7-1.賢王ブンヘズ
前回あらすじ:聖女様、細マッチョです。
「貴様がヨガ!」
カソーエナの国境の街、衛兵に冒険者のプレートを見せた時の反応だ。
俺がヨガだと問題でも有るのか?
「どうした」
俺の名前に声を上げた衛兵より、年配の男が覗きこんできた、上官かな。
「こいつ、ヨガだそうです」
そう言って俺のプレートを渡す。
上官らしい衛兵は、苦笑いしながら
「なるほど、連れまで揃えて」
一緒にいるリーシェさん達を見た。
何か変だ、ハーレムパーティと誤解されるのは慣れてるが、何か違う。
その後、リーシェさん達の冒険者のプレートを確認すると顔色が曇る。
「面倒くせえな、俺じゃわからん。
街に入るのは、暫定的に許可する。
ただし、冒険者ギルドに行って、自分達を証明しろ。
それが条件だ」
と、一枚紙切れを渡された。
プレートが本物なのは判っているはずだ、何を証明する必要があるんだ?
ん?
「タビさん、何かした」
「何を突然言い出すんだ。
わらは一緒にいただろう、何もしていない」
と否定する、が。
「しっぽが楽しそうに、揺れてるのは気のせい」
最近、タビの機嫌は、尻尾を見たほうが良いと気づいた。
その尻尾が今パタパタと動いていた。
俺が指さすと、タビさん手で尻尾を抑えながら。
「何処を見ている、スケベが」
え、尻尾って見ちゃ駄目なの。
自分にも被害が有りそうだとキューさんも追求に参加したが、何もわからないままギルドに着いてしまった。
室内に入るなり視線が集中する。
先頭の俺を見て、その後女性陣へ、そして俺に戻る。
その時には、視線に多少の軽蔑の色を含む、ハーレムパーティへの視線だ、最近ではなれた。
街の衛兵に、言われた事を説明し、暫定の許可書と俺の冒険者のプレートを渡す。
担当者の女性で、軽蔑の目を俺の冒険者プレートに向ける。
「貴方がヨガ。
全く最近は何でも有りね」
街の入り口で、衛兵に言われたのを思い出す。
違ったのは
「5つ星なんですか!」
俺の星の数見たときだ。
「大きな声を出して、すいません。
他の方のプレートもお借りできますか」
全員のを確認すると、今度は奥に入っていった。
俺達の履歴を問い合わせるのだろう、一応前に寄ったギルドも教えた。
本人確認のため、俺達の登録書を取り寄せるのだろう、数日は足止めされるか。
奥に入った受付嬢は、少し年配の女性と一緒に戻ってきた。
「確認いたしました、問題ございません。
皆様が『閃光3』の正しきパーティで有ることを、ギルドが保証いたします。
まさか勇者パーティがおいでになられるとは、感激です」
は!
横でリーシェさんが、頭を抱えてうずくまった。
「そうなってたか〜」
キューさんは天井を見つめる。
「マラガちゃんの才能と、出来る男のヒョコシル殿を、侮っていませんか。
いまや『閃光3』は勇者パーティと言われています」
ピノが表情を変えず補足したが、何だそれは!
