3-1.姉さんと再開
前回あらすじ:遠征無事終了。
王都での叙勲式は盛大に行われた
戦争中でもないのに151人への勲章授与だ、しかも犠牲が出ていない悲しいことが1つもない、遠慮無く祝っていい日になった。
横15人縦10列に並び間を王が移動し勲章を付けてゆく光景は、王都の中央広場で行われ市民も見ることができた。
王が言葉をかけることもある。
無論俺たちが声を出すことはできない、視線も王の顔を見ないよう下げている。
ただしリーシェさんには
「小さいな、顔を見せてくれないか」
と言い顔を上げさせ
「やはり小さい体だね、無理をしないように」
と言葉をかけた、王はこのために151人を呼んだのかもしれない。
俺には
「よろしく頼む」
だった。
ツェローラ子爵様と、魔王軍の兵を倒したトゥールさんには1つ上の勲章が与えられた。
2人とも領地を加増してもらっている。
これでトゥールさんは、ダード男爵家を継ぐことが決定した。
帰り俺たちはラーディに戻る本体と別れ、ダート男爵領へ向かう。
トゥールさんとキューさんとは、そこでお別れだ。
俺とリーシェさんは次に何をするかは決めていないが、ラーディには戻らないつもりでいる。
4人の宿は引き払っていた。
「こうして旅をするのもこれが最後だな」
トゥールさんは上機嫌だ、叙勲がよほど嬉しかったようだ、キューさんの変化に気づいてない。
彼女はいつも以上に静かだ。
ビチュレイリワの頼みの返事はまだもらっていない、ここに残った後でもいいからとは伝えている。
俺が近くにいては不安だろう、ビチュレイリワは観察する相手がどこにいても関係はない。
[ヨガ、伝えなければならないことがあります]
(伝えること?)
[遠征に行っていた間に大きな動きがありまして、ミツルが復活して伯爵になってしまいます]
(どうして?
伯爵にはジル姉さんの夫がなったはず)
[亡くなりました]
(殺されたの)
「今回のことにミツルは関与していません。
この国の監視がついています、彼の動きは邪魔されています。
復活しても当分の間はリーシェには手を出せないと思い、ヨガに言わなかったのですが]
(・・・)
[これを見て下さい]
視界ギリギリにいる人影を認識させられた。
「・・・」
声が出そうになったのを、ピノに抑えられる。
(姉さん)
[身の危険を感じた前伯爵が逃していたのです。
私が気づいた時には、もうこの国にいました]
(どうして、姉さんにこっちに知り合いはいないはず)
[一緒にいる人を見て下さい。
キリスさんです、彼女の家族は今トゥールさんのお父様に保護されています。
男爵様の館へ向かっています、お姉さまも一緒に保護をお願いするつもりでは?]
(ありえるな)
「前にキリスさんがいます」
「どこ?」
指を指したが、人の目ではわからない。
「どうしたんだろう?」
「お兄様、キリスさんのお母さんと弟さんがお屋敷にいます、会いにきたのだと思いますよ。
でも嬉しいな、久しぶり話せそう」
久しぶりにキューさんの明るい声を聞く。
キリスさんは事件の後、迷惑をかけたとクランを辞めている。
子爵様は許したが、国の監視はついているはず。
馬の足を早めた、すぐ追いつく。
「キリスさ〜ん」
「トゥール様、キュー様。
それにヨガさん達も、今王都からお帰りですか。
あ、このたびはおめでとうございます。
ご活躍を聞いて、自分のことのように喜んでおります」
本来なら彼女もその賛美の中にいたのに。
「なにかしこまっているの、いつもの通りでいいわよ」
「そういう訳にはいきません。
タード男爵様には、大変お世話になっているのですから。
そう言えば、もうトゥール様がご当主様になったのでしょうか?」
「いや、もう少しの間は父だな。
いずれ王都から書類がきたら、その時に俺が男爵になる。
で、こちらの綺麗な人は?」
姉さんは付け耳をして、4つ耳族に化けている。
知った人が見ればすぐバレるが、ここでは姉さんの顔を知っている人は少ない。
これでも変装になるのか。
姉さんたち2人と一緒に屋敷に着くと、ダート男爵が出迎えてくれた。
「ヨガ君、リーシェちゃん、そしてバカ息子どもよく来た、キリスちゃんも一緒か嬉しいな。
で、そちらの綺麗なお嬢さんは、どなたかな」
ジル姉さんは、付け耳をとり、改めて貴族の女性としての挨拶をした。
「私は、フルーフ王国、前サビツオーニ伯爵の妻ジルと申します」
「前と言われましたか、確かこの前伯爵になったばかりだと聞いていましたが」
「亡くなりました」
ここにいる全員が、キリスさんが関わった事件からサビツオーニ伯爵の名前は聞いている。
亡くなりましたと言われて、そのまま受け取る者もいない。
「縁があるな。
でもどうしてキリスさんとジル様が一緒に、当家に?」
キリスさんが説明を始めた
「前伯爵様は、士爵だったときにエルフェース街で官吏をしておりました。
この国と違い、フルーフでは魔境周辺の街も領主様が治めています。
派遣されていた当時の領主様と冒険者の間に入り、何かと下の者に配慮して頂いておりました。
街の冒険者には人気がありました。
あの事件があり、その結果伯爵様になられました。
直後に私にお詫びの手紙がきました、気が付かずすまなかったと」
「伯爵から平民に、謝罪の手紙!
