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食堂店員兼勇者  作者: 平民
三章 平民と貴族の腐敗

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37/68

37.平民の不満

 *


 閉店間際、客足も落ち着いて食堂の中は少しだけ静かになっていた。


「……疲れたぁ」


 テーブルを拭きながら、小さく息をつく。

 今日も忙しかったけど、不思議と嫌じゃない。

 むしろ、こうして動いている方が落ち着く。


「ユラ、それ終わったらこっち手伝って」

「はーい」


 ハヤミに呼ばれてすぐに返事をする。

 その横で、ダイゴローが一生懸命お皿を運んでいる。ちょっと危なっかしいけど、見ていると微笑ましい。

 サクラコさんは洗い物をしていて、手際がとにかくよくて綺麗だ。


 ヤマトは、黙々と床掃除をしていた。あとで便所掃除もやるらしい。

 やらなくていいと断ったんだけど、ハヤミに後で文句を言われるのがやかましいからって理由だった。

 王太子が便所掃除だなんて上の人が聞いたら大目玉だろうけど、本人は嫌そうではない様子。不愛想ながらテキパキとこなしている様子が、ただのバイト戦士にしか見えない。


 からん、と扉の音がした。閉店間際だから、思わず入口を見た。


「おー、まだやってるじゃねぇか」


 聞き覚えのある声だった。


「あ、ゴランさん!」


 思わず声が出る。


「お邪魔するよ、ユラ」


 その後ろから、カオルさんも入ってくる。


「閉店間際で悪いね」

「いえ、大丈夫です」


 この二人、なんだかんだで最近よく来るな。ゴランさんはもう席に座ってるし、カオルさんは煙草を吸っている。自由すぎるところがある意味羨ましい。


「芋焼酎あるか?」

「ありますが、飲みすぎ注意ですよ」

「はっはっは!言うじゃねぇか」


 全然気にしていない。

 カオルさんがすぐに睨む。


「飲みすぎたら顔面に蹴りだ」

「やめろってマジで!」


 相変わらずのやり取りに、ちょっと安心する。

 料理と酒を出して一息ついたところで、


「……なあ、ヤマト」


 ゴランさんが少しだけ声のトーンを落とす。掃除をしているヤマトに声を掛けていて、雰囲気がさっきまでと違う。少し深刻な様子だ。


「最近、下が騒がしいのは知ってるか?」

「……ああ」


 ヤマトが短く返す。顔は変わらない。床掃除をしながらもちゃんと聞いている。


「平民連中の間で不満が溜まってる」


 ゴランさんは酒を一口飲む。


「理由は単純だ。上が腐ってるからだ」


 俺は思わず手を止めた。


「最近は特にね。上が腐ると下は飢える」


 カオルさんが続ける。


「平民を見下して、好き放題やってる貴族が増えてる」

「……」

「それで、ついに動いた連中が出たってわけさ」

「動いた……?」


 思わず聞き返した。


「襲撃だよ」


 カオルさんがあっさり言う。


「何人か貴族がやられてる。一家ごと消えた屋敷もある。使用人ごと」

「もちろん全員じゃない。だがよ、やり返されたって事実だけで空気は変わる」


 ゴランさんがグラスに口をつける。

 さっきまでの軽い雰囲気じゃない。


「反王家の連中も動いてるからな」

「今の王家を引きずり下ろしたい連中さ」


 つまり、それって止まらないやつじゃないか。

 俺はヤマトをちらっと見る。さっきまでと同じ静かな顔で、何かを思案している様子だ。


「ま、どっちにしろ」


 ゴランさんがグラスを置く。


「このままじゃ済まねぇな。いずれでかいのが来る」

「もう反乱分子が出てる分、止まらないかもしれない。一回火がついたら、理由なんてどうでもよくなるからね」


 カオルさんも同じように言う。静かになる店内は、いつもより重い空気だった。


「……」


 ヤマトは何も言わない。ただ、前を見ているだけ。

 その横顔を見て、大丈夫かなって俺は心配した。事態は思った以上に深刻なのかもしれない。



 翌日の昼過ぎ、店の中は相変わらず賑やかだった。あまりに忙しくて、俺はパニックに陥り、いつもならやらないミスを連発しまくっていた。


「ユラ、そのオーダー違う!」

「えっ、あ、ほんとだ!悪い!」

「だから最初に確認しろって言ったよね!?」

「うぅ……ドジですんません」


 ハヤミにガミガミ詰められている俺の様子を見て、客席からドッと笑いが起こる。

 この安酒を煽っている客たちが、彼女の正体が()()()()だと知ったらどうなっていただろう。腕相撲は常勝無敗。大食いで、こうしてテキパキとフロアを仕切っている。ショックで宇宙まで飛んでいくかもしれない。


「兄貴ー!床汚れてる!さっさと拭いといて!」

「……今やってる」


 ヤマトは短く返し、無言で床を磨いていた。

 金髪を無造作に揺らし、完全に裏方の雑用係だ。どう見ても王太子には見えない。


「おーい兄ちゃん、酒もう一杯!」

「……自分で取りに来い」

「冷てぇなぁ、おい」


 サクラコさんは丁寧に料理を運び、ダイゴローは一生懸命に注文を聞いている。なんだかほのぼのしていて、可愛い二人に自然と頬が緩む。ゴランさんはいつもの席で勝手に酒を飲み、カオルさんはその隣で綺麗に煙草を吸っていた。


 そんな中で、不意に招かれざる客が来訪した。

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