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食堂店員兼勇者  作者: 平民
二章 スキル

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33/66

33.新しい客

「いらっしゃいませー!」


 気を取り直して接客をする。声が思ったより軽く出るし、なんとなく復活してから体が軽い。皿を運ぶ動きも、前よりずっとスムーズだ。


「……あれ」


 ふと、ガラスに映った自分を見て、少し驚く。

 前より明らかに引き締まっている。まだ細いとは言えないけど、あの頃の丸い感じはもうない。ちょっと変わってきたかもしれない。


 思わず頬を触る。感触が違う気がする。自然に体が動くのがなんだか嬉しい。

 とりあえずな相撲取りからの脱却だ。おめでとうさん。


「ユラー!こっち手伝ってー!」

「はーい!」


 ハヤミの声に呼ばれてすぐに動く。公爵令嬢がなんで接客してんのと突っ込みたいが、正直助かっている。万年人手不足でクソ忙しいんだもん。

 

「最近さ」


 料理を並べながら、ハヤミがちらっとこっちを見る。


「ちょっといい感じじゃん」

「え?」

「見た目。普通にシュッとしてきてる」

「そ、そう……?」

「うん。前より全然いい。どんどん白馬の王子様になってきてるね。あたし好みになってきてるよ」


 あっさりと言う。白馬の王子はさすがに大げさだけど。

 でも、なんか照れるな。


「ユラさん、とても素敵になられていますよ」


 サクラコさんもにこりと微笑む。


「え、いやそんな……!」

「ほんとだよ!」


 ダイゴローが元気よく言う。


「かっこ可愛いー!」

「かっこ可愛い?」


 思わず笑ってしまう。

 男でもあり、女でもあるからかな。性別不詳だもんな俺。ようするにカマっぽいニューハーフという事か?いや、それは違うな。勇者モード(黄金の眼)になると金玉生えるし、うーん……。

 そんなやり取りをしていると、からんからんと扉が開いた。


「おー、やってるやってる。ゲンジローの店なんだよ」


 低くてよく通る声がした。

 振り向いた瞬間、空気が少し変わった。


「……でっか」


 思わず出た本音は、どう見てもそう思ったからだ。

 そこにいたのは、やたらガタイのいい男で、筋肉質で長身の大男である。手にはすでに酒瓶が握られていた。酔っ払いか?


「お、ヤマト!」


 カウンターで本を読んでいたヤマトに気付き、男が大声で笑う。


「一年ぶりだな!」


 ヤマトが一瞬だけ目を細める。


「……久しぶりだな」


 短い返答が本人らしい。


「相変わらず愛想ねぇなぁ!」


 がはは、と笑う。

 勝手に席に座り、瓶をごくごくとラッパ飲み。


「ちょっとあんた、いきなり勝手に座って飲み始めるんじゃないよ」


 後ろからもう一人やってきた。

 薄紅色の大きなシニヨンをしたすらりとした女性だった。

 年齢は……分からない。わからないけどとても綺麗で高身長な人だ。年齢不詳の美魔女ってやつかも。ただ者じゃない雰囲気を漂わせている。


「また身長高くなったわね」


 美魔女がヤマトをじっと見る。


「相変わらず反応薄いんだから」

「……中身は変わってない」


 ヤマトがぼそっと返す。


「でしょうね。で、あんたの仲間の紹介くらいしなさいよ」


 女性はちらっとこちらを見る。

 視線が鋭いが、嫌な感じじゃない。


「……」


 ヤマトが一瞬だけ黙る。

 それから面倒くさそうに言う。


「……ゴランとカオルだ」

「雑な紹介だな」


 思わずツッコミを入れたら、ゴランさんという人が笑う。


「いいねぇ、ツッコミできる奴は好きだぞ」

「は、はあ……」

「こっちは勝手に来ただけだしね。店主のゲンジローに会いに」


 そう言って二人は席に座る。親父の知り合いだったようだ。


「おーい、ゲンジロー」

「お、ゴランとカオルか。よく来たな。ゆっくりしていってくれ」

「おうよ。軽いつまみと酒頼むわー」

「あんた飲みすぎだっつうの。酒瓶の他にまだ飲むのか。私は軽くでいいわ」


 完全に常連みたいな顔で接している。俺の知らない所で結構来店していたのかもしれない。


「で?」


 カオルさんとやらが俺を見る。


「キミが勇者?」

「え、あ……はい」


 勇者と見透かされて少しだけ緊張する。


「へえ」


 じっと値踏みするように見てきて戸惑う。

 でもそのあと、ふっと笑う。


「……悪くない」

「え?」

「まだまだ甘ちゃんだけど、鍛えがいがありそうね」


 それだけ言って、バイト戦士が運んできた料理に手を伸ばす。


「ほらあんたも飲みすぎるんじゃないよ」


 ゴランさんの頭に軽くげんこつを入れている。


「いてっ」

「人様に迷惑かけるんじゃないって言ってんだろ」

「まだ何もしてねぇだろ!?」

「これからする顔してんだよ」

「ひでぇ!」


 まるで夫婦漫才を見ているかのようで、騒がしい二人だ。

 でも、嫌な騒がしさじゃない。信頼し合っている様子がわかる。


「……なんか、賑やかになってきたなぁ」

「今さらだろ」


 いつの間にか隣にいたヤマトが返す。

 少し口元が緩んでいた。


 少し前の俺なら、きっとここに立っていなかった。

 こんな場所に、自分がいていいなんて思えなかった。

 でも今は、この騒がしさの中にいることが、こんなにもあたたかい。


 二章 完

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