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宇宙戦艦に魔法は使えません。  作者: 野紫
8章
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8-5.マナの意思

前回あらすじ:魔王を倒した勇者が、普通の冒険者に戻れるんですか。

 急ぐオード議長をなだめながら、カリギュナー王国には7日ほど滞在した。

 ヘンネベル公爵、フレンメルス男爵の、豪華なもてなしを十分に受ける。


 さすがに豪華すぎるので辞退しようとしたら「慣れておきなさい」

 と、言われれば、世話になっているのだ仕方がない、ご馳走になった。


 国境まで送ると申し出もあったが、これは固く辞退させてもらった。

 迷惑がかかる。


 入るのは大変だが、出るのは簡単な国だ。

 特にジュア・ニフスに行く場合は、入国の手続きもない。

 ジュア・ニフスに入ると、高い木々が無くなる。


 草原が広がっていてジュア・ニフスにくるものはすぐ気付けるようになっていた。

 監視しているわけではない魔物避けだ。

 心理的な抑止を狙っている。


 その草原に、1本道が続いていて、遠くに人がいる。

 その白銀の甲冑には見覚えがある、聖騎士だ。

 そう認識した途端、一気に距離がなくなり、俺の立っていた場所に剣が振り下ろされた。


 わかっていたので、逃げるのは簡単だ。

 思い切り振り下ろし、地面をえぐった剣を立ち上がりながら


「貴様は心臓を貫いたはずだが。

 人外のものだったか」


 平然と俺に言い放った。

 殺した自覚があるなら、生きているのを見て驚けよ。


「細かく切り刻んだら、どうなるんだ」

 言葉が届くと同時に横殴りで剣を振るう。


 彼には距離が関係ない、一瞬でそこにいる。

 今度は避けない、受け止めた。

 それからは連続の高速剣、本当に俺を切り刻もうというのだ。


 相変わらず、一撃一撃が重い。

 その全てを、俺は正面から止めている。

 聖騎士の速度が徐々に上がるが、俺もそれに合わせ、早くなってゆく。


 2人の攻防は、すでに常人の目では何をしているか、理解できないだろう。

 聖騎士が足を止めているので、殴り合っているようなものだ。

 当たれば、一瞬で体が無くなる、それほどに早く重い。


 突然、音が消える。

 聖騎士が距離をとった、態勢を整える気だ、ココまでは以前と同じ。


「吾は神の下僕。

 吾の正義に、審判を与え給え」


 俺がやっと捕らえられるほどの小声で聖騎士がつぶやく。

 自分の行いが正しければ、神が力を貸す。

 聖騎士がそう教えられていると、カソーエナのブンヘズ王に聞いた。


 だが、彼に力を与えている力の根源は判断など出来ない。

 託した力なのだ、聖職者が求めればいくらでも供給されてしまう。

 その結果、自分を無制限に正当化した、この聖騎士が出来上がった。


 普通はその前に、自分の行動に疑問を持ち、無意識に制限をかける。

 力が与えられる限り正しい、彼は疑問を持つのをやめている。

 彼女に、そう育てられたのだ。


 聖騎士と、いつも一緒にいる女性。

 彼女は見た目とは違い、聖騎士よりも年上だった。

 彼女が、幼かった今の聖騎士を育てた。


 なぜ、そのような事をしたのかは、判らなかった。

 彼女に関して教会の記録は、極端に少ない。

 デ・リヒと言う名前と年齢、そして聖騎士付きの神官という身分だけだった。


「俺はヨガ、魔王を討つ」


 聖騎士とは逆に、俺は大声を出した。

 俺に希望を託した想いに、届くように。


 2人の体が淡く光だす。

 お前がいったように、これからは人外の戦いだ。

 俺は魔王を相手にする覚悟だ、貴様ごときに後れを取るわけにはおかない。


 閃光と共に剣が交える。

 速さは、残念ながら聖騎士が上。

 だたし、動きは相変わらず直線的だ。


 ビチュレイリワが言うには、人はあの速度でものを考えることはできない。

 人の思考に応え、マナは力を具現化する。

 考えが追いついていないのだ、早いまま動き続けられない。


 人は、状況を見て判断し、次の行動を決め、動く。

 高速で動いている時は、意思が働いていないのだから、直線的に動きになる。

 どうしても一度止まって、周りを判断し、次にどうするか決め、行動する必要がある。


 俺の頭の中には、ビチュレイリワ達の技術で、早い速度で考える力がある。

 本当の"考える"力ではないので、マナは反応しない。

