5-11.Vs 女帝
前回あらすじ:ヨガが女性を殴れるとは...
「私が替わろう」
貴賓席から声が上がった、何でも有りだな。
下りて来た女性は、女帝ミフォラレェーズ様。
石像でさんざんみた相手だから、間違えはしない。
ちなみに、ケイトさんに女帝が白毛四足竜か聞いたところ。
「違うよ」
とあっさり、否定。
あれも彼女の印象操作なんだろうな。
「皇帝、申し訳有りません」
リスルールさんが謝った。
そして涙を流している。
「お前達はよくやった。
私が、あの男とやりたくなってみたのさ」
そう言われても
「皇帝陛下お待ち下さい、俺は貴方とやり合う理由がありません」
皇帝を殴るわけには行かないだろう。
勝っても、負けても、俺に良いことは絶対に無い。
「私に勝てば、お前の仲間が奴隷に落ちて、娼館で働かなくてよくなるぞ」
・
・
・
「手加減できませんよ」
一気に近寄って、下から振り上げる。
受けた女帝の体が浮き上がる。
逃げられなくなった所に、もう1回。
剣で弾かれたが、加速し打ち下ろした。
同時攻撃されたと思っただろう、かわせない。
女帝は地面に叩きつけられた。
丈夫な鎧だ、致命傷にはなっていない。
魔法道具かも知れない。
観客席から
「陛下」や「ミフォラレェーズ様」と悲鳴や応援が飛んでいる。
完全に悪役だな。
そう思っていると、歌が聞こえ始めた。
リスルールさんだ、他にも意識を取り戻した『華の一撃』のメンバーが参加している。
歌の内容は、女帝を称えるもの、そして呪歌。
女帝や俺に向けての歌ではない、観客を高揚させる効果を生み出している。
「女帝ミフォラレェーズ様、バンザイ」
みるみる女帝のマナ量が膨れ上がった。
これがタビさんの言っていた、名にマナが集まる、というやつか。
女帝の体は淡く光だす。
膨大な量のマナをまとったのだ。
聖騎士と違いマナを抑え込めていない、あるいは見栄えを意識してわざとか。
女帝は、宮廷では後ろ盾が弱いのは、国民もしっている。
就任当時は、その名を誰もしらない、政治手腕も不安視されていただろう。
この力強い姿を、忠誠心を集めるために使っている。
街石像も、『華の一撃』の歌も、全てこの力を得るため。
彼女の剣の腕は、俺よりも落ちるが、分の悪い戦いになってきたな。
今度は女帝からの連続攻撃。
一撃一撃が重い。
流したり、振り切る前に受けて、力をずらしてしのいだ。
防戦一方になっている。
何とかかわしているが、このままではいずれ捕まる。
女帝の攻撃速度がどんどん増してゆく、追いつけなくなってきた。
[これ以上の加速は危険です。
身体の強化で対応して下さい]
言われなくとも、そうしてる。
「負けを認めよ」
「ふざけるな!」
「ふざけるなとは、私が言いたい。
自由の冒険者だと。
皇帝の子として生まれ。
意のそわぬ男に、嫁ぐ事が決まっている私に、自由などは無かった。
自由とは、私のように戦い勝ち取ったものが、その価値を知っている。
何が自由の冒険者だ、お前達には、義務も責任も無い。
自由を語る資格など無い」
最初から怒っていたようだったのは、これか。
「女帝様は、とんだお嬢ちゃんだったか」
「なに」
「自由がないだって。
十分に自由だったじゃないか。
奴隷の子として生まれれば、選ぶ権利さえない。
娼館で生まれた男児は、その日に死を迎える。
それに比べ、どれだけ自由だったか。
彼らの自由を奪っているのが、自分たち治世を行っている者だと、自覚していますか」
「無礼な。
そのような卑しい者と、私を比べるか」
重い一撃が入る。
「生まれに従えというのなら、皇帝の娘としてのさだめを受けいれるべきでは。
生まれの運命に縛られるなど、貴族ばかりではない」
「父は兄達ばかりを見ておられた。
望まれぬ私の気持ちなど、貴様に判るか」
女帝が一層早くなり。
良いのを食らうようになってきた。
だが俺は痛みより、彼女の言葉に反応してしまった。
「何が望まれずだ、十分に与えられていたでしょう。
食事に毒が入っているかもと恐怖した事が、明日は目が覚めぬかもと眠る夜が、有りましたか」
俺は有るぞ。
「親からは、期待もされず、生死さえ無関心。
