2-23.凱旋
前回あらすじ:魔王軍廃虚で何かしてました。
[キューさんを、ヨガのものにして下さい]
ビチュレイリワの言葉に反応し、キューさんを押さえて言う。
「キューさん『俺のもの』になると言って下さい。
トゥールさんを助けるにはそれしか方法がない」
キューさんの目が見開いている。
「ヨガさん、ふざけてる?」
「いいえ、真剣です。
トゥールさんを助けたい」
キューさんの視線が俺とトゥールさんを何度か往復したあと。
「私はヨガのものになります。
だから、お兄様を助けて」
キューさんの覚悟を聞いて、俺は急いでナノマシンをトゥールさんに飲ませた。
本人の意識がないので飲むことはできないが、液体が勝手に入ってゆく。
<もう少し待って下さい>
(こっちは準備できてる。
やって良くなったら教えて)
すでに手をトゥールさんに当てている、合図と同時に魔物のマナを削り取るつもりでいる。
<遮断完了、ヨガやって下さい>
急いでトゥールさんから汚れたマナを取り払った。
「呪いが解けた!」
キューさんが驚く。
マナが見える人には、そう見えるらしい。
(トゥールさん大丈夫?)
<痛みによる反応なし、痛覚の遮断はうまくいったようです。
記憶の欠落も発生していません、成功です>
間に合った。
「よかった、お兄様」
「キューさん、トゥールさんについてて。
危険がないか見てくる」
キューさんはさっきは神官だけ治癒して、浄化ができるかを聞いていた。
他の人は無視、まあ分かるけど。
動けるようになった神官が治癒にまわっていた。
[ヨガ、乗ってきた軍馬のことなのですが、頭を撃ち抜かれています]
見ると、俺の軍馬の頭が半分なくなって倒れている。
擬態だから、動くのに問題はないんだけど。
(傷を隠せない?)
[すでに数人に見られているので、無理です。
ラーディに戻れば補充が可能ですので、それまで我慢してください。
それと剣ですが、登録していない形状に無理にしたため、個体化ができなくなってしまいました。
文字通り液体になってしまったので、なくしたことにして下さい]
(リーシェさん達は大丈夫?)
向こうにも1匹ワイバーンが行っているはずだ。
[安心して下さい。
準備ができていたので、被害を出さずに倒せています]
フェンメットさんも動けるようになったようだ。
「みんな、無事か。
調査はこれ以上は無理だな、終了する全員戻るぞ」
まだ地下の魔物に動きはないが、気づかれるかもしれない。
急いで戻ろう。
トゥールさんの意識が戻っていないので、キューさんが自分の軍馬に乗せ、俺がトゥールさんの軍馬で戻る。
本体と合流して、ラーディへ向かう。
帰路はかなり荒っぽい、荷馬は捨て速度を優先した。
遠征前に考えていた中でも、最も使いたくなかった方法だ。
まず俺を含めた、火炎系の魔法を使える者と風精霊を呼べる者が、正面の木々を焼き払い一筋の道を作る。
水の精霊が消火した後、残っている障害はリーシェさんの土精霊が横にどける。
谷や渡れない川にも、リーシェさんが橋をつくり、真っ直ぐにラーディに向かう。
これで軍馬が通れる道が作れ、速度を落とさないで進んでいける。
夜の野営時にも周りに土の壁を作り、中で仮眠をとる。
土精霊を使えるのはリーシェさんだけだ、彼女に一番負担がかかっている。
夜は確実に休んでもらうことも計画の一部だ。
俺がそばで、絶えず見張ることになっている。
ただひたすら急いだ、途中魔物にあっても倒すための戦いはしない。
倒しても死体はそのまま置いて進んだ。
みんな限界を超えている。
「魔境の出口だ、帰ってきたぞー」
先頭を走っていた冒険者の声が響くと、隊の足は自然と早くなる。
森の外には守備隊がいた。
護衛を任せ全員がその場に倒れ込み、そのまま眠った。
朝日を感じて目を覚ますと、地面の上に横たわっていた。
毛布は守備隊の人が、かけてくれたのだろう。
まわりを見渡すと、遠征隊はみんなそんな感じだ。
子爵様でさえ、護衛が3人立っているだけで地面に寝ている。
リーシェさんは、俺の脛を枕にしている、なんて寝相だ。
誰も動けない、今日もここで休息になるだろう。
昨日、トゥールさんの意識が戻っている。
遠征が犠牲者を出さずに戻れたのは初めてだ、しかも『深淵の都市』の調査もしている。
この遠征は、大成功と言っていいだろう。
キューさんは、トゥールさんを看護していて離れた場所にいる。
避けられてもいるが仕方がない。
ピノがトゥールさんに行ったのは、痛みを感じないよう眠らせただけだ。
キューさんが『俺のもの』でなくなっても何の影響もない。
早めに、説明したほうがいいだろうな。
(キューさんが『俺のもの』でなくっても問題ないよね)
[トゥールさんは意識を戻した時に、キューさんの『お兄様は私のもの』を完全に否定しましたので、ピノの活動は停止しています。
自然に排出されるでしょう、半年もすれば完全になくなります]
あらま、もう終わってましたか。
ーーーーー
ラーディへの帰還は凱旋だった、俺たちが街に入る前からお祭り騒ぎだ。
冒険者ギルド2階に急遽、演説台が作られ、遠征隊はその前に集まっている。
