7-4.立つ場所の正義
前回あらすじ:王の手の上で踊ります
ps:ヨンの入浴シーンはありません
キューさん達が、逃げ惑う人達に向かうと。
「私は」とケイトさんが聞いてくる。
「ケイトさんは、人だとやりすぎるから、人以外のを頼...」
壁が吹き飛んだ。
最後まで言わせてほしい。
吹き飛ばした向こうの部屋には、オーガが3体いた。
すでに1体、壁と一緒に吹き飛んでいる。
自分の3倍以上の大きさのオーガに、ケイトさんは素手で立ち向かおうとしている。
ケイトさんは、その気になればオーガよりさらに大きなケフロイヤだ。
それに部屋にいるオーガは鎖で繋がれている、心配する必要はない。
領主は魔物の取引を行っていた。
人身売買を行っている悪党は多いが、魔物を商品にするバカは聞いたことがない。
こいつ1匹を捕まえるために出した犠牲は、金でまかなえるものではない。
「追わせないよ。
こっから先には通さない」
追いついたキューさんが、逃げた人達の後ろを塞ぐ。
領主配下の精霊使いが、サラマンダーに火を吐かせているが、彼女の防御を抜けれるものはいない。
リーシェさんは逃げた人を先導して、館の外に向かっている。
これは、騒ぎを大きくするためだ。
いずれ警備兵が集まってくる
街の警備兵は領主の私兵だが、国から派遣されている者もいる。
「せっや!」
ケイトさんほどではないが、俺も格闘はできる。
向こうも格闘のできる者は何人かいたが、俺とは速さが違う。
マナまといでどんなに硬化していても、目で追えない相手に足払いでも喰らえば、一瞬スキができる。
そこを狙って、思いっきり殴りつける。
俺の動きについて来れる者もいない。
一瞬目の前で止まった残像に、剣を振り下ろす。
その剣を避けて、腹に一撃。
ピノの戦い方は、俺がいままで見たことがないものだ。
武器を持っていないので格闘技なのだが、殴る蹴るではない。
捕まえて折る。
手足を掴んだと思うと、器用に絡め骨を折る。
あれは痛い。
剣や槍を持っている相手も関係なく、捕まえ鎧と一緒に有りえない方向に手足を曲げてゆく。
やられた相手は、気絶する前に短い悲鳴をあげる。
その恐怖が広がり、徐々にピノの周りから敵が離れ始めた。
そしてタビさんはずるい。
マナを放出し、圧倒的な精神的圧力をかけている。
生命としての格が違いすぎる、彼女に武力を振るうどころか近づける者もいない。
ただ戦いの場をゆっくりと移動していた。
武器を取り上げて余裕のあるはずの相手、そう考えて領主も俺達の始末を選択したのだろうが、相手が悪かったな。
金で集められる兵の質など、この程度だよ。
「ここまでだ」
タビさんが、領主の前まで移動していて、終わりを宣言した。
領主が崩れ落ちる、彼にタビさんから感じる圧力に対抗する力はない。
床が暖かく濡れ始め、タビさんが嫌な顔した。
これで戦いは終わり。
向こうの部屋からケイトさんも戻った。
体の一部が吹き飛んでいるオーガの死体を見ては、ケイトさんに手を出す者はいない。
ちょうどリーシェさんが、多くの兵と一緒にきた。
「私はミツァティーイ警備隊、副隊長ネルゲソルだ。
これは何の騒ぎだ。
貴様、動くな」
と俺に命令する。
警備隊だ、領主や隊長を味方するのは正しい。
「ネルゲソル殿、告発いたします。
領主様は偽物であります。
彼はメイペック・レァ・ウケニール殿ではありません」
これで、本当に戦いが終わった。
ーーーーー
「お見事、お見事」
紙商人の隠居トアルが、お祝いと言って、彼にとってささやかな宴席を用意してくれた。
大宴会である。
悪徳領主がいなくなっても、都の紙商人には関係ないのだが、それは言わない。
タビさんが喜んでいたので、それで良しとしよう。
「ありがとう」
少年の首には、父の形見が下げられている。
ギルド長にたのみ、返してもらった。
冒険者の登録は抹消したので、今はだたのプレートだ。
「ところで坊主どうする。
仇はこのお兄さんがとってくれた、これから行くあてはあるのか」
少年は少し考えて
「無い」
と答えた。
「金が手に入ったとはいえ、その年では1人で生きてゆくのは大変だぞ。
私の店で働かぬか、息子に話しても良いぞ」
