ぶ。
さすが前衛だ。ハヤミの火力で魔物共が戸惑っている。
「拘束しますわ!」
サクラコさんのリリアンと糸が走る。
敵をまとめて絡め取り、動きを止める。
「ユラ!」
ヤマトが銃を撃ちながら合図のように呼ぶ。
「ここは頼んだ!」
俺はハチベエさんと砦の中へ進軍した。




