18. 金の正体
四人が案内された部屋は、無駄な装飾の一切ない、無機質な空間だった。
中央には石造りの机が一つだけ置かれ、その上に布で覆われた箱があった。
立ち会い担当の職員が無言で布を外すと、中には例の金塊が整然と並んでいる。
昨日財務省で見たものと同じで、鈍く重たそうな金色が、照明を受けて光っていた。
運び込みから設置までの手際の良さは、さすがアイソレイド金庫と言ったところだった。
アリスたちは無言のまま、机の端にそれぞれ持参した道具を並べていく。
調査というより、どこか実験室の準備のような光景になっていった。
ローズは帳簿と一緒に、革製の小袋を机に置いた。
中には重量確認用の分銅と、刻印を拡大するための簡易ルーペが収められている。どちらも華美さはなく、実務用として使い込まれた痕があった。
アレクは無言のまま上着の内側に手を入れ、細い金属製の棒を取り出す。
表面は滑らかだが、軽く叩けば澄んだ音が返ってくるタイプの打診用具だ。見た目は地味だが、素材の違いを聞き分けるには十分すぎる精度を持っている。
最後にセシルが、少しだけ躊躇うように懐を探り、短い金属棒を机に置いた。
ずっしりと重く、先端は丸く加工されていて、衝撃が一点に集中しない構造になっている。並べられた道具はどれも質素だが、目的ははっきりしている。
セシルは一度だけ金塊に視線を落とし、それからアリスを見る。
「……アリス。本当にいいのよね?」
アリスは肩をすくめた。
「いいわよ。ここまで来て、触らない方が不自然でしょ」
ローズは小さく頷き、帳簿を閉じた。
「じゃあ、まずは……」
彼女は分銅を取り出し、秤の上に一つずつ載せていく。
金塊も同様に測られ、記録と照合される。
アレクが金塊の一つを両手で持ち上げ、ゆっくりと回す。
見た目は完璧だった。刻印の位置も、角の摩耗も、光の反射も、この間のものと何ひとつ違わない。
彼は打診用の金属棒を指に挟み、金塊の側面に軽く当てた。
力はほとんど加えす、触れるように、場所を変えながら確かめていく。
セシルは金塊の一つをじっと見つめていた。
「……アレク。もう一度、場所を変えてみて」
アレクは頷き、別の金塊を取って同じように打診する。
結果は同じだった。どこを当てても、違和感はない。だが、セシルは納得していなかった。
「……やっぱり、叩かないとダメね」
「叩く、って……本気で?」
ローズが思わず顔を上げる。
「ええ、軽く当てるだけじゃ、中までは分からないわ。いいわよねアリス?」
「やりましょう。責任は私が持つから」
立ち会い担当の職員が、無言で頷く。
アレクは金塊を両手で持ち、机の中央へと移動させた。
安定する位置を探し、角を上に向ける。
セシルは打診棒を握り直した。先端がわずかに光を反射する。
セシルは一度だけ息を吸い込んだ。
軽くでは意味がない。そう判断したのだろう。躊躇いを振り払うように足を踏みしめ、打診棒を高く振り上げる。
「いくわよ」
次の瞬間、思い切り振り下ろされた。
鈍い衝撃が机を震わせる。
金塊は一瞬その形を保ったが、角の部分から細い亀裂が走った。まるで乾いた土に入るひびのように、線は一気に広がる。
さらにもう一撃。
今度は、はっきりと割れた。
硬い破片が石の机に跳ね、乾いた音を立てる。露出した断面は、鈍い金色ではなく、くすんだ黄褐色をしていた。
アリスはその断面を一瞥し、頷く。
「やっぱりそうだったわね。これは、金じゃない。黄鉄鉱よ」




