8-10.決戦前
前回あらすじ:リーシェさんそれひどい
[再起動確認。
回復率89%、ヨガ聞こえますか]
うぅ!
[まだ、危ないので体の制御は渡してません。
脳の機能だけです。
私との会話だけ可能だと思いますが]
横になっているのは判った。
(どうなってるの)
[全身の2%が炭化しました。
私がヨガと接触して以来、最も危険な状態でした]
(何が有ったんだっけ?)
記憶が混乱している。
[リーシェさんが恥ずかしがって、イフリートでヨガを焼いたんです。
許してあげましょう。乙女にありがちな行動です]
えーーーと。
恥ずかしいとイフリートが結びつかないんだが
.
.
.
そうだ、俺リーシェさんにプロポーズしたんだ。
返事!
覚えてない。
(ビチュレイリワどうなったか知ってるか)
[返事は本人から聞いてください。
人の色恋沙汰に介入する気はありません]
(もう一回聞くなんて無理だよ)
[では無かった事にしますか]
(それも無理)
動かせない体で身悶える。
[それよりも話したい事があるのですが。
重要な話です。ですのでまだ体が動かない状態でも、ヨガにアクセスしました]
いつも俺に選択権が無い状態で聞いてくる。
[何?
話したいことって]
[ヨガはアルテミラルの次期国王に内定しました]
!
[今まで当地政治機構への介入になるので、私は静観の立場をとってきました。
判断の材料になりそうな情報もヨガには渡していません。
情勢が決定したので、この情報封鎖を解除します
知っておくべき事柄がいくつか有り、共有し今後の行動を考慮すべきかと]
ビチュレイリワは、最近何を聞いても教えてくれなかった。
原因は、俺が王になるかも知れないからか。
でも、何かスッキリしないな。
(ビチュレイリワ的には、俺が王になるのはいい話だよな。
経験の質が変わるだけではない。
以前言っていた『何とか占領予定地』の話を進めるのに、俺が権力を持っているのは都合がいいはずだ)
[準連邦領・予定地です]
(そうそれだ。
言い方が違うが基本、占領だよね)
[捉え方ですので、否定はしません。
でも、ヨガから反抗的な感情は受けないですね。
占領される前提ですよ]
(圧倒的な力の差が有るのは知っている、抵抗しても無駄だろう)
それに
(お前らのやり方は見てきた。
その考え方の根底に、強者の暴走を許さないというものが見える。
また、弱者救済も個人の憐れみで動くのではなく、社会の仕組みとして考えるなど、参考にすべきものが多い。
多分、占領されても、ほとんどの者は今の生活より良くなる)
[信用されてますね。
その期待に応える自信はあります。
任せてください]
(やっぱり俺が王になるのを、黙って見てたのか)
[それは否定します。
ヨガに反対する動きが、全く無かった訳ではありません。
もしそちらの策が有効な物だったとしても、無干渉は貫くしかありませんでしたので]
(国家に影響が出そうな事は、全部で無視していたと)
[我々の存在が、国家運営を左右する事は避けます]
(俺が王になったら、どうする気だ。
関係を全て切るのか)
[いいえ、ヨガとの関係を変える必要はありません。
ヨガを、私達の力で王にする事は禁止されていますが。
私達の援助を受けているヨガが王になっても、ヨガの要望に応え支援するのは可能です]
屁理屈だよ。
[本来であれば、他国への内政干渉になる話ですが...]
話が戻った。
目が開けられるようになり、上半身を起こせるようになったのは3日後。
豪華な寝室に眠っていた。
周りの多くの人が、俺の世話をしていた。
「色男も大変だな」
タビさんは相変わらずだ。
「はい、ピノさん特製のスープ。
口開けて」
とキューさんがスプーンで口に運ぶ。
ピノ特製なら、例の食材が入っている。
まずくは無いが、気分的に食事ではないんだよな。
「ピノ殿の言うとおりですな。
本当に目が覚めました、すごい」
近くにいた知らんおっさんがピノを褒めてるが、目を開けなくしてたのがそいつらだからね。
「ヨガの体のことなら、ピノが一番知ってるよね」
ケイトさんそれ誤解を生む言い方です。
周りにいる人の視線がピノに向かってるでしょ。
室内にリーシェさんいない。
俺の視線が動いているのに気づいて、キューさんが
「リーシェさんはここにいないよ。
ヨガが起きたから、もうすぐくるんじゃないかな。
お父様と一緒に」
最後の一言、変なイントネーション付けて言われた。
お父様って、あのお父様。
ハバルにいる方じゃないよな。
俺が寝ていた部屋にこれでもかと人が増えた。
リーシェさんが、アルテミラル国の国王と一緒に入ってきた。
そっか、2人の間で話し合ったんだな。
リーシェさん豪華なドレスを着ている。
綺麗に着飾っているが似合っていない。
お人形さんみたいだから似合っているのか、俺が見慣れていないから変に感じてるのかも。
「キュー笑わないで。
私だって恥ずかしいんだから」
良かった、違和感あったの俺だけじゃ無かった。
王との謁見が、ベッドの上でいい訳がない。
慌てて下に降りようとしたが、痛い!
そこまで回復していなかった。
「無理をするな、そのままでよい」
王より直接言葉をいただいた。
他にしようがない。甘えさせてもらう。
「今まで娘を守ってくれてありがとう。
一人の父として礼を言わせてもらう」
「私は何もしておりません。
仲間として当たり前の事をしただけ。
その礼の言葉は、ハバルにいるタルクさんに相応しいかと」
「懐かしい名だ。
この生命はタルク殿達に救われている。
『閃光』全員を迎えるつもりだったが、残ってくれたのは2人だけだった。
ハバルにいたとは知らなかった。
ましてやレテスタシアの子を育ててくれていたとは、リーシェがラーディに来るまで知らなかった」
王は、穏やかな声のまま話続けている。
「ハバルには使者を向けた。
頑固者の彼でも、娘の晴れ姿には来てくれよう」
ん!
