8-11.進軍
前回あらすじ:ちょっと王様本気ですか。
「フルーフの兵よ聞いてほしい。
我らはあなた方と、戦うために来たのではない。
フルーフの王を救いにきたのだ」
銀鱗翼竜の背に乗り、空高く円を描いている。
下にはフルーフの兵達が小さく見えている。
彼らも俺に対し何かを叫んでいるかもしれないが、俺まで声は届かない。
逆に俺の声は彼らには届いているはずだ。
声をマナに載せ発している。
出陣式でアルテミラル王が行ったのを見て、ビチュレイリワが仕組みを解析、俺が使えるようにした。
ビチュレイリワが欲しがっていた、離れた場所に言葉を伝える仕組みに使えるかもと、張り切って解析したようだ。
「戦う気は無いのだ、武器を収めてくれ」
その後も何度も下の兵に呼びかけて、日が沈みアルテミラルの陣に戻った。
中央の大きな天幕に入る。
この軍の司令部になっている。
「あれで戦いが回避できればいいけど」
人の姿に戻ったケイトさんが後に続く。
まったくだ。
アルテミラル軍は国境を越えていない。
だがこれだけの兵が押し寄せたら、反撃の準備をしない国などないだろう。
フルーフは国境付近の兵を緊急招集した。
兵は今後も増えて、時間が経てばこちらに不利になってゆく。
今強襲すれば簡単に勝てたかも知れないが、今回の出兵はフルーフへの侵攻ではない。
中央に巣食っている魔王軍の排除だ。
何も知らないフルーフの兵と戦う事は出来ない。
今俺はアルテミラル軍を預かっている。
王の代理と言う立場だ。
そう、王はこの進軍に参加していない。
魔境周辺にいる。
ビッシュ・クラエテルが隠してあると言う俺の進言を元に、殲滅作戦を指揮している。
王の下にギルドやクランの冒険者が集められ、魔境への侵入を繰り返しているのだ。
どう考えても、俺と王の役割が逆だ。
俺が冒険者と一緒で、王は兵と進軍するべきだろう。
判っているさ、これが俺を試している事ぐらい。
失敗すれば魔王討伐の道は断たれ、成功すれば国民の信頼と期待は絶大になり、俺は王になる道しか無くなってしまう。
何故いつも選択の余地がない状態で、俺は決めなければならないのだろう。
天幕の中には、大きなテーブルがありその上にフルーフの地図が広げられている。
両軍の兵も駒として配置されていた。
本当に戦争の風景だ。
「目の前の彼らを避けて王都に近づくのは無理だな。
空から城に取り付くのも出来なそうだし」
キューさんが目の前にある敵兵の駒を見てぼやく。
「城には大型弩に偽装した、光子砲がある。
私の弓の数十倍の威力がある。
銀鱗翼竜でも一撃で撃ち落とされるでしょうね」
「そんな物耐えてみせるわ」
そうケイトさんが反論するが、城に近づいた時ビチュレイリワの警告がなければ危なかった。
「マナは思考により力を具現化する。
光子砲の本質を理解していないケイトでは防ぐのは無理」
これが空から強襲する方法が取れない理由だ。
今回空からの攻撃は俺達が有利だ。
銀鱗翼竜がいる事に加え、竜騎士が2名参戦してくれている。
新しく選ばれた竜騎士が、銀鱗翼竜を頼り俺の指示に従ってくれている。
竜騎士が、進軍中の兵の真ん中に舞い降りた時は驚いた。
旧竜騎士が残っていて、復讐されるのかとも思ったが、違った。
彼らは、あの卵から生まれたドラゴンたちに新しく選ばれたのだ。
「城には大型弩で狙われるので、上空から近づくのは無理だ。
地道に地上を進軍するしかない」
「どうやって、あの兵達と戦わずに進むなんて無理よ。
戦ってしまえば、この進軍に大義は無くなってしまう」
魔王軍と戦う事が、人を傷つけて良い理由にはならない。
人々を害する魔王を排除しようと言うのだから。
天幕の外が騒がしくなった。
見てくる、とリーシェさんが出てゆく。
その後に2名の女騎士が続く。
リーシェさんは冒険者の服装に戻っているが、ここでの扱いはすでに王女様のものだ。
戻ってきたリーシェさんは、3人の兵士を連れていた。
