5-12.ヨガ
前回あらすじ:前帝にとってタビさん、子供のころの憧れのお姉さんでした。
「おかえりなさいませ、ヨガ様。
心配しておりました」
戻るとヒョコシルさんが飛び出てきた、心配させてしまったようだ。
「闘技場で見ておりました。
ミフォラレェーズ様の動きが止まったと思ったら、いきなり勝利が宣言され、何かあったかと、心配しておりました」
「ヨガが気迫で、女帝を押し返したのさ。
それが最後だった、ということさ」
「タビさんの言うとおりで、いきなり意識が切れてしまい、それで試合が終わったんです」
「そうで、ございましたか」
ほっとした様子、本当に心配してくれていたんだ。
いい人だな、ヒョコシルさん。
「そうだ、ヒョコシルさん俺たち明日この街を出ようと思っています」
「どうしたのです急に、やはり何かあったのですか」
有ったけど、多分ヒョコシルさんが思ったような事ではない。
あの場にいた貴族達が次々と、俺達をパーティに招待してきたのだ。
俺と縁を結んで、自分達の利益を得ようという魂胆だ、話を聞いた他の貴族からも声がかかるだろう。
一度受けてしまうと、後からの招待を断りづらくなる。
全て誘を断る口実として、街を出ると事にしたのだ。
「俺たちは元々旅をしていたので、一箇所に長くはいないんですよ」
「それならば、私達も急いで街を出れるようにします。
みなさんもそれで良いですね」
後ろにいた、グメムゼガさん達に確認を取るが。
「待って下さい、以前にもお話したとおりヒョコシルさん達を、一緒には連れていけませんよ」
「判っております。
向かうのは、私の故郷、ジュア・ニフス。
ジェイルズの街に戻ります」
「グメムゼガ殿達も、一緒にですか。
帝国を出るのは、始めてでは」
自分の街に戻るヒョコシルさんは判るが、何故他の3人もジェイルズに行くのだろう。
「国を出るのは始めてだ。
それともう1人、マラガも俺たちと一緒に来る」
グメムゼガさんは、マラガちゃんの頭に、ぽんと手を乗せた。
「こいつのおかげで、俺たちにも出来る事か判ったからな」
マラガちゃんをこれ以上連れていけない、どうしようと思っていたところだ。
良かった、ヒョコシルさん達と一緒なら、安心だ。
その夜、俺はリーシェさん達の寝室に向かった。
「俺は自分のする事を決めました、かなり危険な事です。
リーシェさん、キューさんをこれ以上俺のわがままに付き合わせることはできません。
2人は、ヒョコシルさんと一緒にジュア・ニフスへ行き、その後アルテミラルに戻られたらどうでしょう」
「は〜。
ヨガ、それが女性の寝室に夜這いにきた男の言うこと」
キューさん俺夜這いにきたわけじゃないから、真剣な話だから茶化さないで。
「ヨガは、私達と離れたいの!」
リーシェさん声大きい。
「できれば、一緒にいたいです。
でも、それ・・・」
「だったら、一緒に頑張ろうでいいでしょう。
なんで、離れるって言うのかな。
前にも言った事有るけど、私はヨガと一緒にいるの」
「全くだ、ヨガは優しくない」
心配だから巻き込みたくないんです。
「それと事が終われば、ヨガを迎えたいという国は、たくさんあるだろうから。
まともなの選んでね」
キューさん何故、そんな話を今。
「告白は終わったか」
タビさんが後ろでニヤニヤしていた。
全員いる。
なんの告白だよ。
「妾には言わんのか、『愛しているから、別れてくれ』と」
「タビさんとは、それに約束が有る。
ケイトさんの使命と、俺の目的が、合致してる。
ピノと離れれば、俺が死ぬ」
「愛しているは否定しないのだな」
「愛してますよ全員。
大事な仲間だ」
「「そうじゃない」」
リーシェさん、キューさんがそろう。
顔が赤い、ケイトさんまで。
「ヨガが、魔王を倒したいのは個人的な理由と言うなら。
私がヨガと一緒にいるのも、個人的な理由。