貴方は望めば、近衛隊長から剣を教えられた。
十分、愛してもらっていたじゃないか。
嫌だったならば、逃げ出せば良かったでしょう」
「そんな事ができるか」
「皇帝は、裕福な生活を捨てられなかった、それだけだ。
皇帝の座を何故欲しがったのです。
みんなが羨ましがる場所だから、欲しかったのですか。
その席に付いたのなら、その責務を果たして下さい」
「やっておるわ」
かわしきれない、一度引いて距離を取った。
傷だらけの俺だが、声は出る。
「ならば聞きますが、この地で魔王軍が行っている事を知っていますか」
「なに?」
踏み込もうとしていた、女帝が止まる。
「魔物を操るための実験が、行われた事を」
果樹園の蜂は、ハバルで行う前に試したものだ。
「魔物の魔石は、帝国から持ち出されているものが元になっている。
そして『奴隷印』の指輪は、魔石と同じ技術が使われていた。
指輪の出どころは魔王軍だ」
攻撃をしてくる気配が、消えた。
「帝国に、魔物が出ないのは何故か。
そこには意図がある。
前の宰相が結んでいたのは、魔王軍」
「なに」
「俺は西の海岸で、魔王軍に協力する者たちが、この大陸にいるのを知った。
対価は力、協力者は魔法とは別の力を授けてもらっている。
地位、名誉、誇り。
そんな自分の欲望のため、人界を裏切る者がいたんだ。
魔王軍は、帝国中枢部を操り、何をしようとしていたのですか」
この世界を滅ぼすためなのは、間違いない。
そう考える見てみると、怪しい国が他にも有る。
「帝国で行われていた事ですよ、貴方はどうなさいます。
その目には魔王軍の影が、見えていましたか。
皇帝の座を守るため、力を欲して、魔王に下りますか」
しばらくの沈黙。
いきなりこんな話を聞かされても、混乱するだけか。
女帝から出た言葉は
「お前は何者だ」
答えにはなっていない、考える時間が欲しいだろうな。
俺は散々悩んだ、何者でもない、ただ
「俺の願いは、魔王を滅ぼす事」
何をすべきかは決まった。
いつの間にか、マラガちゃんのリュートが鳴っていた。
タビさんの声が大きいが、みんなも歌っている。
- 宝石の巨大なゴーレムに、1人で向かい -
(俺の歌か?)
[ヨガのサーガですね]
(恥ずかしいから、歌詞を聞こえなくしてくれ)
タビさん達の歌は『華の一撃』の歌を妨害しているらしく、女帝のマナ量が減っていた。
これなら、何とかなるかも。
でも、攻撃はあと一回が限界かな、この1回に全てを賭けるか。
ーーーーー
[起こしますね]
ん?
[限界を越えていたので、意識を強制的に遮断しました]
跳ね起きた、みんなどうなった。
「リーシェさん」
「ここにいるよ」
ベッドの横にリーシェさんがいた。
「私も、いるんだけど」
反対側にはキューさん。
清潔な部屋に寝ていたようだ、部屋の中に全員いる。
よかった。
他にメイドがいたが、出ていった。
「お前が目覚めたと、報告に行ったのだろう」とタビさん。
「どのくらい寝てました」
「お前が動かなくなって、すぐ女帝の勝利が宣言された。
ここに運ばれてすぐに目をさましたから、そんなに時間は経っていないぞ」
「女帝の勝利か。
みんなはどうなるの」
奴隷にすると言うなら、帝国が敵になる。
「『華の一撃』への参加はなくなった」
[あの場の女帝の言葉は、ヨガ以外に聞こえていません。
無かった事になっています。
元々ヨガを、本気にするための、ものだったのでしょう]
そっか〜。
力が抜けた。
ベッドに倒れ込む。
「2連敗か」
悔しいな。
「ベッドに横になっているヨガを、横で私が心配するの何回目だと思ってる。
自重してくれない」
この後、皇帝と謁見させられるらしい。
皇帝に有っても無礼にならない冒険者の服装というのを、きっちり用意してくれていた。
長い時間を待たされ、やっと謁見の間に通された。
広く長い謁見の間の両側と奥には、薄い膜が垂れ下がってる。
中に人がいる、身分の高い者は姿を見せないようにするのが、帝国のやり方のようだ。
一番奥に皇帝がいた。
俺たちは声が届くところまで、近づくことを許され。
膝を折り頭を下げ、礼を尽くす。