 行動だけは、自分で行う必要があるので、俺も止まる必要があるが。

 高速で動いている間に、状況を把握し次の行動を決めている。


 本当の俺の考えではないが、違和感を感じる事はない。

 それほど馴染んでいる。

 聖騎士に比べ、俺は止まっている時間が圧倒的に少ない。

 また、早く動いている状況でも判断しているので、必要な場合は途中で動きを変えることも出来る。

 卑怯だと思う事も有ったが、今はそれが俺なのだと思う。


 遅い俺のほうが、余裕がある。


 彼の攻撃の動き出しが見えるので、当たらないようにかわし。

 彼の防御の出来ていない所に、一撃をいれる。


 硬化は速いまま続けられるので、数回当たっても傷はつけれない。


 ただ、足を引っ掛けたり、逆に後ろから押すなどして、何度も地面に叩きつけた。

 まだまだ聖騎士は平気だが、勝敗はついている。


 加速し過ぎれば人の体がもたない、いくらマナで守っていても限界がある。

 加速と治癒を同時にする必要がある、速くなれる限界はある。

 これも、ビチュレイリワ達の技術で保護されている、俺が有利だ。


 いきなり聖騎士が吹き飛ぶ、聖女が魔力をぶつけたのだ。

 あの速度によく当てられたな、さすが聖女。


「ヨガ、その辺でよいですか」


 と聖女が俺に聞く。


 聖騎士と戦う事になるのは判っていたので、一度戦わせてほしいと聖女に頼んでいた。

 今まで散々やられてきた、全力の聖騎士を叩いておきたかったのだ。


「そうだね」

 十分、気は晴れた。


 そうは思っていない聖騎士が、目標を聖女に変え、襲いかかる。

 が、派手に吹き飛ばされてしまった。

 自分の上位の存在に、殴りかかったのだから当たり前だ。


「ちくしょうが」

 判っていない。


「貴方は、聖騎士には相応しくない、辞めていただきます」


 その聖女の一言が、決定打になった。

 聖騎士、いや元聖騎士からマナが消えてゆく。


「バカな!」


 自分の手を見る、元竜騎士。

 その手を上に掲げ。


「神よ、私は貴方の一番のしもべでした。

 その私を、捨てるのですか。

 何故です、神よ!」


 大声で、その天空にいると思っている、神に叫んだ。

 本当にそこに神がいて、正しい判断をするのならば、彼は聖騎士にはなれていない。


「貴様のせいか」


 今度は、俺に斬りかかってきた。

 遅く軽い、惨めな剣撃だ。


「もう、お前の相手は、俺じゃない」


 受けた剣で押し飛ばす。

 片手で簡単に転ぶ。


 そこへ

「僕は2つ星冒険者のハイリーセン。

 元聖騎士に決闘を申しこむ、ミリの仇だ勝負しろ」


 元聖騎士を、仲間の仇と狙っていた少年だ、2っ星になっていたか。


 彼の向こうに、トゥールさんがいる。

 俺に片手を上げて、挨拶をしたので、真似て片手を上げる。

 その横に、赤ん坊を抱いたジルさんと、男爵までいる、散歩にでも来たつもりなのか。


 彼らの到着に合わせ、俺はジュア・ニフスに入国した。


「ギヤァァァー」

 元聖騎士はハイリーセンに斬りかかる。


 その姿は、もう騎士でも剣士でもない、ただ剣を振り回しているだけだ。

 メチャクチャな戦い方でも、剣を振り回しているのだ、危険はある。


 ハイリーセンは、その剣を1つ1つ丁寧に、さばいてゆく。

 基本が出来ている、やはりトゥールさんは教えるのがうまい。

 逆に基本しか出来ていないようだが、それで十分だ。

 危なげなくかわし、小さく確実に反撃を加えてゆく。


 そして勝負が決まった。

 元聖騎士の剣が吹き飛び、ハイリーセンの剣が喉元にある。


 殺さなかった。


「こんな簡単に、死なせてたまるか。

 これから、自分のしてきた事の罪を、長い時間をかけて償え」


 彼の出した結果だ。


 元聖騎士は尻もちをついて、ブツブツと何かを言っている。


「これで、この国の問題も解決した」


 オード議長が喜んでいる。


 ジュア・ニフスが教会へ許可を出さなかったのは、聖騎士が居座り、内政干渉を行っていたためだ。

 解任されると知って、聖騎士は本国の召喚に応えず、ジュア・ニフスで過度の助言を行っていたのだ。

 彼が、俺のする事に、同意するはずがない。


 だが、本当にそうだったのだろうか。

 上院代表のジェロイさんが、聖騎士ごときに、好き勝手させるだろうか。

 どう見ても、ジェロイさんのほうが上手だ、他に理由がある。


「10年かかりませんでした。

 あんなに、弱かったのですね」


 少年が、元聖騎士を見つめて一言いった。


「あの時、殺れたなんて思っていないよな」


