5-8.歌姫
前回あらすじ:稚魚は卵が地面に落ちる前に生まれます。
リスルールさん、たしか北の歌姫と讃えられる、歌い手だ。
しかも8つ星パーティーの冒険者でも、有ったはずだ。
彼女の護衛は、本人からの依頼だった。
「6日後に、帝都に向かいます。
その時の護衛を、あなた方に依頼したいのです」
8つ星なら護衛なんて、いらないだろう。
「よろしく頼みますね。
こうしてお会いしたのも縁、夕食へご招待したいのですが、おいでくださいますか。
後で迎えをうかがわせますので、では」
それだけ言うと用事は済んだと、さっさと馬車に乗り込んで行ってしまう。
依頼を受けるとは言っていないのだが。
「彼女は妾をパーティ・リーダーと思ったようじゃな。
やはりこの隠しきれぬ気品のせいか」
タビさんは機嫌が良い。
リスルールさん、タビさんに向かって話していた。
一応先頭にいたんだけど、俺など目に入らなかったようだ。
「彼女、タビさんにしか興味が無かったんです」
ケイトさんが詳しい事情を、知っているようだ。
「実は元々の私達への指名依頼は、帝都までの荷の護送で、依頼人はヒョコシルさんだったんです」
「ヒョコシルさんが、俺達を指名。
なんで」
「わかれる時、帝都におこしください、と言われていたけど。
私達は帝都によらず、東に行こうとしてますよね」
「しかたないじゃないか。
帝都行ったら、遠回りになってしまう」
帝都はもっと北、大陸の端だ。
「そうなるのをヒョコシルさんは予想して、指名依頼したみたいです。
良い報酬を、提示してくれていました。
店を取り戻したのではないでしょうか」
「出来る商人だね」とキューさん。
ヒョコシルさんが出来る商人なのはいいけど。
「でも今の依頼主は、リスルールさんなんですよね。
依頼内容まで変わっている」
リーシェさんの言う通りだ、なんでそうなったんだ。
「リスルールさん達『華の一撃』のメンバーは、国内を定期的に回って、歌を歌っているそうで。
この街に来たのも、それが理由」
変わった冒険者だな。
「ヒョコシルさんが出した指名依頼で、『緑指の弾き手』と『奇跡の声持つ狐耳』がこの街にいると噂になってしまったんです。
「耳より、このフサフサの尻尾を言って欲しいのじゃがな」
タビさんそう言いながら、自慢だと言う尻尾をなでた。
「もう緑でなくなっているのに」
マラガちゃんは両手を広げて俺に見せてきた。
かなり緑色は落ちている。
「リスルールさんも冒険者です、ギルドでその噂を耳にしたようです。
2人を、帝都に連れて行きたいと考えたみたいですね。
彼女、立場を利用して依頼に割り込んだみたいなんですが。
ヒョコシルさんとしては、私達が帝都に行けばいいんで、自分の依頼は取り下げたみたいです」
「詳しいな、あの女は自分の事をペラペラ言いふらす感じはしなかったが」
「支配人が教えてくれた」
「「支配人?」」
「彼女の所属しているパーティ『華の一撃』は、全員が歌い手で。
帝都には、彼女たち専用の劇場が有るそうです。
支配人はそこの責任者。
予定を管理する仕事もしてるみたい。
ヨガ達と入れ違いに、帝都に戻ったのですが、色々と教えてくれましたよ」
「わがままお嬢様を、押し付けられたな。
でケイトよ、他にも何か有っただろう。
お前は、何かを隠しているよな」
え!
