27.それぞれのスキル
「……で、試すぞ。スキルとやらを」
ヤマトが手を開いたり閉じたりしている。
自分たちがどんな力を得たのか、正確に把握しておかないと今後の戦闘で困る。それは分かるのだが、どうやって確認すればいいのだろう。あのム●カのモノマネをしていた精霊は、肝心なことを何も教えてくれなかったのだ。
あの精霊、世界救うよりエロゲやる方が大事そうだな……。
「……あれ?」
俺が首を傾げた瞬間、妙な違和感が走る。
「なんか……頭の中に、画面みたいなのが出てきた」
「もしかしてステータス的なやつ?あたしも出てきた。えーと、レベル5って表示されてる」
「ゲームのような不思議な画面ですわね。私はレベル3ですわ」
「ぼくもレベル3だよ!」
「明らかに某ゲームみたいな仕様だな」
全員、それぞれ似たような画面が見えている様子だった。
レベルは全員、似たり寄ったりだ。レベル5~3ということは、まだまだ全然弱い序盤といったところだろう。ここからのレベル上げは必須に違いない。
「ええと……」
頭の中の画面を見つめると、項目の中にスキル欄があった。
「俺、料理と魔の浄化って書いてある」
スキルの説明欄の奥には、さらにいくつかの表示があった。だが、その大半は黒く塗りつぶされている。レベルを上げないと解放されないみたいだから、今はスルーしていいだろう。
「料理はわかっていたが、浄化はいかにも勇者っぽいな」
ヤマトが腕を組んでいる。
「悪いものを祓う系の力だよね」
ハヤミもウンウン頷く。
「サクラコさんはどうですか」
「私は、回復魔法と家事全般……ですわね」
「回復と家事全般!?」
生活にはこれ以上なく便利そうなスキルだ。その上、回復魔法まで覚えたという。彼女らしいといえばらしいが、ある意味では一番羨ましいかも。
「家事全般は戦闘にも応用可能ですわ。魔力の毛糸を飛ばしたり、フライパンで攻撃したり、さらにレベルを上げると掃除機で吸い込むことも可能な即死技を覚える……とありますね」
「それすごすぎ。万能すぎ」
ハヤミが引いている。ニコニコしながら恐ろしい技を覚えるようだ。
「ハヤミはどんなスキルなの」
「あたしね、実は元々スキル持ちなんだよね。鑑定と索敵ー」
「テンプレ来たな」と、ヤマト。
「でも、これのおかげで人間の善悪が判断できるんだ~。おかげでユラのことも、初対面で素敵な人だって見抜けたんだよねー。さすがに勇者だったのは見抜けなかったけど」
「そうだったんだ……」
俺の存在を、ハヤミは最初の出会いの時からしっかり見てくれていたらしい。
「あと、あたし……」
ハヤミがぐっと拳を握りしめる。
「身体能力がめっちゃ上がってる。完全に前衛のパワー型だわ。今なら魔物のオークも一撃で倒せそう」
「それは前衛の戦力として非常にありがたいな」
「で、兄貴は何なの?」
ハヤミの問いかけに、ヤマトは無表情で返す。
「ブラックマーケット」
「「「なにそれ」」」
「危ない商品を、裏で売買できるスキルだ」
「説明の時点で完全にアウトっぽいですが」
一国の王太子が持つには、いくら何でも物騒すぎるスキルだ。
「武器、車、情報、裏の流通、それからヤク……」
「普通に危ないというか、最強じゃんそれ!」
「もちろん買うのには金がかかる。購入回数の制限もあるからな。使い方次第だ」
ヤマトが不敵にニヤリと笑う。
その言葉を聞いた瞬間、俺の背筋に冷たいものが走った。理由はわからない。けれど、目の前のヤマトのいつも通りの様子を見ていたら、すぐに気のせいだと流した。
「ダイゴローはどんな感じ?」
「ぼくね!」
ダイゴローが元気よく手を挙げた。
「精霊の声を聞いたり、妖精といっぱい仲良くできるんだって!」
『もともとだろ、それ』
「うん!」
それはスキルの恩恵で強化されているのだろうか。
『かわいさアップだぞ!だりー』
『それ重要!テストに出る!』
『いたずらのレベルも上昇だぜ!』
飛び回る妖精たちが騒がしく補足する。それぞれの能力が、少しずつ形になって見えてきた。
「なんか……ちょっとワクワクしてきたかも」
ハヤミが好戦的な笑みを浮かべる。
「じゃあ、さっそく」
ヤマトが目を細めると、目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。
「うわっ!?」
驚いて声を上げる俺をよそに、ヤマトは至って冷静だ。
空間の裂け目から、黒い実体化されたウィンドウが浮かび上がってきた。ステータス画面は頭の中にしか映らないが、この商品購入画面は仲間とも共有できるようだ。
「これがブラックマーケットか」
そこには、およそファンタジー世界には似合わない、怪しげな商品一覧が並んでいた。
