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食堂店員兼勇者  作者: 平民
一章 勇者誕生

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10.光の魔力測定

 一時間目は光属性の実技だった。

 魔王復活が近い影響からか、学校側は他の属性よりも明らかに光属性の授業に力を入れている。

 中庭の訓練場に移動すると、生徒たちが大きな円になって並んだ。中央に置かれているのは、透明な魔力測定用の水晶球だ。


「今日は基礎の確認だ。順に触れて、各自の光魔力量を測定する」


 担当の教師が淡々と告げると、貴族の生徒たちが順番に前へ進み出た。

 水晶に触れるたび、そこそこの数値が並んでいく。周囲の拍手も歓声も、どこか義務的で予定調和なものだった。まあ、こういうのかったるいもんな。

 列の後ろでぼんやりと順番を待っていると、俺の番が回ってきた。面倒くさいが、やるしかない。


「……えっと、入学式の時みたいに触れればいいんですよね」

「そうだ。軽く手を置くだけでいい」


 教師に促され、おそるおそる水晶球に掌を滑らせる。

 触れた瞬間、水晶の奥深くで激しい光が走った。まばゆい白光が一気に満ちていき、魔力量を示す目盛りが恐ろしい速さで上へ上へと跳ね上がる。

 カンカン、と測定限界に達した音が響いた。それでも光の勢いは止まらない。


「……最大値、だと?」


 教師が驚愕に目を見開く。

 俺自身も何が起きたのか分からず、ただ呆然と立ち尽くした。

 最大って……なんで?

 周囲の生徒たちも、ほんの一瞬だけ静まり返る。

 だが、その沈黙はすぐに嘲笑へと変わった。


「壊れてんだろそれ。よりによってデブスがMAXとか冗談きついわ」

「昨日の落雷のせいで誤作動してんじゃねーの?」

「ま、そうだよな。ありえないし。そういえば昨日の平民街の落雷、すごかったよな」

「真っ白い稲光で、まるで勇者が落とした稲妻みたいだってよ」


 口々に騒ぎ立てる生徒たちの私語が一気に増えていく。教師はわざとらしい咳払いをひとつ挟んだ。


「私語は慎め。えー、機器の不調だな。後で整備班に回す。次」


 あっさりと不具合として処理され、俺の測定は流された。

 まあ、いいか。別に自分の魔力量なんて興味ないし、MAXだなんて確かに壊れていると考えるのが普通だ。というか変に目立ちたくないし。

 ただ、離した掌には妙な熱が残っている。

 この感覚は、昨日手にしたあのネックレスの感触に、とてもよく似ている気がした。


「次は実戦想定だ。低位魔物に対し、光魔法での無力化を行う」


 教師の合図で、訓練場の隅にある檻の向こうに視線が集まる。弱いスライムや小型の魔物がうごめいていた。

 各自が詠唱して光弾を当てるだけの、ごく簡単な訓練だ。

 貴族生徒たちの手から光弾が次々に放たれ、ぱしゅんと軽い音を立てて魔物が弾けていく。


「はい次、ユラ・ハナゾノ」

「……はい」


 あまりやる気はないが、それなりに授業を受けていますというアピールは必要である。教師に目をつけられて面倒なことになるのも嫌なので、かるく深呼吸をする。

 体の奥に眠る何かを、いつも通りに外へ押し出すイメージを浮かべた。


「えー、わが光よぉ~おちろ~ちんから~ほい~」


 手のひらに光が集まる。いつもより、なんだか光の密度が濃い。

 次の瞬間だった。


 ドォォオオン。


 凄まじい轟音が響き渡る。

 なぜか俺の掌からではなく、遙か上空から一直線に光が落ちてきた。

 光の稲妻が、檻の中の魔物を容赦なく貫く。眩い閃光と強烈な衝撃が訓練場を揺らし、周囲に肉の焦げた臭いが立ち込めた。

 さっきまで動いていた魔物は、消滅して影も形もない。


「……は?」


 誰かが素で呆然とした声を漏らした。俺も口をあんぐり開けた。

 教師も口が半開きで固まっている。


「い、今のは……光の稲妻、だと……?」


 教師の声は完全に裏返っている。

 訓練場の空気が張り詰め、誰も笑わない。誰もが息をし忘れたかのように、俺を見つめていた。

 しかし、その緊張感も長くは持たなかった。


「い……いやいやいや、見間違いだろ。光弾がたまたま弾けただけだって」

「勇者専用の魔法だぞ?あのデブスが使えるわけないだろ」

「だな。今のは昨日の雷がたまたま落ちただけだろ」

「つかデブスが勇者だったら、それどんな罰ゲームだよ。世界滅んじまうじゃん」


 どっと大きないじりの笑いに変わる。いつもの、俺をのけ者にする空気に戻っていく。

 まあ、それが普通だよな。デブスが規格外パワーなんて出したら、ヴィジュアル的にもよくはないし、そういうのはイケメンとか美少女じゃないと誰も信用してくれないだろう。見た目ってホント評価に作用するこの昨今。ルッキズムの世の中は不細工には世知辛い世の中である。


 その中で、今の本当に偶然なのかな、と疑問に思う声も少しはあったが、すぐに周囲の笑い声にかき消された。

 教師も一瞬だけ困惑した表情を浮かべたが、すぐに自分を納得させるように結論を出した。


「……出力過多による現象だ。制御が未熟だな。次からは出力を抑えろ」

「は、はい……気をつけます……」


 なぜかこちらが注意されてしまったのが腑に落ちない。

 制御が未熟なのか、たまたまなのか、それとも。いや、これ以上考えるのはやめておこう。面倒くさい。デブスに期待するだけ無駄なのである。

 それにしても、また掌がじんと熱い。昨日よりも、その熱が確実に強くなっている気がする。


 その騒ぎの遠くから、ヤマト殿下がじっとこちらを見ていたのを、俺は知らなかった。

面白いと思いましたら、ブクマや評価などしていただけると嬉しいです。

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