その回りには見物が数百人いる。
遠征隊の解散式を、クランの拠点で行わず、ここでするつもりのようだ。
この野次馬を連れて動けば混乱するのは目に見えている。
「ラーディの諸君、我々『アルテミラルの盾』は帰ってきた。
『深淵の都市』の調査を史上初めて行い、しかも全員が無傷で戻ってきたのだ」
集まっていた人々が歓声を上げる、これではツェローラ子爵様の言葉は聞こえない。
次の言葉のため、叫びが小さくなるのを待ち。
「調査の内容は、第一に国王陛下にご報告しなければならない。
みんなには、少し待ってもらう。
今回の遠征は、我々クランだけで成し遂げたものではない、カナーエフ公爵様の援助、そして魔法ギルドからも協力もあった。
無論、ラーディに住む人々の協力があってこそなしえた。
この遠征の成功は、人の勝利だ。
クランの諸君、ご苦労であった。
胸を張れ、誇れ、我々は『アルテミラルの盾』である。
今回の功績に対し国王陛下は大変お喜びになり、151人全員に勲章『千の槍』の授与を決定なされた。
王都へは、3日後に出発する。
みんな、本当に大義であった。
解散」
今度はクラン全員も声を上げている。
無理もない勲章『千の槍』の授与なら、将来を約束されたようなものだ。
子爵様に変わり、ギルド長が演説台に登る。
何かあると、みんなが静かになる。
「知っている者もいるかもしれないが、この街を預かる冒険者ギルドからの連絡だ。
今回の偉業に対し、カナーエフ公爵様だけではなく、ラーディ全てのクランとカンパニーから祝の金を預かった。
今日は街中の酒場は貸し切っている、タダ酒だ全部飲み干せ」
音がうねりながら湧いた。
うるさいが何も聞き取れない、音はしているのに静寂の中にいるみたいだ。
俺もリーシェさんも近くの仲間に引きずられ、酒場に入る。
混んでいるのに俺たちの席は開けてくれる。
酒はそれほど強くは無いが、楽しい酒だ。
日が沈むまでに十分騒いだ、リーシェさんは半分ねている。
帰路で一番活躍したのはリーシェさんだ、また疲れている。
俺たちが抜け出しても、もう誰も気にしていない、自分たちのバカ騒ぎに夢中だ。
宿に戻ると、キューさんは戻っていた、トゥールさんはまだ街にいる。
悪く言えば帰りはずーっと寝ていたんだ、体力は一番戻っているんだろうな。
風呂にも入らずそのまま寝た。
ーーーーー
<ヨガ>
ピノの声で目が覚めると、俺を殴ろうと手を広げている、リーシェさんと目が合った。
「ヨガ、目が覚めた?」
何故か怒っている、可愛い。
「私だけでは物足りず、キューさんまでものにしたの」
突然何をいうのか!
「ま、待ってリーシェさん、何を言ってるの」
「しらばっくれるな、キューさんに聞いた。
また、断れない状態でヨガのものになる約束をさせたな。
キューさんが不安になって私に相談した、悪事は隠せない」
「その言い方。
誤解ですってば、トゥールさん助けようとしたんです」
「それは知っている。
男の人のものになると言った女の子が、今後どうなるか心配しないと思ってたの」
あ、そうか。
「ごめん、リーシェさん。
何もしない、しないです。
トゥールさんは治ったし、何もする気ないです」
「私の時みたいに、元に戻したら死ぬんじゃないの?」
「ピノが、トゥールさんにしたのは痛みを感じなくしただけ。
治癒はしていない、元に戻しても何の問題もない、というか既に戻ってます」
「そうなの」
「そうなんです。
俺は終わったことだと思ってましたよ。
キューさんに悪いことをしたな。
今『俺のもの』でなくっていることを伝えに行こうか」
<それは待って下さい>
「「え!」」
<ヨガとリーシェさんに同時に話しかけています。
キューさんに事情を話す前に、お願いがあります>
2人に同時に話しかけるなんて初めてだ。
<私の主ビチュレイリワが、以前から神聖魔法に興味を持っていたのを、知っていますよね>
主ビチュレイリワ?
ピノが精霊という設定を演じているのか。
(そう言えば、キューさんに会った時から狙ってたね)
<チャンスをうかがっていました、そのチャンスが今なのです。
ビチュレイリワの行動には色々な制約があり、私たちがキューさんに接触できる機会は全くありませんでした。
曲りなりにも、キューさんがヨガの所有物となっている今がチャンスなんです。
短い間で良いので、ナノマシンをインストールしてもらい、神聖魔法を人の中から観察させて欲しいのです>
「これは、お願いなの?」
<キューさんは拒絶できる環境にいます、強制はできません。
大切な兄を救った事に少しでも恩義を感じているのなら、協力していただきたいのです>
「ピノ、いやらしい言い方だな」
「キューさんも女の子です、男性のものになるだなんて屈辱的なこと、受け入れるとは思えません」
<そこは、大丈夫とご存知のはず。
ですのでリーシェさんに彼女への説明をお願いできないでしょうか。
同性で同じ立場であるリーシェさんが適任なのです>
リーシェさんしばらく考えて
「わかった。
話だけはしてみる、期待しないでね」
<お願いします>
キューさんの答えは、少し考えさせて欲しいというものだった。




