33.新しい客
「いらっしゃいませー!」
気を取り直して接客をする。声が思ったより軽く出るし、なんとなく復活してから体が軽い。皿を運ぶ動きも、前よりずっとスムーズだ。
「……あれ」
ふと、ガラスに映った自分を見て、少し驚く。
前より明らかに引き締まっている。まだ細いとは言えないけど、あの頃の丸い感じはもうない。ちょっと変わってきたかもしれない。
思わず頬を触る。感触が違う気がする。自然に体が動くのがなんだか嬉しい。
とりあえずな相撲取りからの脱却だ。おめでとうさん。
「ユラー!こっち手伝ってー!」
「はーい!」
ハヤミの声に呼ばれてすぐに動く。公爵令嬢がなんで接客してんのと突っ込みたいが、正直助かっている。万年人手不足でクソ忙しいんだもん。
「最近さ」
料理を並べながら、ハヤミがちらっとこっちを見る。
「ちょっといい感じじゃん」
「え?」
「見た目。普通にシュッとしてきてる」
「そ、そう……?」
「うん。前より全然いい。どんどん白馬の王子様になってきてるね。あたし好みになってきてるよ」
あっさりと言う。白馬の王子はさすがに大げさだけど。
でも、なんか照れるな。
「ユラさん、とても素敵になられていますよ」
サクラコさんもにこりと微笑む。
「え、いやそんな……!」
「ほんとだよ!」
ダイゴローが元気よく言う。
「かっこ可愛いー!」
「かっこ可愛い?」
思わず笑ってしまう。
男でもあり、女でもあるからかな。性別不詳だもんな俺。ようするにカマっぽいニューハーフという事か?いや、それは違うな。勇者モードになると金玉生えるし、うーん……。
そんなやり取りをしていると、からんからんと扉が開いた。
「おー、やってるやってる。ゲンジローの店なんだよ」
低くてよく通る声がした。
振り向いた瞬間、空気が少し変わった。
「……でっか」
思わず出た本音は、どう見てもそう思ったからだ。
そこにいたのは、やたらガタイのいい男で、筋肉質で長身の大男である。手にはすでに酒瓶が握られていた。酔っ払いか?
「お、ヤマト!」
カウンターで本を読んでいたヤマトに気付き、男が大声で笑う。
「一年ぶりだな!」
ヤマトが一瞬だけ目を細める。
「……久しぶりだな」
短い返答が本人らしい。
「相変わらず愛想ねぇなぁ!」
がはは、と笑う。
勝手に席に座り、瓶をごくごくとラッパ飲み。
「ちょっとあんた、いきなり勝手に座って飲み始めるんじゃないよ」
後ろからもう一人やってきた。
薄紅色の大きなシニヨンをしたすらりとした女性だった。
年齢は……分からない。わからないけどとても綺麗で高身長な人だ。年齢不詳の美魔女ってやつかも。ただ者じゃない雰囲気を漂わせている。
「また身長高くなったわね」
美魔女がヤマトをじっと見る。
「相変わらず反応薄いんだから」
「……中身は変わってない」
ヤマトがぼそっと返す。
「でしょうね。で、あんたの仲間の紹介くらいしなさいよ」
女性はちらっとこちらを見る。
視線が鋭いが、嫌な感じじゃない。
「……」
ヤマトが一瞬だけ黙る。
それから面倒くさそうに言う。
「……ゴランとカオルだ」
「雑な紹介だな」
思わずツッコミを入れたら、ゴランさんという人が笑う。
「いいねぇ、ツッコミできる奴は好きだぞ」
「は、はあ……」
「こっちは勝手に来ただけだしね。店主のゲンジローに会いに」
そう言って二人は席に座る。親父の知り合いだったようだ。
「おーい、ゲンジロー」
「お、ゴランとカオルか。よく来たな。ゆっくりしていってくれ」
「おうよ。軽いつまみと酒頼むわー」
「あんた飲みすぎだっつうの。酒瓶の他にまだ飲むのか。私は軽くでいいわ」
完全に常連みたいな顔で接している。俺の知らない所で結構来店していたのかもしれない。
「で?」
カオルさんとやらが俺を見る。
「キミが勇者?」
「え、あ……はい」
勇者と見透かされて少しだけ緊張する。
「へえ」
じっと値踏みするように見てきて戸惑う。
でもそのあと、ふっと笑う。
「……悪くない」
「え?」
「まだまだ甘ちゃんだけど、鍛えがいがありそうね」
それだけ言って、バイト戦士が運んできた料理に手を伸ばす。
「ほらあんたも飲みすぎるんじゃないよ」
ゴランさんの頭に軽くげんこつを入れている。
「いてっ」
「人様に迷惑かけるんじゃないって言ってんだろ」
「まだ何もしてねぇだろ!?」
「これからする顔してんだよ」
「ひでぇ!」
まるで夫婦漫才を見ているかのようで、騒がしい二人だ。
でも、嫌な騒がしさじゃない。信頼し合っている様子がわかる。
「……なんか、賑やかになってきたなぁ」
「今さらだろ」
いつの間にか隣にいたヤマトが返す。
少し口元が緩んでいた。
少し前の俺なら、きっとここに立っていなかった。
こんな場所に、自分がいていいなんて思えなかった。
でも今は、この騒がしさの中にいることが、こんなにもあたたかい。
二章 完




