31.合体魔法
レンヤが満足げに息を吐き、血を拭いながら穏やかに微笑んだ。
「挨拶回りに来て正解でした。他の幹部達もそのうち来るでしょう。あなたの実力をもっと知るために」
レンヤの視線が俺に突き刺さる。誰も動けないほどの圧倒的な威圧感だ。
「ちなみに、私はまだ全然本気を出していません。せいぜい……盛って半分、といったところでしょうか。その気になれば、いつだって殺せますから」
淡々と告げられた現実に、背筋が凍るような恐怖を覚えた。実力差は歴然で、全員の表情が深刻に強張っていく。
「ですが、強くなりなさい。弱いあなた方を殺しても、何の意味もありませんから。ただの時間の無駄にするには惜しいポテンシャルを秘めています。また会いましょう、勇者一行の皆様」
ふふっと不敵に笑うと、空間に次元の裂け目が現れた。レンヤはサキと同じように、その闇の中へ消え去って行った。
訪れた静寂の中で、自分達は立ち尽くすしかなかった。だが、静かな空間に響いた啜り泣く声に、ハッと我にかえる。
「じいちゃん先生……!」
ダイゴローの声だった。床に倒れたままの神父様のもとへ、急いで駆け寄る。しかし、神父様の呼吸は浅く、今にも途切れてしまいそうなほど衰弱していた。
「ダイゴロー……」
かすれる声は、もう手遅れであることを物語っているようだった。
「いやだ……いやだよぉ……!じいちゃん先生!しっかりしてよおっ!」
必死に体を揺するダイゴローの傍らで、俺たちは何もできなかった。空中を飛び回る妖精たちも、絶望的な声をあげる。
『無理だ……くそが』
『だめだこれ……』
『直せねぇ……もう、魂が消えかけてる』
「なんでだよ!!精霊様っ!お願いだよぉ!!いやだ……いやだぁ……!」
涙をぽろぽろとこぼして叫ぶダイゴローの姿を見て、胸の奥が強く締めつけられた。助けたい、なんとかしたいという強い衝動が突き上げてくる。
その瞬間、視界が切り替わるような不思議な感覚が走り、体が自然と動いていた。
「……サクラコさん」
「えっ」
驚くサクラコさんのそばに寄り、まっすぐに見つめる。
「力を、貸してください。サクラコさんの回復魔法と、勇者の回復を合わせるんです」
「え、あの……それはどういう……」
「はやく。神父様が手遅れになる前に」
俺の声が静かに、しかし拒絶を許さない強さで響いた。サクラコさんは一瞬迷うような表情を見せたが、すぐに意を決して頷いてくれた。
「わかりました。どうすればいいですか?」
「神父様に自律神経魔法をお願いします。いつも通りでいいですから」
「……はい」
サクラコさんは静かに目を閉じると、深く集中して神父様にそっと手をかざした。俺も隣で手を向け、意識を重ね合わせていく。サクラコさんの優しい癒しと、俺の勇者の光が、綺麗にひとつへと重なった。
「複合魔法……」
金色と緑色の神秘の輝きが神父様を包む。
『天上の復活』
俺とサクラコさんの声が綺麗に重なった。
同調した回復の光が神父様の体全体を満たしていく。止まりかけていた命の奔流がゆっくりと力強さを取り戻し、呼吸が深くなって指先に赤みが戻っていく。
「……うぅっ」
やがて、閉じられていた瞼がゆっくりと開く。
「……ダイ……ゴロー……」
「……あっ!!」
かすれた声が聞こえた瞬間、世界の時間が止まったかのようだった。
「じいちゃん先生……?」
「心配……かけましたね……」
神父様がわずかに微笑むと同時に、ダイゴローは崩れるようにその胸へと抱きついた。
「うわああああん!!よかったぁ……!!よかったよぉ……!!」
大粒の涙を流して大声を上げて泣く姿は、さっきまでの度胸溢れる様子とは違う、年相応の幼い子供のものだった。
「うん、うん……すみませんね。まだ死ねません……キミや子供達を残しては」
神父様は弱々しくも、愛おしそうにダイゴローの頭を撫でる。他の子供達もわあっと一斉に駆け寄り、その温かい光景に俺の胸の奥もじんわりと熱くなった。本当に良かったと、心から安堵する。
「……あれ」
その直後、足元がぐらりと揺れて視界が急激に狭まった。
全身から一気に力が抜けていき、目の前が薄暗くなっていく。魔法のあまりの消耗に、もう立っていることすら限界だった。
「ユラ?」
ヤマトの声が聞こえた気がした。体が斜めに傾き、支えようとしても指一本動かせない。
あ、これやばいなと思った瞬間、俺の体はそのまま地面へと倒れ込んで……
「おい」
衝撃が来る前に、体がしっかりと抱き止められた。
「……無茶しすぎだ」
ヤマトの声は、珍しく酷く焦っているように聞こえた。
「だい……じょうぶ……」
「大丈夫じゃない」
うまく出ない声を遮るように即答される。視界はさらに暗くなり、意識が急速に深い底へと落ちていく。
「おい、しっかりしろ」
ヤマトの声がどんどん遠ざかっていく。だけど、すごく温かかった。
このまま眠ってしまってもいいかもしれないな、なんて。少し乙女みたいなことを考えながら俺の意識は完全に途切れた。
「ユラ!?」
ハヤミが金髪のサイドポニテを揺らしながら、焦った様子で駆け寄ってきた。
「ちょっと、何してんの兄貴!!」
「見りゃわかるだろ」
「なんかずるい……じゃなくて!!はやく二人ともベッドに運ぶよ!」