「そんな事は、思ってません。

 ヨガさんとの戦いを、見てますから」


「こいつはスジ良いぞ、教えがいがある。

 いずれラーディで名が轟くさ」


 トゥールさんが、自慢の弟子に首に腕を回して、嬉しそうにしている。


「これからウチ来るんだろうな」


 男爵様が、すぐそこに家が有るように言ってきた。


「いずれおうかがいします。

 その時はよろしくお願いします。

 聖女様とオード枢機会議も一緒ですが、よろしいですか」


「なに!」

 この2人は国賓級。

 一国の男爵の家になど行くはずがない。


 男爵の気楽さに、ついいたずらをした。


「「よろしくお願いしおます」」


 聖女と議長が、一緒に男爵に礼を言う。


「え!」

 そうなるとは、俺も思っていなかった。


「堅苦しいのが続いてな、少し辟易していたところだ。

 そのおかたのところならば、少し足をのばせそうなのでな」


「父様の本性は、初めて見たかたにも判ってしまうのですね。

 聖女様、気を付けてください、お父様は女性が大変すきなので、お尻をさわるかもしれません」


「聖女様に、そんな事できるか」


 聖女じゃなければ、するんだ。


「お父様我が、家はアルテミラルに有るとご説明したほうが良いのでは。

 先程の言いようでは、この近くのようでしたよ」


 ジルさんが男爵を注意する、そのとうりだ。


「では、アルテミラルに行った時、お願いします」


 聖女は諦めてない。

 名無し時代が、懐かしいのかもしれない。


「家督は、息子に譲っております。

 息子にお聞きください」


 逃げた。

 ラーディさんが、俺に助けを求めている。


「家へ来てもいいですが、王に許可をいただいた後にしてください」


「おい、キュー、何だその言い方は失礼だぞ」


 2人と俺達の関係を知らないトゥールさんが、慌てて声を荒げた。


「もちろんさ」


 オードさんが昔の口調で言って、キューさんに助け舟を出す。

 この程度は、無礼にはならないと言う意味だ。


「みなさんは、まだこの国での用事もすんでいないのでしょう。

 あまり先の事を話していると、足元で失敗しますよ」


 ジルさんが近寄ってくる。

 女性陣が集まってゆく、抱いている赤ん坊を見たいのだ。


「かわいいな、赤ん坊は。

 妾の子はどうなったのか」


 1人寄らなかったのは、タビさん。

 彼女が、子供を生んだのは千年以上昔だ、その頃の姿は、今のものとはかなり違う。

 その子孫が、この地にいるだろうが、それをどう思っているのだろう。


「かわいい」


 最初に声を上げたのはリーシェさん、本当に可愛いものが好きだな。


 キューさんは、意地で一歩引いている。

 まだ”お兄様”病の、後遺症が残っているらしい、2人の結婚をまだ受け入れられていない。


「抱いてみる?」


 ジル姉さんが赤ん坊を、リーシェさんに渡す。


 渡された赤ん坊を、ガッチリと抱いて顔を覗き込み。


「れろれろ」


 舌を出したり、目を釣り上げたり、変な顔をして赤ん坊をあやす。

 えーと、リーシェさん可愛い。


「きゅあ」

 赤ちゃんが笑った。


「可愛い〜〜」


 今度は、顔を近づけてほほに、キスをした。


「!」


「なんだヨガ、羨ましいのか。

 それとも、あの子に嫉妬か」


 タビさんが、後ろから俺をからかってきた。

 振り向かないが、言っている顔は想像できる、ニヤけているんだろう。


「忠告を聞かず、格好いいヨガになったりするからです。

 彼女の理想から外れたのは、自分のせいですからね」


 俺とリーシェさんにしか判らない事を、ピノが言う。

 最近はこの手の話を聞いても、他の3人は聞き流してくれる。


「ヨガも、抱いてくれない」


 ジル姉さんが、そう言って俺に子供を移す。


「アトロフ。

 良かったわね」


 これが言いたかったのか、リーシェさんと目が合うと、微妙な顔をしていた。


「キュー、お前も抱いてみないか」

 と今度はトゥールさんが、キューさんに赤ん坊を抱かした。


 最初は渋っていたが、赤ん坊がキューさんを見て笑うと、目尻が下がっただらしない顔をしている。

 みんなを笑顔にする笑いだ。


「あーーー。

 私も赤ちゃんが欲しい」


 ケイトさん、俺を見ない。


 トゥールさんが悪い顔をして、キューさんに寄る。


「ほーらアトロフ、キューおばさんだぞ」



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