8-9.問題の解決策
前回あらすし:「首が〜」
ビチュレイリワ「それがどうかしましたか」
地面に落ちた頭を左手で拾い、元の場所に戻した。
右手に持っている剣は、長く伸び剣聖の首に巻き付いている。
彼は、どこにも逃げようがない。
「試合に負けて、勝負に勝ったというところでしょうか」
何とか言葉が出せた。
無理やりだから、喉奥から血の味が上がってくる。
それにしても、マナで硬化した体を切るか。
あの魔剣だけの力ではない、剣聖が上乗せしている。
来られる事を前提に動いていてよかったが
「ヨガ、貴様人間か」
「自分では、そのつもりです」
最近、自信が無くなっている。
「剣で剣聖には勝てませんので、勝負に勝つ方法を取りました」
前に剣聖と戦った時も、首を切られそうになった。
その時切られても死なないと、ビチュレイリワに言われた事を思い出していた。
本当だったんだな。
「君の勝ちだ」
剣聖が自分の剣を手放した。
すごく負けず嫌いだから、凄い悔しそうな顔をしている。
ただその中には、安心した笑みも含まれているようにも思えた。
俺の願望かな。
「これでは、六翼を使っても駄目だったな」
「六翼も有ったんですね」
「無理をするから、使えば私もしばらく動けなくなる」
危なかった。
最初に使われ切り刻まれてしまえば、俺の勝ちは無い。
「話していただけますよね」
「公爵の所に戻ろう。
みんな、心配している」
俺を殺そうとした、貴方には言われたくない。
戻ると
「用事は済んだようだな」
タビさん、何かあったのか知っているような言い分だ。
知ってても、この軽さは変わらないだろうが。
「カナーエフ公爵様、勝手な事をし申し訳有りませんでした」
剣聖は公爵様に会うなり、膝を折り頭を下げた。
「キナイズ卿、何をしたのだ」
「俺を殺そうとしました」
「ヨガ!」
リーシェさんと、キューさんが立ち上がって俺を睨む。
「何をしてるの。
ヨガが剣聖に勝てるわけがないじゃない!」
リーシェさんの判断に、キューさんも同意してうなずく。
身近な2人の評価が正しいのが悲しい。
「慌てるな2人共、ヨガは目の前に無事に立っている」
タビさんののんびりした口調が、2人が生んだ緊張を緩和する。
これを見越しての態度だったのか、長く生きているだけの事はある。
「キナイズ卿。
本当にヨガ殿を殺そうとしたのか」
「はい」
剣聖の返事を聞いて、公爵の視線が俺に移る。
「だが、ここにヨガ殿がいる。
途中でやめたという事か?」
「いいえ。
敗れました」
「なに!
剣聖のお前が」
公爵驚く気持ちは判りますが、俺への配慮もしてください。
「私では、ヨガを倒す事はできません。
もっとも、私程度を退けられなければ、今後長くはなかったでしょうが」
剣聖を"程度"とか言わないでほしい。
「退けられるのが、前提だったのかな」
公爵は、わざと負けたと思ったようだ。
普通はそう考える。
「公爵様は、勘違いなさっております。
私は4翼まで使って、本気で殺そうとしたのですから」
「....」
公爵様は、4翼と聞いてだまった。
剣聖が本気だったと理解したのだ。
「まだ俺を狙った理由を教えていただいていません。
また、公爵様も全員を殺そうとお考えのようなのですが、何故なのでしょうか。
ご忠告いたしますが、我々誰1人として毒は効きません」
「「毒!」」
ピノとタビさん以外が驚いた。
全員の視線が公爵様に集まる。
その視線を受けても、表情を変えず言葉も発しない。
「レテスタシアの子を、死なせたくなかった」
言葉が無くなった場を嫌い、剣聖が俺を殺そうと理由を話しだした。
レテスタシアって名前聞いた事有るぞ。
(誰だっけ?)
[リーシェさんの母親です。
アルテミラル王国の恋人だった人]
そうだった。
でも何で、剣聖はリーシェさんを救うために、俺を殺そうとした?