ヨガが、どうしても離れたいと言わないかぎり、一緒にいるから」
「私も。
この話は終わり」
ーーーーー
翌朝、出発前に俺たちを訪ねてきた人がいた。
上品だが豪華ではない馬車だ。
女帝がお忍びで来られた。
「行くのか」
「はっ」
頭は下げていない、礼は不要と始めに断られた。
タビさんがいるからな、必要の無い揉め事は起こさないようにとの配慮だ。
「お前たちも、自分の意思でヨガについて行くのだな。
私には信じられん」
目の前のキューさんを見て、女帝は首を横に振る。
「私はアルテミラル国王の、空いていた4人目の妻にされそうだった。
自分の父の年と、そう変わらぬ男とだぞ。
冗談ではない」
「わが国王の4人目の妻の座、そう軽いものではありません」
キューさん声が高い、少し怒っているようだ。
「わが国王だと」
「私の父は、アルテミラル魔境周辺の男爵、アルテミラル王国の末席に連ねております。
私も元貴族の身」
「それでは、千の槍のご息女か。
4人目の妻の座が軽くないとは。
わざわざ空けてあるとは、外交に使おうとする魂胆が見えすぎると思うが」
「国王にはこれまでにも、たくさんのご婚姻の申し出が有りました。
私は詳しく知る立場にありませんが、大臣の進言が有っても、断っていると聞いています。
いままで、その席に座られた方はおりません。
国王の態度が頑ななため、本来その席に座る者がいるのだと、国民は考えています。
失礼ながら、国王との婚姻の話は、帝国のみで進んでいた事ではないでしょうか」
「そうなのか、知らなかった。
もう決まった話として聞かされていた、騙されていたのか。
そう言った大臣はもういないので、本当のことは判らんな。
しかし、そこまで思われていると言うのは、女としてうらやましいな」
「そうですね。
私も貴族の娘、将来の夫に他に妻がいるのは、当たり前だと思っていました。
それも、最低自分を愛してくれる者か、自分が愛した者がよいと、思うようになりました。
王の空いた妻の席を、知っていたためでしょう。
そのせいで、行き遅れましたが」
10代で婚約が決まる貴族社会では遅いかもしれないが、庶民は家族を養えるようにならなければ結婚はしない。
キューさんは、全然行き遅れてなんていない。
「それも良いな。
私の周り集まるのは、皇帝の夫という名が欲しいだけの、くだらん者ばかりだ」
「ミフォラレェーズ様が、気になるお方はいないのですか」
すこし考えて
「いないな。
男は全て敵と、見ていたからな」
「次の世代が定まらないと、不安と不穏が生まれます。
男爵家ならば大した事ではありませんが、一国であれば人々への影響ははかりしれません。
僭越ながら申し上げます。
次の世代に正しく引き継ぐのも、玉座にいる者の責任ではないでしょうか」
「男の良い所に目を向けろか。
皇帝と言うのも、案外自由が無いな」
女帝は苦い笑いをした。
本当に男嫌いなんだな。
「そうだ」
話を変えた。
「こいつが、言いたい事があるそうだ」
女帝の横で、唯一膝を折っていたリスルールさん。
指名を受けて話し出す。
「私を弟子にしてください」
とマラガちゃんに頭を下げた。
「『華の一撃』はどうしたんです」
「解散した」とは女帝。
「闘技場でマラガさんが引いた曲は、私達の歌を凌駕していました。
呪歌である私達の歌を、感動で上回っていた。
あの曲が耳から離れない、私にも歌わせて欲しい」
「マラガちゃんは天才です」
突然ピノが言い出す。
[マラガちゃんはピノが音楽の基礎、リズムや音の組み合わせの考え方を、少し教えただけで理解してしまいました。
1を聞いて100を知ると言うものでした]
(それいいの、ビチュレイリワ達の音楽・文化を教えたという事だよね)
[教えたのは、基礎だけです。
彼女の生み出した音楽は、基本この星独自のものです。
それにヨガ達は、連邦の名曲を聞いても、半分は良いと思わないでしょう]