1人を除いて。
タビさんだ。
彼女も一国の女王、他国の皇帝に頭を下げるなどできないだろう。
まずい、今、気づいた。
「無礼者、頭を下げよ」
膜の前にいる男が、タビさんに怒鳴る。
「妾は冒険者だ、誰に頭を下げるかは自分で決める」
怒鳴り返す。
これはだめだな、もう一波乱起きてしまう。
つくづく帝国と相性悪いな。
何人かが前に出てきた、武人ではない。
大小8匹のサラマンダーがその前に現れた、精霊使いか。
誰も動こうとしない。
サラマンダー8匹では、キューさんの防壁を破れるとは思えないし。
リーシェさんのイフリートなら、サラマンダーなんて一気に吹き飛ばせてしまう。
この状態では、身に危険を感じないよな。
「止めぬか。
帝国を滅ぼすつもりか」
横から声が出た。
そして膜が開き、車椅子に乗った、初老の男性が出てきた。
ざわざわとする、声を拾ってみると「前帝」と言っている。
この人が、前の皇帝か。
「お久しぶりです、タビ殿。
お変わり有りませんね」
「ガイホルンお前もな」
「私は、変わり果てましたが」
タビさんと、前帝知り合いだったの。
先に教えておいて下さい。
「みなさんも楽に。
それで良いな」
奥の皇帝に、許可を強要した。
まだ前帝には力がある。
「ガイホルン前皇帝陛下、このタビというものを知っておられるのですか」
幕前の男が確認する。
ここで口が開けるなら、今の宰相かな。
「昔会ったことがある。
彼女は、部屋の中で一番強いぞ。
謁見の間にいる全ての兵でも、彼女には勝てない」
「一番強いのは、こいつだ」
とピノを指差す。
「私達では、勝敗がつかないと思いますが」
ピノの言う通りだ、共に"死"がない、勝敗はつかないじゃないか。
「お前の拳は妾に届くが、妾の拳はお前には届かん。
その差だ」
「闘技場にその男が出てきたのは、我らを見下しての事か」
奥から、皇帝まで出てきてしまった。
手加減されと思い、侮辱されたと感じたようだ。
「戦う相手を指名したのは『華の一撃』だったが。
城壁をも吹き飛ばす『一撃のケイト』が相手なら、お前の腰から上がなくなっていた。
『精霊の王女リーシェ』がイフリートとジンを呼びだせば、この街が灰になる。
『鉄壁の乙女キュー』が雷の雨を降らせても同じ。
妾とピノには、お前の攻撃が一切効かぬ。
ヨガ以外は、試合にならない」
「その男が一番弱いというのか」
「それは違うぞ。
試合が出来るのが、ヨガだけだと言ったのだ。
ヨガが、闘技場が壊れてもいい、歌い手や観客がどうなってよいとしていたならどうなっていたか」
女帝の顔が、青白く変わった。
そんな事、俺がやるわけない。
前帝が俺を向き。
「魔王を倒すと、言ったそうだな。
大層な事を口にするな」
誰に聞いた、女帝が言うとも思えないし。
聞こえる範囲には、誰もいなかったと思うぞ。
「新たな主人を見つけたので、私に捧げた剣を返してくれと、律儀に手紙をくれた友人がいてな。
会ってみたくなって、ここに来た」
グメムゼガさんか。
「ミフォラレェーズ、お前はこの男をどうする」
前帝は、奥に問いかけた。
「帝国に向けた、数々の無礼の数々」
「そんな小さな事はどうでもよい」
前帝は女帝の返答を、その数倍の声で遮った。
「人の国を治める者として、どうするか聞いているのだ。
お前の野心が、帝国には必要だと思い、好きにさせていた。
だがその野心のため、選択を誤るようであれば、お前を廃し再び私が皇帝の地位につく」
この人は、立てなくなったくらいで、退位する人じゃない。
娘にその席をゆずったんだ。
周りにいる貴族から喜んでいる気配が伝わってきた。
「前帝、至らぬミフォラレェーズへの、ご指導をお願いできませぬか」
頭を下げた。
前皇帝と現皇帝との権力闘争なんて起きたなら、国が荒れる。
最善の選択だ。
「それで良い。
我が帝国は、ヨガそして『閃光3』を友として、出来る限りの協力をする」
「「は」」
膜のなかから声が上がる。
この日、俺たちは帝国の賓客となった。
何とか休日で書けたので、上げます。
少しでも、読んでいただいた人の、気晴らしになれば嬉しいです




