18.周囲の反応
「あれが……勇者なんだろ」
「本当にあいつなのか?」
「いや、でも見た奴が言ってたぞ。デブからすげぇスタイル抜群イケメンになって、魔物を一瞬で倒したって」
相変わらず、ざわつきは収まらない。昨日までの軽蔑と違う。
怖がられているのか、期待されているのか。それとも、値踏みされているのか。
複雑にいびつにねじ曲がったような視線で、ただ、居心地が悪いのは同じだった。
この不躾な視線たちは、これからずっと続くのだろうか。
いやぁ、デブスが勇者ですいませんね。こんなブサ面が勇者とか身の程を知れっつうか、不釣り合いだよねーはっはっは……はあ。相撲取り無双ハーレムじゃなかったのがマジで残念だ。
「チッ」
ヤマトが小さく舌打ちした。
「うっぜえ……」
「ほんっとジロジロとうぜえ」
ハヤミも腕を組む。
昼食時、いつもの場所で三人で休憩していた。
でも、周囲の視線は変わらない。
相変わらずヒソヒソとこちらを見る生徒ばかりで、居心地が悪い。
「あ、そういえば」
俺がふと思い出したように言う。
「王家のネックレスなんだけどさ」
首元に手をやる。
綺麗な鎖に中心の宝石に、勇者を象徴した剣の紋章が浮き出ている。
「なんか、いつの間にか自分のものになってて……ちょっとやそっとじゃ外れなくなったんだ
まるで自分と一心同体になったように、鼓動すら聞こえる。
もし、無理に外そうとすれば、自分の命すら終わる。そんな気がした。
普通じゃなくなっちゃったな、俺……。
触れるたびに、思い知らされる。
まるで「お前はもう普通には戻れない」と言われているみたいで、なんだか切ない。
ヤマトは一瞬だけそれを見る。
「別にいい」
あっさりとした返答だった。
「それは王家の証ではあるが、元々は勇者のものだ。だからお前が持つべきだ」
「……うん。そうする……外れないもんな」
どこか他人事に思える。自分の事なのに。
「なんかさ、実感わかないんだ。自分にそんな途方もない力があるなんて。責任重大だし、魔王を倒す使命とかさ……正直怖い」
ぶっちゃけ、やりたくないです。勇者なんて。
こんなデブスでうだつの上がらない自分が、そんな役目と使命を背負わされるなんて。
嫌な言い方かもしれないが、罰ゲームにひっかかった気分である。普通に生きたかったのにな。
「なんで選ばれちゃったのかなぁ……」
ヤマトは少しだけ視線を向ける。
「オレはお前が選ばれて正解だと思うが」
「……え?」
俺が顔を上げる。
「確かに、使命とか責任とか重いだろう。だが」
淡々としていた顔が、一瞬だけ柔らかくなる。
「お前は誰よりも優しい。だから、選ばれたんだろうな」
なんだか恥ずかしいな。面と面でそう言われると。
「なにそれ」
ハヤミが口を挟む。
「急にいいこと言ってんじゃん。腹黒王子のくせに」
「事実だろ、脳筋お嬢様」
あまり褒められた事のない俺に、こうして遠回しに褒めてくれるヤマト。
さりげないイケメン行動が本当にずるいものだ。本人はわかってて言っているんだろうけど。
昼休憩を終えて廊下に戻ってくると、生徒達が掲示板の前に集まっていた。
月末のテストの結果が張り出されている。悲鳴をあげる者もいれば歓喜する者もいて様々。そんな俺は言うまでもなく悲鳴の方だ。
今回の学園総合成績順位
一位、ヤマト・カノウ 満点
・
・
200位ザァコ・ヤーロウ
「さすが殿下だわ。抜かりない」
「ザァコ様は……あ」
「シッ、あの人の事は突っ込んじゃだめ」
そういえば第二王子のザァコ・ヤーロウは、婚約破棄問題で多方面から責任を取らされ、離宮に軟禁されたとかなんとか聞いた。ついでに恋人のアバズ・レンダも一緒に軟禁されているとか。リア充同士よかったな。
それでも学園には、テストを受けに来る事だけは許可されているので、まだ温情がある。
ザァコの元婚約者だったハヤミは、嬉々として「あんな野郎と婚約解消できてうれしい」とすごい笑顔で話していたので、今後はもうほとんど姿を見る事はないだろう。俺としてもあの男からデブだの化け物言われたので、顔を合せなくなりそうでほっとする。
「それにしてもヤマト様はやっぱりすごいですわ」
「やっぱり天才ですわぁ」
「顔もいいうえに王子で天才だなんて非の打ち所がないわ」
「あーん素敵すぎるぅ」
「「きゃあああんヤマト様ぁ♡」」
遠巻きに盛り上がる令嬢たちは、目をハートマークにさせている。
「うるせぇ。ミーハー女共」
当の本人は、心底どうでもよさそうだった。ああいうタイプの女性は嫌いそうである。
「でもヤマトはすごいなぁ。俺は下から数えた方が早い成績だし……とほほ」
日本にいた時も、低い偏差値の学校に通っていた。部活の剣道ばかりして、勉強はまるっきりしてこなかったのだ。赤点常習犯でいつも先生に怒られていた気がする。だってわからないものはわからないのだ。人間、得手不得手というものがあるんだからさ。そう言って、勉強ができないのを言い訳にする俺はクズですすいません。
「今度教える」
さらっとヤマトが言う。
「勉強くらいどうとでもなる」
「ヤマト……」
スマートにそう言えるイケメン。この人、マジなんでもできそう。天才だろ。天才な上にイケメンとかなんなの。ずりぃ。俺なんてデブスな上に勉強もダメで、取柄なんて料理くらいしかないというのに。
「……暇な時な」
恥ずかしくなったのか、ヤマトは少しだけ視線を逸らした。
「ん、ありがとう」
王太子自ら教えてくれるなんてすっごい贅沢だよなぁ。
「ふーん」
その様子を見ていたハヤミは、目を細めていた。
「……あたしの前で、あんまり距離詰めんなよ」




