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食堂店員兼勇者  作者: 平民
二章 スキル

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32/65

32.解決

 まぶたが重い。

 全身に鉛でも埋め込まれたかのように体が重く、指先ひとつ動かす力さえ入らなかった。

 だけど、暗闇の底からゆっくりと意識が浮かび上がってくる。ぼやけていた視界が、瞬きを繰り返すうちに少しずつ鮮明になっていった。


 てっきり自分の家のベッドかと思ったが、見慣れない木目の天井だ。

 ここは、孤児院の医務室だった。


「あれ……」


 小さく声を漏らす。


「あ、起きた……!」


 すぐ近くで弾けたような声がして、そちらへ視線を動かした。


「「ユラ!」」


 ハヤミとダイゴローが、同時に身を乗り出すようにして俺の顔を覗き込んできた。


「よかったぁ……!」

「ちゃんと目覚めてくれたんだね!」


 ハヤミにそのままがしっと両手で右手を握りしめられる。ダイゴローはお構いなしに、俺の膝の上によじ登ってきた。

 安堵していると、今度は反対の左手からもまた別の柔らかい感触が伝わってくる。


「ご無事で何よりですわ」


 サクラコさんだった。

 いつもより少しだけ強く、包み込むように左手を握ってくる。


「サクラコさんも……」


 両手から伝わる体温が、じんわりと温かい。

 ふと視線を上げると、少し離れた場所にヤマトも佇んでいた。

 ああ、よかった。みんな、ちゃんとここにいるよ。

 サクラコさんが、いつもの笑みを少しだけ引っ込めて静かに言った。


「いきなり意識を失うものですから本当にびっくりしました。勇者による覚醒とあんなすごい魔法を使った後ですから、おそらく魔力切れでしょう。私もごっそりMPを消費しましたわ」

「あー……そっかぁ。ごめん」

「ほんとだよ!」


 ハヤミがすぐさま反応する。


「いきなり倒れるから、こっちは心臓が止まるかと思ったじゃん! ぴくりとも起きないし」

「……本当にごめん」

「でも、やっぱりユラはすごいね!」


 ダイゴローが俺の胸に顔をうずめながらにっこりと笑った。


「ユラがいなかったら、じいちゃん先生を助けられなかったもん。ユラは本当にお伽話に出てくる本物の勇者様だったんだね」

「ダイゴロー……」


 目をきらきらと輝かせているダイゴローは、昔から勇者のお伽話に強い憧れを持っていると話していた。その純粋な視線が、少しだけ誇らしくて、やっぱり照れくさい。


「ほんと、ユラがいなかったらあのインテリナイフ野郎を追い返せなかったしね」

「あの時は、俺もいっぱいいっぱいだったんだけどね」


 少し離れた場所にあるベッドでは、神父様が穏やかな寝息を立てて眠っていた。最悪の事態は免れたのだと、ようやく心の底から実感できた。


「ユラ」


 その賑やかなやり取りの少し後ろで、壁にもたれて腕を組んでいたヤマトが、静かにこちらを見つめていた。


「次は、その力の使い方を頭で考えろ」

「ヤマト」

「魔力切れはシャレにならん」


 怒っているわけでも、責めているわけでもない。俺の戦い方を、誰よりも冷静に、ちゃんと見てくれていたからこその言葉だった。


「……うん」


 自然と、素直な返事が口をついて出た。

 ヤマトは小さく息を吐くと、また空気に溶け込むように黙る。

 それで会話は終わりだった。でも、お互いに信じ合えている心地いい距離感がそこにはあった。



 数日後の夜、ハナゾノ家の食堂『下町屋』はいつもの賑わいだった。

 復活した俺を常連客達が次々とよかったなと小突いては茶々を入れてくる。

 穏やかな夜だった。


「ユラ、倒れたんだって?全くお前は無茶しすぎる」

「そーだ!少しは自分を大事にしろ!」


 常連客(四話登場)のスケさんとカクさんは相変わらずいつも通りだ。


「それ、他の友達にも言われたんだよねーあははー」

「笑い事じゃないだろ。……で、好きな人はできたか?」

「はい?」


 そして、俺に好きな人はできたかと聞いてくるまでがセットだ。

 好きな人なんていねぇっす。友達として好きなのはいるけど。

 ふと、ちらりと周囲にいる仲間を見る。


 サクラコさんは今日も綺麗でいい匂いがする。

 包容力のある大人の女性で、未婚の男性客たちからいい寄られている。

 気立てはよくて美人で、料理や家事全般が得意。そして巨乳。

 綺麗な微笑に、天使やら女神やらお母さんやらの声が続出だ。

 こんなのモテまくるに決まっているし、俺が男だったら惚れていた。


 ハヤミは愛嬌がある可愛い美少女だ。

 こちらも男性客からいい寄られているがスルー。

 時々、常連客達と腕相撲大会をして無双し、周りのでかい冒険者達のプライドをへし折っている。

 美少女だけど強くて可愛いなんてギャップ萌えというやつだ。

 公爵令嬢っていうのが驚きだけど、そんなのを全く感じさせないほどの軽いノリだから話しやすい。

 俺みたいな陰キャで非モテ男のチー牛には理想の美少女だよ。


 ヤマトは言うまでもなく女性に絶大にモテる。

 だって肩書が王太子だし、顔面偏差値は最高値。しかも文武両道の天才。

 不愛想で塩対応だが、そこが刺さるのか彼目当てに来店するほど、こんなオンボロな店でも女性客達が増えてきている。

 これが赤の他人だったら「けっ、クソイケメンくたばれ」と、思っていたが、仲間だと頼もしい事この上ない兄のような存在だ。


 ダイゴローはショタ可愛い。最近遊びに来るようになってから、ここでお手伝いをするようにまでなってきた。

 お皿運びや、注文をとったりが主に仕事。親父がちゃんとお小遣いをあげているようだ。

 そんな可愛いスタッフさんに、子供好きな大きな女性客が成長したら化けるわよなんて言っている。好奇心旺盛で物怖じしないし、いつもニコニコで近寄ってくるから、俺としてもつい可愛がってしまう。可愛い弟ってこういう事を言うんだろうな。

 

 自分なりに印象を言ってみたが、感想を言えるほど俺は大した人間じゃないんだよな。俺には勿体なすぎるメンバーである。

 時々ちょっと変態発言するし、趣味が助平だけど、俺にとっては大切な仲間達だ。


 で、このメンバーの中で一番ぱっとしないのが俺である。しかも勇者とかいうふざけた重い肩書きまであるという謎。モブでデブが勇者してんじゃねぇよ!とか怒られそうだ。ヴィジュアル的によろしくない。

 うう、このメンバーに釣り合うようにがんばろう。

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