1人は往年の騎士、3人の中で彼が一番偉そうだ。
残り2人は兵士というより戦士か、使い込まれた武具のようすは傭兵のようにも見える。
「私は、あなた方が先程飛んでいた地の領地セバムと言います。
我が国王より子爵の爵位をいただいている。
私の承諾もなく領地上空を飛んだ謝罪と、今回の進軍に関しての説明を要求する」
話すチャンスをくれてた、分別は持っている人のようだ。
「セバム殿に断りなく領地に侵入した事、このとおりお詫びします」
と俺は頭を下げた。
周りにいた兵に動揺が広がる。
「次期国王がそう安々と頭を下げるか。
アルテミラルとは軽薄な国なのだな」
セバム卿はわざと挑発している。
彼は剣を下げたままだ。
普通敵軍の司令に会う使者に、武器の携帯は許されない。
さっき騒いていたのはそのためだろう、リーシェさんがそのまま通したのだ。
降伏の使者ではないと言う彼の矜持だ。
「今の私は一介の冒険者です。
間違いがあれば、いくらでも頭を下げる事にしております」
フンと鼻をならした。
俺の応えは、及第点のだったようだ。
それで双方の緊張がいくらか和らいだ。
「どうぞ、お座りください」
と椅子を勧めても。
「ここで結構」
と、その剣を抜かず地面に立て、両手をその上に乗せる。
あくまでも対等の立場である事を示す。
「国境に集まった兵ですが、先程言いましたとおりフルーフに戦いを挑みに来たのではありません。
占領や領地拡大などの意図は全くもっておりません。
『人界の盾十国』の本分、魔王討伐のためです。
今王城は魔王軍に侵されています、それを救いに来たのです」
ガン!
セバム卿が剣で地面を叩いた。
「そこまでフルーフ国を侮辱するのですか。
我らとて『人界の盾十国』の1つ、魔王軍が通じるなど...
ありえない」
怒っている。
「銀鱗翼竜の背から、語られた言葉でも信じられぬか」
セバム卿に『人界の盾十国』の1つフルーフ王国貴族としての思いがあるように、ケイトさんには守護竜としての使命がある。
それを無視されては黙ってはいられない。
「あ、貴方様が..」
銀鱗翼竜が女性の姿も持っていると言う話は、各国の上では常識になりつつある。
その当人に問われ、答えに詰まった。
「妾を前にしても、国の見栄を語るか。
小さい事だ」
これは、タビさん。
「酔っぱらいが何を言う」
彼女の正体も知るものは知っているが、セバム卿は知らないようだった。
卿が下級貴族だっためか、タビさんが酒を飲んでる姿のためなのか。
タビさんは、一笑したケイトさんに酒杯を突き出す。
ケイトさんは黙って波々と注いだ。
霊獣としてはこの程度では何も感じないようだ。
「ではセバム殿におうかがいします。
爵位も持たぬ伯爵の子が、王城で何故ああも勝手が出来るのです?」
セバム卿としては思わぬところからの話だったのだろうが、思い当たる事があるようで表情が変わった。
それは後ろに控えていた2人も同じだ。
苦悩の色を浮かべ、一言。
「サビツオーニ伯爵が魔王軍と繋がっていると」
「違います、伯爵も被害者。
魔王軍と手を握っているのはその子です」
父が単純な被害者なのかは疑問もあるが、魔王軍とは内通していない。
「セバム様、やはり」
控えていた1人が口を開いた。
"やはり"と言ったからには、疑ってはいたのだ。
「思い当たる事があるのですね」
「最近、中央がおかしい。
近衛兵の数を増やし、家族とも会えなくなるしているのもそうだ」
「彼らは死体人形になっています」
3人に驚いていたが大きな動揺はない、薄々気づいていたのかも知れない。
「フィリッペスキ王はどちらだ。
被害者か、それとも」
セバム卿は"魔王軍に下ったか"とは、続けられなかった。
臣下にすれば重要な事だ。
王にビッシュ・クラエテルは寄生していない。
ただそれはこの惨状を生んだ男の趣味だ。
彼は王を、正常の意識のまま脅し操っている。
王の苦悩を見て楽しんでいる。
「銀鱗翼竜の背から、王を救うと叫んだはずです」
