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宇宙戦艦に魔法は使えません。  作者: 野紫
8章
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8-2.貴様らに名乗る名はない

前回あらすじ:男は、女子会に触れてはいけません。


 クジでピノが、先陣に決まった。


 ピノは真っ赤なフードの無い外套をなびかせ、目元も赤いマスクで隠している。

 異様な姿だ。

 俺は前回と同じ姿だ、もう何も言う気はない。

 ただ、俺のもそうだが、"襲撃"時のこの恰好、モデルがあるんじゃないだろうか。


「あの真っ赤なの、何?」


 試しに聞いてみた。


「マントです」


「マント?」


 なんだそれ。


「正体を隠して悪を討つ時の正式な衣装です」



 ピノが言葉につかえる事はないが、"正体を隠して、悪を討つ"が1つの単語に聞こえた。

 よどみがない。


「初めて聞いた」


「私の国の古い風習ですので、気にしないで下さい」


 気にしないほうが幸せだと、俺のカンが告げる。


 なら、もう1つ気になっていた事を。


「でもいいのか、竜騎士を倒しても。

 例の何とか委員会が、文句を言わないのか」


「駄目に決まっているじゃないですか。

 実験するだけです。

 彼らには致命的な、ダメージは与えません。


 最後の一撃は、ヨガにお願いします」


 やっぱりか。


 しかし

「実験ってなんだ」


「魔法防御に対して、私達の攻撃がどのくらい有効なのか、一度確認しておこうと思いまして」


「おい。

 まさか、魔王への攻撃が効かないとか言い出さないよな」


「それは大丈夫です。

 ビチュレイリワはその気になれば、この星を消滅させることも可能な出力を持っています。

 魔王を倒す事は確実に可能です」


 おい!


