5-4.自由騎士の詩
前回あらすじ:タビさん、言ちゃいました。
「な、何を言い出す」
「ヨガ。
お主のやろうとしている事は、覚悟がなく成し遂げられるものなのか」
「俺は、たまたまビチュレイリワと会って、彼女が魔王を倒せる力を持っていると知っただけだ。
力を使ってもらうための、条件がなんとかなりそうだから、やっているだけで」
自分でも、声が小さくなっていくのがわかる。
「道で拾った剣が、魔王を討てる聖剣だった。
だから魔王に剣を突き立てると言うのか?」
そうは、言わないが。
「聖剣を振るうのは、ヨガだぞ。
誰に頼まれたわけではない」
「俺は」
そんな、深くは考えていなかった
「教会の上の人に話せば、後はやってもらえると思っているのか」
「ビチュレイリワの話をする事は、禁止します。
それで理解してもらえるでしょうか?
ヨガ以外に実行できる者はいないと、考えますが」
「あの男が出てくるぞ、これは妾のカンじゃ。
次の敗北はお主だけですまぬ、あの空っぽの男はリーシェやキューもためらわず剣を振るうぞ」
聖騎士か、教会の力を借りようとしているのだ、十分考えられるな。
そして何故か、良い事にはならない確信はある。
「覚悟もないのだろう。
彼女達が大事なら、ここでやめろ。
年長者からの、ありがたい忠告じゃ」
「考えておきます」
「この弾き手、よい腕だな」
気分を変えるためか、タビさんが話を変えてくれた。
すこしホッとした。
店中に弦楽器の音が鳴っている、リュートかな?
音の出どころを探すと、あの少女が弾いている。
3本の指は緑のままだ。
いずれ元の色に戻るとリーシェさんが言っていた、その指が激しく弦を弾いている。
俺を見つけると寄ってきて、ぺこりと頭を下げる。
「私マラガって言います。
あの時は、ありがとうございました。
また、こうして弾く事が出来ます」
冒険者よりこっちが本職か、少女は笑顔で、手を広げて見せてくれた。
その笑顔が嬉しい。
彼女の持っていた帽子に投げ銭を入れると
「こんなにダメです。
もらいすぎです」
銀貨はダメなのか、でも一度渡したものだし、戻すのは格好がつかない。
「なら、一曲伴奏を頼もう。
自由騎士の詩をしっているか?」とタビさん。
「すいません、知りません」
「なら、冒険者の帰還は」
「それなら知っています」
「それを頼む」
少女のリュートに合わせ、タビさんが歌い出す
冒険者の帰還、よく知られているが、あまり歌われてない。
陽気な歌じゃないから、酒場での馬鹿騒ぎには向かない。
"視界は血で覆われ、赤い"
"膝が崩れ、剣で支え立っている”
歌は絶望的な状況から始まる。
よく通る歌声だ、一瞬で酒場の喧騒が消えた。
店内の者が全員、タビさんの歌声に耳を向けた。
”今、ここに生きている"
"俺の叫び声が、聞こえていないか”
(この歌声に魔力は無いよね?)
呪歌という、魔力のある歌い方がある。
でも、これは違うと思う。
[単純に、タビさんの歌の力ですね]
"戻っても、冷たい寝床がまっているだけ"
"明るい声は、あの部屋にはない"
歌の冒険者には、家族はいない。
そして実際の冒険者も、大抵は1人だ。
ここにいる冒険者も、ほとんどがそうだろう。
自分の身に置き換えて、聞き始めている。
"友は無事、逃げおおせたか"
冒険者が戦っているのは、仲間を逃がすためだと歌っている。
彼は残ったのだ。
ベテランの冒険者達は、目をつぶり過去を思い出している。
よく聞く話だ。
進む事も戻る事も難しくなったパーティーで、仲間を逃がすため、残る者がいる。
理由はそれぞれだ、怪我を負い逃げる邪魔になる者や、大切な人を逃がすため。
若者を逃がすため、ベテランが残るという事もある。
過去に逃がしてもらった経験のある冒険者が、『次は自分』と言っていたのを聞いた事もある。
"今はまだ、立ち上がる足がある"
"振り上げる武器がある”
多くの冒険者が、タビさんの声に、重ねて小さく歌い始めた。
決して大きな声にはなっていないが、店全体で歌っている。
"自分の意思で立上がれ"
そして、最後の歌詞。
"我は、『自由騎士』"
え!
