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宇宙戦艦に魔法は使えません。  作者: 野紫
2章
32/104

2-23.凱旋

前回あらすじ:魔王軍廃虚で何かしてました。

[キューさんを、ヨガのものにして下さい]


 ビチュレイリワの言葉に反応し、キューさんを押さえて言う。


「キューさん『俺のもの』になると言って下さい。

 トゥールさんを助けるにはそれしか方法がない」


 キューさんの目が見開いている。


「ヨガさん、ふざけてる?」


「いいえ、真剣です。

 トゥールさんを助けたい」


 キューさんの視線が俺とトゥールさんを何度か往復したあと。


「私はヨガのものになります。

 だから、お兄様を助けて」


 キューさんの覚悟を聞いて、俺は急いでナノマシンをトゥールさんに飲ませた。

 本人の意識がないので飲むことはできないが、液体が勝手に入ってゆく。


<もう少し待って下さい>


(こっちは準備できてる。

 やって良くなったら教えて)


 すでに手をトゥールさんに当てている、合図と同時に魔物のマナを削り取るつもりでいる。


<遮断完了、ヨガやって下さい>


 急いでトゥールさんから汚れたマナを取り払った。


「呪いが解けた!」


 キューさんが驚く。

 マナが見える人には、そう見えるらしい。


(トゥールさん大丈夫?)


<痛みによる反応なし、痛覚の遮断はうまくいったようです。

 記憶の欠落も発生していません、成功です>


 間に合った。


「よかった、お兄様」


「キューさん、トゥールさんについてて。

 危険がないか見てくる」


 キューさんはさっきは神官だけ治癒して、浄化ができるかを聞いていた。

 他の人は無視、まあ分かるけど。

 動けるようになった神官が治癒にまわっていた。


[ヨガ、乗ってきた軍馬のことなのですが、頭を撃ち抜かれています]


 見ると、俺の軍馬の頭が半分なくなって倒れている。

 擬態だから、動くのに問題はないんだけど。


(傷を隠せない?)


[すでに数人に見られているので、無理です。

 ラーディに戻れば補充が可能ですので、それまで我慢してください。


 それと剣ですが、登録していない形状に無理にしたため、個体化ができなくなってしまいました。

 文字通り液体になってしまったので、なくしたことにして下さい]


(リーシェさん達は大丈夫?)


 向こうにも1匹ワイバーンが行っているはずだ。


[安心して下さい。

 準備ができていたので、被害を出さずに倒せています]


 フェンメットさんも動けるようになったようだ。


「みんな、無事か。

 調査はこれ以上は無理だな、終了する全員戻るぞ」


 まだ地下の魔物に動きはないが、気づかれるかもしれない。

 急いで戻ろう。

 トゥールさんの意識が戻っていないので、キューさんが自分の軍馬に乗せ、俺がトゥールさんの軍馬で戻る。


 本体と合流して、ラーディへ向かう。

 帰路はかなり荒っぽい、荷馬は捨て速度を優先した。

 遠征前に考えていた中でも、最も使いたくなかった方法だ。


 まず俺を含めた、火炎系の魔法を使える者と風精霊を呼べる者が、正面の木々を焼き払い一筋の道を作る。

 水の精霊が消火した後、残っている障害はリーシェさんの土精霊が横にどける。

 谷や渡れない川にも、リーシェさんが橋をつくり、真っ直ぐにラーディに向かう。

 これで軍馬が通れる道が作れ、速度を落とさないで進んでいける。


 夜の野営時にも周りに土の壁を作り、中で仮眠をとる。

 土精霊を使えるのはリーシェさんだけだ、彼女に一番負担がかかっている。

 夜は確実に休んでもらうことも計画の一部だ。

 俺がそばで、絶えず見張ることになっている。


 ただひたすら急いだ、途中魔物にあっても倒すための戦いはしない。

 倒しても死体はそのまま置いて進んだ。

 みんな限界を超えている。


「魔境の出口だ、帰ってきたぞー」


 先頭を走っていた冒険者の声が響くと、隊の足は自然と早くなる。

 森の外には守備隊がいた。

 護衛を任せ全員がその場に倒れ込み、そのまま眠った。



 朝日を感じて目を覚ますと、地面の上に横たわっていた。

 毛布は守備隊の人が、かけてくれたのだろう。

 まわりを見渡すと、遠征隊はみんなそんな感じだ。

 子爵様でさえ、護衛が3人立っているだけで地面に寝ている。


 リーシェさんは、俺の脛を枕にしている、なんて寝相だ。

 誰も動けない、今日もここで休息になるだろう。


 昨日、トゥールさんの意識が戻っている。

 遠征が犠牲者を出さずに戻れたのは初めてだ、しかも『深淵の都市』の調査もしている。

 この遠征は、大成功と言っていいだろう。


 キューさんは、トゥールさんを看護していて離れた場所にいる。

 避けられてもいるが仕方がない。

 ピノがトゥールさんに行ったのは、痛みを感じないよう眠らせただけだ。

 キューさんが『俺のもの』でなくなっても何の影響もない。

 早めに、説明したほうがいいだろうな。


(キューさんが『俺のもの』でなくっても問題ないよね)


[トゥールさんは意識を戻した時に、キューさんの『お兄様は私のもの』を完全に否定しましたので、ピノの活動は停止しています。

 自然に排出されるでしょう、半年もすれば完全になくなります]