タビさんの視線が王に向く。
その視線に答えるように
「心配するな、ちゃんとした店だ。
お前を本当の商人に育てよう。
持っている金で、いずれ独立すればいい」
良い条件だ、少年への褒美かな。
「お願いします」
少年が頭を下げる。
「しかし、領主の館のあの惨状。
さすが勇者と噂されるヨガ殿、すごいですね」
ヨンさん、その惨状は普通の商人では、見ること出来ませんよ。
ショザルさん達の酒を飲む手が止る、内心では苦笑いかな。
彼らが敵にまわっていたら、あそこまで一方的な戦いはできなかっただろう。
そんな事さえ思ってしまうほどスキの無い彼らだが、ヨンさんにはかなわない。
「今回の事で、王への謁見は叶うでしょうか」
談笑のついでとばかりに聞いてみた。
少年以外の全員が、耳をそば立てたのが判る。
「ヨガ殿は王に会いたかったのか、なら何故こんな街にいるんだ。
さっさと都に向かえばいい、王も勇者殿を拒みはしまい。
それよりも王は忙しいと聞いている、会えるとしても時間がかかるぞ」
王が忙しいのは、こうして出歩いているからでは。
もっともそれは国内を安定させるためだろうけど。
「俺からの陳情だけならお会いしていただけるかも知れませんが、教会からの親書も預かっているのです」
「ほう。
それは難しいな」
あっさり肯定してくれる。
「かの地は、汚れた血を追い出し、今まさに生まれ変わろうとしております。
俺達が預かってきたのは、カソーエナ王国への謝罪と聞いています。
これを教会では両国の新しい関係の一歩と考えています」
「かつて国境付近の村が襲われています。
犠牲も出ている、そう簡単な話ではないと思いますが」とヨン。
「カソーエナ王国が謝罪を受け入れ、正式な使者が往来出来なければ、賠償の交渉も行えないと思いますが」
「賠償の考えがあると、ヨガ殿は言われるのですか」
王の声は、1つ低くなる。
「そう聞いています」
交渉の行方がどうなるかは全く予想できないが、教会は今回、カソーエナ王国へ最大限の礼を尽くそうとしている。
「今言った事を都で話して見るといい。
私のような商人には、王が何をお考えになるかなどわかりません」
今は、決められないと言う事か。
翌日、紙商人の御一行は旅を続けると、少年を連れ街を後にした。
行き先は言わなかったが、都だ。
都側でない門から街を出たが、すこし先で曲がり都に向かっている。
俺達より先に、都へ着くつもりのようだ、待ってくれるようだ。
俺達は追いつかないよう、ゆっくりと後を追った。
都は海沿いにあり、そこから見える島に王宮がある。
小さいとは言え島1つ全てが、王宮なのだ。
王宮へは役職の有る者が住んでいて、それ以外の者は船で渡る。
宿の俺用に借りた部屋ではタビさんがいつものように、酒を飲んでいる。
この頃では見慣れた光景だ。
タビさんいつものように、静かに呑んでいたのだが
「いい加減にしろ、国を出たとはいえ、わらわはお前たちの生まれた国の女王だぞ。
寝所を覗くとは、無礼であろう。
新しい王に仕える時に、わらわを敬う気持ちは捨てたのか」
ついにキレた。
「見えないだけで、いないとは違うからね。
俺の耳は、君たちの存在を確実に聞き取っているんだけれど。
これ以上はリーシェさん達の部屋に黙って潜りこむのは辞めてほしいのだが」
偽物領主を追い出すまでの監視だと思っていたから、気づかないふりをしていたが、我慢の限界だ。
残念ながら、姿を現す気はないようだ。
パシャ。
タビさんが、飲んでいた酒を近くの壁に投げ捨てる。
酒は壁に掛かる前に、見えないものに当たり飛び散る。
その見えぬ物は徐々に色と形を現し、人狼となった。
これで2度目だ、こいつらに隠れて部屋に忍び込まれたのは。
隠密行動が得意な種族だが、こんな使われ方しかされないのか。
もう1人いた人狼も姿を現し、タビさんの前に並び土下座をした。
「初めてお目にかかります、女王様。
お許し下さい。
決して、女王様を侮辱する意図はもっておりません」
2人とも床に頭を押し付け、謝罪を始めた。
その言葉に嘘は、無いように見える。
「なれど国にいた時にも、女王様のお姿を見た事はありませんでした。