「お前は隠し事が下手だ、ヨガといい勝負だぞ」
「そんなにひどいの」
ケイトさんそのがっかり感はどうして。
そして、後ろで笑ってるのはリーシェさんとキューだよね。
「支配人も元冒険者で、駆け出しのころハバルで母さんに有った事が有るんだって。
私が娘だと知って驚いていたわ。
母さんの話が聞けて、嬉しかったのよ」
ケイトさんは、直接母さんを知らないからな。
話だけでも嬉しいかも。
「それで、帝都までのリスルールさんの護衛。
受ける、受けない、どっち」とキューさん。
「私は受けてもいいと思う」
リーシェさんが、珍しくヨガに従うじゃない。
俺、何かしたか。
「急いでアコール神聖国に行っても、教会の協力が得られる保証はまるでない。
そもそも、教会の上の人に会えるとも思えないし。
どうするのが一番良いのか、考える時間が欲しいと思っていたから。
遠回りもいいかなと」
「リーシェに賛成じゃ」
「それがいいと思う」
「観光したい、レル牛のパイ包〜」
みんなリーシェさんの意見に賛成なようだ、回り道が決定した。
ーーーーー
夕食に招待された場所は、超高級料理を出すところ。
普段なら、お金をもらっても来たくない。
美味しいと思えなかった、食卓を思い出す。
彼女の簡単な挨拶の後、食事が始まった。
メニューは軽めのものになっていた、会話を目的とした食事だということだ。
そして、このような食事はマナーが面倒くさい。
俺やキューさんは、一応は貴族の出だ。
幼い時に、マナーは叩き込まれている。
タビさんは長年の経験、ケイトさんには蓄積された知識がある。
ピノも問題がない。
(リーシェさんが戸惑っていないのは、ビチュレイリワが教えてるから)
[私がサポートしています。
しかし、冒険者をこんな場所に招待するなんて、彼女よい趣味ではないですね]
全員が正しいマナーで食事しているので、リスルールさん驚いている。
そして、悔しがっているようにも見えるのは、気のせいか。
「お口に会いますか。
緑の指の小さな子も連れてきてよかったのに」
いきなり増えたら、料理人が困ると思う。
それに小さい子が、マナーに精通してないのを判っていて言っている。
たかが冒険者相手に、どうして優越感が欲しいんだろう。
「『緑指の弾き手』はタビ殿の歌と組んで演奏をしているとか、一度聞いてみたいですね」
「興が乗った時に、適当に歌っているだけだ。
聞かせるようなものじゃない」
「ご謙遜を、お二人の噂は帝都にも聞こえています。
『華の一撃』にも劣らないと」
彼女が気になっていたのは、それか!
(帝都で噂になってるの?)
[噂になっていると言うよりも。
噂を広げられているんですよ、ヒョコシルさんによって]
(なんでだ)
[彼なりの、礼でしょうか。
良かれと思って、話を広げています。
私も知っています、ヨガのサーガーを歌いましょうか]
(止めてくれ)
「どうです、いっそ『華の一撃』に入りませんか。
歓迎しますよ。
帝都の劇場で一緒に歌うたいましょう」
堂々と勧誘かよ。
「ははは・・・
面白いなお前、パーティ・リーダーの前でそれを言うか」
「このような男は、そうそうに見限ったほうがよいですよ」
「ヨガが何かしましたか」
リーシェさん俺を睨む。
してないはず、記憶にない。
「こんな美女をはべらせた男に、ろくな奴はいない」
リーシェさんの厳しい顔が緩んだが、今度はケイトさんとキューさんが笑い出した。
「ヨガは、リスルールさんの思っているような男では無いですよ。
そうだったら子作りが、どんなに楽か。
『閃光3』もハーレムパーティでも有りませんしね」
「未亡人のタビさん以外、全員ユニコーンに乗れますよ」
「じゃどうして彼と一緒にいるんですか」
リスルールさん、どうしてそんな驚いた顔をしているんです。
「なんとなくそうなったんですよ」
なんとなく流れで、こうなっているだけだ。
「私は、ヨガに助けられた。
仲間になってくれることで、助けてくれたんです。
それ以来、一緒にいるのが普通です」
ハバルから出るために、パーティ組んだったよね。
「私は、小さかった頃からの夢をひきずっていて。
無理だと判っているのに、心地よくてずーっと夢見てた。
ヨガは、そこから抜け出すキッカケになってくれた。
家を出たのは、変な親父の妻になるのが嫌だったからだけど」
キューさん貴族としては適齢期を過ぎている、あのまま残っていれば多くの縁談が持ち込まれたか。
でもキッカケってなんだ。
「自分の使命のために、ヨガに協力して欲しいことがある」
子作り以外なら、喜んで協力するんだけど。
「私はヨガのために存在してますから」
ピノ言葉を選べ、お前わざとやってるだろう。
「妾も悲願を叶えるためだ。
それぞれ理由は違うが、全員がこいつといる事を自分で選んでいる。
結局は、一緒にいたいから、一緒にいるんだがな」
なんだこれ、すごく恥ずかしい。
「これだから、ハーレムパーティーは!