「お前の話は、全てを信じる事は出来ぬが、否定も出来ぬ。
それに私に許されるのは、アルテミラル軍の防御戦までだ」
子爵と言う地位は、国の中では高くない。
国を左右する決定を、出来るわけがない。
考えた結果、セバム卿は
「私の許可なく領地に入る事は許さない。
そのかわり、我らも国境を犯すことはない」
と言った。
他に適任者が来るまで先延ばしにしただけだ。
最も欲しかった答えでは無いが、両軍が戦う事は当面避けられた。
セバム卿は、ここに入った時の威勢はなくなり、肩を落として自分の陣に戻った。
可愛そうだが、彼以上の適任者がこの地に来ることはないように思える。
『人界の盾十国』の者が、銀鱗翼竜に弓引く事はそれほどに重い。
領地を思い飛び出たセバム卿と違い、他の貴族は様子を見ているようだ。
王宮の最近の言動も影響しているだろう。
ビチュレイリワの監視でも、兵は出しても本人は来ない。
それに本来の国の運営者は王宮に捉えられ、ビッシュ・クラエテルに寄生されてる。
王宮から出てくる事はない。
「暫定的な和平交渉は成功したという感じかしら。
これでしばらくは正面からの激突は無くなったけど、そんなに時間は無いわ」
「王城からの命令は来るだろうからね、セバム卿も無視し続けられない」
「やはり少数精鋭での王城突入しか無い」
「空から直接王城に乗り込めないとなると、ビチュレイリワの見つけたあれを使うしかないのか」
「あまり勧められません。
衛星軌道上からの地質観測で、王城に続く地下道らしきものはありましたが。
中がどうなっているか透視して調べる事が出来ません」
「罠が有ると?」
「そう考えたほうが良いと思います、
王城の地下にも見えないエリアがあり、何かが隠して有ると考えるべきです」
上空からは撃墜されるので、近づく事はできない。
目の前の兵と戦わないとなると、彼らを飛び越えてバリスタの届かない場所に降り。
そこから進むしかない。
だが城壁に並ぶ弓兵の数に対して、突入隊の数が圧倒的に足りない。
どうせあの弓もバリスタと同じ事が出来るはずだ、俺達でも回避は難しい。
そんな時に、地下にある道を見つけ、それを使うかで意見が割れていた。
ビチュレイリワの調査が、終わってからと言うのが今の判断だった。
翌朝、天気はいい。
フルーフの混乱は落ち着いているように思う。
俺達が攻めてこないとセバム卿が説得したのだろう。
突発的に開戦になることはなさそうだ。
フルーフの王城は鉄壁な防御をどう崩すか、考えないと。
戦ってはいけない兵達、城壁にいる多くの弓。
そして、それらを避け空からの来るものはバリスタで撃ち落とす。
狙って構築したとすればかなりの知恵者だ、地下道に罠が有るのは確実だろうな。
いい策がないかずーっと考えている。
「ヨガ殿、セバム卿がおいでになられました」
とセバム卿が来たことを告げられた。
何だろう。
天幕に入ってきたセバム卿は、挨拶を済ますと自ら席についた。
今日は対話してくれるようだ。
「ワイバーンが城の守りについた」
(そうなの)
[直接城を守っている訳ではないですね。
数が増えているのは把握していましたが。
防御の意図が有ったのですね。
バリスタの射程外にギリギリに集まっています]
空中戦をして射程内に引き込むつもりか。
「昨日、銀鱗翼竜で王城に近づいたせいか」
空からの侵入に不安を感じたのか。
もしかして銀鱗翼竜に対し、バリスタが有効かどうか判断出来ていない。
それで増援を呼んだという事か、バカな事を。
「王からの使者があり『ワイバーンはフルーフの味方だ』そうだ。
魔王軍が生み出した魔物が我が国を守るだと。
有りえん」
最後は怒鳴った。
「昨日のヨガ殿の話信じよう。
王を救う、手を貸していただきたい。
王城には幾つかの秘密抜け道があり、私の先祖はその1つの作成に関わっておりました。
その道を通って王城に入れます、ご案内しましょう」
侵入方針が決まった。