「私達が命を狙われた理由は、これですか」
そうリーシェさんは言うと、耳飾りを外し掲げた。
その下に光の精霊を呼ぶ。
光の精霊は下位のもので淡い光の玉、そこから一条の光が耳飾りに伸びる。
光は耳飾りに入り、天井に文様を映した。
「アルテミラル王家の家紋が、隠してありました。
この耳飾りは、母の形見と聞いています。
レテスタシアさんの名は知っています。
父のパーティー『閃光』の精霊使いだったと記憶しています」
「『閃光』には私もいた。
レテスタシアは姉と慕っていた人だ」
「私は、その人の子なのですね。
ハバルの父は、名前を教えてくれませんでした。
もう子供でもありませんから、父とも血が繋がっていない事も理解しています」
リーシェさんの言葉を受け
「古い話になる」
公爵様が話してくれる気になった。
「先の国王が病に倒れた時、現国王は王太子では無かった。
ただ、当時の王太子には良い噂がなく廃嫡寸前、当の本人も王になる気は無かった。
王の責務が大変なのを知って嫌がったのは、国民には幸いだった。
我がカナーエフ公爵家が次男を、ヴォタイン公爵家が現国王を押した。
両公爵家が割れた事で、国は荒れてしまった。
会話も満足に出来ないほど弱った王に代わり、王太子が放った言葉が混乱を加速させた。
『先に王に会いに来た王子に、王太子の地位を譲る。これは王の意思だ』
本当かどうかは判らなかったが、従うしかない」
「当時2人の王子は王都にいなかった、共にラーディにいたんだ。
国の兵はどちらの味方か見分けがつかない状況、彼らは冒険者に頼った。
私達『閃光』は、現国王の護衛任務を請け負い、無事先に王都についた。
大変だったよ」
剣聖が、当時の事を当事者として補足した。
彼に大変だったと言わせるのだ、とんでもなかったのだろう。
「そこで王とレテスタシア様が出会い、恋に落ちた。
リーシェ殿、貴方は王のお子。
本来であれば王女様なのです」
驚愕の事実のはずだが、誰も驚いていない。
キューさんくらいは驚くかとおもったが。
「ヨガなに見てるの。
私がバカだと思ってる?
あの叙勲式を見れば、何か有ると気づくわよ」
俺は先に事実を知っていたから、何も思わなかった。
勘がいい人が見れば、そうなるのか。
「そう、リーシェ殿の秘密は今では多くの者が知っている。
この混乱した時期に、最も広まって欲しくはない話だ」
次期国王が決まっていない所に、湧いて出た王位継承権の有る者か。
たしかに混乱を増すだけだ。
「私は、アルテミラル王家に関与する事はありません。
このまま冒険者を続けたいと思っています」
「だからこそ問題なのです。
前回、両公爵家が参加した事で混乱が増したのを反省し、今回は全く関与していません」
それはそれで問題を大きくしていないか。
「有力な貴族達の間で形成された意思が、離宮の王子を王太子にすると言うものです」
離宮?
あの王妃に男子がいたのか。
だが王とは....
「王妃が生んだ事実が重要なのです。
血脈を言えば、王妃にも王家の血は入っています」
何だ、それは。
王の意思は入っていない。
「そこへ、銀鱗翼竜が来国する話が出ました。
女王としてこの混乱を救ってくださるなら、カナーエフ公爵家は全面的に協力するつもりでした。
また銀鱗翼竜相手に、国内で反対する者など出ますまい。
ですがその意思はないと先程お聞きしました」
もっとも簡単な方法は無くなったという事か。
「また、リーシェ殿も王女に戻る意思はないと言われる」
「リーシェに王位を次ぐ意思があるのなら、それは王が判断すればいい。
それで終わったのさ。
だが、リーシェにその意思はない。
噂の離宮の王子は立場が微妙だ、彼より王位継承権上位者がいると言う事が問題なのさ」
剣聖が公爵の言葉を、下々にも判るように補足してくれた。
貴族と言う既得権益を持つ人達には、放って置くという選択はないのか。
「皆さんは、リーシェ殿が殺されるのを黙って見ている人ではない。
全員同時に葬らねばならないと考えた」
公爵様が床を向き、苦い声で自白した。
魔王より国内の問題解決を優先させた、これが国あっての公爵という限界なのだろう。
「公爵様がリーシェさんを含め、全員を殺そうとしたのは判りましたが。
なぜ剣聖は俺を?」
「そこまで行くと、わざとじゃないと思ってしまう」
え、キューさんもわかってるの?
