表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食堂店員兼勇者  作者: 平民
二章 スキル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/65

24.幻覚2

『はあ……はぐれちゃった』


 なんとなくだが、これから幻覚が始まるんだろう。

 霧がどんどん濃くなっていく。どんな幻覚を見せられるのか不安より、わくわくの方が強かった。何事も勢いが大事だ。

 光に導かれるように歩いた先は――――

 

 暗い部屋だった。

 セーラー服姿で、まだ中学生だった頃の自分だ。茫然としていたら、背後から伸びる手にぞくりとした。


『いいだろ、ちょっとくらい。母親はしばらく帰ってこない』


 ねっとりとしたような男の声がした。そいつの声は知っている気がする。

 瞬時に体が強張り、伸びてくる男の手に声が出ない。


『や……やめ……』


 嫌悪感が限界突破して、気が付いたら手足が動いていた。


『触んじゃねえッ!』


 男を思いっきり殴り飛ばしていた。


『このクズが!ケダモノ!どいつもこいつもそんな目で見やがってふざけんな!!死ねッ!!』


 ひたすら蹴って、殴りつけて、下半身を潰して、このケダモノの息を止めようとした。

 怖い。汚い。最低。触れるな。

 

 ウーウー。


 外からパトカーの音がする。

 誰かが呼んだのか部屋にどっと警察が入ってきて、気が付いたら手錠をかけられていた。

 男はかろうじて生きていた。男好きのクソみたいな母親ビッチの再婚相手だ。そんな母親ビッチに、泥棒猫って罵られた時はどうしてやろうかと思った。


 気が付いたら場面は変わって、鑑別所にいた。苗字が変わった兄だけがたまに面会に来てくれた。

 

『ねえ、お兄ちゃん……なんで男って自分勝手なの?』


 男なんて大っ嫌い。


『お兄ちゃんみたいな男ばかりだったらよかったのに』

『早美……すまない。オレはお前が思うほどいい男じゃない。むしろクズだ』

『え……』

『しばらく来れない。いや、オレの事はもう忘れた方がいい……』

『お兄ちゃん!』

『オレは……お前とは住んでいる世界が違う』


 暗い顔の兄は席を立って、振り返らずに面会室を出ていく。


『待って!お兄ちゃん!大和ッ!!』


 手を伸ばしても届かない。壁に遮られた。

 そうして兄はもう来なくなった。あれから一度も会ってない。

 

『兄の馬鹿野郎……』


 あたしの周りはろくな奴しかいない。愛情の欠片もない奴らばかり。兄だけは違うと思ってたのに、兄も所詮は薄情で冷たい奴だった。


 男しか頭にない母親も、自分勝手な兄も、性的な目で見てくる男共も、どいつもこいつもあたしをなんだと思っている。

 もう誰も頼らない。誰もいらない!


 みんなみんな大ッ嫌い――――ッ!!




『ハヤミ』


 優しい声がした。

 振り返ればクマみたいな人が立っている。


『大丈夫だよ。俺がいるから』


 本当にいてくれるの?

 

『何が何でも一緒にいてくれるんでしょ?そう言ってたじゃん』


 あたしが初めて好きになった人。白馬の王子様。この世界では自分を省みずに助けてくれた。それにどれだけ救われたと思っているの。

 もう一生逃してやらない。どこまでもついて行くって決めた。ユラだけは信じられるから。


「あったり前じゃん!あたしとユラは運命共同体なんだから!」


 景色が崩れる。先ほどまでいた森の景色を見てほっとした。



 *


「みなさん……どこに行ってしまったのかしら……」


 霧の中を宛もなく彷徨う。

 一体どこに何があるのかまったく見当もつかない。とにかく何かないかと探していると、向こうの方に光が見えた。

 今はそれを頼りに足を進めた。


 明るい部屋が広がる。

 今日も従業員がお客様相手にプランを説明している。女性の美を追求し続けるエステティックサロン。

 尊敬していた先輩のお店で働けて嬉しかった。だからこそ、お客様のため、お店のために誠心誠意がんばっていたはずだったのに。


『また指名?すごいですね~』

『いえ、そんな』

『壇ノ浦さんの施術ってとても上手で丁寧って評判だからねー』


 仕事場はみんなが笑顔。和気あいあいで楽しい職場だった……はずだった。いつの日かそれも殺伐としていた。


『調子に乗ってない?』

『新人のくせに』

『媚びてるだけでしょ』

『私の方が早く入ったのに』

『うざいんだけど』


 ひそひそと声が聞こえる。どれもが私を貶す言葉だった。陰口なんてどこにでもあると思っていた。


『ねえ、壇ノ浦さん。これもやっといてくれる?』

『あそこの掃除も』

『明日の面倒なお客様の担当、あなたがやって』


 次第に店の雑用や嫌な仕事を全て押し付けられるようになった。人気ナンバーワンの指名だからできるでしょって。


『はあ……』


 鏡に映る自分は今日もかろうじて笑っている。でも目は疲れているように見えた。それでも気にしないで仕事に没頭していたけど、みんなはそれ以上に私をよく思っていなかった。


『あなた、お店の化粧品を着服したの?』

『え……』

『あなたのかばんから大量に見つかったの』


 そうして現場を見に行けば、かばんの中に大量の店の売り物や、レジの売り上げが一部入っていた。


『私はしていません!本当なんです!!』


 誰かが故意にかばんの中に入れたって。何度そう説明しても、誰も信用してくれなかった。

 同僚たちが遠目でこちらを見ていた。口の端を持ち上げながら。

 ああ、謀られたんだって気づいた。


『残念だわ。あなたの事、大事にしてきた後輩だったのに』


 尊敬していた先輩に失望され、店を追い出された。窃盗だからと警察にも注意されて、店のオーナーにも怒られて、二度とその業界では働けなくなった。


 私、間違っていたのかな。

 ただ、一生懸命働いていただけだったのに。もっと上手くやれていればよかったのかもしれない。

 もう誰も、信用できない……。

 誰も彼もが疑いの目で見てしまう。信用できる人なんて、いない。



『サクラコさん』


 最近仲良くなった人が立っていた。

 学校でいじめにあっても、馬鹿にされても、我慢し続けて笑顔でいた人。それを乗り越えた人。私とは大違い。


『あなたを……信じていいですか?』


 前に踏み出すように問いかける。


『サクラコさんは短い中で、俺のためにいっぱい世話をしてくれた。それは嘘偽りのないまごころ』


 この人はこんなに優しいけれど、いつかは私から離れていくんじゃないかって不安もある。


『疑っていいよ』


 にっこり微笑む目はとても真っ直ぐ。


『でも、最後に信じる相手は、俺でいてほしい』


 はっきりそう言ってくれた。


『じゃあずっと見ています。あなたの事を』

『うん、見ていて。俺が信用できる奴かどうかを』


 幻覚とはいえ、やはり彼は優しい人。私がほしい言葉をくれる。

 さあっと景色が風のように消える。元の森の中の景色に戻ってきていた。


面白いなと思った方は、ブクマや評価などいれていただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