5-5.これ以上、増えるのは困ります
前回あらすじ:小物らしい小物、それがヒメネス。
屋敷を出ると、外でピノとタビさんが待っていた。
「どこ逃げたか判る?」
「領主様の所。
行き先叫んでるから、間違いない」とピノ。
ビチュレイリワが追跡している。
「領主様ってどんな人か判る。
果樹園の件を聞く分では、無能ではないと思うんだけど」
「普通に貴族だと思う。
ヒメネスからお金も受け取ってたし」
賄賂か。
その関係を使うため、領主様へ行ったのか、馬鹿だな。
「普通の貴族なら、自分に利益をもたらす奴しか相手にしないよな」
「そう思いますよ」
「タビさん、マラガをお願いします」
「いいが、お前はどうするのじゃ。
領主の所へ乗り込むのか」
まさか。
「あの屋敷に、忘れ物があるんで戻ります」
屋敷の中を見てみると、大人が4人地下にいた。
このままでは、死んでしまうかもしれない、一応助けてあげないと。
犯罪奴隷と言う事もあるので、様子は見るけど。
さっきの部屋に戻り、指輪を拾い。
地下に急ぐ。
地下には牢があり、2人の女性と3人の男性がいた。
自分の足元においといていたんだ、特別な商品なんだろう。
女性2人は、一目で特別な商品だと言う事が、理解できた。
ものすごく綺麗な人達だ。
そして、大きな体の年配の男性。
その風貌から、かなり強かったという事は判る。
ただ、今は片足の膝から下が無い。
もう一人の男性は、戦いを生業にはしていない。
痩せた中年だ、高かっただろう服を着ている。
でも、貴族という雰囲気はない。
全員、牢の中で横になっている。
疲れ果てて、生気をまるで感じない。
「鍵を開けたぞ。
屋敷の主は出てった。
このまま、ここにいると餓死してしまう、逃げろ」
出るように、促すが誰も出てこない。
「どうした、このまま死んで良いのか」
「もう、死んでいるも同じだ」
大きな男が返事をした。
彼はまだ返事をする、力が残っていたようだ。
「これを見ろ」
男は自分の首を指差す。
「黒い『奴隷印』を押されている。
どこにも逃げられん」
『奴隷印』は色により、その効果が違う。
借金奴隷は金額で、犯罪奴隷は罪の重さで、その色が決まる。
黒は開放されない、一生奴隷の者に使われる『印』だ。
「犯罪者か?」
「私は、何もしていないわ」
隣の女性が叫び出した。
「村でちょっと失敗して、お金が必要になったの。
いい仕事を紹介するって呼び出されて、いきなり奴隷に落とされたのよ。
役人もいない所でいきなり黒よ、何でそんな事出来るの!」
あの部屋の中なら、可能だな。
「全員、ヒメネスにはめられたんだ。
誰も犯罪なんて犯していない」
男の言うことは、たぶん本当だな。
「これを見ろよ」
と『奴隷印』の指輪を取り出して見せた。
「それが。
俺達に刻まれているのは、黒なんだぞ」
黒の『奴隷印』は、一生解除できない。
普通ならね。
指輪を見た時、あるものに似ていると思った。
だから、ビチュレイリワに調べてもらっていた。
飲み込もうかと提案したら、握っていればいいと言われた、良かった。
調べは終わっている。
指輪を使わなければ、『奴隷印』の魔法は発動できない。
人が持っているマナでは、足りないからだ。
足りないマナを指輪から補い、魔法を完成させている。
そしてその指輪のマナは、魔石のマナに似ていた。
なら、そのマナを変えてしまえばどうなるのか。
[ヨガの想像通り、『奴隷印』の魔法を逆に発動可能です]
となった。
指にはめて、彼らに向ける。
女性は一瞬身構え、男は今更という感じだ。
「悪趣味だな」と男が言う。
「趣味じゃない。
『奴隷印』は刻まれる時は苦しむと聞いたんだが、無くなる時は気づかないのか」
「なに!」
「『奴隷印』を消した。
確認してくれ」
首の紋様は自分では見えない、男は慌てて隣の牢に近づき
「おい、本当に俺の首に『奴隷印』が無くなってるのか見てくれ」
「無い、無いよ。
私は?」
「無い。
お前の首には、何もない」
二人の声に、他の二人も動き出す。
「わ、私の・」
「無い」
四人とも牢の外に出て、お互いの首を確かめあっている。
いきなり痩せた男が、土下座した
「助けていただきまして、ありがとうございます。
私、ジュア・ニフス国で商いを行っている、ヒョコシルと言う者です。
もう駄目だと思っていました、救っていただいた御恩、一生わすれません」
それを見た三人も真似る。
周りの四人が土下座して、俺を崇めている格好だ。
勘違いしそうだな。
「気にしないでください」
「そんなわけには行かない。
だが、このグメムゼガ、すでに何も持たぬ身。
恩を返すため、貴方に仕えさせてもらえないだろうか」
男が名乗った時、他の3人が驚いていた。
有名人か?