●武器一覧
・ワルサー
・グロック
・スミス&ウェッソン
・スプリングフィールド
・シグザウエルP365シリーズ
・打ち上げ花火
・孫の手
●乗り物一覧
・自転車
・三輪車
・原付バイク
●その他一覧
・禁断の魔導書
・違法強化ポーション
・呪われた短剣
・謎の異世界雑誌
・日用品一式
・いちごパンティ
「ラインナップ、やばくない?」
「危なそうなのばっかじゃん! っていうか、三輪車とかウケるんだけど」
俺とハヤミが呆れる中で、ヤマトは淡々と画面をスクロールしていく。
つーか孫の手って武器なのか?あといちごパンティってなんやねん。変なラインナップだな。
「……今はまだレベルが低いから、この程度しか買えないか。購入可能回数も少ない。銃もありきたりな軽量のものばかりだ」
ヤマトの細い指が、スッと画面の購入ボタンに触れた。
ぽんっ。
軽い音と共に、目の前に現れたのは、
「……なんだこれ」
海外の、見るからに怪しい雑誌の束だった。
ヤマトがそれを手に取ると、中身がパラパラと見えてしまう。白人女性から黒人女性まで、ありとあらゆるあんな所やこんな所が丸見えの、過激な海外のエロ本だった。
「うわ、なにこれ。キモっ!」
ハヤミが即座に激しいドン引きの声を上げる。俺も完全に唖然として固まった。
「研究だ」
ヤマトが、一切の冗談を排除した真顔で言う。キミは一体、何をどう研究するつもりなんだい。
「ユラがどんな反応をするか確認したかった」
「なんで俺基準なんだよ!?」
「恥ずかしがる顔が見たかった。それが今回の研究内容だ」
「そんなもん研究すんな!!」
俺は中身が年頃の17歳男子とはいえ、こういう方面の免疫はかなり薄い。いやまあ、エロゲはやってましたけども……でも、仲間がいる前でこういうものはさすがに照れるというかだね。見れるわけがないだろ。そういうのは一人で見るもんだ!
「まあ、それは納得ですわ。ユラさんの恥ずかしがるお顔は、とっても見ものですもの」
サクラコさんが、あらあらうふふと上品に微笑む。おかしくね?
「あー、確かに。ユラの恥ずかしがる顔って、なんか滾るよねー!」
でへへ、とだらしなく涎を垂らしかねない表情を浮かべるハヤミに、俺は心底ドン引きした。これが噂に聞く残念美少女というやつか。
「わー、なにこれー」
俺がハヤミの態度に呆れていると、ダイゴローが足元に置かれた雑誌を覗き込んでいた。
「変なのー」
「見るなガキィイイ!!」
俺は全力でダイゴローの目を両手で覆い隠した。子供には早すぎる。こんなものを今から見たら、将来的に変な性癖が芽生えてしまうではないか。
「ねーねー、なんでこの人たち服を着てないの? 男の人が女の人にプロレスをかけてたし。裸で」
「説明できない大人の事情というやつだよダイゴローくん」
裸でプロレスとか、7歳児の口から出合ってはいけないパワーワードが炸裂している。というか、隠すのが遅くて大体見られてしまっていたよ。ダイゴローの脳内が心配である。
「これはな、ダイゴロー」
ヤマトが真顔のまま、淡々と口を開く。
「大人の娯楽だ」
「雑すぎる説明だな!」
「大人になると、こういうものに興味が出る場合もある。だが」
ヤマトが、視線を俺の方へと巡らせてぼそりと呟いた。
「オレは、ユラ以外でそういう感情は動かんだろう」
「ちょっと、キミは何を言ってるんだい!?」
「あ、それわかる」
ハヤミが即座に同意の声を上げる。
「他の人とか見ても、別に何も思わないよね」
「ええ。ユラさんは……」
サクラコさんがウットリと息を吐く。
「とても魅力的ですから。うふふふ」
「ひいい、怪しい肉食獣みたいな目だぁあ!」
「特に、あの柔らかそうなおっぱいとか……」
「それ禿同」
「ハヤミ、同意すんな!」
「今晩、風呂……」
ヤマトがぼそりと口にする。
「覗けば問題ないだろ」
「てめえこの犯罪者予備軍!!」
「いいおかずになるかもしれん」
「その言葉をダイゴローの前で言うな!!」
「ねーねー!おかずってなに?」
「しらん!!もう嫌だこのメンバー!!」
俺の顔面は、ムンクの叫びのように激しく伸縮しているに違いない。
「周りが変態しかいない!!誰か助けてぇえ!!」
俺は半泣きになりながら、我が身の不幸な現状を嘆いた。
『無理だコラ。だりー』
『ざまあ味噌漬け。アキラメロン』
『てめえがスケベ共の餌だ。潔く辱められろ』
「妖精にまで見捨てられたぁ!」
これぞ正真正銘の四面楚歌というやつだ。
もう今すぐ、この物語のタイトルを『俺の仲間が変態しかいない件について』に改名してほしい。
思わずメタ発言が飛び出してしまうほど、俺のライフはすでにゼロに近かった。