有り得ない」
キューさんは驚くが、あの人ならやるだろうな。
代々家につかえていた士爵家の出て、問題のあるうちの家族に苦労していた。
姉さんと結婚したので、俺も弟としてかわいがってもらった記憶がある。
年齢的に父と子ほど離れてはいたが。
「その伯爵様から、ジル様を頼むと連絡が有ったのです。
自分に繋がりのない人に頼んだのでしょう。
私も、贖罪の為にも人の役に立ちたかったので、ジル様を国境まで迎えに行ったのです」
「ジル様、伯爵様がお亡くなりになったと言われましたが、それは・・」
「私からはなんとも言えません、別れたときには元気でいましたので。
最後まで一緒にいようと思っておりましたが、夫は自分のために生きてくれと」
姉さんから次の言葉が出てこない。
「愛していたのですね」
「貴族同士の結婚です、愛していたと言えは嘘になるかもしれません。
でも尊敬のできるかたでした。
あのまま一緒に歳をかさねて行けたならば、愛していると胸を張って言えたでしょう」
「貴族の娘としては、羨ましい話ですね。
私はどうなるのか」
「俺はキューに無理な結婚なんてさせない!」
「お前を嫁に出すなど許すものか!」
家族の言葉にキューさんが微笑む。
やはりこの家族はいいな。
キリスさんのご家族を助けているとお聞きし、そのダート男爵のお気持ちにおすがりするしかないと、恥を忍んでまいりました。
図々しいお願いとは承知しております、わずかな間で構いませんのでここへ置いてはいただけないでしょうか」
「バカ息子どうする、これはお前が当主として、最初にする決断だ。
男爵家に大きく関わるから心して考えろよ」
「ジル様、いつまででも当家にいてくださって構いません。
自分の家だと思ってくつろいで下さい」
俺が心配する間もなく、あっさりと答えてしまった。
「少しは考えろ」
「逆の答えを出せば、父上は俺を家から叩き出したでしょう」
「当たりまえだ、そんな了見の狭い男をこのダート家の当主になどできるか」
「トゥールさんは冒険者止めても、喜劇作家としてやって行けそうですよ」
リーシェさんの1言でみんな吹き出した。
キューは1人苦笑いだけど。
「ありがとうございます」
姉さんは深々と頭をさげ、礼をした。
そしてリーシェさんに近づくと
「あなたがリーシェさんですね、一度話をしたいと思っていました」
リーシェさんは何故という顔をする。
まずい!