違う可能性が有る限り我らはこうするしかありまん、ご理解いただけないでしょうか」
これは嘘だ。
狐耳の獣人はいない、タビさんの姿を見れは、女王と気づくはずだ。
今の王命を優先させるための、方便だ。
「下の者の行動は、主の品位を示す。
従わぬも主のためではないか、特にお前達赤毛はいらぬ誤解を生みやすい」
人狼は"赤毛"と言う言葉に反応した。
「人狼の、姿を認識出来なくする技、特定の用途に都合がいい。
何だと思う」
タビさん俺に説明してくれるようだ。
「暗殺かな」
そう答える。
姿を見せず対象に近づけるのだ、この技が生きる。
「そうだ。
だからこそ、人狼族はその手の事は絶対行わない。
誇りある種族なのだ」
女の寝床に忍び込むのに、信じられないな。
「そんな目で見てやるな。
わらわの国でも、人狼族は誇り高い種族だ。
約束事も必ず守る、そこは鬼人族と同じだ」
鬼人の融通のきかなさを思い出した、あれと同じかそれは面倒だな。
「そして人狼は、ヨガが言ったように認識できなくなるだけで、そこにはいる。
隠れていても返り血を浴びると、違和感が生まれ、存在する事に気づかれてしまう。
それは毛の色と血の色が違えば違うほど、気づかれやすい。
逆に赤毛は、血を浴びても姿を隠し続けられる。
よって人狼にとって赤毛は厭忌する色だ」
「村では血が濃くなり、子が生まれなくなった。
村人が60を切った時、王が現れ村長が決断した」
人狼の1人が、自分がここにいる説明を補足した。
「人狼は古くから国外より望まれ、国を出た者は多い。
その子孫達は、国内の人狼よりはお前達の毛並みは気にせぬ、と言う事か」
タビさんが、国を捨てた赤毛人狼族の村長の考えを思う。
「4年ぶりの一族の赤子を、この腕に抱きました。
むろん人狼としての、矜持も生きております」
再び人狼は頭を深く下げた。
「もう良い。
主に、わらわにバレたと言え、咎めはされまい」
その言葉で、人狼の姿がまた見えなくなった。
そのまま部屋を出てゆく。
ドアの前で見えぬのにもう一度、頭を下げる。
「『姿を消し、貴人に近づく』
あやつらが最もしたくない事だろうに」
「それだけ俺達の事を気にしているのでしょう」
「気になれば、探らずにはおれんか、それが為政者というやつか」
「怒っているの、タビさん」
「いいや、怒ってはおらん。
不愉快なだけだ」
怒っているじゃないか。
「ヨガはこの国に入って以来、ブンヘズ王に心酔していたな。
だが王は、よい男ではないぞ。
無論、悪人では無いが、良い人ではない、王だ」
何を思ったか、いきなりブンヘズ王を評した。
「カソーエナで奴隷は禁止されているが、犯罪奴隷はいる。
あの奴隷化道具は使われているのだ。
北の地よりあの道具の製造元の話しは伝わってはいよう、それでもなくす事は出来ない。
わらわの国にはスラムのような、貧民街はない。
カソーエナは、昔に比べ少なくなったが、今の治政ではなくす事はできまい」
確かにタビさんの国には貧困は見ていない。
貧富の差が無いからだ、皆貧しいとも言えるが、それで足りていた。
お金は有ったが、それだけで社会が成り立っていただけではない。
それに比べ、外では金が経済を回している、貧困が生まれるのは必定か。
「領主も、偽物だから退場されたのではない。
もともと王が領主にしたのは、やつだ、本物のメイペック・レァ・ウケニールには会ってもいない。
領主が街を治めるのに、不適合者だったから除かれた。
もう少し上手くやれる者だったならば、はたして王は少年の声を聞いたかな」
そう希望するが、考えるのは止めておこう。
「ブンヘズ王は良い王で有っても、良い人ではないのだ。
仕方が無いことだ、それが多くの者の上に立ち、国を治める王と言うものだからな。
よく覚えているが良いぞ、ヨガ」
なぜ俺に、そんな事を言う?
タビさんの言う、良い王と良い人の差は判る。
ブンヘズ王には敬意を感じるが、俺は良い人でありたい。
「それが為政者だ。
わらわはそれがいやで、政治から距離を置いた。
そのせいで赤毛達の困窮を知らなかった。
どちらが正しいという話ではない」