(どうしてさ)
[何を、『美味しい』『良い香り』『美しい』『心地よい』と感じるか。
それらは、経験に結びついて、呼び起こされるものです。
連邦とこの星の人では、その経験が違うのです。
いままで聞いた事のないリズムを聞いても、勝手に体が動きだしたりはしない]
そんなものか。
「彼女の曲は、どのような立場の人へでも、心に響いています」
「ピノが教えてくれたからだよ。
曲は聞く人がいるんだって、気持ちよく歌えるだけじゃだめだと」
「それだけで、気づける人はそういません」
「それで、天才か」
「そうです。
マラガちゃんの作った曲は、時を越えて大地に残るでしょう」
"時を越え"の時ピノが、タビさんに視線を向けた。
タビさんは、微笑を返す。
「リスルールさん、よろしいですか。
他の『華の一撃』のメンバーはどうなるのですか」
とヒョコシルさん。
「帝都を出ていくと思います。
この街に冒険者の仕事はありません。
それに冒険者のパーティとしては7人は多すぎます、バラバラになるでしょうね」
「その方々も、私達と一緒にジュア・ニフスに来られないでしょうか。
雇いたいのですが」
リスルールさん、いきなりの申し出に驚いている。
少し考えて
「聞いてみます。
私も一緒にいたいですから」
彼女達にも、いい話だと思う。
「しかし、緑の指とは妙なあざながついたな。
本来、緑の指とは、植物を育てる才能を持つものを指すものだぞ」
と言うタビさんに
「私はこれから、大陸じゅうに種を撒き花を咲かせる。
だから、この呼び名、気に入ってるよ」
そうか、とタビさん。
そして、女帝と一緒に来た、1人に近づく。
肩まである髪は白い、長い手足を持ち、スラリとした女性。
「支配人とはお前の事か、タプヤルガ」
「タビさん、知り合い」
なら、只者じゃないはずだ。
「ケイトの同僚だ」
「え!」
つい声がでた、重要人物でした。
「タビ殿は、タプヤルガを知っているのですか」
「逆に、なぜグメムゼガ殿が、タプヤルガを知っているんだ」
「私に宰相が怪しいと進言したのが、タプヤルガだ。
その功績で、支配人に取り上げた」と女帝。
「彼奴等は、私の敵ですからね」
魔王軍の排除。
白毛四足竜はこの地で守護竜の使命をしっかりはたしていたんだ。
「相変わらず、搦め手が得意だな。
ケイトは似合わんから、真似するな」
「しないよ。
一発殴ったほうが簡単だもの」
ケイトさんはそのほうが合っている。
「元宰相派が敵」
女帝は、元の宰相が魔王軍の手先だと知っている。
その魔王軍を敵と言い放つ、タプヤルガさんが気になったようだ。
最も守護竜が人だと知らないのでは、彼女の正体は判りようがない
ーーーーー
帝都を出た。
また6人で旅が再開した。
寄った街のギルドで、依頼を受けて進む。
アコール神聖国の情報を集めながらだから、ゆっくりだ。
依頼のほうは残念ながら、簡単な魔獣討伐しか無い。
その割には報酬がいいが。
「しかし、ヨガが勇者か」
「いきなり、なに言い出すんですか。
そんなものになったつもりはありません」
「面白い事を教えてやろう。
『勇者』の名に、最初にマナを付与するのは本人だ。
何故か知らないが、本人が自分に期待しないと、マナが集まる場はできん。
今まで見てきた『勇者』全員に言えることだ」
「それは、魔王大戦の2人の『勇者』もですか」
「他にもいる。
本人がなろうとしても期待されなかった者、期待が大きく怖じ気づいてしまった者。
『勇者』、『勇者』に成れなかった者、『勇者』に成らなかった者など、妾は2人以外にも数多く見てきた」
「だからタビさんは、ヨガに『勇者』にならないかと、言ったのですね。
覚悟を促すために」
「自らの名の上に、願望を口にする。
それが『勇者』が生まれる時だ。
『勇者』になろうとするのは簡単だ、なるのは大変だがな」




