5-2.代わりにやって
前回あらすじ:ヨガ君機嫌悪いです
俺を囲んだ3人の外側には、20人ほどで円が出来ている。
完全に囲まれた。
取り囲んでいる中から、男の1人が俺の前に出てきた。
「俺はカンパニー『漆黒の鉄槌』のリーダーをしているインピアーダと言うものだ。
うちの者が迷惑をかけたな。
金で手を打とうか?」
勝手な事を言ってくる。
暴れたくて絡んできたんだ、どうせ払えない額を要求する気だろう。
「ヤダね。
よけい、酒が不味くなる」
「じゃ仕方がないな」
インピアーダは嫌な笑い方をする。
「全力でやらせてもらうよ。
卑怯とは言わないよな、俺達にケンカうったんだから。
俺は負けて、負け癖がつくのが嫌なんだよ」
「じゃあ俺も負けられないな。
この前ボロ負けしたばかりだから」
そう言う俺に、嘲笑が起きた。
そうか、みんな俺の憂さ晴らしに付き合ってくれるのか、ありがたい。
「まあお互いがんばろうや」
そう言うと男が下がった。
戦闘開始の合図だ。
俺の後ろで酒を飲んでいた、客の頭が跳ね上がる。
反動で席から吹き飛んだ。
「なに、しやがる!」
「動きを封じる魔法をかけてただろう。
リーダーが出てきたのは、魔法が発動するまでの時間稼ぎだ」
俺は予備動作のないインパクトを打ち込んだ。
いきなり殴られて床に寝ている。
リーダーが全身を強化した。
やらせないよ。
加速しリーダーを横殴り、胸の骨が数本かいっただろう。
剣を返して、もう一振り。
手加減した今度は、酒場の壁に飛んでいって突き刺さった。
人相手にソニックブレードは使わない、切れないよう調整している。
俺の攻撃は、切らないで相手の骨を砕いている。
いくら囲んでいても、速度に差がある、意味がない。
奴ら戦力に差があると判ると、大きな盾を持ち出してきて、俺の前に並べ始めた。
この狭い店内を洞窟に見立てて、ダンジョン戦のマネごとを始めるらしい。
なら今度は切る、俺が盾をあっさり切り裂く。
何の抵抗もなく、大きな盾が持っている所を残し、バラバラになる。
次々と打倒している。
俺が入り口の前に立っているので、逃げることも出来ない。
最初にリーダーが倒されて、止める者がいないらしい。
『負けた』と止めれる部下を育てなかったのか、カンパニーの質がわかるな。
そう思っていると、止めが入った。
「そこまでだ!」
止めた男はカンパニーの紋章をしていない。
「私は、この街の衛兵だ。
これ以上の狼藉はゆるさない」
4人の男たちが、武器を手に近寄ってくる。
「衛兵様でしたか。
おさがわせして申し訳ありません。
でも皆さん、この騒ぎの最初から店内にいましたよね。
カンパニーの騒ぎは止めないで、俺は止めるんですか」
今、止めに入った4人は、俺が来る前からこの酒場で酒を飲んでいた。
同じ席には冒険者もいた、顔見知りだったのだろう。
「うるさい。
おとなしく私達に投降しろ」
「話を聞く気はないんですね」
しかたがない、来たばかりの帝国だが、出ていくか。
「おい、若いのあまりいじめてくれるな。
『漆黒の鉄槌』相手じゃ、衛兵の力じゃどうにもならなかったのさ。
ケテラーの旦那もよく考えてみてくれ。
旦那達が相手に出来なかった連中を1人で伸したんだそ、それこそ衛兵じゃどうにもならない。
そいつはまともそうだぞ、話はできるんじゃないか。
ここで暴れられるより、一言『注意』すれば格好もつくんじゃないか」
・
・
・
「お前、これ以上暴れる事は許さん。
判ったな」と憲兵。
「申し訳ありませんでした」
仲裁の男の顔を立てた。
その、中年のおっさんが握手を求めてきた。
握り返すと。
「俺はこの街の冒険者ギルドでギルド長をしているサットと言うもんだ。
お前冒険者だよな」
「はじめまして、俺は5つ星のヨガといいます。
ありがとうございます。
この国には入ったばかりで、何も知らなかったので」
「ヨガ?
