6-3.炎舞
前回あらすじ:村と聞いてたんですが・・・
水量が多くはないが、川に流れが戻った。
簡単なダムがあり、そこで水位を調整しているので、街に入る水量は十分にある。
「それは駄目だ、食料は病人に渡すべきだ。
奴ら弱り切っている、ちゃんと食わせないと、明日にも死んでしまう」
「無論その人たちには、分配します。
彼らに作るスープには、優先して材料を回してます」
次の問題は食料だ。
少し取れるようになった食料をどう分けるかが、今回の代表者会議の議題だ。
最初は、全部を病人に配る予定だった。
「いくら水が手に入っても、食べ物がなければ今までと同じ。
少しずつでも、畑で何か作らないと。
働くためには、ちゃんと食べてもらわないと駄目だ」
ここに奇跡を求め集まった人には、夫、妻、親や子など一緒にきている人がいる。
彼ら彼女達を働く人として、期待している。
その人達に食料を回そうと、フェルトさんが提案したのだ。
畑を広げ、将来的に食料を増やすためだ。
「口に出来る物が実るまで、少なくとも半年はかかる。
それまでに、一体何人死ぬと思っているんだ」
「もっとかかる。
あの森を畑に変えるのは大変だ、街の人が食べていけるのは数年先だ。
やってみて判った」
オードさんは、ここ数日街の外で畑を作っていた。
畑と言っても、木を切り倒し、雑草を抜いただけ。
満足な道具もなく、働く人々も弱っている、力はない。
「そんなに待てるか」
スペンストンさんは、相変わらずだ。
「事実だ。
受け入れるしかない」
「結局なにも変わらないか」
「それは違うぞシガ。
少しずつだが、確実に良くなっている、それは間違いない。
キューさん達の治療のおかげで、死ぬ者が少なくなっているんだ」
完全には、無くせていない。
キューさんの顔に疲れが見える。
ケイトさんも
「救った命より、こぼれ落ちた命を数えてしまう」
と、ぼやいていた。
「キューさん、本当に最後の一人まで、みてもらえるの」
とフェルトさん。
俺達がいなくなれば、微かに芽生えた光も無くなってしまう、不安なのだ。
「そのつもり。
そうでしょ、ヨガ」
4人の視線が俺に移った。
「そのつもりです」
「時間が、かかると思います。
何年も」
「いや、そんなに時間はない」
とはシガさん。
「何でだ」
「騒ぐな、スペンストン。
考えれば判るだろう、水が戻ったんだ」
シガさんではなく、オードさんが答えた。
街を捨てた理由が無くなったのだ。
本当に少し考え込んで
「街に人が戻って来ると言うのか。
それじゃ、また俺達が追い出されてしまう。
冗談じゃねえ、もう行くとこなんてねえぞ」
スペンストンの声は増々大きくなった。
「気づいてたのかオード。
だから、畑か」
「なぜ、畑なの。
私には判らないわ」
「フェルトにそう言ってもらえて助かった。
じゃ無かったら、判ってないのが、この中でおれ1人になっちまう」
「開墾した土地は、開墾した者が使える。
後からきた奴らに、取られる事はない。
出来るだけ広げて、土地を確保しておけば、自分達の食い分はどうにかなる。
街を出ていかないで済む」
そう考えて、オードさんは畑を作っていた。
「早くて1年、遅くても3年かな。
それまでに、働けるようになった者が街に残る」
シガさんは、その先を続けなかった。
「出来るだけ多くの人を、助けて欲しい」
俺に頭を下げた。
シガさんが言った事は、街に入る前リーシェさんが指摘していた。
「手伝いますよ」
「何を」
「畑を作るのを、俺も手伝います。
リーシェさん、タビさんは治療をお願いします。
キューさん達と交代しながら、無理しないようにしてください」
「2人も治癒ができるのか」
「私以外、全員出来ますよ」
とはピノ。
リーシェさんのおかげで、少しの魔法は使えるが、治癒は出来ない。
「俺のは生活級なので、ここでは役に立ちませんが」
「わしは、それさえ出来ん」
オードさんが、悔しそうに顔を歪める。
おかしくないか。
俺はエルフェースにいた頃に、魔法を習った。
他にも使える人もいて、低レベルな魔法の習得はそんなに難しくない。
オードさんが人を思う気持ちも、人を治したいと思う気持ちも本物だと思う。
なぜ、彼が治癒の奇跡が行えないんだ。
(ビチュレイリワ、何かおかしいよな。
信仰があれば、備蓄されたマナの供給を受けれるだろう。
オードさんが神を信じていないとは思えないんだが、何で魔法が使えないんんだろう)
[この街には、生活級レベルの魔法を使える人もいません。
十国以外では、少なくなっていましたが、誰も使えないというのは始めてですね。
調べてみましょう]
「オード、出来ない事を言っても仕方がないでしょ。
今、出来ることをするだけです。
