表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食堂店員兼勇者  作者: 平民
二章 スキル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/66

28.みんなで初戦闘

 とりあえず、その周辺のモンスターと戦ってみようという話になった。

 スキルを把握したからには、実戦で試すのが手っ取り早い。


「あ、数百メートル先にモンスターが20匹潜んでる」


 索敵スキルを持つハヤミが、森の奥を睨みつけながら鋭く察知した。ヤマトも即座に、周囲の空気に混ざった不穏な気配に気づく。


「……来る」


 ヤマトが低く呟いた直後、激しく茂みが揺れた。

 姿を現したのは、


「うわっ……!」


 オークだった。

 人型ではあるが、明らかに人間ではない。筋肉の塊のような醜悪な体に、獣そのものの顔。そして何より、風下から漂ってくる臭いがとにかく酷かった。どんな匂いかって?動物園にいるゴリラの糞みたいな匂いだ。


 王都で俺が倒した魔界種オークキングとは比べ物にならないくらい最弱の個体だが、今の低レベルな俺たちにとっては丁度いい相手だろう。さすがにあの時のような爆発的な力は出ないが、雑魚戦に慣れておくのも必要だ。


「数、多いね」


 ハヤミは恐れるどころか、不敵にニヤリと笑う。


「でも、いける!」


 言い切ると同時に、ハヤミが力強く地面を蹴った。

 一瞬でオークとの距離を詰め、その小さな拳を情け容赦なく叩き込む。


 ドゴッ。


 凄まじい衝撃音と共に、オークの一体が木の幹へと吹き飛んだ。


「おお……!」


 思わず感心の声が漏れる。パラメータ(身体能力)が上がっていると言っていたが、まさかこれほどのパワー型だとは。

 しかし、敵もただ見ているだけではなかった。


「囲まれたね」


 ハヤミの突撃を皮切りに、残りのオークが一斉に動き出す。左右から同時に迫られ、ハヤミが囲まれてしまった。


「では、ここは私が」


 サクラコさんが一歩前に出て、銀色のリリアンを手にする。

 流れるような美しい動作で投げられたそれは、一本の細い魔力の毛糸を引き連れて空中を飛んでいった。毛糸は意思を持つ蛇のようにうごめき、ハヤミに迫っていたオークたちの足を絡め取って完全に拘束する。


「そのまま、編み込んじゃいますわね」


 サクラコさんがリリアンをくるくると手元で回すと、毛糸が急激に締め付けられた。オークたちは可愛らしい毛糸の檻の中で、なす術もなく静かに絞殺されていく。


「それ強っ!家事全般スキルってそんなことできるの!?」

「編み物は得意ですから♡」


 リリアンって編むものじゃなくて投げて拘束するものだったのか。


「ぼくもやる!」


 ダイゴローが元気よく手を挙げると、その周りを妖精たちが一斉に飛び回る。


『目つぶしだオラぁ!』

『砂に毒いれたった!』

『だりー。しねしねゴミ共くたばれごるぁあああ!』


 口の悪すぎる妖精たちのデバフ攻撃を受け、残ったオークたちの動きが目に見えて鈍っていく。


「今だ」


 ヤマトが静かに言うと同時に、目の前に黒いウィンドウが開いた。


「アイツにはこれでいいか」


 ヤマトの手元に現れたのは、ずっしりとした大きなハンマーだった。


「ハヤミ」


 ヤマトがそれを無造作に放り投げる。がしっとハヤミが受け取った瞬間、


「これいいじゃん!おりゃああっー!」


 ブンッ、と勢いよく振り抜かれたハンマーが、オークの脳天を直撃した。


 ドガァァン。


 凄まじい轟音と共に、複数が完全に地面へと沈んだ。


「うっわ、なにこれ。超軽い!」

「まだレベルが低いから弱い武器だが、この程度の相手なら申し分ないだろ」

「うん。これならガンガンいけそう!」


 ハヤミが武器を構え直す。まだ敵は残っている。

 生き残ったオークが、矛先を変えてこちらを激しく睨みつけてきた。ぎょろりとした醜い濁った目が、まっすぐに俺を捉える。


「ユラ」


 ヤマトの静かな声にはっとする。


「いけるだろ」


 それは短い言葉だった。

 けれど、その確信に満ちた一言で、俺も俄然やる気が出る。

 ハヤミが先陣を切って数を減らし、サクラコさんが動きを止め、ダイゴローが弱らせて、ヤマトが俺の背中を押してくれた。

 なら、ここは――――


「やるっきゃない!!」


 一歩を踏み出すその瞬間、急に視界のノイズが消え去った。

 世界の輪郭がやけに鮮明に見える。森の木の葉が揺れる音、空気の流れ、迫り来る敵の筋肉の動き、そのすべてが驚くほど手に取るようにわかった。

 そして、視界が一瞬だけ黄金に輝いた。


「……え」


 後ろで誰かが小さな驚きの声を漏らした。けれど、俺自身はそれに全く気づいていない。

 ただ、今の自分なら確実にいけるという、絶対的な確信だけが胸を満たしていた。

 腰の剣を引き抜く。

 ほとんど無意識のまま、煌めく刃が滑らかな軌道を描き、複数のオークを一閃した。

 目にも留まらぬ速さで空間を切り裂かれたオークたちは、悲鳴をあげる暇もなく、ドサドサとその場に崩れ落ちていった。


 全員息をのむ。

 静まり返った森の中に、風だけがゆっくりと通り過ぎる。

 覚醒の感覚が消え去り、元の視界に戻ると、自分の鼓動がやけに速く波打っていることに気づいた。


「俺、やった……?」

「ああ」


 ヤマトが静かに頷いた。


「ちゃんと勇者だった」

「っ……!」


 その一言をもらった瞬間、全身の張り詰めていた力が一気に抜けた。

 初めて自分の意思で、仲間のために戦えた気がした。


「ユラ、すごーい!一気に十匹倒しちゃうなんて!」


 ハヤミがハンマーを担いだまま、嬉しそうに駆け寄ってくる。


「瞳の色、一瞬だけ黄金になってたじゃん!」

「黄金……か。いやいや」


 恥ずかしくなって、ぶんぶんと首を振る。


「ハヤミの方が全然強かったじゃん。あんな大きなオークを一発で吹っ飛ばしてたし」

「それはそれ、これはこれ」


 ハヤミはにやっと悪戯っぽく笑った。


「ちゃんと最後にカッコよく決めたのはユラじゃん」


 ストレートに褒められると、照れくさくて視線を泳がせてしまう。


「ええ。土壇場で決めるって大事な事です。とってもカッコよかったですよ」


 サクラコさんが妙に近い距離まで詰め寄ってくる。

 あの、近いです。すごくいい匂いがして、年頃の男子の心臓にはすこぶる悪いっす。


「ほら見てよ兄貴。ユラすごいでしょ」

「……そうだな」


 ヤマトが静かに肯定する。


「怖がって足を止めると思ったが、ちゃんと前に出たじゃないか。それだけでも上出来だ」

「……っ、どーも」


 なんか照れくさくなって、そっぽを向きながら返事をした。

 この人たちの隣になら、俺もここにいてもいいのかもしれない、なんて。そんな温かい希望が、静かに胸の奥で芽生えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