聞いたことがあるな。
まあいいや、明日にでもギルドに顔を出してくれないか」
「ちょうど、明日行こうと思ってました」
パーティー登録に行こうと思っていた。
「そいつは良かった。
頼みたいことが出来てしまってな」
笑顔だが、目が笑ってない。
「本来、この床に寝てるやつらが、やる仕事だったんだ」
『漆黒の鉄槌』が受けていた仕事ができなくなった、その代わりをさせようと言うのか。
知らんぷりは出来そうにないな。
「ヨガ、大丈夫?」
慌てた様子で、リーシェさん達が来た。
「ピノがヨガが暴れてるって教えてくれたの」
「何やってんだか」
俺が無事なのを見て、キューさんが呆れたように言う。
申し訳ない。
「もう終わってるんじゃろ。
なら寝てる奴らを治したほうがよいな」
「そうだけど、タビさんも治癒が出来るの?」
「何を言っているのじゃ。
無論じゃ」
「私もできますよ」
ケイトさんまで
「いままで不要だっただけで」
2人とも、あのマナ量だ、出来てもおかしくないか。
「ますます、私の立場が...」
キューさんはぶつぶついいながら、治療を始めた。
そうだ!
「リーシェさん、精霊の力で回復出来るようになって言ってたよね」
「目とか複雑なの無理よ、手足とか簡単なところなら、なんとなるけど」
少女を探すと、まだ震えている。
視線がこちらを向かない。
彼女の所に行って、その手を取る。
リーシェさんは俺の頼みを判ってくれた。
膝を下ろし俺と変わると、彼女に
「痛くないから、少しの間そのままにしていてね」
と言うと、目をつぶり何かを唱え始めた。
精霊を呼んでいる。
酒場の床は土間になっている、その土から蔦が生えてきた。
どんどん伸びてやがて少女の手に達した。
蔦が届くと、一瞬少女が逃げようとしたが
「大丈夫だから」
と優しくリーシェさんが手を添える。
蔦が手に絡まり包み隠していく。
大きく膨れた蔦の1枝に1つの蕾が見えた、すると花が咲き、そして蔦が枯れてゆく。
残った少女の手には、緑色の指が付いていた。
「今は、こんな色だけど、いずれ普通の色になると思うわ。
ちゃんと動く?」
少女が手を握ったり広げたりを繰り返した。
「私の手、治ったの?」
「少しかかるけど、治るよ」
「ありみょくどぅ」
多分『ありがとうと』言いながら、少女がリーシェさんに抱きついた。
泣いている。
「ドリアードの治癒だと!
初めて見た」
ギルド長が驚いてる、すごい事なのか?
リーシェさんは、森の精霊を呼べるようになったと、喜んでいただけだが。
「君、名前は」
ギルド長が、リーシェさんに詰め寄っている
「リーシェといいます。
エルフまじりなので、見た目以上の年齢ですので」
「精霊の幼き王女」
?
「そうか、お前『狂鬼』か!
『狂鬼のヨガ』を怒らせるなと、聞いている。
噂通りだな」
俺を向いてとんでもない事を言う、どんな噂だよ!
「幼き...」
リーシェさんがショックを受けている。
俺も初めて聞いたけど、リーシェさんの通り名なんだろう。
ケイトさん、笑うのは止めてあげて。
「すると君が、『鉄壁の乙女のキュー』か?」
それが、キューさんの通り名?
これも初耳。
「私はケイト。
キューさんは向こう」
神聖魔法を使って治癒を行っている、キューさんを指差す。
キューさんが神官というのは、噂の中にないの?
「一撃のケイト!
なんてこった、ケンカ売るにも相手を見やがれ」
周りにいた冒険者を怒鳴り付けた。
紋章を付けてはいないが、全員『漆黒の鉄槌』のメンバーなのか?