(彼を知ってる?)
[ヨガが入国する前、この国には探査ユニットは21体しかありませんでした。
その半分が帝都で活動していました。
あんな小物の屋敷なんて、調べていません]
ヒメネスが、小物なのは同意するよ。
「そんなつもりで助けたわけではないので、おやめください。
グメムゼガ殿とおっしゃいましたか、ご身分のある方と思われますが、何故こんな所に」
「ただの、老人さ」
と応えるが
「いえいえ、グメムゼガ殿は元近衛隊長。
帝都では、誰もが知っている有名なかたです」
「6年も昔の話だ。
政治の争いに巻き込まれ、近衛隊をやめるはめになった。
それでも許してもらえず、ここまで落とされてしまったがな」
ポンと無くなった足を叩く。
「もう十分だ。
あの奴隷商の男はぶん殴りたいが。
俺をこうした奴らは勝手にやってくれと思う、関わり合いたくもない」
彼の目には怒りは見えない、本気なのだろう。
「外で仲間が待っています。
あんまり遅いと心配するので、出ますよ」
俺への恩返しなんていらない、話を切った。
グメムゼガさんに肩をかそうとしたら、女性2人が先に助けに入った。
彼もまんざらでない顔をしたので、そのままお願いした。
途中あの部屋を通る。
この部屋の床に仕掛けがあり、空間があるのは判っていた。
開かないよう鍵が掛けてあったが、面倒なので切断した。
中には大きな袋が2つ、金貨が入っていた。
袋を抱えて出てゆくと。
「なんだ、ヨガ、泥棒か?
似合わんな」
そう見えるか、中身は金だし。
「違うよ」
盗んだんじゃない。
そうだ。
「手を出して」
「なんだ」
と言いながら、グメムゼガさんが手を出した。
その手に、金貨を一掴み。
「こ、これは」
「あの男の金、もらっておこう。
みんながされた事への対価には、ならないとは思うけど。
これから生きていくには、お金必要でしょ」
そう言いながらが、他の3人にも一掴み金を渡してゆく。
みんな戸惑っていたが、自分に必要なのは判っている、全員受け取ってくれた。
「残りは、どうするのじゃ。
全部、ネコババするつもりか」
「そんな事はしない。
ご領主様に届けるよ、この指輪と一緒にね」
「なるほど」
そう言って、走り出した。
すぐに、ヒメネスの馬車と、領主様の屋敷の位置が頭に浮かぶ。
[追いつけますね]
追い越す時に、こっそり馬車の車輪軸を折った。
この場所なら、引き返すのは面倒で、屋敷に着くのは早朝になる。
俺は屋敷に着くと、そのままご領主様の寝室に忍び込む。
ご領主様は、綺麗なご婦人と大きなベッドで寝ていた。
起こさないよう、近くのテーブルの上に、金の袋と指輪を置いてきた。
明日、彼らは助力を願うため、ここに来る。
その時、金を交渉に使う金が馬車に載っていた。
その10倍以上はある。
ここのご領主様は、馬鹿じゃない。
自分の寝室に、大量の金と、ヒメネスの指輪がある意味を理解するはずだ。
理解してくれなかったら、その時はその時だが。
俺が宿に戻ると、開放された人達も、同じ宿に部屋を取っていた。
リーシェさん達は寝ていたのが、タビさん達は待っていてくれた。
「眠れるわけがなかろう」
それもそうか。
グメムゼガさんたちが、借りた部屋に集まっている。
困ったことに、4人が床に正座して俺を出迎えた。
恩返しの話は終わっていなかった。
「ヨガ殿、助けていただきありがとうございます」
何度目かのお礼をされてしまう。
「もう、止めてくださいって。
行きがかりで、助けたのですから」
「そういう訳にはいきません。
ヒョコシルは商人でございます、無償で物をいただくなど出来ません。
それに自分の命は、それほど安くないと考えております」
商人らしい、考えだ。
そして良い人だ、いい商人なのだろう。
「私はジュア・ニフス国のペカジャル商会で働いております。
この国へは、当主様に支店を出すよう言われて、来ていました」
それが、なんであんな所に?