畑より、食料の輸送の安全を優先したい。
ヨガさんには、畑作りより、蟹の討伐をお願いしたいのですが」
とフェルトさんに頼まれてしまった。
キギの街から、海への距離は1000歩も無い。
かつて整備された地だったろうが、今は林になっている。
街が放棄されて、100年は経っていないので、大きな木は無いが鬱蒼としている。
海へと続く細い道以外は、深い緑が広がっている。
魔獣も出る、主にヘル・ウルフより少し小さめの狼と、巨大な蟹だ。
狼は集団で火を持っていれば、襲われる事はない。
蟹はめったに出会うことは無いが、襲われれば絶望的だそうだ。
動きが早いので逃げ切れず、普通の武器では傷がつかないほど硬い。
大きなハサミで、犠牲者がでてしまう。
取れた魚の輸送時の問題になっていた。
「判りました。
そちらを優先しましょう」
「頼みます」
「ですが、蟹を一匹ずつ倒していても、全部の蟹を追い払う事は難しい。
隠れ住むあの林も、無くしてしまいましょ」
「出来ればいいが、どうやるんだ」
街の東では、煙が上がっていた。
名無しが、火の前にいる。
彼は街の中に有った死体を集め、墓を作っていた。
街の衛生維持のため、ビチュレイリワに言われていた事を頼んでいた。
嫌がる仕事を彼が引き受けたのだ。
家族に「墓を作る」と納得させ、丁寧に作業を行っていた。
即席の墓地が作られていた。
10人ほどが、一緒に作業をしていた。
喋れない彼は、行動で信頼をえ、住民の代表になっている。
「助けてくれー」
突然、林のなかから4人の男女が走り出てきた。
彼らは、枯れ枝集めに、森に入っていた。
「蟹だー」
俺は林の中に走った。
すぐに1匹の蟹と、その前に1人。
囮に残って、仲間を逃したのだろう、今にもハサミに捕らえられそうだ。
(頼む)
[剣を、伸ばします]
剣を抜き、蟹に向け一振り。
すると刃が、薄く伸び蟹を切り裂いた。
伸びてもソニックブレードになっている、硬い蟹を簡単に2つにした。
「大丈夫か」
すぐに応援がきた、名無しもいる
名無しは、俺のそばまできて、蟹を指差す。
「間に合ってよかったよ」
手を使って何かを伝えて来るが、判らない。
「あれをやったのが、あんたか聞いているんだ」
名無しと一緒にいた男が、助けてくれた。
「そうだけど。
それが」
「いや、何でもない。
俺らには真似出来ないと思っただけさ。
名無しさんもだろう」
名無しさんも、うなずいて同意した。
ビチュレイリワのおかげだけどね。
「あの蟹もらっていいか」
「俺には使いみちが無い。
構わないけど、どうするんだ」
「食うんだよ、美味いぞ。
殻は売れる」
「なるほど。
じゃしばらくは、蟹食い放題だな」
「何でだ」
俺は腰を下ろし、剣を構える。
そこから、横殴りに剣を振る。
前方100歩ほどの木々を、切り倒した。
「何だ、こりゃ」
「蟹の討伐を頼まれた。
林を切り開いて、蟹の住処ごと無くすつもりだ。
切った木や、倒した蟹は勝手にしてくれ」
名無しが手を握り、感謝を示してくれた。
涙を流している、大げさだな。
大げさな事じゃ無かった。
海に続く東側の林を切り開くのに3日かかったが、蟹は40匹以上倒したと思う。
それで、街中の人が、口にする事ができた。
街の中で、俺を見かけると礼を言ってくる。
中には拝むものもいる、辞めてほしい、神の国では洒落にならない。
「あんな事が出来るなんて。
何と言って良いのか」
「まずは、感謝する」
代表者にも感謝された。
名無しもいる、作業を手伝ってくれる者が増え、街中の遺体が無くなった。
もともと、放置してて良いと思っていた人などいない。
「蟹の殻を売った金で、食料と種を買うことが出来た。
人々の目に希望が見えてきたんだ」
「それに伴って、問題も出てきたがな」
「ヨガさんを真似て、蟹を狩ろうとする人が出てきたの。
今までも、焚き火用の枝や食料を求めて林に入る人はいたけど、危ないので奥には行っていなかったのに。
止めるように言っているのだけど、なかなか聞いてはくれない」
「そこで、わしらは畑つくりを急ぐ事にした。
街の周りに広がる元畑の林を、全て焼き払う。
中にいる蟹は、全部焼き蟹になってしまうが、安全な方法だ」
海に近い東では、畑に向いていない。
元の畑を復活させたほうがいい。
「まずは、川の南側で行おうと思っています。
そこでリーシェさんにお願いが有るのですが」
「なんでしょう」
「スペンストンの話では、リーシェさんは水の精霊が使えるとか。
火が大きくなった場合、火を消すのをお願いできないかしら」
「何故そんな面倒な事を、私が燃やしましょうか」
4人の代表が、スペンストンが向く。
「まて、お前、水の精霊を使えたよな。