「俺らはケンカ売ってないですよ。
見てただけです」
「流れ者イビリを見て面白がってたじゃないか。
俺が来るのが遅かったら、下手したら全員床に転がってたぞ」
「俺達、そこまで凶暴じゃないですが」
どんな噂なんですか、とんでもない。
倒れてるのを一応治癒して、店を出た。
店の損害は、『漆黒の鉄槌』に払わせるとギルド長が言うので、おまかせした。
これで文句は出まい。
ーーーーー
翌日、約束通り冒険者ギルドへ行く。
すぐにギルド長が呼ばれたが、話を始める前にギルドで済ませたい事がある。
「パーティーのメンバーを登録したいんです。
最近知り合ったばかりですが、一緒に旅をする事にしたので。
同じパーティーに入ってたほうが、何かと便利かと思いまして」
「そうか。
その書類よこせ、手続きしている間に、俺の話を進めておこう」
俺が書いてたメンバー登録用の用紙を取り上げて、職員に渡す。
職員が不備がないか見直そうとするのを、ギルド長は手を振って『さっさとやって来い』と追いやった。
受付から見える所にテーブルとイスがある。
ここには、打ち合わせ用の別室とかは無いようだ。
聞かれて困る依頼は受けない、と言うことかな。
「まず、昨夜お前がぶっ飛ばしたカンパニー『漆黒の鉄槌』だが。
ギルドから依頼が出ていた。
同じ仕事を、他にも2つのカンパニーに頼んでいる」
とギルド長は、いきなり本題を切り出してきた。
3つのカンパニーに依頼。
「そんなに、人手が必要な内容なんですか」
「そう急ぐな」
そう言うと自分のコップに、酒を注ぎ始めた。
おい、朝だぞ。
「コイツは、この辺りで作ってる酒だ。
美味いぞ」
赤い酒をゴクリと飲む。
なら俺達にも出せよ。
「特に外国で人気でなほとんどが輸出されて、なかなか手に入らない。
そして、いい金になってる。
帝都も気を良くしてな、増産が命じられた。
だが、原料が果実なんでな、すぐ増産なんて出来ない」
今までだって、もっと実るよう努力していたんだろうしな。
「それで、冒険者ギルドの俺の所に、相談があった」
「どうして。
必要な人手って、農作業のためじゃないですよね」
「当たり前だ、そんなのは冒険者の仕事じゃない」
よかった。
「御領主が、放棄された果樹園を思い出されたな。
そこから、実を取ろうと考えた」
「放棄された所なら荒れ放題じゃないですか、実なんて取れるんですか」
「ネンゼは丈夫な木でな、放棄して10年ほどだが、今年も実を付けている。
すこし手を入れれば、なんとかなるだろう」
話が見えない。
「実と付けてるなら、あとは取ればいいのでは。
冒険者は何をするんです?」
「さっき『放棄された』言ったろう。
止めたくて、止めたんじゃない。
危険なのが出てな、放棄するしか無かったんだ」
「その危険の駆除が、冒険者への依頼ですか」
「そうだ。
ただしやばいのは1つだけじゃない。
ネンゼの実は、甘い匂いで虫や小動物を集める。
そいつらは危険じゃないが、そいつらを狙って来るのが危ないんだよ」
「他の果樹園は、どうしてるんです。
ネンゼの実が呼び寄せるなら、どこも危険じゃないですか」
リーシェさんの言う通りだ、他の果樹園は大丈夫なのか。
「普通は果樹園を守るため、軍隊蜂を使っている」
リーシェさんが、蜂で反応した。
俺も嫌な事を思い出す。
「一匹は拳くらいで、ネンゼの実に寄って来る奴らを餌にしている。
火を嫌う性質でな、人は襲われないよう、炭を塗って果樹園に入ってた。
ところが、『放棄された果樹園』で飼っていた蜂が、急に炭を塗った人を襲うようになったんだ。
人がより付けなくなったら、キンカラーとピシャシアが居着いちまった」
「それが危険な奴なんですね」
「そうだ、両方デッカイ虫だ、キンカラーはこれくらい。
丸く平べったく素早く飛んでくる、硬くて普通の武器じゃ刃が立たない。
高速で飛んできて、肉を食いちぎって去ってゆく」
肩幅ぐらいに手を広げた。
それが木々の間からバラバラに襲って来るのか、たしかに厄介だな。
「ピシャシアはでっかいカマキリだな、鎌のかわりに鋭い針のある腕が4つ。
立ち上がると、俺の胸くらいまでか
無論肉食だ」
随分大きい。
「気をつけるのは、その2匹なんですか?」
「後は軍隊蜂だ、毒の有る針で刺してくる。
それに軍隊蜂の巣は、地下に有る。
この巣を駆逐する事が、この依頼の最終目的だ。
ただ、地上にいろんなのがいると、巣に近づくのも難しくてな。
まずは地上にいる奴らを、駆除している最中だった。
3つのカンパニーに依頼している理由は、果樹園が広いのさ」
ギルド長は、そこでわざわざ切って
「その1つのカンパニーを、お前が潰したんだ。
代わりをやってくれないか」
「カンパニーの代わりを6人でですか、無茶ですよ」
数が足りない。
「代わりが見つかるまで、頑張ってくれや」
誤字・脱字のご指摘や、感想をいただけると嬉しいです