「今までの話は、我々貴族間での話」
公爵が困った感じで続けた。
「それとは別に、今国民の間で急速に広まっている話がある。
銀鱗翼竜の背に乗る勇者ヨガを、新しい国王へと言う声だ」
「は!
なんで?」
「銀鱗翼竜に乗り、我が国へ来て、何でと言われますか。
我が国にて銀鱗翼竜様が、どの様な存在かをご理解いただいていない?」
「待ってください、
乗って来てない。
入国前に降りています」
「人に見られなかったとでも。
噂は守護竜より速い。
そこに多少の願望や嘘も入る。
結果を想像してみてほしい」
まずい。
やばい!
「リーシェが冒険者を続ける理由には、ヨガお前が冒険者だというのもある。
理由がなくなれば、落ち着いてくれるかも知れないからな。
まあ、国民の責任のない噂に国が振り回されないためにも、ヨガにはいなくなって欲しかった」
ここで剣聖は、あっさり俺を殺す理由を吐いた。
あれ、みんな驚いてない。
「キューさんこれ狙ってたの」
銀鱗翼竜に乗っての脱出は、キューさん発案だ。
いや、みんなとぼけている。
キューさんが首謀者じゃない。
「みんな知ってた?」
「タビさんから出た計画。
ヨガの希望を通しやすくするつもりだったけど、効きすぎちゃったね」
「効きすぎたどころではない。
ヨガが自分の我を通すため、我が国を乗っ取ろうとしていると言い出すやつまでいる。
王になれば、教会からの要望など簡単に承認できるからな」
剣聖が、国内での俺の評価を教えてくれた。
「そんな事考えても無かったですよ」
「そのようだな」
よかった。
公爵は理解を示してくれた。
「俺としては、教会への許可が得られればすぐに国を出ていきます」
「だが我々は、君たちをこのまま外に出すわけには行かない」
問題の中心に飛び込んで、問題そのものに成ってしまった。
俺達がどうにかならないと、話が進まない。
「何を面倒な顔をしている」
タビさんが、問題を大きくしたせいです。
「アルテミラルの王位継承問題が片付かぬと、魔王討伐と話も進まない。
ならばと、解決策を提案したまで」
この口調、嫌な記憶がある。
「銀鱗翼竜がリーシェを女王に指名すればよい。
その王女の夫が王。
新王が勇者ヨガになるのに反対するものがいるか?」
「ヨガと結婚!」
「俺が国王」
「2席目ゲーッと」
「私が指名するんだ、2番目は譲れ」
「反対する者など出ぬな」と剣聖。
「王に会って来る」
公爵が出ていってしまった。
俺の話も聞けーー。
「タビさん!」
「覚悟が必要と前にも言ったぞ。
なんだ足らんかったか」
勇者と言われる覚悟はしたさ、でも王になるのは話が別だ。
「それより、向こうはいいのか。
順番が違ってしまったのだぞ」
とリーシェさんを指差す。
真っ赤で硬直している。
待て、待て、待て。
流されてる。
「俺が王になる話は置いといて」と漏らした俺に
「もう既成事実だ。
変更などできまい」
剣聖、俺が冷静になるのを邪魔するな。
リーシェさんに近づき、跪き腕をとる。
「こんな状況で悪いけど。
リーシェさん好きです。
ヨガともう1つの名にもかけて、幸せにします。
結婚してください」
その手にキスをした。
全身が炎に焼かれる。