愛の告白か、私は何を見せられている。
お前達は真実が見えなくなっている。
いくら熱くとも、その思いはいずれ消えてしまう。
それまでの長い時を無駄にしてしまうぞ」
「ずいぶんな言いようだな。
何があった?」
こう無遠慮に聞けるのが、タビさんだ。
リスルールさん思わぬ反撃に、口撃が止まった、と思ったら。
「女帝ミフォラレェーズ様に救って頂く前、私は『最後の一撃』と言うパーティーにいた。
男2に女性4のパーティーだった。
当時の私は、愚かにもその1人に恋をしていたのだ。
目が覚めたのは、男2人がパーティーを抜けなければならなくなった時だ。
彼は、他のメンバーにプロポーズして、一緒に冒険者を辞めてしまったのさ。
彼女は友人だと思っていたのに」
もしかしたらリスルールさん、その男の人とそれなりの関係が有ったのかな。
「男が二股をかけておったか。
2人の仲をお前が知らずにいて、それを言えなかったとか。
どちらにしても、よく聞く話だな」
「お前に何が判る」
「何もわからん。
それはお前も同じだろう、世間を何も知らぬ。
世の中を決めつけて見ている、愚かなことだ。
お前に見えている妾達の姿も、事実とは別のものじゃ」
俺達は普通じゃないから、出来るはずがないと思うけど。
話を聞くと、男性は女帝の命でパーティーを抜けさせられたようだ。
女帝も男性嫌いか。
政略結婚が嫌で、帝位を簒奪したと噂だものな。
「抜けた男性に爵位が与えられていたら、リスルールさんはどうしてた」
とキューさん。
でも、パーティーの対価としては爵位はありえないと思う。
話が飛躍すぎだと思う。
「どうしたとは?」
「爵位があると、2人目の妻が許される。
位が上がれば、その数も増えて、公爵や王なら4人と言うのが普通かな。
カリギュナーなら冒険者が貴族になれる道も有る。
ラーディでは、そんな3人がクランに入っている、気づいて誰も何も言わないけど」
そうなのか。
「ヨガ、今知ったって顔しない。
遠征帰りの中にも、2人目の妻になった人がいたよ」
今、知ったよ。
複数の妻が許されるのは、政略結婚のためだと思っていたよ。
「バカな女を、はべらして喜んでいる男はどこにでもいる。
私に、その中に入れば良かったとでも、言うのか。
さすがハーレムパーティーにいる女の言うことだな」
論外にキューさんを、バカな女と言っている、不愉快だな。
「愛人や恋人とは違うぞ、妻という対等な立場だ。
当人同士では順列はあるだろうが、対外的には同じく愛し愛されていると言っている」
「ばかばかしい。
タビ殿、貴方も同じ考えなのか」
「妾の夫はもう十分じゃ。
そもそもヨガを男としてなど見てはおらぬ、面白いと思っているがな。
行く先を見てみたいから、一緒にもいる」
リスルールさんは終始、機嫌が悪かった。
俺達とは相性が悪い。
その後機嫌がよくなったのは、メインに出てきたフルス鳥の姿焼きを、タビさんが手づかみで貪った時だ、勝ち誇った笑みが出た。
これは、タビさんが悪い。
最後に
「今日は、ありがとうございました。
明日、街の中央広場で私が歌います。
見に来てください」
と言って席を立った。
食後の談笑はしなくていいようだ、俺達もすぐに席を立つ。
見送りには料理人が並んでいた。
やはり俺達を招いた、リスルールさんはすでに帰っていた。
「この招待は、なんだったのでしょうね」
「妾の品定めじゃろうな。
『華の一撃』への勧誘も、まんざら嘘ではあるまい」
結果はどうだったんだろう。
ーーーーー
翌日の中央広場近くは、人で溢れかえっていた。
もともと街の広場というのは、街が襲われた時に守備兵を集めておく場所になる。
そのためにもかなりの広さがあるが、今はその広場に入れない、それどころか近づけもしない。
「すごい人だな、ここまで彼女の声が届くとは思えない」
「広場も見えないよ」
俺の肩に載って、頭2つ高いマラガちゃんでも見えないのか。
「はぐれそうね」
「人を見に来ただけだね。
私も戻ればよかったな」
この人の数を見て、タビさん、ケイトさん、ピノが戻ってしまっている。
俺の認識能力でも人が多すぎる、処理しきれないので今は使っていない。
一斉に大きな歓声が上がった。
[彼女が出てきました]
ビチュレイリワがそう言った瞬間に、広場の様子が見えた。
近くの木の上からの視界だ。
リーシェさん、キューさんにも伝えてる。
リスルールさんが両手を広げると、静かになる。
その静寂が自分の所まで来た時、歌い始まった。
よく通る声だ。
ここまでしっかりと聞こえてきた。
歌は徐々に熱を帯びてくる、それに応じて観客も熱を帯びる。
一線を越えた時、全員が歌い出した。
彼女は数曲を観客と一緒に歌う。
1曲が終わった後には
「帝国万歳」や「皇帝ミフォラレェーズ様に忠誠を」の声が上がる。
彼女の歌っている歌は、帝国や女帝を称えるものばかりだ。
女帝が『華の一撃』に、何をさせているのかが判った。
『華の一撃』が8つ星なのかも。
帝国が彼女たちの力を使っている。
それは、リスルールさんの歌が呪歌な理由だ。
感想や誤字、指摘をいただけると嬉しいです。