冒険者達の歌が止まる。
歌詞が違う、そこは『冒険者』だ!
"大地を走り、剣を振るう”
"我は、『自由騎士』"
歌い終わった。
拍手は無い。
「おい、お前なんだその歌は。
違うだろうが。
いい気持ちで聞いてたら、一番いいとこで何やらかしてくれるんだ」
近くにいた冒険者が立ち上がって、タビさんに怒鳴り込んできた。
「間違えていない。
この歌は本来『自由騎士の詩』じゃ。
先の魔王大戦時、国を失った騎士達が、王命もなく自らの意思で魔王討伐に加わった。
その存在が、魔王軍を追い払う大きな力となる。
人々は彼らを『自由騎士』と呼んだ。
勇者ミハイロファンは、その存在を必要な力と考え、国を超え組織化した。
大陸を自由に移動し、自分の理由で武器を使う。
それが『冒険者』の始まりじゃ。
お主らは本来、自由な『騎士』、自らの意思で移動し、武器を振るう。
その名と精神を忘れてはならん」
そう言うと、少女に微笑んだ。
彼女のいたカンパニーに、『騎士』を名乗る資格のある者はいない。
「俺達が『自由騎士』?」
「国に仕えず、騎士を名乗る事はいかがという横槍で、『騎士』とは名乗れなくなったがな。
明日ギルドに行って、ホコリをかぶっている、冒険者ギルドの憲章でも読んでみよ。
『自由騎士』の意思を受け継いで、と有るはずじゃ」
「良い演奏だった」
怒鳴り込んできた冒険者がそう言いながら、少女に小銭を渡してゆく。
周りで聞いていた冒険者の顔にも、誇りが生まれている。
短い間かもしれないが、美味い酒になっただろう。
軽い食べ物を追加して、少女に食べさせた。
遠慮なく貪りついている。
「毎日、このくらい稼げれば、借金もすぐに返せるのにな」
食べ物を口に入れながら、ボソリと言った。
「借金があるのか」
「あるさ、元々は父さんのだけど。
両親は旅をしていたんだ。
父さん吟遊詩人で、このリュートは形見。
母さんは踊り子だったんだけど、ここで私を生んで死んじゃった。
父さんが2年前に死んだ時、借金が有るって言われて、今払うの必死なんだよ」
その歳で、結構な状況だな。
「いくら返せばいいんだ?」
「借りてたのは金貨6枚分なんだけど、残りどのくらいあるんだろ」
おいおい。
ずいぶんのんびりしてるな。
ピノが
「ヨガ、彼女は可愛いと思いませんか」
「思うよ」
少女が照れる。
「もう少し、大きく成れば綺麗になって。
男性が好む容姿になりますよ」
「そうだろうな」
「プッ」
少女が笑った。
「お兄ちゃん、育ちいいでしょう。
私は売られる前に、どうにかしたいんだけどね」
売られる!
この子が?
「貸した相手は、すでにこの子から、得られるお金を考えてると思います。
返せない額にしてるでしょうね」
「そんな馬鹿な」
「この地では約束が簡単に破られてるのを、何度も見ています。
そんな輩は契約書さえ交わそうとしません。
彼女には、証明する方法も無いのでは」
何故、ピノの方が世の中を知ってるんだよ。
そのピノの言葉で、マラガの顔が曇る。
ーーーーー
「マラガの借金を、あんたが払うって言うのか」
マラガと一緒に、金貸しの屋敷に来た。
屋敷と言っても、それほど大きくはない。
屋敷の主は、ヒメネスと言って、口ひげのある紳士だった。
笑顔だが、一目見て感じたのは、信用しちゃいけない男だ。
もっとも指に『奴隷印』の指輪をしている時点で、どんな男かは判っている。
俺と少女だけが、通された。
ピノとタビさんは外にいる。
窓の無い部屋にいるのは、真ん中に俺とマラガ。
正面にヒメネスと護衛が1人、そして後ろの入り口にもう1人の護衛。
剣は入り口の男に渡してある。
「いくら払えばいいんだ?」
さっさと済ませたい。
「そうだな」
何かの書類を見ながら
「金貨52枚になりますかね」
舌打ちが出た、取り過ぎだろう。
「えっと、すいません352枚の間違いでした。
申し訳ありません」
払おうと動いた瞬間に、金額が上がった。
「俺が出せると思って、値を上げたのか?」
「まさか、そんな事はしませんよ」
面白がっている。
「おやめになりますか?