「わらわ何もしていないだろう。
ヨガの歌は大陸中で歌われているらしいぞ、良い傾向ではないか」
そうなる事を望んではいたが、そうか、こうなるのか。
「良かったなヨガ、だが、私のほうがまだまだ多く歌われている。
もっと、頑張るのだな」
ケイトさん、なに対抗心出してるんですか。
守護竜の歌を比較にしないでくれ。
「すぐこの街を出よう。
しばらく隣のギルドには行かない。
いいね」
とリーシェさん、外に俺を連れ出した。
有無を言わさず、軍馬に乗る。
逆らえる雰囲気がない、他のメンバーはリーシェさんに従う
「これだけ、名前が大きくなってるなんて。
絶対、余計な問題が来る」
「リーシェは心配性だな、全部ぶっとばせばいいじゃないか」
ケイトさんの言うことを聞いていると、守護竜への畏敬が薄れそうになる。
その都度、『彼女は生まれたばかり』だからと頭の中で補正してる。
「問題ごとたたき壊すのは簡単だが、それが国王謁見時の話に有利になるかどうかが問題だ。
リーシェはそれが不安なのだろう」
とタビさん。
「カソーエナは王政だけど、建国まもなく王の力が絶対ではない。
国政は協議で決定される、各地の元名士が領主として参加している。
ピノから聞いているでしょう、王だけを見ていても駄目だって」
王の腰が軽く、ほとんど都にいないとも聞いたな。
「領主たちが、私達の名声に近づこうとする時は、あまりうれしくない話をもってくる。
これは経験上、確かだから」
リーシェさんの経験は特殊だと思うけど、言いたいことは判る。
しばらくは街に立ち寄らず、南方の土地を進んだ。
補充を兼ねて、村や集落に立ち寄るが、警戒心がまるでない、国内が穏やかな証拠だ。
夕食に招待される事もある。
俺達から、思わぬ臨時収入があったので、村人で小さい宴会をする時などだ。
不公平な取引はしていないが、現金収入は貴重なんだそうだ。
リーシェさんは、別料金を追加して、自分用の食事を頼んでいる。
「ゴメンなさいね、誘ったのに食べれる物がなくて。
エルフまじりだと、ここの食事つらいわよね」
村の人が頼まれた、果物を出してくる。
彼女分だけではなく、大皿に他にも用意される。
南方の料理は、リーシェさんの舌には絶望的に合わない。
辛い、甘い、酸っぱいの主張が激しく、味が濃い。
リーシェさんの味付けに慣れていた、俺も最初驚いた。
俺はなれて食べるようにはなったが、体質の問題でリーシェさんは全く受け付けない。
他のみんなはといえば、リーシェさん当番時に薄いと文句を言っていたケイトさんと、こっそり調味料を隠し持っていたキューさんは何の問題もなく、むしろ喜んで口に運ぶ。
ピノに味は関係はない。
タビさんは「地酒に会う」と喜んでいる。
みんながやりたがらないから、リーシェさんの食事当番が一番多かった。
後でどうなっても知らないよ。
「そんな事ありません。
果物は美味しい、種類も豊富で、ここは良いところですよ」
見た事のない果実も多く、並べられる量も多すぎる。
「そこは自慢かな。
安いしね、そうだ残ったお金ほんとに貰っていいの」
「お手数をおかけした分です。
受け取って下さい」
「じゃ遠慮なく貰うわよ。
代りに、何か困った事があったら言って。
やれる事なら何でもするから」
「なら、世間話をお願いできますか」
タビさんが横から声をかけた。
「世間話ですか?」
「明日には、この南にあるペセロウカの街に入ろうと思うんですが。
わらわ達この国初めてなんで、何も知らないんです」
「そうなんでか。
逆に私はこの村から出たこと無いので、知っている事も少ないんですか」
そう言って色々教えてくれた。
ほとんどはビチュレイリワが調べたものと同じだが、人を通して聞くと微妙な感覚が判る。
ペセロウカは近くにある鉱山から取れた、緑晶石という宝石でかなり潤っていた街だった。
その割にはケチだったらしく、近くの村では印象は良くない。
現国王が外との競争力をえるため南方統一を唱えた時、既得権益をうしないたく無かった街は反対にまわった。
街が潤っていたので、徐々に反対勢力の中核になる。
ところがブンヘズ王が、緑晶石が人工的に作れる事は発見公開したため、緑晶石の価値は大暴落、抵抗勢力は一気に霧散してしまった。