「私はアトロフの姉です。
ハバルでリーシェさんとパーティーを組んでいたと聞いています、弟の事を聞かせていただけないでしょうか」
リーシェさんが驚いてる。
「本当に、ご縁がありますね」
いつもより声が低い。
キューさんがキリスさんと一緒にいたいと言うので2人が同じ部屋になり。
結果、ジル姉さんとリーシェさんが同じ部屋割になる。
もうすぐ当主のトゥールさんには、専用の部屋が用意されていた。
俺は1人、夜姉さんとリーシェさんが何を話しているのか気になって眠れない。
結局朝までまともに眠れず、眠るのを諦めて朝日とともに起き出した。
顔でも洗おうと、水場で顔を洗うとリーシェさんも起きて来た。
目が腫れている。
「どうしたの、リーシェさんも眠れなかった」
「昨夜ジル様と色んな話をしたわ。
アトロフがハバルについてからのこと、私にとってどんなに大事な人になったか、そしてどう死んだのかを話したの。
だいぶ盛って話したけど。
話の流れで泣かないといけないんだけど、隣の部屋で元気に生きてる人の死を悲しめると思う。
ピノに頼んで、泣かしてもらったわ」
「ご迷惑をかけています」
頭を下げた。
「よくも今まで黙ってたわね」
リーシェさん怒ってる、あんまり可愛いくない。
「すいません」
[警告します、リーシェさんは過去最大に怒ってます]
<全くです、何をしてるんですか>
お前らまで一緒になるな!
「ピノさんって、アトロフの彼女さんだったそうね」
「え!」
「ピノという名の女性が、アトロフ付きのメイドだったと昨夜様さんから聞きました。
ジル様が結婚したときの『姿映し』を見せていただきました。
そこには私が合う前のアトロフがいて、その横に4つ耳族の女性もいました。
随分綺麗な人ですね。
ジル様は、弟の初めての人だろうとも言ってましたが、どうなんですか」
「えぇ!」
「精霊によく昔の彼女の名前を付けましたね。
しかも私の中にまで入れるなんて!」
彼女の話の筋道が理解できない、何に怒っている?
伯爵家の話はどこいった、そして姉さんは何に話したんだよ。
「フラれたようだけど、アトロフには未練があったの」
[そう言えば、あのとき名前がすぐ出てきましたね。
常に頭の中にあった証拠ですね]
「アトロフが家から出たとき、迎えに行けばよかったじゃない。
生まれた村に帰ってたんですよね」
そう言えば、そんな話になってたんだけな。
「ピノさんはもういません、俺を助けるために死んでしまいました」
「え」
「このことは姉さんも知りません。
彼女は村に帰る前の夜に俺に会いに来てくれました。
そこで俺を殺すはずだった」
「どうして」
「キリスさんと同じです、家族を人質に取られていました。
当時俺は、既に口に入れる物を注意して毒殺を避けるようにしていました。
そうすると相手は、ムキになって俺を毒殺しようとしたのです。
憧れの人が別れの前に、自分の腕の中に来てくれ幸福感で満たされていました。
でも甘いはずの口づけには、毒が交じるはずでした」
護衛を増やすと、その護衛を暗殺者に仕立てたりする。
本当に性格が曲がっていた。
「でも彼女が毒を口にしたのは、ことが終わった後、俺に謝りながらだった。
人質を取られていて、言うことを聞くしかない彼女は、自分を犠牲にしたのです。
解毒剤をもらっていたので、計画では彼女は死なないはずでした。
でも、わざと毒の取り扱いを間違えたことにして、俺を助けてくれたのです。
俺に謝る時、自分はどうせ死んでいたから気にしないでと、渡された解毒剤は効果は死を遅らせても無害にはしなかっただろうと。
俺の口に毒を入れるまで生きているだけだったろうと言ってました。
確かに彼なら証人を殺せるチャンスをのがさないでしょう。
早めに毒を飲んだことにして死を選んだんです」
[ここまでのことをされていながら、あなたのミツルに対しての行動には理解できません。
以前は難しかったかも知れませんが、今のあなたなら簡単に復讐できるのでは?]
ビチュレイリワの言うことは最もで、この記憶は激しい怒りと常にある。
何度殺しに行こうと考えたか、でも
「彼女に復讐をしないと約束しました。
『自分のための復讐を考えない、逃げてとにかく生きる事を考える』『復讐や怒りのために人を殺すことはしない』というのが彼女の遺言です。
だから他に取れる方法がある場合は、そちらを選びます。
今奴に剣を振るえばそれは確実に復讐です、俺の気持ちが晴れても、彼女との約束を破ってしまいます」
[なら早く逃げましょう、ここにリーシェさんがいればいずれジルさんの事もバレてしまいます。
彼の手が届かないところへ逃げましょう]