「予想では、そこまでの出力は不要です。

 せっかくの機会ですので、魔法防御にたいしての丁度よい手加減具合を調べておこうと思いまして」


 そんな会話を俺達は、丸太を打ち込んだだけの高い塀の上でしていた。

 頭上では星々が輝いている、真夜中だ。


 丸太の塀は、小高い山の頂上を取り囲んでいる。

 すべてが新しく、最近できたばかりの山城だ。

『竜騎士』達が、逃げ込むために作ったのだろう。


 2人の『竜騎士』と、数十人の兵と使用人が住んでいるは、事前の調査で判っている。


「おい、そこで何をしている!」


 見回り兵が、俺達を見つけて騒ぎ出した。

 こんなふうに見つかるのを待っていたんですとは、言わない。


「始めますよ、ヨガ。

『竜騎士』への最後の一撃はお願いします」


 とピノが矢を放つ。

 矢は、俺達を見つけた兵の足の甲に突き刺さる。

 彼は悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちた。

 これで、彼は戦力外。


 叫び声で、他の兵が出てくる。

 俺達が塀の上にいるのを知ると、弓兵が呼ばれたようだ。

 反撃の矢が放たれたが、俺達に届く前に全部ピノに撃ち落とされる。


 次々と放たれる矢が、半分も行かぬ所で、弾け飛ぶ。

 本来ならものすごい早撃ちになるが、ピノの弓から放たれているのは、光の矢だ。

 弓を引く動作も本来不要で、ピノの弓から飛び出している。


 ピノがその動作をしているのは、見ている者のためだ。

 見えない矢で撃ち抜かれたと、納得させるため行っている。


 矢を落とすついでに、弓兵の弦も狙って、切ってゆく。

 あっという間に、使える弓がなくなる。

 彼らは、俺達を攻撃する戦力を失った。


「降りてこい、卑怯者」

 下にいる兵達が挑発するが、これは君たちを巻き込まないためだ。


 この状況で、俺達を攻撃する方法は1つしかない。

 待っていると、2つの影が飛び立つ。

『竜騎士』だ。


 ドラゴンは一気に高く飛び上がると、今度は急降下を始めた。

 俺達に一気に向かってくる。

 方向を切り替える前に、こちらに火球を放つ。

 そして、再度上空へ。


 俺達のいた場所の塀が、爆音と共に吹き飛ぶ。

 むろんそこに俺達はいない、移動済だ。


 ピノが離れていく『竜騎士』に光線を放つ。

 1発目は当たったらしく『竜騎士』が震えたが、2発目は弾かれた。

『竜騎士』が硬化、見えない壁を作ったのだ。


 今度はピノの放つ光線が歪む。

 曲線を描いて『竜騎士』に向かう。

 無数の弧を描いて、あらゆる方向から光線が『竜騎士』に襲いかかる。

 1発、2発は耐えていたが、すぐに『竜騎士』がドラゴンから落ちてしまった。


 ピノの光線は、実際には針の太さもない。

『竜騎士』の治癒能力ならすぐに治るはずで、かすり傷みたいなものだ。

 ただ、今の攻撃は、全身を針で刺されるようなものだ。


 そして傷は直せても痛みは感じる、耐えられる許容量を越えたのだろう。


 ピノは狙いをもう1人の『竜騎士』に変え、同じ攻撃をくわえた。


『竜騎士』は前の戦いを見て、見えない盾をやめ、その分で全身を硬化していた。

 全方向からの攻撃に耐えようというのだ。

 彼が狙っていたように、光線は弾かれている。


[攻撃パターンを変えます。

 備えるため、目と耳が、一時使えなくなります]


 ビチュレイリワの警告の直後に、ピノの矢が『竜騎士』の目の前で爆発した。


 目と耳が使えなくなっていたが、認識能力で起きている事は認識している。

 大量の光と、体が震えるほどの音が生まれたのだ。


 戦闘を見ていた兵たちは、目と耳がやられた。

 目や耳を抑え、地面でのたうちまわっている。


 空にいたはずの、ドラゴンと『竜騎士』も地面に叩きつけられていた。


 俺は地面でうめいている『竜騎士』に近づき、額に手を当てる。


 ご苦労さまの掛け声でマナ色を変える。

 これで、1件目の襲撃は終わり。




 山城から見える山のふもとに有る谷が、2つ目の隠れ家だ。

 空を飛べる『竜騎士』なら、お隣の距離で、俺の軍馬でもすぐに行ける。


 そこにキューさんが待っていた。


「大きな音だったね。

 凄く光ったから、山城に異変が起きたのも一発でバレて、ここはもう大騒ぎだよ」


 谷を見下ろすと、灯りが激しく動いている。


「もしかして、飛び立ったのがいた?」


 連絡に飛び出したのが、いたかもしれない。


「馬が数頭、あちこちに走って行ったよ。

 でも『竜騎士』は出てきていない。

 こんな時、飛ばないって、あいつら何のためにいるんだろう」


 確かに、空を飛べる優位性を発揮するのは、ここだ。

 伝達の仕事を軽く考えているのか、外に出て行きたくないのか。

 なんとなく、後者の気がするが。


「ヨガ、予定の場所に移動して」とキューさん。


 キューさんには攻撃力がさほどない。

 キューさん、当初は隠れ家に乗り込もうとしていた。

 だが俺が、近づいての攻撃を反対した。

 なだめて、何とか距離をとって行ってもらう事に落ち着いた。

 それがキューさんには気に食わない、頬が膨れている。


 予定では、飛び立った『竜騎士』を、見えない壁で地面に叩きつける。

 安全な方法をとってもらう。

 そして、追い出し役は俺。


 正面入り口から入るつもりだったが、その前で止められた。

 騒ぎの最中だ、すんなり入れるわけがない。


「止まれ。

 何者だ、何の用でここにきた」


 止められるのは、想定済。


「お前たちに名乗る、名は無い。

 俺は掃除屋だ。

 この世を綺麗にしに来た、覚悟はいいかゴミども」


 と俺は怒鳴り返す。


 これ、合ってるのか?


 口上の原稿を渡された時、俺は吹いてしまったぞ。

 ありえないし、そしてものすごく恥ずかしい。


 兵がゾロゾロと集まってきた。

 そして俺の口上で、ますます怒っている。


 冷静なら、笑うとこだぞ、これ。

 笑っているのがいない、挑発する目的には合っていたようだ。


 一瞬で近づき、間接をきめ折る。

 鈍い音と悲鳴が起こる。

 視界に入る兵を次々沈め、無力化していく。


 20人を超えると、近くに兵がいなくなった。

 この攻撃は、実際の被害より兵への心理的効果が大きい。

 吹き飛んだ腕は直せないが、あらぬ方に曲がった腕なら、俺でも治癒できる。

 それでも、自分の腕があらぬ方向に曲がるのは、嫌なのだ。


 建物のなか隠れて、出てこない、怯えている。

 『竜騎士』どころか、一般の兵まで引きこもってしまった。

 この国、大丈夫か?