晴れ姿。
リーシェさんが下を向いて耳が赤い。
それって、そういう事だよね。
「これで、我が国も安泰だ」
そうだ、その話があった。
「お待ち下さい」
思わず王の話に割って入ってしまった。
家臣の目が怖い。
「娘にプロポーズしたと聞いたぞ。
娘に不満でもでたか。
恋人にイフリートの試練を課す娘など、お主以外にもらってくれるものはいない。
無かったことになど許さぬ」
リーシェさんの視線が床から俺に移った。
他のパーティメンバーも、『今更何故を言う』みたいな顔をしている。
「リーシェさんに不満などありません。
この国に関してです」
「アルテミラルに不満があると言うのか」
王のすぐ後ろに控えていた老人が、怒気を含む言葉で俺に挑む。
忠臣なのだろう。
「アルテミラルに不満など有るはずもありません。
ですが今俺が、この国を背負う事はできません」
「わけがありそうだな、話せ」
王の口調は相変わらず静かだ。
「人払いをお願いします」
「ここにいるのは全員、我が家臣。
彼らを信じられぬと」
「あえてお願いします」
殺気が起きる。
剣に手をかける者さえいる。
「現に姿なき守護竜は、彼らの日記や独り言の中身を知っております。
秘密は知るものが少ない方がよいのです」
姿なき守護竜の名前を出すのは卑怯だが、仕方がない。
「妾達もか」とタビさん
「いや、今後の話もしたい。
みんなには聞いて欲しい」
「なら我々も5人は残してよいな」
王のその一言で多くの者が部屋を出てゆく。
無駄がない。
残ったのは、さっき怒った老人に両公爵、護衛に剣聖と神官。
「これで良いな」
「ありがとうございます」
「我が国を背負えぬ理由を教えてもらおう」
「はい。
俺はこれから、ある国と戦わなければなりません」
「国と戦うとは物騒だな」
これも物騒とは思っていそうもない口調のタビさん、口元が上がってる逆に楽しそうだ。
「私から補足しましょう」とはピノ。
ここでも彼女が姿なき守護竜の精霊と認識されていた。
これはこれで、一度口にした秘密など、守れない証拠だ。
「今だ姿なき守護竜の力の行使に、許可をくれない『人界の盾』は2つ。
フルーフとウサオア。
そしてその2つはすでに魔王軍に落ちています」
「何だと」
剣の公爵だ、その気持は判る。
俺も数日前に聞いて驚いた。
まして祖国フルーフを魔王軍に売った犯人が、ミツルだと言うのだ。
王宮はすでにミツルの手に落ちている。
ビッシュ・クラエテルを使っての支配だ。
あの後も改良を続け、生きたものにも寄生出来るようになっていた。
王宮の兵は殆どが死体。
家臣も上の者たちには、全員ビッシュ・クラエテルが寄生している。
ミツルに反対すれば、一瞬にして死者になりビッシュ・クラエテルによって操られる。
自分を人質に取られているようなものだ、彼の言いなりになっている。
「なんと恐ろしいことだ」
説明を聞いての感想だ。
「我が国にその様な者がいなくてよかった」
ミツルの事を言ったのかも知れないが、それなら認識が甘い。
「隣国の話でよかったでは終わりません」
俺がピノの話を引き継いだ。
「ミツルはアルテミラルをも狙っています」
「何だと」
「過去にリーシェさんを妻にしようと策略していた事があります。
そんな事は許しはしませんでしたが。
今はラーディにビッシュ・クラエテルを持ち込んで、使う機会を探っています」
「ラーディにそいつがいるのか」
「すぐ近くの魔境に隠してあります
ラーディで実験が行われていました。
その気になれば冒険者に寄生させるのは簡単に行える状態です」
「アルテミラルでは魔境に冒険者として入る貴族もいる。
そこから王都にはいる事も考えられるな」
公爵が自ら魔境に入りはしないが、彼らに会える者には魔境に入る貴族もいる。
「フルーフに正当な手順で王に会っても、魔王討伐への許可など得られるはずもありません。
逆に何かの罪に落とされ、この身を滅ぼしてしまう。
最初から戦うつもりでおります」
魔王の手先が、自分たちの主の討伐を許す事はない。
俺らに勝つ可能性が有るとすれば、支配している力を使っているのが一握りの者だという点だ。
彼らを排除すればいい。
ただし
「俺が個人として国に挑んでも、それは冒険者が立場を考えずに起こした事。
他への影響はでないでしょう。
ですが国を背負ってしまえば言い逃れはできません、国同士の戦争になってしまいます。
もうそうなれば勝った側が正義。
敗れる気は有りませんが、影響が大きすぎます」
黙って聞いていた王が
「婚礼と新しき王を国内に発布せよ。
婚礼と王の即位式、そして戦争の出陣式を急ぎ行う。
同胞、フルーフを魔王軍より救う。
我ら『人界の盾十国』の敵は魔王軍、奴らに鉄槌を食らわす事に何のためらいが必要か」
(もしかして、こうなると思ってた?)
[予想外です]
ビチュレイリワとの打ち合わせでは、俺が王になる公表をもう少し後にしてもらう予定だった。