残念ですね」
持っていた書類を置いて、こっちに近づいてきた。
「マラガ、借りた金は返そうな。
今夜、お前を指定してきた客がいる、そいつの相手をしてもらうぞ」
「そんな、いきなり」
「うるさいよ。
いきなり、こんなのを連れてきたのは、そっちだろう」
「金を返しに来たんだが」
「そうかい、
じゃあ金貨500枚だ」
本当に楽しそうだ。
こいつの言っている事は全部ウソだろう、人をいたぶって楽しむタイプか。
マラガは、怯えて俺にすがりついて来る。
「俺から金を巻き上げるつもりだと思ったが、ちがうか。
ここから俺を無事に出す気が無いんだ」
「このヒメネス、舐められてたまま、黙っている男じゃないんでね。
良いことを教えてやろう。
最近うちの店で雇ってる人が増えたんだよ、なんでも所属していたカンパニーが潰れたらしい。
なんでも殺りたいやつがいると言ってたぞ」
俺の前に来ると、手を広げる。
「動けないだろう、この部屋には仕掛けがあってね。
本来この指輪の効果には制約があるんだが、この部屋では無制限に力が振るえるんだよ。
お仲間も後で、ここに連れてくるさ。
いい女ばかり連れてて目立ってたからな、お前が来た最初から狙っていたさ」
おい。
「何を言ったか判っているのか。
お前は許さない」
「言うのは自由ですが、この部屋で魔法は、私の許可無く使えませんよ。
それに武器も持っていませんし、何が出来るんです」
指輪をした手を広げ、俺にかざす。
「さあ、私に屈しろ」
バンという爆発音と、奴の悲鳴があがった。
指が指輪と一緒に吹き飛んで、真っ赤な血をぶちまけている。
「何をした」
護衛の一人が、俺に叫ぶ。
主がいきなり倒れ、オロオロしている。
俺は後ろを指差し、その指先と次に主の後ろに移動した。
部屋の壁に穴が空いている。
「俺の仲間が、屋敷の外からそいつを射抜いた」
外にいても、俺との位置は正確に把握している。
ピノは、この屋敷の壁など簡単にぶち抜ける、光の矢が使える。
「屋敷の中がどうして、安全だと考えたんだ。
こんな薄い壁、無いと一緒だぞ」
「ふざけた事を」
と叫んだ男の首筋を何かが走った。
早すぎて見えない、通った振動と熱だけが感じられる。
それで十分だった、男の脅し文句が止まる。
「何だこれは!」
今度の叫び声は、奥に駆け込んだもう一人だ。
すぐに戻ってきて
「全員やられている
お前が、殺ったのか」
殺ってはいない。
全員生きている、気を失っているだけだ。
屋敷に入る前、液体なんとかの剣を糸のように伸ばし全員を刺した。
虫に刺されたようなものだが、俺と繋がっている、一瞬でマナを変質させた。
「この屋敷で、動けるのはお前たち3人だけだ」
「60人以上いたんだぞ。
何をした」
護衛の男が怒鳴るが。
「逃げるぞ」
ヒメネスは、すぐに逃げを選択した。
3人は慌てて外に飛び出してゆく。
「終わったよ」
とマラガちゃんに笑顔を向けるが、少女の表情は硬いままだ。
目の前で指を吹き飛ばしたのは、まずかったか。
作者文才も有りませんが、音楽の才能もありません...
あと過去のもの修正の必要があり、すこし修正したんですが
全部見直したほうがいいかも...話は変わりませんが見直します(予定)
言い回しとか、ブレてる性格とかの見直しです、読み直す必要は有りません




