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「それ、恋じゃない?」と親友に言われてから、彼の何気ない優しさに振り回されています  作者: 入多麗夜


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18/20

18. 金の正体

 四人が案内された部屋は、無駄な装飾の一切ない、無機質な空間だった。


 中央には石造りの机が一つだけ置かれ、その上に布で覆われた箱があった。

 立ち会い担当の職員が無言で布を外すと、中には例の金塊が整然と並んでいる。


 昨日財務省で見たものと同じで、鈍く重たそうな金色が、照明を受けて光っていた。


 運び込みから設置までの手際の良さは、さすがアイソレイド金庫と言ったところだった。


 アリスたちは無言のまま、机の端にそれぞれ持参した道具を並べていく。

 調査というより、どこか実験室の準備のような光景になっていった。


 ローズは帳簿と一緒に、革製の小袋を机に置いた。

 中には重量確認用の分銅と、刻印を拡大するための簡易ルーペが収められている。どちらも華美さはなく、実務用として使い込まれた痕があった。


 アレクは無言のまま上着の内側に手を入れ、細い金属製の棒を取り出す。

 表面は滑らかだが、軽く叩けば澄んだ音が返ってくるタイプの打診用具だ。見た目は地味だが、素材の違いを聞き分けるには十分すぎる精度を持っている。


 最後にセシルが、少しだけ躊躇うように懐を探り、短い金属棒を机に置いた。

 ずっしりと重く、先端は丸く加工されていて、衝撃が一点に集中しない構造になっている。並べられた道具はどれも質素だが、目的ははっきりしている。


 セシルは一度だけ金塊に視線を落とし、それからアリスを見る。


「……アリス。本当にいいのよね?」


 アリスは肩をすくめた。


「いいわよ。ここまで来て、触らない方が不自然でしょ」

 

 ローズは小さく頷き、帳簿を閉じた。


「じゃあ、まずは……」


 彼女は分銅を取り出し、秤の上に一つずつ載せていく。

 金塊も同様に測られ、記録と照合される。


 アレクが金塊の一つを両手で持ち上げ、ゆっくりと回す。


 見た目は完璧だった。刻印の位置も、角の摩耗も、光の反射も、この間のものと何ひとつ違わない。


 彼は打診用の金属棒を指に挟み、金塊の側面に軽く当てた。

 力はほとんど加えす、触れるように、場所を変えながら確かめていく。


 セシルは金塊の一つをじっと見つめていた。


「……アレク。もう一度、場所を変えてみて」


 アレクは頷き、別の金塊を取って同じように打診する。

 結果は同じだった。どこを当てても、違和感はない。だが、セシルは納得していなかった。


「……やっぱり、叩かないとダメね」

「叩く、って……本気で?」


 ローズが思わず顔を上げる。

 

「ええ、軽く当てるだけじゃ、中までは分からないわ。いいわよねアリス?」

「やりましょう。責任は私が持つから」


 立ち会い担当の職員が、無言で頷く。


 アレクは金塊を両手で持ち、机の中央へと移動させた。

 安定する位置を探し、角を上に向ける。


 セシルは打診棒を握り直した。先端がわずかに光を反射する。


 セシルは一度だけ息を吸い込んだ。


 軽くでは意味がない。そう判断したのだろう。躊躇いを振り払うように足を踏みしめ、打診棒を高く振り上げる。


「いくわよ」


 次の瞬間、思い切り振り下ろされた。

 鈍い衝撃が机を震わせる。


 金塊は一瞬その形を保ったが、角の部分から細い亀裂が走った。まるで乾いた土に入るひびのように、線は一気に広がる。


 さらにもう一撃。

 今度は、はっきりと割れた。


 硬い破片が石の机に跳ね、乾いた音を立てる。露出した断面は、鈍い金色ではなく、くすんだ黄褐色をしていた。


 アリスはその断面を一瞥し、頷く。


「やっぱりそうだったわね。これは、金じゃない。黄鉄鉱よ」

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