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食堂店員兼勇者  作者: 平民
二章 スキル

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18/65

18.周囲の反応

「あれが……勇者なんだろ」

「本当にあいつなのか?」

「いや、でも見た奴が言ってたぞ。デブからすげぇスタイル抜群イケメンになって、魔物を一瞬で倒したって」


 相変わらず、ざわつきは収まらない。昨日までの軽蔑と違う。

 怖がられているのか、期待されているのか。それとも、値踏みされているのか。

 複雑にいびつにねじ曲がったような視線で、ただ、居心地が悪いのは同じだった。

 この不躾な視線たちは、これからずっと続くのだろうか。


 いやぁ、デブスが勇者ですいませんね。こんなブサ面が勇者とか身の程を知れっつうか、不釣り合いだよねーはっはっは……はあ。相撲取り無双ハーレムじゃなかったのがマジで残念だ。


「チッ」 


 ヤマトが小さく舌打ちした。


「うっぜえ……」

「ほんっとジロジロとうぜえ」


 ハヤミも腕を組む。


 昼食時、いつもの場所で三人で休憩していた。

 でも、周囲の視線は変わらない。

 相変わらずヒソヒソとこちらを見る生徒ばかりで、居心地が悪い。


「あ、そういえば」


 俺がふと思い出したように言う。


「王家のネックレスなんだけどさ」


 首元に手をやる。

 綺麗な鎖に中心の宝石に、勇者を象徴した剣の紋章が浮き出ている。


「なんか、いつの間にか自分のものになってて……ちょっとやそっとじゃ外れなくなったんだ


 まるで自分と一心同体になったように、鼓動すら聞こえる。

 もし、無理に外そうとすれば、自分の命すら終わる。そんな気がした。


 普通じゃなくなっちゃったな、俺……。


 触れるたびに、思い知らされる。

 まるで「お前はもう普通には戻れない」と言われているみたいで、なんだか切ない。

 ヤマトは一瞬だけそれを見る。


「別にいい」


 あっさりとした返答だった。


「それは王家の証ではあるが、元々は勇者のものだ。だからお前が持つべきだ」

「……うん。そうする……外れないもんな」


 どこか他人事に思える。自分の事なのに。


「なんかさ、実感わかないんだ。自分にそんな途方もない力があるなんて。責任重大だし、魔王を倒す使命とかさ……正直怖い」


 ぶっちゃけ、やりたくないです。勇者なんて。

 こんなデブスでうだつの上がらない自分が、そんな役目と使命を背負わされるなんて。

 嫌な言い方かもしれないが、罰ゲームにひっかかった気分である。普通に生きたかったのにな。


「なんで選ばれちゃったのかなぁ……」


 ヤマトは少しだけ視線を向ける。


「オレはお前が選ばれて正解だと思うが」

「……え?」


 俺が顔を上げる。


「確かに、使命とか責任とか重いだろう。だが」


 淡々としていた顔が、一瞬だけ柔らかくなる。


「お前は誰よりも優しい。だから、選ばれたんだろうな」


 なんだか恥ずかしいな。面と面でそう言われると。


「なにそれ」


 ハヤミが口を挟む。


「急にいいこと言ってんじゃん。腹黒王子のくせに」

「事実だろ、脳筋お嬢様」


 あまり褒められた事のない俺に、こうして遠回しに褒めてくれるヤマト。

 さりげないイケメン行動が本当にずるいものだ。本人はわかってて言っているんだろうけど。


 昼休憩を終えて廊下に戻ってくると、生徒達が掲示板の前に集まっていた。

 月末のテストの結果が張り出されている。悲鳴をあげる者もいれば歓喜する者もいて様々。そんな俺は言うまでもなく悲鳴の方だ。


 今回の学園総合成績順位

 一位、ヤマト・カノウ 満点

 ・

 ・

 200位ザァコ・ヤーロウ 



「さすが殿下だわ。抜かりない」

「ザァコ様は……あ」

「シッ、あの人の事は突っ込んじゃだめ」


 そういえば第二王子のザァコ・ヤーロウは、婚約破棄問題で多方面から責任を取らされ、離宮に軟禁されたとかなんとか聞いた。ついでに恋人のアバズ・レンダも一緒に軟禁されているとか。リア充同士よかったな。

 それでも学園には、テストを受けに来る事だけは許可されているので、まだ温情がある。


 ザァコの元婚約者だったハヤミは、嬉々として「あんな野郎と婚約解消できてうれしい」とすごい笑顔で話していたので、今後はもうほとんど姿を見る事はないだろう。俺としてもあの男からデブだの化け物言われたので、顔を合せなくなりそうでほっとする。


「それにしてもヤマト様はやっぱりすごいですわ」

「やっぱり天才ですわぁ」

「顔もいいうえに王子で天才だなんて非の打ち所がないわ」

「あーん素敵すぎるぅ」

「「きゃあああんヤマト様ぁ♡」」


 遠巻きに盛り上がる令嬢たちは、目をハートマークにさせている。


「うるせぇ。ミーハー女共」


 当の本人は、心底どうでもよさそうだった。ああいうタイプの女性は嫌いそうである。


「でもヤマトはすごいなぁ。俺は下から数えた方が早い成績だし……とほほ」


 日本にいた時も、低い偏差値の学校に通っていた。部活の剣道ばかりして、勉強はまるっきりしてこなかったのだ。赤点常習犯でいつも先生に怒られていた気がする。だってわからないものはわからないのだ。人間、得手不得手というものがあるんだからさ。そう言って、勉強ができないのを言い訳にする俺はクズですすいません。


「今度教える」


 さらっとヤマトが言う。


「勉強くらいどうとでもなる」

「ヤマト……」


 スマートにそう言えるイケメン。この人、マジなんでもできそう。天才だろ。天才な上にイケメンとかなんなの。ずりぃ。俺なんてデブスな上に勉強もダメで、取柄なんて料理くらいしかないというのに。


「……暇な時な」


 恥ずかしくなったのか、ヤマトは少しだけ視線を逸らした。


「ん、ありがとう」


 王太子自ら教えてくれるなんてすっごい贅沢だよなぁ。


「ふーん」


 その様子を見ていたハヤミは、目を細めていた。


「……あたしの前で、あんまり距離詰めんなよ」


 


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