「嵌められたのです。
本国では、金を持って逃げた事になっているそうです。
商人として、これ以上の不名誉な事はございません」
ヒョコシルに、一瞬怒りが見えたが、すぐに温和な表情に戻り。
「一度、国に戻り、汚名をそそぎたいと考えております。
今は名誉が回復以外、何も望んではおりません。
国には多少の蓄えがございましたが、一度は手放した物です、全てヨガ殿に、お渡ししたいと考えております。
お受取りください」
と、また頭を下げた。
まて、まて、全部って、やりすぎだって!
「俺は、ヒョコシル殿と違い、この身以外何も持っていない。
ヨガ殿に仕えたいと思っている」
「私達もお側においてください。
身の回りの事を、お世話させてください」
グメムゼガさんの言葉に合わせて、美女2人は、とんでもない事を言う。
「美人に身の回りをさせるとは、まるで貴族じゃな。
お前達の申し出は、普通の男なら嬉しいものだろうが。
このヨガ、我ら5人をはべらせておきながら、誰にも手を出さぬヘタレだぞ。
止めておけ」
笑いながらタビさん、言いたいほうだいだな。
「俺は冒険者で、旅をしています。
皆さんを連れての、移動はできません。
申し訳ありませんが、仕えるとかは止めてください」
冒険者に仕えるだなんて、何を考えているんだ。
「ヒョコシル殿も全てだなんて、やめてください、受け取れるはずがないでしょう。
それに今、少し面倒な事をしようと考えています。
皆さんを巻き込みたくはありません、ここで分かれて終わりにしましょう」
「その、面倒な事を、手伝わせてはもらえぬか」
とグメムゼガさん、食い下がる。
「タビさんに止められて、どうするかも考え中なんです。
やらないかもしれません。
手伝いもお願いできる状況じゃありません」
やりたいが、リーシェさん達を巻き込みたくない。
無論、彼らもだ。
その覚悟は俺には無い。
「ならば、商人として、尽力させていただきます。
その面倒な事をなされると決めた時、金、物、人、全てを必要な分ご用意できるよう準備いたします。
また、旅をしているためグメムゼガ殿達のご同行が難しい事も、理解いたしました。
ですが、このまま分かれる事もグメムゼガ殿達はよしとしないでしょう。
私の元へ、おいでになりませんか。
ヨガ殿が力を必要とした時に、お助けできるように。
それで、よろしいでしょうか」
ヒョコシルさんは、グメムゼガさん達と話を進める。
「よろしく頼む」
「では、まず私と一緒に帝都に、行っていただきます。
奴隷を開放された、今の身では国は越えられません。
必要なものを用意します」
なんか、勝手に決まってしまっている。
まあいいか、俺の手間が増える話ではない。
もしかしたら、本当にお願いする事が出てくるかも知れない。
「私を弟子にしてください」
今度は、マラガちゃんがタビさんに土下座だ。
流行ってるのか?
「タビさんの歌、ぜひとも覚えたいのです」
そっちか。
だが、どうかな。
「妾は長寿種じゃ。
エルフの血も入っておらぬ、お前では、時間がたりん」
あの歌は長年の経験が積み重なったものだ、そう簡単にマネできるものではない。
「そんな〜」
マラガちゃんはがっかり顔。
「でも、一緒に連れて行ってください、お願いします。
覚えます、私の覚えられる限り」
すぐに立ち直った、若い。
「これでも私も冒険者です、自分の事は自分で出来ます。
旅に連れて行ってください」
態勢をずらして、今度は俺にも言っている。
「それに奴隷になったも同然でした。
それを救っていただいたのです。
この身はすでに、ヨガさんのものです」
「いらねーーー」
冗談じゃない。
「そんな事言うと、ヨガが炭になるから止めて上げて」とピノ。
物騒な事を。
「何でじゃ」
「こんな女の子を、寝室になんて入れたら、彼女が黙ってません。
彼女は、サラマンダーの炎ごときでは、ヨガが死なない事は知っています」
「イフリートではないのか」
「多分。
そこまでの無茶はしないでしょう、乙女ですから」
そこの2人、勝手な事言うな。
誤字・脱字のご指摘や、感想をいただけると嬉しいです