 ドーン。

 いきなり雷が落ちた。


 その雷で建物が燃え出した。

 しまった、キューさんが待ちくたびれたようだ。


 あたりは闇だ、星が全く見えない、いつのまにか濃く厚い雲におおわれていた。

 その空に閃光が走ったと思ったら、無数の雷が木々や建物に落ちてゆく。

 それが火を生み出し、炎が立ち上がる。


 谷にあるほとんどの建物が火災となり、一転して昼のような明るさだ。

 隠れていた人々が一斉に逃げだす。

 門の外に、炎を避けながら、駆け出している。


 俺を、気にする者は誰もいない。

 炎と同じで、近づかないだけだ。


 ドーン。


 今度は『竜騎士』がドラゴンごと、地面にめり込んでいる。

 叩き潰されたわけだが、身体強化で体に傷はない、丈夫だ。


 もっとも地面にめり込む衝撃で、全く被害が無いわけではない。

 『竜騎士』はゆっくりと上半身を起こすと、頭を振っている。

 気を失うところだったのだ。


「大丈夫ですか」


 と俺は手を出す。


「あぁ、大丈夫だ」と『竜騎士』は俺の手を掴む。


 大丈夫じゃない、敵、味方の判断が出来ていないのだから。

 引っ張られた瞬間に『竜騎士』が声に出ない悲鳴を上げた。

 横で埋まっていた、ドラゴンが口から泡を吹いている。


 立て続けに、『竜騎士』達は落ちて地面にうまる。

 俺は次からは、声をかけずに、マナを変えていった。


 今夜の襲撃は、この2つで終わり。

 でも、目の前の惨状を見て思った、キューさんの攻撃力は十分だと。




 3件目は、リオロセーク山。

 ここはクジではなく、ケイトさんが担当。

 自分の巣だからね。


 ケイトさんの希望で、派手に行う事になった。

 ここは襲撃ではない、銀鱗翼竜(ケフロイヤ)が自分の巣の周りを掃除するのだ。


 昼間銀鱗翼竜(ケフロイヤ)の姿を、人々に見せつけながら、リオロセーク山に降り立つ。


 巣に降り立った瞬間。


 "汚れしものどもよ、誰の許しを得て、ここにいる"


 圧倒的なマナの圧力を持つ、念話を放出した。

 言葉がわかる、わからない関係なく、リオロセーク山近くにいたものは、銀鱗翼竜(ケフロイヤ)の意思を理解した。


 心穏やかでないのは、汚れしものと言われた者たちだ。

 銀鱗翼竜(ケフロイヤ)の念話には、意思が宿っている、『竜騎士』達は名指しされたようなものだ。


 "我が同胞を鎖に繋ぎ貶める者ども、その存在を許す事は出来ない。

 我が翼の届く地に、お前たちの居場所はないと思え。

 立ち去れ"


 強烈な侮蔑と敵意が、頭に叩きつけられる。


 慌てて『竜騎士』達が飛び立ってゆく。

 着替える余裕もなく、そのままの姿でドラゴンに跨っている。

 上半身,裸の者も1人いた。


 だが、飛び立ったはいいが、どこへ向かえば良いのかわからない。

 リオロセーク山の周りを飛んでいるだけだ。


 "去れ、我が翼が届かぬ場所へ"


 銀鱗翼竜(ケフロイヤ)の翼が届かない場所など、この星では一箇所しかない。


 暗黒大陸だけだ。

 しかし、その場所に向かえばドラゴンとの縁は切れる。

 元々『竜騎士』は魔王を倒すためにいる、その存在理由を無視して存在出来るはずがない。


 それをわからないほど、『竜騎士』達は馬鹿ではなかった。

 すべてが王都に向かった。


 昨夜、他の2箇所が襲撃されていたのは、知っていたのだ。

 他に選択はない。



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