 あらま、もう終わってましたか。


 ーーーーー


 ラーディへの帰還は凱旋だった、俺たちが街に入る前からお祭り騒ぎだ。


 冒険者ギルド2階に急遽、演説台が作られ、遠征隊はその前に集まっている。

 その回りには見物が数百人いる。


 遠征隊の解散式を、クランの拠点で行わず、ここでするつもりのようだ。

 この野次馬を連れて動けば混乱するのは目に見えている。


「ラーディの諸君、我々『アルテミラルの盾』は帰ってきた。

『深淵の都市』の調査を史上初めて行い、しかも全員が無傷で戻ってきたのだ」


 集まっていた人々が歓声を上げる、これではツェローラ子爵様の言葉は聞こえない。

 次の言葉のため、叫びが小さくなるのを待ち。


「調査の内容は、第一に国王陛下にご報告しなければならない。

 みんなには、少し待ってもらう。


 今回の遠征は、我々クランだけで成し遂げたものではない、カナーエフ公爵様の援助、そして魔法ギルドからも協力もあった。

 無論、ラーディに住む人々の協力があってこそなしえた。

 この遠征の成功は、人の勝利だ。


 クランの諸君、ご苦労であった。

 胸を張れ、誇れ、我々は『アルテミラルの盾』である。

 今回の功績に対し国王陛下は大変お喜びになり、151人全員に勲章『千の槍』の授与を決定なされた。

 王都へは、3日後に出発する。


 みんな、本当に大義であった。

 解散」


 今度はクラン全員も声を上げている。

 無理もない勲章『千の槍』の授与なら、将来を約束されたようなものだ。


 子爵様に変わり、ギルド長が演説台に登る。

 何かあると、みんなが静かになる。


「知っている者もいるかもしれないが、この街を預かる冒険者ギルドからの連絡だ。

 今回の偉業に対し、カナーエフ公爵様だけではなく、ラーディ全てのクランとカンパニーから祝の金を預かった。

 今日は街中の酒場は貸し切っている、タダ酒だ全部飲み干せ」


 音がうねりながら湧いた。

 うるさいが何も聞き取れない、音はしているのに静寂の中にいるみたいだ。


 俺もリーシェさんも近くの仲間に引きずられ、酒場に入る。

 混んでいるのに俺たちの席は開けてくれる。

 酒はそれほど強くは無いが、楽しい酒だ。


 日が沈むまでに十分騒いだ、リーシェさんは半分ねている。

 帰路で一番活躍したのはリーシェさんだ、また疲れている。

 俺たちが抜け出しても、もう誰も気にしていない、自分たちのバカ騒ぎに夢中だ。


 宿に戻ると、キューさんは戻っていた、トゥールさんはまだ街にいる。

 悪く言えば帰りはずーっと寝ていたんだ、体力は一番戻っているんだろうな。

 風呂にも入らずそのまま寝た。


 ーーーーー


<ヨガ>


 ピノの声で目が覚めると、俺を殴ろうと手を広げている、リーシェさんと目が合った。


「ヨガ、目が覚めた?」


 何故か怒っている、可愛い。


「私だけでは物足りず、キューさんまでものにしたの」


 突然何をいうのか!


「ま、待ってリーシェさん、何を言ってるの」


「しらばっくれるな、キューさんに聞いた。

 また、断れない状態でヨガのものになる約束をさせたな。

 キューさんが不安になって私に相談した、悪事は隠せない」


「その言い方。

 誤解ですってば、トゥールさん助けようとしたんです」


「それは知っている。

 男の人のものになると言った女の子が、今後どうなるか心配しないと思ってたの」


 あ、そうか。


「ごめん、リーシェさん。

 何もしない、しないです。

 トゥールさんは治ったし、何もする気ないです」


「私の時みたいに、元に戻したら死ぬんじゃないの?」


「ピノが、トゥールさんにしたのは痛みを感じなくしただけ。

 治癒はしていない、元に戻しても何の問題もない、というか既に戻ってます」


「そうなの」


「そうなんです。

 俺は終わったことだと思ってましたよ。

 キューさんに悪いことをしたな。

 今『俺のもの』でなくっていることを伝えに行こうか」


<それは待って下さい>


「「え!」」


<ヨガとリーシェさんに同時に話しかけています。

 キューさんに事情を話す前に、お願いがあります>


 2人に同時に話しかけるなんて初めてだ。


<私の主ビチュレイリワが、以前から神聖魔法に興味を持っていたのを、知っていますよね>


 主ビチュレイリワ?

 ピノが精霊という設定を演じているのか。


(そう言えば、キューさんに会った時から狙ってたね)


<チャンスをうかがっていました、そのチャンスが今なのです。

 ビチュレイリワの行動には色々な制約があり、私たちがキューさんに接触できる機会は全くありませんでした。

 曲りなりにも、キューさんがヨガの所有物となっている今がチャンスなんです。

 短い間で良いので、ナノマシンをインストールしてもらい、神聖魔法を人の中から観察させて欲しいのです>


「これは、お願いなの?」


<キューさんは拒絶できる環境にいます、強制はできません。

 大切な兄を救った事に少しでも恩義を感じているのなら、協力していただきたいのです>


「ピノ、いやらしい言い方だな」


「キューさんも女の子です、男性のものになるだなんて屈辱的なこと、受け入れるとは思えません」


<そこは、大丈夫とご存知のはず。

 ですのでリーシェさんに彼女への説明をお願いできないでしょうか。

 同性で同じ立場であるリーシェさんが適任なのです>


 リーシェさんしばらく考えて


「わかった。

 話だけはしてみる、期待しないでね」


<お願いします>


 キューさんの答えは、少し考えさせて欲しいというものだった。

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