未だ緑晶石の製法は王国内で秘密にされている、宝石として取引されはしないが、綺麗な建築材としては需要がある。
ちなみにビチュレイリワでは作れないらしい、魔法を使う必要がある。
激しい戦火もなくまとまったので、すぐに国は以前よりも豊かになった。
取引が公正に行われるよう法令が強化されたため、国への不満も少なくなったそうだ。
賢王だね。
話を聞けば聞くほど、カソーエナ国のブンヘズ国王の偉大さが判る。
「彼の国で、俺が勇者名乗っていいのか」
誰にも聞こえない声で、自問している自分に気づいた。
その聞こえないはずの声を聞いて、ニヤけたタビさんにも気づいたが無視だ。
面白い物が見られると進められたので、日が登る前に出かけた。
街の門は日の出と共に開く。
「荷馬車を使う街中での荷物運び、1日103デール、30人」
街の城壁の外には定番のスラム、ただその前で叫ぶ男が数人いる。
「海の漁用の罠の修理、経験の有るやつ8人。
230デールだ」
「ヤミの旦那のとこでは、300デール出してくれたぞ」
「あそこは基礎から作ったらしいが。
コッチは基礎の石はそのまま使える。
その分楽になってるはずだ」
何をしているか判らなかったので、街に入るため俺達の前に並んでいた行商人風の男に
「あれは何してるんです」
と聞いてみた。
「あんた、この国の人じゃ無いね。
あれは人足の募集さ。
カソーエナでは奴隷が禁止されている。
簡単な作業は、スラムの人間を使う必要がある決まりがあるのさ」
良いことだとは思ったが、何の為にしてるのかは思いつかなかった。
「スラムの人に仕事を回して、貧しい生活から抜け出すチャンスを与えるためですか」
ピノには理解できたんだ。
「良く判ったな」
「スラムが荒れれば、街の治安が悪くなります。
結果的には安く統治できますからね」
言われればそうかも。
政治に興味が無かったから、全くわからんが。
「スラムが嫌いな領主は多いが、そこに住む人の生活を考えて何かするって事はないな。
前領主は、貧民は見るもの嫌いだったらしく、何度もここを焼き払っていた。
だが効果なくてな、当時のスラムは今の倍は有ったらしいぞ」
行商人が続けた。
「緑晶石で潤ってたって聞いてたんですが。
貧しい人もいたんですね。
この国が統一される時は、反対勢力になれるほど、兵とお金は有ったんですよね」
「自分たちの既得権益が、奪われるのが嫌で反対しただけさ。
何か有って反対していたわけじゃない。
当時は多くの住人が不満を持っていて暴動寸前、ブンヘズ王に逆らって蜂起なんてとても出来る状態じゃなかったさ」
それを知っていたとしたら、ブンヘズ王は策略家だ。
楽に国造り出来る地で、建国をなした事になる。
街の中は、綺麗に整理され、美しかった。
高い建物はないが、今まで見てきた王都に引けをとらない。
これで王が住む街では無いのか、その財力に驚く。
「活気がある街ですね」
暑い土地柄か、壁が少なく風が通る作りになっている。
中で何をしているのか、道にいてすぐに判る、そのせいも有るのだろう。
人の動きに、活力を感じる。
「ヨガ、あの少年」
ピノが建物に隠れた、少年を見つけた。
「この街の印象とはかけ離れた雰囲気ね」
リーシェさんが言う通り、少年は剣に手を添えて、今にも飛び出そうな感じだ。
誰かが来るのを待っている。
「あれではないか」
タビさんが遠くに見える馬車を見た。
遠い、肉眼で良く見えるな。
それは豪華な馬車の一団だ、護衛もかなりいる。
考えるまでもなく、身分の高い人がそこに乗っている。
あれを、この少年が1人で襲うのか。
違うな他に4人、剣を持った者が少年の近くにいる。
いま近寄っている男女も、関係者かも知れない。
馬車が近づいてきた。
馬車に乗っている者と少年、どっちの味方をする気も無いが、このままでは少年が死んでしまう。
それは見たくはない。
少年が飛び出す前に止めよう。
そう考えていたら、それを実行した人がいた。
剣を持たず少年に近づいた男性だ。
いきなり少年を抱きしめる。
抵抗した少年が剣を抜き、男性が怪我をしたようだ。
剣を持っていた男達が"旦那様"と、怪我をした者に駆け寄る。
彼の護衛だったのか。
ただ1人の護衛が"旦那様"ではなく"王"と叫んだのを、俺は聞き逃してはいない。