あんな大量の水を呼び出せたんだ、もしかしたら上位精霊使いだと思ったんだが、違うのか」
誤解がある。
「リーシェさんは、四大精霊全部の上位精霊を呼び出せますよ」
俺はスペンストンさんの勘違いを教えた。
「嘘だろ、そんなの伝説の精霊使いレテスタシアじゃねえか」
リーシェさんの精霊は彼女のものだが、これは教える必要は無い。
火と風の上位精霊を呼び出し、街の南西に有った林を燃やした。
炎は2日間夜も燃え、その明かりは街からも見えた。
次に土の精霊で残った木の根を掘り出すのに6日間かかった。
「わしらのやってた事はなんじゃったんだ」
オードさんが、そうぼやくのは無理ない。
8日で、綺麗な焼けた野原が、出来上がったのだから。
畑として耕し、買い込んだ種を植え始めた。
[これでは無理ですね。
手に入れた食料では、どんなに頑張っても30日は持ちません。
北西部の林を燃やしても同じ程度。
畑から食料を得られるのは、その後になります。
今燃え上がっている人々の希望は、この街に残る最後の力でしょう。
長くは持たない]
頑張り続ける力は、この街にはない。
「リーシェさん、川の北側もお願いしたい」
今の街の人口なら、南西部で足りている。
これ以上の畑は維持する人手もない。
代表者もそれは判っている。
それでも林を燃やし、得られるもので限界までの日にちを伸ばそうとしている。
リーシェさんは、依頼を受けた。
「ごめん、夕食はいい」
だが俺達に与えられた部屋に戻ると、横になった。
「私も」
キューさんもだ。
かなり疲労が見える。
今までの冒険者が、逃げたしていたのも理解できる。
ここは、肉体的にも、精神的にもキツイ。
「食べなければ、駄目だ」
ケイトさんが、夕食を彼女達の分も取り分ける。
パーティーの飯はタビさんを除く当番制で行っている。
今日はキューさんの当番だが、ケイトさんが代わりに行っていた。
「わらわ達は、数日食べなくても問題ないが、2人は食べなければならん。
食べる義務がある」
タビさんの言う通りだ、2人は絶対に食べなければならない。
しかし、俺もコッチ側か。
「明日は2人とも休め。
フェルトさんたちも、そう言ってくれただろう」
「そうは言ってられない。
明日は、森の精霊の力をかりて、種を発芽させるから。
毎日少しずつ成長を早めれば、早く収穫できる」
「それではリーシェが持たんな」
タビさんは、リーシェさんの無茶を止める。
「でも、出来るのに、やらないなんて出来ない」
リーシェさんの気持ちは理解できるが、無理はしてほしくない。
「痛い言葉を言うなリーシェ」
タビさん、目を閉じて考え始めた。
「しかたがない、わらわがリーシェの代わりをやろう」
何かを諦めたように、つぶやいた。
「創造主は、わらわに無制限に力を与えた。
それは、自然の理を歪めるようなものも含めてだ。
ただし、大きすぎる力の行使は簡単には行えぬようになっている」
言葉はここで切れ、続ける気はないらしい。
「明日、ピノとヨガはわらわを手伝え」
翌日、北西部の林の中に3人がいた。
タビさんの尾は数本の炎のように揺れて、本来の姿に戻っている。
着ているものも何かの衣装のようで、ゆったりとしていて派手目だ。
「森じゅうに種をまけ」
ピノが持ってきた種の袋を広げると、無数の鳥達が寄ってきた。
ビチュレイリワが操っている鳥達で、種を腹に入れ飛び立ってゆく。
空からこの一帯に種を巻き散らす。
タビさんが歌い出した。
前に聞いたものとは違う、人が出せる声ではない。
そもそも何を言っているか理解できない。
でも美しい。
そして舞を始めた。
自分の歌に合わせ、優雅に舞っている。
タビさんは、青白い炎に包まれ、すこし浮いている。
その炎は周りの木々にもうつり、燃え広がる。
俺の周りも火に包まれたが、この炎は熱くない。
炎に包まれた木々は、崩れ落ち始めた。
地面の草花も朽ちはじめた。
木々が倒れ、次々と視界がひらけてゆく。
地面に倒れた木々も土に還り、炎に覆われた、大地が広がる。
そこで、歌が変わった。
何故か心が浮き立ってきた、踊りも前のものと変わった。
炎に覆われた地面から、草が伸びてきてあっという間に、花が咲き実をつける。
・
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・
「こんなものだな」
いつの間にか、タビさんが横に来ていた。
「すごい」
ここで初めて自分が、涙を出しているに気づいた。
「どうした、感動したのか。
だからと言って、わらわに惚れるのはやめてくれよ」
タビさんが笑いに変えてくれて、助かった。
感想や誤字、指摘をいただけると嬉しいです。




